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循環器内科専門医(高血圧・脂質・糖尿病・不整脈等)|漢方専門医|土倉内科循環器クリニック|北九州市小倉北区

漢方内科

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漢方内科

私は循環器内科が専門でありますが、飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務し、漢方専門外来を担当しておりました。 当院の特徴としては、

  • 専門性の高い本格的な漢方治療だけでなく、必要に応じて西洋医学的な検査や治療もご提案できる
  • 漢方治療としてエキス製剤(粉薬)だけでなく、効果の高い煎じ薬(生薬)も扱っている
ことだと思います。

他の病院へ通院している場合も、特に紹介状の必要はなく、当院での併診が可能です。
どんな症状でも東洋医学的なアプローチは可能ですので、お気軽にご相談ください。

1 患者さんそれぞれの病態に合ったオーダーメイドの漢方治療

東洋医学的な見方(診断)をすれば、ほとんどの方に何かしらの偏りが見られます。その偏りを参考に、困っている症状や疾患にアプローチしていくため、あらゆる病態に対応できます。
特に漢方が得意だと思われる分野は、風邪や感染性胃腸炎などのウイルス性疾患、胃腸疾患(食欲不振、過敏性腸症候群、下痢、腹痛、膨満感)、冷えが関連する症状、月経関連疾患(月経痛、月経に伴う頭痛・にきび・イライラ)、ストレス性疾患などがあります。
当院は、エキス製剤(粉薬)だけでなく、煎じ薬(生薬)も保険診療で扱っておりますので、患者さんそれぞれの病態に合ったオーダーメイド治療ができます。

2 患者さんにとって漢方治療のメリット

漢方薬は植物や鉱物など自然なもので構成されており、より体に優しい治療ができます。よく世間では、「漢方は長く飲まないと効かない」というイメージがあるようですが、風邪などには30分以内、その他の疾患でも数日以内に効果が現れることも少なくありません。
漢方は西洋医学とは異なった視点でのアプローチですので、西洋薬で改善が乏しい例にも著効することや、一つの漢方薬でさまざまな症状が改善することもあります。もちろん西洋薬との併用も可能です。また、症状の緩和だけでなく、根本から治す体質改善の効果もあります。

3 どんな症状でもご相談ください

私はこれまで西洋医学と東洋医学をほぼ同じ期間に学びました。そこで強く感じたことは、「人間にはどちらの医学も必要である」ということです。確かに日本の現代医学のなかで、東洋医学は必須ではありません。しかし、西洋医学では治療困難な分野でも、東洋医学で容易に治る場合が少なくありません。
医師は漢方薬を処方できる資格がありますが、実は漢方の教育はほとんどありませんし、漢方専門医であっても漢方に精通している医師はごく少数です。もし一般的な治療でも症状が残っている場合には、ぜひ一度、ご相談をして頂ければと思います。

Gノート おなかに漢方!

内科医のための不定愁訴対応

循環器における漢方診療

心不全に伴う症状の緩和に有⽤

心不全緩和ケアに漢方を生かすには

medicina誌 ジェネラリスト・漢方-とっておきの漢方活用術 循環器(動悸、浮腫)

月刊薬事2022年2月臨時増刊号 救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方よく使う漢方製剤 真武湯

月刊誌「薬局」2022年3月号 心不全薬物治療の道しるべ 「心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」

土倉監修 ハートナーシング誌 2022年8号 イラストでわかる!ケアに役立つ! 循環器のくすり 漢方薬 作用&観察ポイント解説

北九州市医報 「ちょっと一言」私のお勧めの漢方薬 麻子仁丸(ましにんがん)(126)

月刊誌「治療」 2023年1月号 困ったときの2の手、3の手 今こそ知りたい漢方・鍼灸 「緩和ケアに使える漢方」 〜親和性が低い分野だからこそ厳選して使用する〜

循環器ジャーナル 第72巻 第1号 2024年1月 地域におけるこれからの心不全在宅医療を

薬局 2025年7月号 スペシャリスト厳選!定番ベスト漢方薬 南山堂

「在宅心不全患者に対する漢方薬の有用性」 執筆 土倉潤一郎

土倉監修 「高齢者心不全の7症候に対する11処方」 資材

土倉監修 「高齢者心不全の10症候に対する16処方」 資材

知識ゼロでも簡単に理解できる! 循環器診療の諸症状に役立つ漢方

  □共著(分担執筆)
 

漢方内科一覧

漢方診療の流れ

  • 漢方診断に必要な問診票を記入して頂きます。
  • 医師が問診、漢方医学的な診察(舌・脈・お腹)を行い、処方を致します。お腹の診察を致しますので、服装にご注意ください。
  • 初めは2週間毎に再来して頂き、処方の調整を行います。ある程度処方が定まれば2週間~1ヶ月毎の診察になります。
    疾患にもよりますが、お薬が合えば、通常は2週間~1ヶ月程度で何かしらの症状の改善が見られます。
    「漢方薬はいつまで飲めばいいか?」については、「体質が改善されるまで」になりますが、通常は「半年から1年以上」の場合が多いです。
  • 漢方薬は副作用が少ないと言われておりますが、ゼロではありません。副作用チェックとして、定期的に採血をさせて頂いております。

漢方診療 問診票

当院へ来院し漢方診療を希望された場合、こちらの問診票に記入して頂きます。
予め、印刷して頂き、記入後持参して頂ければ待ち時間の短縮になります。
こちらをクリックすると問診票がダウンロードできます。

漢方薬服用の注意事項

~漢方薬を服用される患者様へ~

  • 服用のタイミングはいつでも大丈夫です。
    例:食後、食前、食間(朝・夕・寝る前)
    生活スタイルに合わせて調節してください。
    *西洋薬と一緒に服用して頂いて構いません。
  • 最も大事なのは「1日分を1日の中で飲みきること」です。
  • 服用の仕方は飲みやすい方法で構いません。
    例:オブラート、お茶、ジュース、ココアなど
    *一般的には「お湯に溶かして服用」が勧められています。
    *冷え性の方は温かいものor常温での服用をお勧めします。
  • 副作用は少ない頻度ですが、肝機能悪化、むくみ、血圧上昇、胃もたれなどがありますので、その際はすぐに中止orご連絡してください。
  • もしよろしければ、今の症状を覚えて頂き、次回の診察時に漢方薬を服用した後の変化を教えて下さい。
  • 漢方で体質改善を目指しましょう。

費用について

  • 当院での診察料、薬局での調剤料などは通常と同様です。
  • お薬代に関しては下記になります。漢方薬もすべて保険が適応されます。

例:補中益気湯1日3回の28日分の場合
・エキス剤(粉薬)7,872円→3割負担2,361円、1割負担787円
・煎じ薬 (生薬)8,320円→3割負担2,496円、1割負担832円
*薬局に煎じて頂く場合(真空パック):手数料100円/日×28日分+送料が追加

執筆・講演

漢方医の耳寄り情報

風邪のひき始め

《こんな時困りませんか?》
患者「よく風邪をひいて困ります。すぐに良くなる薬はありませんか?」

ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・効かせるコツとして、服用方法の工夫、養生の仕方などがある。

とりあえず処方したい場合
☆体質→冷え性・虚弱無し
  • 「寒気や頭痛」から始まる風邪→軽度:葛根湯(1)(頻度)、中等度:麻黄湯(27) (頻度)、重度:大青竜湯(麻黄湯+五虎湯)(頻度)
  • 「水様性鼻汁」から始まる風邪→軽度:小青竜湯(19)(頻度)、中等度:小青竜湯+五虎湯
  • 「咳」から始まる風邪→五虎湯(95)(頻度)
  • 「咽頭痛」から始まる風邪→軽度:葛根湯(1)(頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
☆体質→冷え性・虚弱有り
  • 「寒気や頭痛」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)
  • 「水様性鼻汁」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、中等度:麻黄附子細辛湯(127)+小青竜湯(19) (頻度)
  • 「咳」から始まる風邪→軽度:桂枝加厚朴杏仁湯(東洋28)(頻度)、中等度:桂枝加厚朴杏仁湯(東洋28)+麻黄附子細辛湯(127)(頻度)
  • 「咽頭痛」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127) (頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
概論
  • ひき始めとは、わずかでも風邪症状が出現した瞬間~2日間ぐらいを指す。
  • 風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ。
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。
  • 風邪の漢方治療は「患者の体質(冷え性・虚弱の有無症状のタイプ×症状の程度」を考慮して漢方薬を選択するため、やや難しく面倒。しかし、ピッタリと当てはめることができれば速攻で効く。
  • 患者の体質を考慮する必要があるのは、風邪の漢方治療がウイルスだけを抑えるのではなく、患者の体に働きかけ、免疫力を上げてウイルスを除去するように働くからである。例えば、冷え性や虚弱体質であれば、体の芯から温めるタイプの漢方薬を使用する。
  • また、風邪のひき始めには「麻黄や桂皮」が含まれている漢方薬を使用することが多い。
  • 個人によって風邪の経過にパターンがあることが多いため、処方選択にあたり参考となる(例:風邪をひくと体が冷え、喉がイガイガしやすい→麻黄附子細辛湯)。
  • ウイルスなどの病原体の種類は関係なく、起きている状態で漢方薬を選択する。よって、インフルエンザでも麻黄湯以外を使用し、インフルエンザ以外に麻黄湯を使用することもある。
  • 処方の選択と同程度に、服用方法の工夫、養生の仕方が大事である。
西洋薬との位置づけ
  • 細菌性感染症やインフルエンザなどの一部のウイルス感染症が除外できれば風邪の診断に至るが、西洋医学での風邪治療は基本的に症状を緩和する対症療法のみである。すなわちウイルス自体は自己免疫力で減らすしかない。
  • 一方で、風邪の漢方薬には症状緩和だけでなく、例えば体を温め、自己免疫力を高めてウイルスを排除させる働きもある。また、風邪のひき始めの漢方薬に含まれている「麻黄や桂皮」などの生薬にも、抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などが認められている1)2)
  • 風邪に対する漢方治療は速効性があるため、時間単位で風邪を積極的に治しにいくことができる。西洋では対症療法が主体のため守るイメージだが、漢方は攻めるイメージ
各論
☆軽度の風邪のひき始め×葛根湯(かっこんとう)(1)☆
  • 葛根湯の治療対象の症状は、寒気、頭痛、後頚部の凝り、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、いずれも症状が軽度
  • 葛根湯の対象者比較的体力のある子供~成人であり、高齢者、極端な冷え性、虚弱者は対象外であることが多い。
  • 葛根湯には「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。よって服用のタイミングが重要であり、発汗する前なるべく早く服用するのが効果的。
  • 服用方法も重要である。上記の葛根湯の対象者であれば、少なくとも初日は多少詰めて服用した方がよい。より効果的な服用方法として、「初回は2包を服用する」「1回服用して症状の改善がなければ1時間あけてさらに追加する」「初日は1日3~6包服用してもよい」「発汗後も症状が残っていればもう少し継続する」などがある。
  • また、葛根湯の温熱・発汗作用をより効率的にひきだすために、養生の仕方も重要である。「体を温める環境にする(服装、室温など)」「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」「布団にくるまって寝る(少しでも仮眠をとる)」などを併用すると更に効果的。
  • 教科書的な葛根湯の使い方は「まだ発汗していない風邪のひき始めに服用し、発汗すれば中止する」といわれている。しかし、葛根湯を服用後、発汗しない場合や、発汗ではなく利尿の場合もある。発汗は目指すべき徴候の1つだが、風邪症状が改善すればこだわらなくてもよいと思う。
  • ちなみに葛根湯には発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれており、安全弁となっている。よって、個人的に「とりあえず葛根湯」はアリだと思う。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。また、甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆中等度の風邪のひき始め×麻黄湯(まおうとう)(27)☆
  • 麻黄湯は、葛根湯と同様に「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。しかし、発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれていないため、葛根湯よりも作用が強い
  • よって、葛根湯よりも症状が強い風邪に使用する。
  • 具体的な症状としては、比較的強い悪寒、発熱に加え、関節痛や筋肉痛などが特徴的である。
  • インフルエンザの典型的な症状に麻黄湯の適応症状が似ているため、インフルエンザに麻黄湯がよく使用される。しかし、個人的にはインフルエンザで症状が激しい場合には次の大青竜湯の方が適合しやすい印象。
  • 服用方法、養生の仕方は葛根湯と同様
  • 副作用も葛根湯と同様。
☆重度の風邪のひき始め×大青竜湯(だいせいりゅうとう)☆
  • 大青竜湯はエキス製剤にないため、麻黄湯(27)+五虎湯(95)で代用。五虎湯の代わりに越婢加朮湯(28)や麻杏甘石湯(55)でも可。
  • 大青竜湯にも「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。そして、麻黄湯と同様に、発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれていないため、葛根湯よりも作用が強い。さらに抗炎症作用のある石膏が含まれており、麻黄湯よりも作用が強い
  • よって、麻黄湯よりも症状が強い風邪に使用する。
  • 具体的な症状としては、かなり強い悪寒、高熱、関節痛、筋肉痛に加え、強い倦怠感や口渇(冷水を好む)などが特徴的である。
  • 個人的にはインフルエンザで症状が激しい場合には大青竜湯が適合しやすい印象。
  • 服用方法、養生の仕方は葛根湯と同様
  • 副作用も葛根湯と同様。
☆水様性鼻汁から始まる風邪×小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)☆
  • 小青竜湯の治療対象の症状は、水様性鼻汁がメインであるが、軽度であれば、寒気、鼻閉、咳嗽、喀痰(白色・水様性)、喘鳴などもカバーする。
  • 鼻汁の風邪症状に対しては総合感冒薬や抗ヒスタミン薬が用いられることがあるが、有効性だけでなく眠気などの副作用においても小青竜湯の方が優れている可能性がある3)
  • 小青竜湯には葛根湯などと同じように麻黄と桂皮が含有されているため温熱発汗作用がありウイルスを減少させる働きがあるが、実際には方剤全体のバランスから発汗させることは少ない
  • 麻黄、半夏、細辛には利水作用があり、水様性鼻汁や水様性喀痰などを減らす作用がある。半夏、五味子、細辛には鎮咳・去痰作用がある。乾姜、細辛には体の芯から温める温熱作用がある。
  • 服用方法は、葛根湯のように発汗を目標に多めに服用することはしないが、初回に2包の服用や、初日に1日4回程度の服用などは試みてもよい。また、風邪のひき始めだけでなく、風邪が治るまで長期的に服用してもよい。
  • 養生の仕方は、小青竜湯の温熱作用をより効率的にひきだすために、「体を温める環境にする(服装、室温など)」「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」などを併用すると更に効果的。
  • 小青竜湯が飲みづらい(酸っぱい)場合は製薬会社によっては錠剤も選択できる。小児の場合、飲みやすくなる方法として「りんごジュース、蜂蜜、服薬ゼリーなどと混ぜる」があるが、あとは児の好みに合わせる。
  • 小青竜湯単独で効果不十分な場合は他剤との併用をお勧めする。個人的には効果を優先して初めから併用することも少なくない。鼻汁が改善しない場合は、冷え性であれば麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)を併用あるいは変更、冷え性でなければ五虎湯(ごことう)(95)を併用する。
  • 副作用は葛根湯と同様。
☆冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)☆
  • 麻黄附子細辛湯の治療対象の症状は、寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、いずれも症状が軽度
  • 冷え性や虚弱者は、風邪をひきやすい、治りにくい、総合感冒薬が合わないなどの傾向があり、体を温める麻黄附子細辛湯を重宝する人も少なくない
  • 麻黄附子細辛湯の特徴は、附子と細辛の温熱作用の生薬が含まれていることである。葛根湯は温熱・発汗作用であり、例えるなら、辛いカレーを食べて一時的に体を温め、発汗させて治すイメージ。麻黄附子細辛湯は温かい鍋を食べて、体の芯から持続的に体を温めて治すイメージ。
  • また附子と細辛には鎮痛作用があり咽頭痛にも効果を示す。なぜか分からないが、麻黄附子細辛湯が適合する咽頭痛は「痛い」よりも「イガイガする」と表現する場合が多い。ちなみに「痛い」であれば、喉の炎症が強い可能性があり、桔梗湯(ききょうとう)(138)を単独あるいは併用する場合もある。
  • 麻黄附子細辛湯、その中でも麻黄には抗炎症作用抗ウイルス作用などが認められている4)。主成分がエフェドリンのため、鼻汁や鼻閉にも効果を示す。
  • 服用方法、養生の仕方は小青竜湯と同様
  • 麻黄附子細辛湯(特に細辛)が飲みづらい場合は製薬会社によってはカプセル製剤も選択できる。
  • 鼻汁が強い場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)、咳が強い場合は桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)(東洋28)咽頭痛が強い場合は桔梗湯(138)喀痰がある場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)などを合わせてもよい。また、冷え性の人で悪寒、発熱、頭痛などの症状が強い場合は葛根湯加朮附湯(三和141)を選択する。葛根湯加朮附湯は葛根湯+真武湯で代用可能。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。
☆咽頭痛の風邪×桔梗湯(ききょうとう)(138)☆
  • 桔梗湯は主に咽喉頭部へ局所的に作用する対症療法の薬剤である。すなわち、葛根湯などのように体全体に働きかけ自己免疫力を高めてウイルスを減らすような作用は乏しい。
  • よって、西洋薬のトローチやトラネキサム酸などと同じ立ち位置であり、これらの薬剤と併用あるいは優先的に使用する。
  • 個人的にはトローチやトラネキサム酸よりも速効性、有効性に優れていると感じている。難点は顆粒であることで、漢方薬が飲めそうであれば優先的にお勧めしている。
  • 桔梗と甘草には抗炎症作用、鎮痛作用がある5)6)7)。桔梗には排膿作用、鎮咳去痰作用などもある。
  • 効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」である。もちろん、服用のみでも効果はあるが、うがいを併用する方が喉へ直接的に作用するため速効性がある。飲めない場合は「うがいのみ」でも可。
  • 桔梗湯は甘くて飲みやすい。また速効性もあるため、漢方が苦手な人でも桔梗湯を気に入ることが多い
  • 効果不十分例や発熱がある場合は葛根湯(1)+小柴胡湯加桔梗石膏(109)へ変更する。
  • 甘草3g/日と比較的量が多いため、偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆咳から始まる風邪(非虚弱者)×五虎湯(ごことう)(95)☆
  • 五虎湯は鎮咳去痰作用、抗炎症作用、気管支拡張作用のある麻杏甘石湯(55)に鎮咳去痰作用、気管支拡張作用のある桑白皮が加わった漢方薬である。
  • 咳嗽が主体の風邪のひき始めに用いることが多い。
  • 五虎湯の対象者比較的体力のある小児~成人であり、虚弱者、冷え性、高齢者は対象外であることが多い。特に小児の咳の風邪には第一選択薬となる。
  • 副作用は葛根湯と同様。
☆咳から始まる風邪(虚弱者)×桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)(東洋28)☆
  • 桂枝加厚朴杏仁湯は虚弱者の軽い風邪のひき始めに使用する桂枝湯(45)に鎮咳去痰作用、気管支拡張作用のある厚朴、杏仁が加わった漢方薬である。
  • 咳嗽が主体の軽い風邪のひき始めに用いることが多い。
  • 桂枝加厚朴杏仁湯の対象者虚弱者、冷え性、高齢者などが多い。
  • 冷え性であれば、麻黄附子細辛湯(127)との相性が良く、効果不十分な場合は併用することも多い。
  • 副作用は、甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
事例

82歳女性。よく風邪をひくが、治りにくい。もともと冷え性で冷房は苦手。風邪をひくと更に体が冷え、鼻汁や咽頭痛(イガイガする)を認める。長引くと咳も出るようになる。熱は出ない。総合感冒薬を飲むと体がきつくなる。
処方①:麻黄附子細辛湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
7日後:「あの漢方薬は良かった。喉のイガイガはすぐに良くなったが、鼻水がまだ少し出る」
処方②:麻黄附子細辛湯1回1包+小青竜湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
14日後:「鼻水も喉も良くなりました」

文献:
1) ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
2) Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
3) 宮本昭正,他:TJ-19 ツムラ小青竜湯の気管支炎に対するPlacebo対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 17 : 1189-1214, 2001.
4) Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
5) 高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
6) Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
7) Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.

 

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こじれた風邪

《こんな時困りませんか?》
患者「1週間前から咽頭痛、咳、痰などの治療をしていますが、良くなりません」

ポイント
・風邪の漢方薬の利点は、抗炎症作用、温熱作用(温める)、滋潤作用(潤す)。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・この時期には症状が1つでないことも多く、複数の薬剤が必要な場合がある。

 
とりあえず処方したい場合
☆体質→冷え性・虚弱無し
  • 「微熱・発熱」が主体→小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「鼻汁」が主体→白色:小青竜湯(19)(頻度)、黄色:辛夷清肺湯(104)(頻度)
  • 「咳」が主体→乾性:麦門冬湯(29)(頻度)、湿性:柴朴湯(96)(頻度)
  • 「咽頭痛」が主体→小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「痰」が主体→柴朴湯(96)(頻度)
☆体質→冷え性・虚弱有り
  • 「微熱・発熱」が主体→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、中等度:小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「鼻汁」が主体→白色:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、黄色:辛夷清肺湯(104)(頻度)
  • 「咳」が主体→乾性:麦門冬湯(29)(頻度)、湿性:柴朴湯(96)(頻度)
  • 「咽頭痛」が主体→軽度:麻黄附子細辛湯(127) (頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
  • 「痰」が主体→柴朴湯(96)(頻度)
概論
  • 「こじれた風邪」とは、ウイルス性上気道炎において「風邪のひき始め」以降の亜急性期、発症2、3日以降、下気道症状が出現する時期などを示す。また、細菌性においても抗菌薬と併用しながら漢方薬を使用できる。
  • 「風邪はひき始めに仕留める」が基本であるため、こじれた場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。しかし、漢方薬には抗炎症作用などもあるため、漢方薬を使用した方が回復は早いと思われる。
  • この時期には症状が1つでないことも多く、複数の薬剤が必要な場合がある。
  • 風邪の漢方治療は「患者の体質(冷え性・虚弱の有無)×症状のタイプ×症状の程度」を考慮して漢方薬を選択する必要がある。
  • 抗炎症作用の生薬は体を冷やす方向性をもつことが多い。冷え性や虚弱体質の風邪には麻黄附子細辛湯(127)などの温める漢方薬をベースに使用することが多いが、炎症が強い場合には体を冷やす抗炎症作用の漢方薬を一時的に使用することもある。
西洋薬との位置づけ
  • 西洋薬にはない、風邪の漢方薬の利点は、抗炎症作用温熱作用(体を温めて免疫力を高める)、滋潤作用(潤す)と思われる。
  • よって、ほとんどの風邪患者に漢方薬の適応がある
  • この時期では、必要に応じて西洋薬も併用することも少なくなく、お互いの長所を活かす組み合わせが望ましい。
各論
☆発熱・咽頭痛のこじれた風邪×小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)☆
  • 小柴胡湯加桔梗石膏(109)は小柴胡湯(9)+桔梗石膏(N324)である。小柴胡湯には抗炎症作用、解熱作用、鎮咳去痰作用があり、桔梗には排膿作用、鎮咳去痰作用、抗炎症作用1)2)、石膏には抗炎症作用、解熱作用がある。
  • すなわち小柴胡湯加桔梗石膏は主に抗炎症作用があり、上気道の炎症(発熱を含む)、その中でも特に扁桃炎や咽頭炎などに使用される。
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)。
☆水様性鼻汁のこじれた風邪×小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)☆
  • 小青竜湯は、麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、乾姜(かんきょう)、半夏(はんげ)、五味子(ごみし)、細辛(さいしん)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)の8つの生薬で構成されている。
  • 麻黄や桂皮には抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などある3)4)
  • 乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)や細辛には温熱作用がある。
  • 麻黄、半夏、細辛には利水作用があり、水様性鼻汁や水様性喀痰などを減らす作用がある。
  • 半夏、五味子、細辛には鎮咳・去痰作用がある。
  • 五味子、細辛には抗ヒスタミン作用があり、小青竜湯がアレルギー性鼻炎に有効な報告もある5)
  • すなわち、小青竜湯は温める方向性(軽度)の漢方薬であり、水様性鼻汁を主体とした風邪に適合しやすい。また、症状としては水様性鼻汁だけでなく軽度であれば鼻閉、咳嗽、喀痰、病態としては風邪だけでなく冷えやアレルギーの関与にも対応できる。
  • 鼻汁が改善しない場合は、冷え性であれば麻黄附子細辛湯(127)を併用あるいは変更、冷え性でなければ五虎湯(95)を併用。中等度以上の鼻閉や黄色鼻汁を伴う場合は辛夷清肺湯(104)を併用あるいは変更。
  • 味は酸っぱい。飲みづらい場合は製薬会社によっては錠剤も選択できる。
  • エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要。
  • 甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆黄色鼻汁・鼻閉のこじれた風邪×辛夷清肺湯
  • 辛夷清肺湯は、辛夷(しんい)、石膏(せっこう)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、知母(ちも)、百合(びゃくごう)、麦門冬(ばくもんどう)、枇杷葉(びわよう)、升麻(しょうま)の9つの生薬で構成されている。
  • 石膏、黄芩、山梔子、知母、升麻には抗炎症作用、辛夷には鼻閉改善作用、知母、百合、麦門冬には滋潤作用(潤す)、百合、麦門冬、枇杷葉には鎮咳去痰作用などがある(無理矢理に西洋医学で例えると抗菌薬+ステロイド点鼻薬+鼻洗浄+カルボシステインか)。
  • すなわち、辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤であるため、黄色鼻汁や鼻閉を認める上気道炎、副鼻腔炎、粘液性の後鼻漏などに使用されている。
  • 効果不十分な場合は更に抗炎症作用を高める目的で、小柴胡湯加桔梗石膏(109)や桔梗石膏(N324)を併用する。
  • 味はやや苦い
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)。
☆乾性咳嗽のこじれた風邪×麦門冬湯(ばくもんどうとう)(29)☆
  • 麦門冬湯は、麦門冬(ばくもんどう)、粳米(こうべい)、半夏(はんげ)、人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)の6つの生薬で構成されている。
  • 麦門冬、粳米、人参には滋潤作用(潤す)がある。
  • 麦門冬、半夏には鎮咳作用がある。
  • すなわち、麦門冬湯は潤しながら咳を止める漢方薬であり、乾性咳嗽に使用される。特に、「喉が乾燥して咳がでる。マスクや加湿で咳が和らぐ」といったタイプの咳には適合しやすい。また冬は乾燥しやすいため、冬季の咳にも出番が多い。
  • 西洋薬の鎮咳薬は中枢性が多いが、麦門冬湯は末梢性鎮咳作用6)のため、眠気や便秘などの副作用はない。
  • 乾性咳嗽に関して、急性期には麻黄(主成分がエフェドリン)を中心とした鎮咳薬を用いるが、亜急性期以降は乾燥傾向となることが多いため、滋潤作用の麦門冬湯が頻用される。よって、麦門冬湯は乾性咳嗽の急性期にはあまり用いない。
  • 潤す漢方薬のため、「痰がからんで出しづらい」場合にも使用できる。
  • 効果不十分な場合、①麻黄や厚朴で鎮咳作用(末梢性)を強める→五虎湯(95)、桂枝加厚朴杏仁湯(TY28)、神秘湯(85)、麻黄附子細辛湯(127)の併用や変更、②滋潤作用を強める→滋陰降火湯(93)への変更、③抗炎症作用を強める→小柴胡湯加桔梗石膏(109)を併用④去痰作用も必要→半夏厚朴湯(16)、柴朴湯(96)を併用する。
  • 激しい乾性咳嗽の場合には、確実性や速効性を考慮して西洋薬との併用も多い。
  • 甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆湿性咳嗽のこじれた風邪×柴朴湯(さいぼくとう)(96)☆
  • 柴朴湯は小柴胡湯(9)+半夏厚朴湯(16)である。小柴胡湯には抗炎症作用、解熱作用、鎮咳去痰作用があり、半夏厚朴湯には鎮咳去痰作用がある。
  • すなわち、柴朴湯は鎮咳去痰作用、抗炎症作用があり、湿性咳嗽、黄色喀痰などに使用される。
  • 効果不十分な場合、①麻黄で鎮咳作用を強める→五虎湯(95)、神秘湯(85)を併用、②抗炎症作用、鎮咳去痰作用を強める→桔梗石膏(N324)、清肺湯(90)の併用や変更、③滋潤作用も必要→麦門冬湯(29)を併用する。
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩や甘草が含まれているため、肝障害や間質性肺炎、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆咽頭痛のこじれた風邪×桔梗湯(ききょうとう)(138)☆
  • 桔梗湯は桔梗(ききょう)と甘草(かんぞう)で構成されており、抗炎症作用、鎮痛作用1)2)7)があるため、扁桃炎や咽頭炎などに使用される。
  • 桔梗湯は風邪自体を治すというよりも、主に咽喉頭部へ局所的に作用する対症療法の薬剤である。
  • よって、西洋薬のトローチやトラネキサム酸などと同じ立ち位置であり、これらの薬剤と併用あるいは優先的に使用する。
  • 効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」である。もちろん、服用のみでも効果はあるが、うがいを併用する方が喉へ直接的に作用するため速効性がある。
  • 効果不十分例や発熱がある場合は、より抗炎症作用のある小柴胡湯加桔梗石膏(109)へ変更する。
  • 甘草3g/日と比較的量が多いため、偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)☆
  • 麻黄附子細辛湯は麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)の3つの生薬で構成されている。
  • 附子と細辛には温熱作用、鎮痛作用、麻黄には抗炎症作用、抗ウイルス作用などが認められている8)。麻黄の主成分はエフェドリンのため、鼻汁や鼻閉にも効果を示す。
  • すなわち、麻黄附子細辛湯は体を温めて風邪を治す漢方薬であり、軽度であれば冷え性や虚弱者の寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などに使用される。
  • なぜか分からないが、麻黄附子細辛湯が適合しやすい咽頭痛は「痛い」よりも「イガイガする」と表現する場合が多い。ちなみに「痛い」であれば、喉の炎症が強い可能性があり、桔梗湯(138)を単独あるいは併用する場合もある。
  • 鼻汁が強い場合は小青竜湯(19)を併用する。
  • 味は酸っぱい。飲みづらい場合は製薬会社によってはカプセル製剤も選択できる。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要。
事例
39歳男性。1週間前から咽頭痛、咳、痰を認めており、近医にて風邪の診断にて加療されているが改善がないため当院へ来院。咽頭痛が最も強く、軽度の痰がらみの咳、白黄色の喀痰を認める。冷え性ではない。

処方①:小柴胡湯加桔梗石膏1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 7日分
7日後:「咽頭痛は良くなりました。痰のからみの咳が残っていて、痰が出しづらいです」
処方②:柴朴湯1回1包+麦門冬湯1回1包 1日3回 毎食後 7日分
14日後:「良くなりました」

文献
1)高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
2)Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
5)馬場駿吉,他:耳鼻咽喉科疾患とEBM-アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の薬効評価を中心に-. Prog Med, 22(9), 2123-2126, 2002.
6)宮田健,他:気管支炎病態動物における麦門冬湯とcodeineの鎮咳作用の比較. 日本胸部疾患学会雑誌, 27(10): 1157-1162, 1989.
7)Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
8)Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.

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食欲不振

《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常がなく薬も飲んでいるけどまだ食欲がありません」

ポイント
・食欲不振の漢方薬は消化機能を高めて気力を補う四君子湯が基本となる。
・漢方薬の有効率は高くないが他に治療法がない場合には十分考慮すべき選択肢の1つになりうる。
・それぞれの漢方薬の特徴を理解し、患者のタイプによって使い分ける。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:六君子湯(43)、2nd-line:茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
概論
  • 食欲不振に使用する代表的な漢方薬として、六君子湯(43)、人参湯(32)、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)、補中益気湯(41)、釣藤散(47)などがある。
  • これらの漢方薬の共通点として、消化機能を高めて気力を補う四君子湯(しくんしとう)(75)が基本となっている。四君子湯は人参、朮、茯苓、甘草(生姜、大棗)の主に4種類の生薬で構成されている。
西洋薬との位置づけ
  • 食欲不振の治療として、鬱に対するスルピリド、癌に対するステロイド、夏バテに対する点滴などと比較すると、漢方薬のキレは劣ると感じる。
  • しかし、西洋薬で副作用が懸念される場合、他に治療法がない場合などには漢方薬も十分考慮すべき選択肢の1つになりうる
各論
☆水毒の食欲不振×六君子湯(りっくんしとう)(43)☆
  • 六君子湯は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、陳皮(ちんぴ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の8種類の生薬で構成されている。
  • 六君子湯は四君子湯(75)+二陳湯(にちんとう)(81)である(4+2=6)。
  • 二陳湯(81)は陳皮、半夏の2種類の生薬がメインの漢方薬であり、「胃の水毒」を治す働きがある。
  • よって、六君子湯は「胃の水毒」がベースにある人の上部消化器症状(食欲不振や胃もたれなど)に効果を示す。
  • 「胃の水毒」は漢方独特の概念で想像しづらいが、胃の水毒→胃のむくみ→舌のむくみ(胃と舌が繋がっている)という発想で、「胃の水毒」の所見の一つに「舌のむくみ」がある。すなわち、六君子湯の適応者の判断に「舌のむくみ」も参考にする。「舌のむくみ」は「舌全体が腫れぼったい感じ、口角より広い、歯型がついている」などで判断する。「胃の水毒」のその他の所見として、「飲水後に胃がチャポチャポと鳴る」などもある。元々体質として「胃の水毒」をもつ人は比較的多く、胃もたれしやすく、六君子湯が効きやすい。
  • 六君子湯は多くの基礎研究、臨床研究が行われており、食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用1)、胃排出能促進作用2)、胃適応性弛緩作用3)などを含め、その有効性が確認されている。しかし、筆者の実臨床における手応えとしては、下記の漢方薬も同等に研究されたら自ずと結果は出ると思われる。
  • 効果不十分例では、①倦怠感が強い場合に補中益気湯(41)抑うつがある場合に香蘇散(70)若年者、交感神経過緊張、過敏性腸症候群を伴う場合に四逆散(35)を併用する。また高齢者によく使用する釣藤散(47)やイライラに使用する抑肝散加陳皮半夏(83)には六君子湯が含まれており、高齢者の食欲不振に釣藤散(47)イライラを伴う食欲不振に抑肝散加陳皮半夏(83)がよい場合がある。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆冷え性の食欲不振×人参湯(にんじんとう)(32)☆
  • 人参湯は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)の4種類の生薬で構成されている。
  • 人参湯は四君子湯(75)+乾姜のイメージ。乾姜は生姜を蒸して乾燥させたものであり、胃腸を温める作用がある。
  • よって、人参湯は「冷え性の食欲不振」に第一選択薬となる。また、腹診にて腹部全体より心窩部が特に冷えている場合も人参湯適応者の1徴候とされている。
  • 人参湯は胃腸を温めて胃腸の調子を整え、気力も補う漢方薬であるため、食欲不振だけでなく、下痢や倦怠感などにも使用できる。
  • 効果不十分例では、さらに温める方法として①真武湯(30)の併用附子理中湯(三和S-09)への変更などがある。附子理中湯=人参湯+附子(体を温める生薬)である。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要(人参湯は甘草の量が1日3gと比較的多い)。
☆ストレス性の食欲不振×茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)(116)☆
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯は茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤である。
  • 茯苓飲(69)単剤でも気の巡りを改善して胃の蠕動を促進させる枳実(きじつ)などが入っているためストレス性の食欲不振に使用されるが、半夏厚朴湯(16)を合わせることでさらに強化される。
  • 半夏厚朴湯(16)は喉のつまりや息苦しさなどの喉〜胸部の閉塞症状、不安や抑うつに使用されるが、茯苓飲を合わせることで喉〜胃部の閉塞症状(食べるとすぐに満腹になる早期飽満感、げっぷ等)にも対応できるようになる。
  • 実は中身をみると、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)≒六君子湯(43)+気の巡りを改善する生薬(枳実、蘇葉、厚朴=抗うつ作用、自律神経調節作用)という構成であり、「ストレス性の食欲不振」には第一選択薬となる。
  • 西洋薬だとスルピリドのイメージ。
  • 一般に、がん患者の食欲不振に六君子湯が頻用されているが、個人的には茯苓飲合半夏厚朴湯(116)の適応者(抑うつの合併)の方が多いと思う。
  • 甘草が含まれていないのは最大の利点。
☆倦怠感を伴う食欲不振×補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)☆
  • 補中益気湯≒四君子湯+柴胡(さいこ)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、陳皮(ちんぴ)という構成である。
  • 黄耆、当帰は気力、体力を補う作用があり、陳皮(六君子湯にも含まれている)は食欲増進作用がある。また、升麻は弛緩した筋トーヌスを引き締める働きがあり胃下垂の人などに適合しやすく、柴胡は抗炎症作用があり感染症後の倦怠感や食欲不振などにも使用できる。
  • よって、補中益気湯(41)は六君子湯(43)よりも気力、体力を補う作用があるため、倦怠感を伴う食欲不振に第一選択薬となる。さらには、胃下垂の人や感染症後の倦怠感や食欲不振にも使用される。
  • 補中益気湯(41)と六君子湯(43)の使い分けは、倦怠感>食欲不振だと補中益気湯倦怠感<食欲不振だと六君子湯。効果不十分な場合は両者を併用することもある。
事例
48歳女性。数ヶ月前から食欲不振を認めている。検査では異常所見なく、近医で加療されているが改善がないため当院へ来院。倦怠感はなく、冷えは軽度のみ。舌のむくみを認める。
処方①:六君子湯1回1包 1日3回 毎食前 14日分
14日後:「少し食べられるようになったけど、まだ食べ物が喉を通りにくい。食欲不振はストレスがきっかけかもしれない。」
処方②:茯苓飲合半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食前 14日分
28日後:「だいぶ食べられるようになりました。喉の通りもすっきりしました。」

文献
1)Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59:62-66, 2012.
2)Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomaized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7):950-61, 2014.
3)Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20):2195-202, 2010.

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胃が痛い

準備中

腹痛・腹満(過敏性腸症候群などを含む)

ポイント
・年齢、ストレス、冷えの有無で鑑別する。
・対象疾患は過敏性腸症候群など主に機能性疾患に幅広く対応できる。
・効果不十分な場合は他剤を併用する。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→小建中湯(99)(頻度)
  • 中高生orストレス性→四逆散(35)(頻度)
  • 冷たい飲食物の摂取で悪化する→大建中湯(100)(頻度)
  • その他→桂枝加芍薬湯(60)(頻度)
概論
  • 器質的疾患の精査は必要だが、器質的疾患があっても漢方薬は使える。
  • 腹痛、腹満はいずれも腸蠕動がスムーズに動いていない状態であり、同じ漢方薬を使うことが多い
  • 漢方薬は腸蠕動を調節的にコントロールする働きがある。すなわち腸蠕動が低下していれば亢進させ、腸蠕動の亢進や異常な攣縮(spasm)があれば緩ませる。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも漢方薬は使用できるが、特に慢性・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 対象疾患は、過敏性腸症候群、(亜)腸閉塞、原因不明の腹痛症、腹部膨満、ストレス性疾患など主に機能性疾患に幅広く対応できる。悪性腫瘍などの器質的疾患があると有効性は劣る。
各論
☆小児の腹痛・腹満×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)☆
  • 小建中湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 症状が出現するタイミング(例:通学前など)がわかれば、その直前に服用する方が効果的
  • 効果不十分な場合は量を増やす(特に量の制限はない)。冷えが強ければ、大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)を併用する。
  • 小建中湯は小児の便秘、下痢、過敏性腸症候群などにも頻用される。
  • 甘草含有であるが、小児では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
☆中高生orストレス性の腹痛・腹満×四逆散(しぎゃくさん)(35)☆
  • 四逆散には自律神経調節作用、抗ストレス作用、腸管蠕動調節作用などがある。
  • 年齢に限らずストレス性の過敏性腸症候群には四逆散が第一選択薬となる。
  • 対象患者の分布としては中高生が最も多い
  • 頓用ではあまり使用しない。定期服用し自律神経を整えていくイメージ。多少の速効性はあるため、症状が出現する直前に1〜2包服用する方が効果的。
  • 腹痛が残存する場合は、大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)の適応となる“寒冷刺激で悪化するタイプ”が併存していることがある。
  • 腹満が残存する場合は、香蘇散(こうそさん)(70)を併用する。
  • 甘草含有であるが、特に中高生では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
☆寒冷刺激性の腹痛・腹満×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある。小建中湯よりも腸管を温める作用が強い。
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 寒冷刺激性とは、「腸管の冷え」が存在し、寒冷刺激で悪化するタイプを指す。①冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する腹部を温めると症状が緩和する、の2つは特に特異度が高い印象。ちなみに腹巻きや腹部にカイロを使用している人は②に該当する。また、③自覚的な腹部の冷感(お腹が冷える)腹部、特に臍周囲の他覚的な冷感(触って冷たい)を認める場合や⑤便臭(特に水様性下痢)が軽度冷え症の人にも「腸管の冷え」すなわち大建中湯の適応者が多いと言われている1)2)3)4)
  • 患者自ら「お腹を冷やすと悪い」と伝えないことがあるので、こちらから聞き出すことが大事。
  • 大建中湯は「腸管の冷え」があれば、腹痛・腹満以外にも下痢、便秘、過敏性腸症候群などにも頻用される5)
  • 腹痛、腹満が残存する場合は、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)を併用する。腹痛、腹満を和らげる芍薬や甘草が入るため効果が増す。
  • 副作用に特記事項はない。
☆その他の腹痛・腹満×桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)☆
  • 桂枝加芍薬湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある5)
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 腹痛、腹満に対する桂枝加芍薬湯の処方は無難な対応。効かないことはあっても悪さはしない。
  • 「桂枝加芍薬湯=小建中湯—膠飴」であり、桂枝加芍薬湯と小建中湯は似ている。小建中湯は小児用、桂枝加芍薬湯は大人用と捉えてもよい。
  • 甘草含有(2g/日)であり、偽アルドステロン症に注意。
事例
中学3年生の男子。1年前より、毎日腹痛と下痢を自覚するため困っているとのこと。特に学校で多く、発症の時間帯は午前と午後どちらにも認める。学校では昼休みにも漢方薬を飲めるとのこと。

処方①:四逆散11包 1日2回 朝昼食後 14日分
14日後:「半分ぐらいに減っているけど、時々腹痛、下痢がある」
冷たい飲食物で悪化するかを問うと「そうかもしれない」とのこと。
処方②:四逆散1回1包+大建中湯11 1日2回 朝昼食後 14日分
28日後:「腹痛も下痢も良くなった。きちんと飲めている。」

文献
1)三潴忠道:はじめての漢方診療十五話.医学書院, 214, 2005.
2)犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
3)土倉潤一郎:Gノート 本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬. 羊土社, 4(6):1044-1055, 2017.
4)土倉潤一郎:Gノート おなかに漢方!. 羊土社, 6(1):58-64, 2019.
5)日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 改訂第2版 過敏性腸症候群. 南江堂, 74-76, 2020.

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下痢

《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常なく、整腸剤や止痢薬を飲んでも下痢が続いています」

ポイント
・下痢の漢方治療は①炎症②腸管の冷え③水毒の観点から処方選択する。
・器質的疾患を除外された慢性下痢には「腸管の冷え」の関与が多い。
・「腸管の冷え」の関与した下痢には大建中湯などの温熱薬が奏功しやすい。

 
とりあえず処方したい場合
  • 急性期
    1st-line:半夏瀉心湯(14)、2nd-line:柴苓湯(114)
  • 亜急性期〜慢性期
    1st-line:大建中湯(100)、2nd-line:半夏瀉心湯(14)、3rd-line:五苓散(17)
概論
  • 下痢の原因として感染性、炎症性、薬剤性などがあるが、疾患名は参考程度であり、漢方医学的な視点で漢方薬の選択を行う。なお、過敏性腸症候群の漢方治療については別項目を参照して頂きたい。
  • 下痢の漢方治療は、①炎症腸管の冷え水毒の観点から処方選択する。
    ①「炎症」に対しては抗炎症作用の漢方薬を使用する。「炎症」を示唆する所見として、「発熱(高熱)、便臭が強い、テネスムス(大腸に炎症があり頻回に便意を催すが便が少量しか出ない状態)」などがあり、大腸性下痢のことが多い。下痢に使用する漢方薬で抗炎症作用の強い順に並べると、黄芩湯(三和S35)→柴苓湯(114)→五苓散(17)→半夏瀉心湯(14)→小建中湯(99)→大建中湯(100)である。急性期(の下痢には「炎症」の関与が最も多い。
    ②「腸管の冷え」に対しては温熱作用の漢方薬を使用する。「腸管の冷え」を示唆する所見として、「冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する、腹部を温めると症状が緩和する、自他覚的な腹部の冷感、便臭(炎症)が軽度、冷え性の人」などがあり、水様性下痢、小腸性下痢のことが多い。感染性腸炎でも意外と「腸管の冷え」が関与している場合がある(冷えて免疫力が低下し治りづらいイメージ)。下痢に使用する漢方薬で温熱作用の強い順に並べると、茯苓四逆湯(真武湯+人参湯)→真武湯(30)→大建中湯(100)→人参湯(32)→小建中湯(99)→半夏瀉心湯(14)である。器質的疾患を除外された亜急性期〜慢性期の下痢には「腸管の冷え」の関与が最も多い。
     ③「水毒(すいどく)」とは水分代謝異常のことで、脱水や溢水といった水分の不均衡を是正する水分代謝調節作用の漢方薬を使用する。「水毒」を示唆する所見として、「水様性下痢、口渇、脱水」などがある。下痢に使用する漢方薬で水分代謝調節作用の強い順に並べると、柴苓湯(114)・五苓散(17)→真武湯(30)である。小児の嘔吐下痢には水毒の関与が最も多い。
西洋薬との位置づけ
  • 個人的には急性期よりも23日経過した亜急性期以降に漢方薬の使用が多い。その理由は、ほとんどの急性腸炎は数日以内で自然軽快するからである。漢方薬には抗炎症作用などもあるため、少しでも回復を早めるために急性期から使用してもよいが、亜急性期〜慢性期の方が漢方薬の恩恵は大きい。
  • よって、急性期よりも亜急性期〜慢性期の下痢で、整腸剤や止痢薬でも効果がない場合などに漢方薬の出番があると思われる。
  • 下痢の漢方治療の特徴は①炎症に対する抗炎症作用②腸管の冷えに対する温熱作用③水分代謝異常に対する水分代謝調節作用であり、西洋薬との併用も可能である。
各論
☆炎症の強い下痢×黄芩湯(おうごんとう)(三和S35)☆
  • 黄芩湯は黄芩(おうごん)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)の4種類の生薬で構成されており、抗炎症作用に優れている。芍薬、甘草による鎮痙・鎮痛作用もあるため腹痛にも対応できる。
  • 嘔気を伴う場合は制吐作用も兼ねる黄芩加半夏生姜湯という漢方薬があり、黄芩湯+小半夏加茯苓湯(21)で代用可能だが、個人的には西洋薬の制吐剤を用いることが多い。
  • よって、黄芩湯は発熱を伴うなど炎症の強い下痢に使用される1)
  • 副作用としては、黄芩による肝障害や間質性肺炎、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆炎症と冷えの下痢×半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(14)☆
  • 半夏瀉心湯は半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、黄連(おうれん)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)の7種類の生薬で構成されている。
  • 半夏瀉心湯は、黄芩、黄連の抗炎症作用、乾姜の温熱作用、半夏、乾姜、人参の制吐作用などがあり、幅広く使用できる。
  • 抗炎症作用の黄芩、黄連は冷ます力が強く、乾姜は温める力が強い。通常はいずれかの生薬を中心としてその方向性を持つ漢方薬が多いが、半夏瀉心湯は冷ます生薬(抗炎症作用)と温める生薬(温熱作用)が混在したタイプの漢方薬である。よって、黄芩湯(三和S35)と大建中湯(100)の中間の位置付けとなり、両者と比較すると幅広くカバーできる一方で、抗炎症作用や温熱作用は弱まる
  • 下痢(特に急性期〜亜急性期)にはそのような「炎症+腸管の冷え(例:便臭は強いがお腹が冷える)」あるいは「炎症→腸管の冷え(例:初日は便臭が強かったが2日目には便臭軽度でお腹も冷える)」といった病態に陥ることもあり、使用頻度は比較的多い
  • 昔から腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)を使用目標にするとよいとも言われている。
  • 抗がん剤(イリノテカン塩酸塩)による下痢(特に遅発性)には半夏瀉心湯が適合しやすく、第一選択薬とされている2)
  • 副作用としては、黄芩による肝障害や間質性肺炎、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆冷えの下痢×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4種類の生薬で構成されている。
  • 乾姜、山椒には温熱作用鎮痙・鎮痛作用があり、上記の「腸管の冷え」が関与した下痢、腹痛、腹満に対応する。
  • 一般に大建中湯は便秘やイレウスに使用されることが多いが、腸蠕動調節作用があるため、下痢にも効果を示す(大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整えるイメージ)。
  • 強くはないが、抗炎症作用もあると報告されている3)
  • 慢性下痢には意外と「腸管の冷え」が関与していることが多く、大建中湯のような温熱薬が奏功しやすい。
  • 「腸管の冷え」の下痢に使用する漢方薬として、大建中湯(100)、人参湯(32)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)などがある。大建中湯冷えの下痢に第一選択でよいが、腹痛、腹満がある場合には優先する。人参湯(32)は下痢だけでなく食欲不振も伴う場合に選択する。茯苓四逆湯は人参湯(32)+真武湯(30)で構成され、冷えが強い場合や倦怠感を伴う場合に選択する。
  • 効果不十分例では、①大建中湯の増量(1日6包まで処方可)②桂枝加芍薬湯(60)の併用(鎮痙・鎮痛作用を強める)③真武湯(30)の併用(温熱作用を強める)などがある。
  • 副作用は特記事項なし。
☆水毒・小児の下痢×五苓散(ごれいさん)(17)☆
  • 五苓散は茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、朮(じゅつ)、猪苓(ちょれい)、桂皮(けいひ)の5種類の生薬で構成されている。
  • 茯苓、沢瀉、朮、猪苓には水分代謝調節作用があり、下痢(主に水様性)4)、脱水、嘔吐などの水分代謝異常(水毒)に対応できる。
  • 小児の嘔吐下痢口渇を伴う水様性下痢には五苓散が第一選択となる。
  • 小児の嘔吐下痢で内服が難しい場合は注腸も有効とされている5)
  • 効果不十分例では、①柴苓湯(114)へ変更(柴苓湯は五苓散+小柴胡湯で抗炎症作用が強める)②大建中湯(100)へ変更(冷えが関与している場合がある)③小建中湯(99)へ変更(小児の亜急性期以降の下痢に頻用される)。
事例
65歳男性。数年前から1日10回以上の水様性下痢が持続している。検査では異常所見なく、整腸剤や止痢薬も効果がなかった。冷えの関与や便臭について尋ねると、「冷たいものを摂取すると悪化するので取っていません。元々冷え性です。臭いはあまりしません」とのこと。腹痛なし。腹鳴なし。
処方①:大建中湯11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「だいぶよいです。まだ1日2,3回の下痢があります」
処方②:大建中湯12 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「便の調子が良いです。便は1日1回の軟便になりました」

文献
1)犬塚央, 他:高齢者施設で多発した嘔吐下痢症に対する黄芩湯の使用経験. 日東医誌, 62(1):53-56, 2011.
2)坂田優,他:塩酸イリノテカン(CPT-11)の下痢に対する半夏瀉心湯(TJ-14)の臨床効果. 癌と化学療法, 21:1241-1244.
3)Ueno N, et al:TU-100(Daikenchuto) and ginjer ameliorate anti-CD3 antibody induced T cell-mediated murine enteritis: microbe-independent effects involving Akt and NF-κB suppression. PLos One, 9:e97456, 2014.
4)岡村信幸, 他:塩類下剤誘発下痢モデルマウスに対する五苓散の効果. 日東医誌, 60(5):493-501, 2009.
5)福富悌,他:小児の急性胃腸炎に伴う嘔吐に対する五苓散注腸の検討. 小児科臨床, 53:967-970, 2000.

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便秘

《こんな時困りませんか?》
患者「数種類の下剤を飲んでいるけど便が出なくて困っています」

ポイント
・便秘の漢方薬の利点は、腸蠕動を意識したアプローチができること。
・年齢層によって使用する漢方薬がある程度大別できる。
・場合によっては体質改善効果も期待できる。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→小建中湯(99)
  • 中高生→四逆散(35)
  • 若年〜中年者→通導散(105)
  • 高齢者→麻子仁丸(126)
概論
  • 便秘に関係する生薬の働きとして、①瀉下作用(便を出す):大黄(センノシド)、芒硝(マグネシウム)②腸蠕動調節作用(主に腸蠕動促進):枳実、山椒、乾姜、山梔子③鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善):芍薬、厚朴、甘草④潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする):麻子仁、桃仁、杏仁などがある。
  • この中でも腸蠕動調節作用、鎮痙・鎮痛作用、潤腸作用などが便秘の漢方薬の特徴であり、特に腸蠕動を意識したアプローチができることが最大の利点と思われる。
  • 自律神経異常の関与には自律神経調節作用の四逆散(35)や小建中湯(99)血流障害(ドロドロ血)の関与には末梢循環改善作用の通導散(105)腸内乾燥には滋潤作用の麻子仁丸(126)腸管の冷えによる蠕動運動異常には温熱作用の大建中湯(100)や小建中湯(99)などのアプローチがある。
  • 腸内環境を整えることは体調管理において非常に重要だが、さらに漢方薬では便秘の改善だけでなく、上記の+αの作用による体質改善効果も期待できる(例:虚弱体質、食欲不振、免疫・アレルギー性疾患、皮膚疾患、月経異常など)。
  • 年齢層によって使用する漢方薬がある程度大別できる。
西洋薬との位置づけ
  • 効果、副作用の点において西洋薬のみでバランスが取れているのであれば、敢えて漢方薬を導入する必要はない。
  • 通常、標準的加療で効果不十分な場合に漢方薬を選択するため、現実的には、西洋薬と漢方薬を併用する場合が多い
  • 上級編としては、便秘の漢方薬を上記のような慢性疾患、難治性疾患に対する体質改善目的として使用する場合もある。
各論
☆小児の便秘(軽度〜中等度)×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)☆
  • 小建中湯は桂枝加芍薬湯(60)+膠飴である。桂枝加芍薬湯(60)は大人にも使用するが、膠飴が加わることで小児に適した漢方薬へ変化する。桂枝加芍薬湯には桂皮、芍薬、甘草などの生薬が含まれており、腸管を温めて腸蠕動を調節する働きがある。また、膠飴には健胃作用、補気作用、滋養作用などがある。
  • 小建中湯は小児の便秘に第一選択薬となるが、便秘以外にも腹痛、腹満、下痢、過敏性腸症候群などにも使用できる。
  • 小建中湯は腸内環境を整え、体質改善効果も期待できるため、小児の虚弱、少食、易疲労、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹)、慢性頭痛、夜尿症、気管支喘息などのさまざまな病態に使用される1)
  • 小建中湯(ツムラ社)の常用量は115g(6)と多いが、体重換算で分包しやすいメリットもある。教科書的には1日15gタイプだと0.2mg〜0.4mg/kg/日などと記載されているが、児に合わせて飲めそうな量で設定してよい。
  • 効果不十分例では、①小建中湯の増量②特に冷えが強い場合や腹部手術後には大建中湯(100)へ変更あるいは併用③高度便秘の場合には桂枝加芍薬大黄湯(134)へ変更する。
  • 甘草含有であるが、小児では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
☆中高生の便秘(軽度〜中等度)×四逆散(しぎゃくさん)(35)☆
  • 四逆散は柴胡、枳実、芍薬、甘草の4種類の漢方薬で構成されている。
  • 柴胡の自律神経調節作用、枳実の腸蠕動調節作用、芍薬、甘草の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)があるため、便秘だけでなく腹痛、下痢、過敏性腸症候群にも頻用される。
  • 四逆散は便秘薬というより、腸蠕動調節薬のイメージ
  • 四逆散の適応者は、手汗をかきやすい過緊張タイプ(交感神経亢進タイプ)に多いと言われている。成長過程の影響か、中高生は四逆散が適合しやすい傾向にある。
  • 効果不十分例では、①冷えがある場合は大建中湯(100)を併用②高度便秘には桂枝加芍薬大黄湯(134)へ変更する。
  • 甘草含有であるが、中高生では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
☆若年〜中年者の便秘(重度)×通導散(つうどうさん)(105)☆
  • 通導散は大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、枳実(きじつ)、厚朴(こうぼく)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、紅花(こうか)、木通(もくつう)、蘇木(そぼく)、陳皮(ちんぴ)の10種類の生薬で構成されている。
  • 通導散は、大黄、芒硝の瀉下作用、枳実の腸蠕動調節作用、厚朴、甘草の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)、当帰、紅花、蘇木の末梢循環改善作用などがあり、比較的強い下剤末梢循環改善作用が特徴である。
  • よって、主に血流障害(ドロドロ血)の関与が強い過食、肥満傾向、月経異常などを伴う比較的体力のある若年〜中年者難治性便秘に使用される。
  • 末梢循環改善作用があるため、血流障害の関与する慢性疾患、難治性疾患(皮膚疾患、月経異常、頭痛、肩こりなど)に対する体質改善効果も期待できる。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆高齢者の便秘(中〜重度)×麻子仁丸(ましにんがん)(126)☆
  • 麻子仁丸は、麻子仁(ましにん)、大黄(だいおう)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)、芍薬(しゃくやく)の6種類の生薬で構成されている。
  • 大黄の瀉下作用、枳実の腸蠕動調節作用、麻子仁丸、杏仁の潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする)、厚朴、芍薬の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)がある。麻子仁丸は大黄が4g/日と比較的量が多く比較的強い下剤であるが、潤腸作用もあり乾燥傾向となりやすい高齢者の難治性便秘に第一選択薬となる。
  • 手応えが分からないうちは1日12包から開始して、反応を見ながら1日3包まで増量する。
  • 腸蠕動調節作用や潤腸作用の影響か、麻子仁丸を服用された患者が「スッキリ便が出る」と快便に喜ぶことも少なくない
  • 高齢者以外でも兎糞状のコロコロ便を伴う便秘に使用する場合もある。
  • 甘草、芒硝(マグネシウム類似成分)が含まれず、偽アルドステロン症や腎不全の心配をしなくてよいので、高齢者診療において使いやすい。
☆冷え性の便秘(軽度)×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4種類の生薬で構成されている。
  • 大建中湯は「腸管を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和する働き2)があるため、腸管が冷えて腸蠕動異常(便秘、下痢、腹痛、腹満、腸閉塞)をきたしている病態に適する。ちなみに大建中湯は便秘よりも下痢、腹痛、腹満、腸閉塞の治療の方が得意としている漢方薬である。
  • 大建中湯が適合しやすい便秘の人は冷え性であること、そして虚弱体質が多いため西洋薬の下剤(特に大腸刺激性下剤)が合わないことも多い。例えば、「西洋薬の便秘薬が合わない→冷え性の確認→大建中湯を処方→快便」という流れのこともある。
  • 便秘薬としての大建中湯はマイルドであるため、もう少し便を出したい場合には大黄製剤(桂枝加芍薬大黄湯、麻子仁丸など)を併用する。
  • 副作用の特記事項はない。
事例
45歳女性。肥満体型。以前から便秘があり、1週間出ないときもある。酸化マグネシウムは効果がなく、センノシドでは腹痛があるため、現在は何も服薬していない。便は硬く、便秘時は腹部膨満感あり。月経痛が強く、頭痛を伴う。慢性湿疹もあり皮膚科で加療しているが治らない。
処方:通導散11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「便が毎日出るようになり、お腹の張りはなくなりました。下剤による腹痛もありません。」
28日後:「便の調子は良いです。月経痛は軽くなり、頭痛はありませんでした。湿疹も少し減ってきました。」

文献
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 79, 1982.

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冷え性

準備中

しもやけ

《こんな時困りませんか?》
患者「皮膚科で治療しても毎年しもやけができるので困ります」

ポイント
・しもやけの主病態は血流障害であり、末梢循環改善作用の漢方薬を使用する。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)が第一選択薬となる。
・効果不十分例には他剤を併用する。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)、2nd-line:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)+桂枝茯苓丸(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
概論
  • 一般的なしもやけ(凍瘡)だけでなく、膠原病が関与した凍瘡様皮疹などにも使用できる。
  • しもやけの主病態は血流障害であり、治療薬としては末梢循環改善作用を有する漢方薬が中心となる。
  • しもやけに使用する末梢循環改善作用の代表的な漢方薬として、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)、桂枝茯苓丸(25)、当帰芍薬散(23)などがある。
西洋薬との位置づけ
  • しもやけに対する西洋薬はあるが、漢方薬を優先的にあるいは併用で使用できる。
  • 個人的には西洋薬よりも漢方薬の方が有効性に優れている印象
各論
☆しもやけ×当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)☆
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の 9種類の生薬で構成されている。
  • 当帰には末梢循環改善作用があり、血流障害などに対応する1)
  • 当帰、桂皮、細辛、呉茱萸、生姜には温熱作用があり、冷えに対応する1)2)
  • 細辛、芍薬、甘草、呉茱萸には鎮痛作用があり、疼痛に対応する。
  • 木通には利水作用(抗浮腫作用)があり、浮腫に対応する。
  • すなわち当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、主に「血流障害+冷え+疼痛+浮腫」に対応できる漢方薬であり、しもやけに対して第一選択薬となる。
  • しもやけ以外では同様の理由で、末端冷え性1)2)、末梢循環障害(レイノー症候群3)、閉塞性動脈硬化症4))、冷えタイプの疼痛(月経痛、頭痛、腰痛、腹痛)などにも頻用される。
  • 服薬期間に関しては、しもやけを発症した時のみでも効果は見込めるが、難治性の場合はシーズン前からの開始、あるいは体質改善目的に一年中服用することもある。
  • しもやけの症状はいくつかあるが、冷えや紅斑よりも疼痛の方が改善しやすい印象。例えば、「赤くはなるがこれ以上悪くならない」という患者も少なくない。
  • 効果不十分例では、①血流障害が強い場合には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)②血流障害+浮腫がある場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)or当帰芍薬散加附子(三和SG143)③体全体の冷えが強い場合は真武湯(しんぶとう)(30)④高齢者や下肢の冷えが強い場合は牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)を併用する。
  • しもやけは基本的に冷え性タイプにみられるが、まれに暑がりでも認めることがある。その場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯ではなく、桂枝茯苓丸(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)を用いる。
  • 味が苦いのが難点。
  • 副作用としては甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆しもやけ×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 基本的に桂枝茯苓丸は用量依存性があるため、量が多い方が効果は高い。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)は各生薬が3gに対して、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸には各生薬が4gと量が多い
  • 桃仁、牡丹皮は末梢循環改善作用が強く、血流障害に対応する。ただ、体を冷ます方向性の生薬のため、桂枝茯苓丸は基本的に暑がりの人に適合しやすい。
  • すなわち、桂枝茯苓丸単剤では「暑がりだが血流障害が強く、しもやけを認めている人」に使用する漢方薬である。
  • しかし、冷え性のしもやけに当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使用する際、さらに末梢循環改善作用を強めるために桂枝茯苓丸を加えることはある。
  • 副作用は特記事項なし。
事例
58歳女性。皮膚科で内服薬と軟膏を処方されているが、毎年、手足にしもやけができる。今年の冬も手足の先に紅斑、浮腫、疼痛を認めている。
処方①:当帰四逆加呉茱萸生姜湯1回1包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「痛みや浮腫は良くなりましたが、まだ赤いです。」
処方②:当帰四逆加呉茱萸生姜湯1回1包+桂枝茯苓丸加薏苡仁1回1包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「まだ少し手足が冷たいですが、だいぶ良くなりました。」

文献
1)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
2)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
3)金内日出男:レイノー病と慢性動脈閉塞症,膠原病におけるレイノー現象の臨床症状とサーモグラフィーを用いた皮膚温との比較-当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効評価. 公立豊岡病院紀要, 11:69-76, 1999.
4)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.

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月経関連症状

《こんな時困りませんか?》
患者「月経痛、不眠、月経前のイライラ、頭痛、むくみ、ニキビに困っています。」

ポイント
・月経や女性ホルモン関連の主病態は、漢方では瘀血(ドロドロ血)といわれている。
・病態が瘀血で共通ならば、1剤で複数の症状が改善する可能性がある。
・瘀血の治療薬にはさまざまな特徴があり、瘀血+αの病態に応じて使い分ける。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:加味逍遥散(24)、2nd-line:当帰芍薬散(23)
概論
  • 月経関連症状とは、月経痛、月経不順、月経時の頭痛や痤瘡、月経前症候群、月経前不快気分障害、更年期障害など、月経や女性ホルモンに関連する症状を示す。
  • 月経や女性ホルモン関連の主病態は、漢方では瘀血(おけつ)(ドロドロ血、血液循環障害)といわれている。そのため、症状や疾患は異なっても病態は一つ(瘀血)であることが多く、1つの漢方薬で複数の症状が改善する可能性がある
  • 瘀血の治療薬は駆瘀血剤(くおけつざい)(サラサラにする、血液循環改善薬)と呼ばれている。駆瘀血剤にはさまざまな特徴があり、瘀血+αの病態に応じて使い分ける
西洋薬との位置づけ
  • 基本的には西洋薬での治療が難しい場合に漢方薬の位置づけがあるが、病態、治療薬の利点や難点、患者の希望などを総合的に判断し、いずれから開始してもよいと思われる。
  • 婦人科領域は他の分野と比較しても、漢方のニーズが高く、有効性も高いと感じる。よって、少なくとも漢方薬という治療の選択肢をもっている方がよいと思われる。
各論
☆月経関連症状+精神・自律神経症状×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散には当帰、牡丹皮の駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用1)、柴胡、山梔子、薄荷の精神安定作用、自律神経安定作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、芍薬、甘草の鎮痙鎮痛作用、朮、茯苓、甘草の補気作用(気力を補う)などがある。
  • 駆瘀血剤の中でも加味逍遥散の特徴は精神安定作用、自律神経安定作用であり、月経関連症状に精神症状、自律神経症状を伴う場合には第一選択となる(例:月経前のイライラ、女性ホルモンが減る時期での不安、不眠、動悸、めまい、のぼせ)。加味逍遥散は漢方のマイナートランキライザー2)と称されるように、基本的には緊張を緩める方向性の薬剤であり、女性の肩こりや緊張型頭痛にも第一選択である。
  • また、駆瘀血作用や鎮痙鎮痛作用があるため月経不順や月経痛などにも対応できる。
  • 漢方では患者の体質(暑がり、寒がり、華奢、がっしりタイプなど)を考慮する必要があるが、加味逍遥散はどのタイプでも幅広く使用できる漢方薬であり、女性の精神症状や自律神経症状であれば月経と関連していなくても頻用される(例:女性の不眠、動悸)。
  • 加味逍遥散の対象者は更年期世代のイメージがあるが、個人的には上記症状があれば20代〜70代まで幅広く使用しており、駆瘀血剤の中で(全漢方薬の中でも)最も使用頻度が高い。主訴が月経痛や月経不順などでも、問診すると不眠やイライラなどの精神・自律神経症状を伴っていることも多く、これらをカバーする加味逍遥散が頻用される。
  • 加味逍遥散は抑うつよりもイライラの方が得意としており、抑うつ>イライラの場合加味帰脾湯(137)の方がよい(例:月経前の落ち込み)。
  • 不眠や不安が強い場合、①喉から胸部の閉塞症状(例:喉がつまる感じ、息苦しい)を伴えば半夏厚朴湯(16)②それ以外には桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
  • のぼせやホットフラッシュが強い場合、①桂枝茯苓丸(25)白虎加人参湯(34)黄連解毒湯(15)の併用、または女神散(67)へ変更する。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
☆月経関連症状+水毒・疼痛×当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)☆
  • 当帰芍薬散は当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)の6つの生薬で構成されている。
  • 当帰芍薬散には当帰、川芎の駆瘀血作用、茯苓、朮、沢瀉の利水作用(水分代謝調節作用)、当帰、芍薬、川芎の補血作用(血液、体力、潤いなどを補う)、当帰、芍薬の温熱作用、芍薬、川芎の鎮痙鎮痛作用などがある。
  • よって、冷え性で月経関連症状に水分代謝異常(水毒)、貧血傾向、疼痛などを伴う場合に第一選択となる(例:月経前のむくみ、月経痛、月経周期の頭痛)。また、昔から「当芍(とうしゃく)美人」とも称され、色白の美人女性には当帰芍薬散が適合しやすいと言われている(もちろん参考程度に)。
  • 駆瘀血剤の中でも当帰芍薬散の特徴は利水作用と鎮痛作用であり、水毒症状、月経痛3)、月経周期の頭痛などを伴う場合に頻用される。
  • 水毒症状としては浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどがあり、これらは月経と関連していなくても使用できる。効果不十分例には利水作用の五苓散(17)を併用する。
  • 冷えや疼痛が強い場合には附子(ぶし)という温熱作用、鎮痛作用の生薬や当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)を加える。附子は加工ブシ末(三和S-01)、アコニンサン錠(三和ST-01)などがあり、当帰芍薬散+附子の当帰芍薬散加附子(三和SG143)もある。
  • もっと潤したい場合には温経湯(うんけいとう)(106)を使用する。温経湯は駆瘀血作用、補血作用、滋潤作用(潤す)、温熱作用、鎮痙鎮痛作用があるため、冷え性で月経関連症状に皮膚乾燥、手湿疹、貧血傾向、疼痛などを伴う場合に使用する。両方剤の違いは、当帰芍薬散は利水作用、温経湯は滋潤作用に優れる。
  • 注意点としては、当帰、川芎による胃もたれが稀にある。
☆月経関連症状+暑がり×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 桂枝茯苓丸には桃仁、牡丹皮の駆瘀血作用、芍薬の鎮痙鎮痛作用、牡丹皮の体を冷ます作用、牡丹皮、桂皮ののぼせを抑える作用、茯苓の利水作用がある。
  • よって、暑がりで月経関連症状、疼痛、のぼせなどを伴う場合に頻用される(例:月経不順、月経痛、月経周期の頭痛、ホットフラッシュ)。
  • 基本的には暑がりタイプに使用する漢方薬だが、月経関連症状が取り切れない場合や子宮筋腫(瘀血の塊)がある場合などで、駆瘀血作用をさらに強化するために冷え性タイプにも併用することがある(例:当帰芍薬散+桂枝茯苓丸)。
  • エキス製剤には桂枝茯苓丸(25)と桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)がある。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)よりも、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸の方が桂枝茯苓丸自体の量が多いため、より高い効果が期待できる。
  • 比較的強い便秘がある場合には通導散(105)を使用する。通導散は桂枝茯苓丸よりも駆瘀血作用が強い下剤としての効果も強いため、若年者の難治性便秘にも使用される。
  • 注意点としては特記すべき事項なし。
☆月経関連症状+冷え・疼痛×当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)☆
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の9種類の生薬で構成されている。
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯には、当帰の駆瘀血作用、末梢循環改善作用、当帰、桂皮、細辛、呉茱萸、生姜の温熱作用、細辛、芍薬、甘草、呉茱萸の鎮痛作用、木通の利水作用がある。
  • 駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯の特徴は、末梢循環改善作用、温熱作用4)5)、鎮痛作用であるため、冷え性(特に末端)で疼痛がある場合に頻用される(例:月経痛、頭痛、腰痛、しもやけ)。
  • 当帰芍薬散と類似するが、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は利水作用が弱い一方で、当帰芍薬散よりも温熱作用、鎮痛作用が強い
  • 冷えや疼痛が強い場合には①当帰芍薬散(23)or当帰芍薬散加附子(三和SG143)加工ブシ末(三和S-01)orアコニンサン錠(三和ST-01)を併用する。
  • 瘀血症状が強い場合には①当帰芍薬散(23)桂枝茯苓丸(25)を併用する。
  • 注意点は、暑がりには不適応、味が苦い、甘草による偽アルドステロン症、胃もたれなどがある。
事例
24歳女性。以前から、月経痛、不眠、月経前症候群(イライラ、頭痛、むくみ、痤瘡)に困っているとのことで来院。冷え性で特に手足の末端が冷える。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 28日分
1ヶ月後:「だいぶ良くなりました。まだ、むくみは変わらず、月経痛と頭痛が半分程度残っています。」
処方②:加味逍遥散1回1包+当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 28日分
2ヶ月後:「ほとんど良くなりました。」

文献
1)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
3)Kotani N, et al.:Analgesic effect of a herbal medicine for treatment of primary dysmenorrhea - a double-blind study. The American Journal of Cinese Medicine, 25:205-12, 1997.
4)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
5)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.

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イライラ

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、イライラしやすくなり、夫とよく喧嘩するようになりました。」

ポイント
・基礎疾患を問わず、イライラに対して漢方薬を使用できる。
・年齢や性別によって適合しやすい漢方薬が異なる。
・副作用の観点から向精神薬の前に漢方薬を試す価値はあると思う。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:抑肝散(54)、2nd-line:加味逍遥散(24)(女性)
概論
  • 基礎疾患を問わず、イライラに対して漢方薬を使用できる。
  • イライラに対応する漢方薬は主に鎮静作用、交感神経抑制作用があるため、不眠、不安、動悸などにも良い場合がある。年齢や性別によって適合しやすい漢方薬が異なる。
  • 今回提示する薬剤の中では抑肝散(54)、黄連解毒湯(15)などは比較的速効性もあるため、頓用でも使用できる。
西洋薬との位置づけ
  • 速効性、有効性の観点からは向精神薬の方が優れる可能性があるが、副作用とのバランスを考慮して、漢方薬も検討するべきである。
  • 個人的には、向精神薬の前に漢方薬を試す価値はあると思う。
各論
☆イライラ×抑肝散(よくかんさん)(54)☆
  • 抑肝散は柴胡(さいこ)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の7種類の生薬で構成されている。
  • 抑肝散には柴胡、釣藤鈎の鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎の補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • すなわち、抑肝散は主にイライラや興奮などの陽性症状に対応する一方で、気力や体力を補う配合となっている。疲れているとイライラしやすくなり、イライラするとさらにエネルギーを消耗するためにこのような構成になっていると想像する。
  • もともと抑肝散は「疳の虫を抑える」というように小児のイライラや夜泣きのために作られた漢方薬だが、老若男女に使用できる
  • 抑肝散加陳皮半夏(83)という漢方薬もある。抑肝散に陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)の生薬が加わったもので、抑肝散+六君子湯(43)に近く、食欲不振などを伴う場合に使用する。
  • 小児のイライラには抑肝散が第一選択である。しかし、発達障害などの特性があると効果不十分な場合があり、大柴胡湯(8)への変更や併用を検討する。大柴胡湯は下剤効果もあるため、排便状況に応じて調節が必要である。また、(典型的にはシクシクよりワーっと発作的に)泣くことが多い場合甘麦大棗湯(72)を併用する。いずれも自律神経安定作用があるが、「怒」の抑肝散、「悲」の甘麦大棗湯で鑑別する。両者が混在していることも多く、また甘麦大棗湯は甘くて飲みやすいため、児には意図的に甘麦大棗湯から開始することもある。
  • 抑肝散の原典「保嬰撮要(1556年)」には「子母同じく服す」とあり、昔から抑肝散は母子同服(親も一緒に服用する)が良いとされている。やはり児のイライラは親のイライラを伴う場合も多く、一緒に整えた方がよいのであろう。
  • また、高齢者のイライラにも抑肝散が第一選択である。最近では認知症の周辺症状(陽性症状)1)に頻用されている。その他の鑑別処方として、赤ら顔で暑がりの場合には黄連解毒湯(15)脳動脈硬化、高血圧、起床時の頭痛、めまい、食欲不振(六君子湯が含有)などがある場合には釣藤散(47)などがある。これらの鑑別が難しい場合は、順番に試してもよいかと思われる。
  • 注意点は甘草による偽アルドステロン症。
☆女性のイライラ×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散には柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン安定作用、血液循環改善作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • すなわち、加味逍遥散は主に女性に適した漢方薬で、イライラ、不安、抑うつ、不眠、のぼせなどの精神症状、自律神経症状に対応する。また抑肝散と同様に気力や体力を補う配合にもなっている。
  • 抑肝散と異なる点は、①女性ホルモン安定作用があるため20代〜70代の女性が主な対象者②不安、抑うつなど陰性症状にもよい(ただし陽性症状が主体)③のぼせを抑える作用がある。
  • 加味逍遥散で効果不十分なイライラには抑肝散を併用あるいは変更する(併用の際は重なる生薬があるため1日2回ずつが望ましい)。
  • イライラと抑うつが混在している場合もあるが、イライラ>抑うつには加味逍遥散(24)抑うつ>イライラには加味帰脾湯(137)でよい。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
☆男性のイライラ×黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)☆
  • 黄連解毒湯は黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の4種類の生薬で構成されている。
  • 黄連、黄芩、黄柏、山梔子には鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、清熱作用、のぼせ(赤ら顔)を抑える作用などがある。上記漢方薬のように補気作用の生薬は配合されていないため、比較的体力のあるタイプに使用される。
  • よって、黄連解毒湯は赤ら顔で比較的体力のある暑がりな人のイライラに第一選択となる。男性に比較的多い印象。イライラ以外にも、不安、不眠、のぼせにも対応できる(主に陽性症状)。
  • 注意点は、黄芩による肝障害、間質性肺炎などがある。味は苦いが、製薬会社によってはカプセルや錠剤もある。
事例
41歳女性。以前から月経前などでイライラしやすかったが、数ヶ月前から月経に関係なくイライラが続いている。最近では不眠やめまいも認めるようになった。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「不眠やめまいは良くなりました。イライラはまだ半分ぐらいあります」
処方②:加味逍遥散1回1包+抑肝散1回1包 1日2回 朝夕食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。イライラはあまりしなくなりました」

文献
1) Matsuda, Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.

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のぼせ

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、すぐに顔がのぼせて困ります。婦人科では治療法がないと言われました。」

ポイント
・のぼせは漢方医学的に気逆きぎゃくと呼ばれる病態で治療は降気薬が主体となる。
・女性には加味逍遥散(24)が第一選択。男性には黄連解毒湯(15)が第一選択。
・のぼせの漢方治療でその他の気逆症状(動悸など)も改善する可能性がある。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:女性→加味逍遥散(24) 男性→黄連解毒湯(15)
  • 2nd-line:女性→加味逍遥散(24)+白虎加人参湯(34) 男性→黄連解毒湯(15)+白虎加人参湯(34)
概論
  • のぼせは漢方医学的に気逆きぎゃく(気の上衝)と呼ばれる病態で、ホットフラッシュに代表されるが、男性でものぼせを自覚することがある。のぼせの漢方薬の選択において特に基礎疾患を問わない
  • のぼせの漢方治療は降気薬が主体で、清熱薬を併用する場合もある。

    ①降気薬
    降気薬は気を降ろす働きがあり、気逆の治療薬である。降気作用の生薬には黄連、桂皮、桂皮+甘草(この組み合わせは 桂皮のみより強力)、牡丹皮、山梔子などがあり、これらが含有された降気薬は多くあるが、本稿では加味逍遥散(24)、黄連解毒湯(15)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)、黄連湯(120)を紹介する。主な働きとして交感神経抑制作用、末梢循環改善作用、女性ホルモン調節作用などを有する。ホットフラッシュや月経周期によるのぼせなどの女性ホルモン関連症状であれば、女性ホルモン調節作用の加味逍遥散(25)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)を中心に組み立てる。

  • 気逆の病態は気が上向きのベクトルであり、のぼせ以外にも、動悸、イライラ、頭痛、めまい、不安、不眠などの血管運動神経症状、自律神経症状、精神症状も含まれる。病態が共通しているため、同じ漢方薬で改善する可能性がある。

    ②清熱薬
    清熱薬はのぼせ、ほてりなどの熱を冷ます働きがある。清熱作用の生薬には石膏、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、薄荷、牡丹皮などがあり、これらが含有された清熱薬は多くあるが、本稿では白虎加人参湯(34)、黄連解毒湯(15)、加味逍遥散(24)、女神散(67)を紹介する。

  • ①と②で重なる漢方薬があるように、両者を持ち合わせる漢方薬も比較的多い。降気薬の単剤で効果不十分な場合には降気薬+降気薬、降気薬+清熱薬のように併用する。
西洋薬との位置づけ
  • のぼせの西洋治療は更年期障害に対するホルモン補充療法以外には少なく、西洋薬よりも漢方薬の方が治療選択肢は多い
  • 西洋薬との併用も可能。
各論
☆女性ののぼせ①×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の 10種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える(降気)作用、牡丹皮、山梔子、薄荷の清熱作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン調節作用、血液循環改善作用、柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • よって、加味逍遥散は降気作用+清熱作用+女性ホルモン調節作用(+自律神経安定作用)を有するため、年齢を問わず女性ののぼせに対して第一選択となる。
  • また、女性ホルモンが減少する時期(更年期の時期よりも幅広い)、月経周期に伴うのぼせ、さらには自律神経症状や精神症状を伴う場合には、特に優先して使用される1)2)
  • 男性ののぼせにも加味逍遥散を稀に使用することがある。個人的には女性的に愁訴が多い場合に使用している。
  • 効果不十分な場合、女性ホルモン調節作用や血液循環改善作用の強化には桂枝茯苓丸(25)、清熱作用の強化には白虎加人参湯(34)or黄連解毒湯(15)などを併用する。また加味逍遥散よりも降気作用、清熱作用に優れている女神散(67)への変更あるいは併用もよい。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
☆女性ののぼせ②×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は、桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、牡丹皮、桂皮ののぼせを抑える(降気)作用、牡丹皮の清熱作用、桃仁、牡丹皮の女性ホルモン調節作用、血液循環改善作用、芍薬の鎮痙鎮痛作用、茯苓の利水作用がある。
  • よって、桂枝茯苓丸は降気作用+清熱作用+女性ホルモン調節作用(+鎮痙鎮痛作用)を有するため、年齢を問わず女性ののぼせに対して使用される。
  • “女性ののぼせ”の治療薬としては、基本的に加味逍遥散と同系統であり、適応も似ている2)
  • 加味逍遥散との鑑別は、冷え性や自律神経症状・精神症状の有無で判断する。加味逍遥散は暑がり〜寒がりまで幅広く使用でき、自律神経症状・精神症状にも効果を示すが、桂枝茯苓丸は冷え性に適さないことが多く(暑がりタイプ用)、自律神経症状・精神症状にも対応しない。桂枝茯苓丸には芍薬が含まれるため、加味逍遥散よりも鎮痛作用が期待できるため、月経痛などが強い場合は桂枝茯苓丸を優先して使用する場合もある。
  • しかし個人的には、例え暑がりで自律神経症状・精神症状がなくても、“女性ののぼせ”には加味逍遥散を第一選択として使用することが多い。
  • エキス製剤には桂枝茯苓丸(25)と桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)がある。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)よりも、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸の方が桂枝茯苓丸自体の量が多いため、より高い効果が期待できる。
  • 注意点としては特記すべき事項なし。
☆男性ののぼせ×黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)☆
  • 黄連解毒湯は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の4種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、黄連、山梔子ののぼせを抑える(降気)作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、黄連、黄芩、黄柏、山梔子の清熱作用がある。
  • よって、黄連解毒湯は降気作用+清熱作用(+自律神経安定作用)を有するため、のぼせに幅広く使用される3)4)
  • 黄連解毒湯の適応者の典型例として、暑がり、赤ら顔、イライラしやすいなどの特徴がある。分布としては中年男性に多い印象だが、適応者であれば年齢や性別を問わずのぼせに対して使用できる。
  • ちなみに飲酒による顔面紅潮(赤みは変わなくてものぼせ感は減る印象)にも効果があり、飲酒前に愛用する人も多い。
  • 冷え性(特に胃腸の冷え)や胃腸症状(胃もたれ、下痢など)がある場合には黄連湯(120)を選択する。
  • 効果不十分な場合は、黄連解毒湯+四物湯(71)である温清飲(57)への変更、あるいは清熱作用の強化に白虎加人参湯(34)を併用する。
  • 注意点は、味が苦い(製薬会社によってはカプセル製剤もある)、黄芩による肝障害・間質性肺炎、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)。
☆のぼせ×白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)(34)☆
  • 白虎加人参湯は、石膏(せっこう)、粳米(こうべい)、知母(ちも)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)の4種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、石膏、知母の清熱作用、粳米、知母、人参、甘草の滋潤作用(潤す)がある。
  • よって、白虎加人参湯は清熱作用(+滋潤作用)が主体であるため、のぼせに対しては降気薬に併用(追加)することが多い。
  • 白虎加人参湯の適応者の典型例として、暑がり、汗かき、口渇(冷水を好む、多飲、多尿)などの特徴があるが、これらが揃わなくても単純に冷却のために使用することもある。
  • 更年期障害などで“上半身は暑く発汗も多い”一方で、“手足は冷える”という病態も少なくない。治療困難な場合もあるが、個人的には加味逍遥散をベースに、上半身の冷却を主要目標とするなら白虎加人参湯、手足の冷え(末梢循環障害)も考慮するなら桂枝茯苓丸(加薏苡仁)を併用する。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症。
事例
43歳女性。1年前からのぼせがあり、少し温かいところに行くと顔のほてりや発汗を認めるようになった。婦人科を受診したがホルモン補充療法の適応なく経過観察となっている。また最近、動悸、不眠、頭痛なども毎日自覚するようになり、特に月経前に増悪する。冷え性はない。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「顔ののぼせは半分程度になりました。動悸や頭痛はほとんどなくなりました。夜も比較的眠れるようになりました。」
処方②:加味逍遥散1回1包+白虎加人参湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「のぼせはほとんど良くなりました。月経前の動悸や頭痛などもありませんでした。」

文献
1)Hidaka T, et al.:Kami-shoyo-san, Kampo(Japanese traditional medicine), is effective for climacteric syndrome, especially in
hormone-replacement-therapy-resistant patients who strongly complain of psychological symptoms. J Obstet Gynaecol Res, 39(1):223-228, 2013.
2)Yasui T, et al.: Effects of Japanese traditional medicines on circulating cytokine levels in women with hot flashes. Menopause, 18(1): 85-92, 2011.
3)Arakawa K, et al.:Improvement of accessory symptoms of hypertension by TSUMURA Orengedokuto Extract, a four herbal drugs containing Kampo-Medicine Granules for ethical use:a double-blind, placebo-controlled study. Phytomedicine, 13:1-10, 2006.
4)伊藤栄一, 他:脳梗塞に対するツムラ黄連解毒湯の臨床効果. Geriatric Medicine, 29:303-313, 1991.

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頭痛

ポイント
・頭痛の漢方薬は疾患名よりも誘発因子によって処方選択することが多い。
・医療者が頭痛の誘発因子をうまく聞き出すことが大事。
・慢性頭痛には複数の漢方薬が必要となることが多い。

 
とりあえず処方したい場合
  • 低気圧時に増悪する→五苓散(17)(頻度)
  • 女性の緊張型頭痛→加味逍遥散(24)(頻度)
  • 月経周期で増悪する→当帰芍薬散(23)(頻度)
  • 嘔吐を伴う頭痛→呉茱萸湯(31)(頻度)
  • 起床時の頭痛→釣藤散(47)(頻度)
  • その他→川芎茶調散(124)(頻度)
概論
  • 主に急性期よりも、慢性期、再発性の頭痛に漢方薬が使用されることが多い。もちろん器質的疾患の精査は必要。
  • 疾患名よりも漢方病態で漢方薬を選択する。
  • 漢方病態は“どのような状況で悪化するか”という誘発因子で把握できることが多い。
  • 例えば、“片頭痛だからこの漢方薬”と決まっているわけではなく、同じ片頭痛でも“○○で悪化する”という誘発因子で漢方薬の選択が変わる。一般に片頭痛の誘発因子として、ストレス、精神的緊張、疲れ、睡眠、月経周期、天候の変化、温度差、頻回の旅行、アルコールなどがあるが1)、各々で漢方薬の対応が可能である。
  • 医療者が頭痛の誘発因子をうまく聞き出すことが重要
  • 頭痛の漢方薬において、①水毒と②瘀血の漢方病態を知っておくと理解しやすい。
    水毒(すいどく):水分代謝異常を指し、脳浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。水毒の治療薬には利水作用があり、利水剤(りすいざい)と呼ばれる。
    瘀血(おけつ):血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経周期に増悪する頭痛、月経痛、月経不順などの月経随伴症状、末梢循環障害などが含まれる。瘀血の治療薬には駆瘀血作用があり、駆瘀血剤(くおけつざい)と呼ばれる。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも使用できる漢方薬はあるが、特に慢性期・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う。
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 慢性頭痛の場合、漢方薬で予防や体質改善を行い、発作時は西洋薬(鎮痛薬)を使用することが多い。よって、漢方薬を服用しながら鎮痛薬が減っていくイメージ。
  • 漢方薬の対象疾患として、基本的に一次性頭痛には幅広く対応できる。二次性頭痛に対しても、例えば、脳浮腫を改善する漢方薬(例:五苓散)などを用いる場合もある。
各論
☆低気圧時の頭痛×五苓散(ごれいさん)(17)☆
  • 「低気圧時の頭痛」は、例えば“雨降り前・曇天・台風”などの時に出現あるいは増悪するタイプの頭痛を指す。緊張型頭痛、片頭痛などの慢性頭痛に混在していることも少なくない
  • 灰本らは、慢性頭痛の疫学研究で移動性低血圧と関連がある頭痛に五苓散が有効であったことを報告している2)
  • 「低気圧時の頭痛」は上記の水毒という漢方病態にあたり、治療薬は利水剤である。五苓散は代表的な利水剤の1
  • 五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがある3)。脳にはAQP4が多く存在しているため、五苓散は脳浮腫を取ることを得意としており、脳外科領域では脳浮腫や硬膜下血腫などに頻用されている4)
  • 「低気圧時の頭痛」は微小な脳浮腫が関係しているとも言われている。
  • 頓用使用の場合、発作時よりも発作前の投与の方が効果的。また量依存性のため、効果が不十分な場合は量を増やすことがコツ。1回1〜2包ずつ服用し、30〜60分で効果が不十分な場合は更に追加してもよい。
  • 頭痛の程度や頻度が多い場合は定期使用の方がよい。その場合でも、低気圧時は1日3〜6包と多めに服用し、それ以外は1日2〜3包と強弱をつけた方がよい場合もある
  • 五苓散を服用後でも「低気圧時の頭痛」が残存している場合、個人的には女性であれば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)、男性であれば苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)を合わせることが多い。「低気圧時」ではない頭痛が残っている場合は利水剤以外の漢方薬(例:加味逍遥散など)を合わせる。
  • 副作用に特記事項なく、五苓散を多く服用しても脱水や電解質異常をきたすことはない。
☆女性の緊張型頭痛×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散には自律神経安定作用、精神安定作用、鎮静作用やのぼせを抑える作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー5)とも称され、女性の肩こりや緊張型頭痛に頻用される。また、駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用6)などもあり、月経周期の頭痛や更年期障害にも使用される。
  • 加味逍遥散は上記の作用により、緊張性頭痛や月経周期の頭痛だけでなくさまざまな症状を改善させる可能性がある。自律神経症状として“イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュ”、精神症状として“抑うつ、不眠”、瘀血・女性ホルモン関連症状として“月経痛、月経不順、月経周期の精神不安定・ざ瘡、更年期障害”などがある。
  • すなわち、加味逍遥散は頭痛だけを治す薬剤ではなく、心身のバランスを整えながら頭痛も治すイメージ。
  • 男性の緊張型頭痛に関しても自律神経安定作用の漢方薬を用いることが多い。暑がりタイプには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)、寒がりタイプには柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(11)などがある。
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)に注意が必要。眠気や下痢が起きる場合もある。
☆月経周期の頭痛×当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)☆
  • 「月経周期の頭痛」とは月経時や排卵時など月経周期に出現あるいは増悪するタイプの頭痛を指す。
  • 「月経周期の頭痛」は瘀血が関係しているため、駆瘀血剤が治療薬となる。
  • 当帰芍薬散は代表的な駆瘀血剤の1
  • 当帰芍薬散は駆瘀血作用利水作用があり、少し体を温める方向性の薬剤である。すなわち、冷え性月経周期や低気圧時の頭痛に使用できる。
  • 「月経周期の頭痛」にはその他の駆瘀血剤も鑑別にあがる。緊張性頭痛、イライラ、不眠などがある場合は加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)、手足末端の冷え、しもやけなどが強い場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38) を併用あるいは変更する。暑がりの場合は桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)あるいは桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)を選択する。
  • 副作用としては、当帰、川芎による胃もたれが稀にある。
☆嘔吐を伴う頭痛×呉茱萸湯(ごしゅゆとう)(31)☆
  • 呉茱萸湯は胃を温めて頭痛を治す薬剤である。
  • よって、嘔吐を伴う頭痛、胃弱、冷え性などを参考に選択する。
  • 呉茱萸湯は片頭痛の代表とされているが、個人的には片頭痛にも上記の漢方薬で改善することが多いため、呉茱萸湯の使用頻度は少ない。
  • 速効性があるため頓用使用も可
  • 難点は苦いこと。
☆起床時の頭痛×釣藤散(ちょうとうさん)(47)☆
  • 釣藤散には鎮静・鎮痙作用、自律神経安定作用、健胃作用(六君子湯のほとんどを含有)などがある。
  • 一般に脳動脈硬化を伴う高齢者頭痛、めまい、耳鳴り、イライラ、抑うつ、不眠、食欲不振などに使用される。
  • 理由は不明だが、起床時あるいは早朝時の頭痛によく効く7)
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆その他の頭痛×川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)(124)☆
  • 川芎茶調散は単純な頭痛薬であり、体質改善効果はない
  • 一般には、風邪に伴う頭痛薬として位置付けられている。
  • 個人的には使用頻度は少ないが、上記の漢方薬で改善に乏しい場合、薬物乱用頭痛に対して鎮痛薬の代わりに頓用で使用する場合がある。
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
事例
36歳女性。以前より月経前や曇天時に頭痛を認めていた。半年前から頭痛が増悪し、数ヶ月前から毎日頭痛を認めている。毎日の頭痛の中で、月経前や曇天時にはさらに頭痛が増悪する。肩こり、不眠あり。冷え性ではない。
処方①:加味逍遥散11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「頭痛は半分以下に減った。肩こりも少し良い。眠れるようになった。天気の悪い日に頭が痛い」
処方②:加味逍遥散1回1包+五苓散11 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「この2週間で頭痛は1回だけで、さらに軽かった」

文献
1)日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン. 医学書院, 65, 2006.
2)灰本元, 他:慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察. フィト, 1(3):8-15, 1999.
3)田代眞一:Prog. Med, 14(6):1774-1791, 1994.
4)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6:150-163, 2000
5)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
6)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
7)木村容子,他:釣藤散が有効な頭痛-多変量解析による検討-. 日東医誌, 59(5): 707-713, 2008.

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めまい

《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前からめまいを繰り返しており、検査でも異常なく困っています」

ポイント
・めまいの漢方薬は疾患名よりも症状によって処方選択することが多い。
・めまいの漢方病態は主に“水毒”と“気鬱”の2つ。
・難治性のめまいには複数の漢方薬が必要となることが多い。

 
とりあえず処方したい場合
①急性期
1st-line:苓桂朮甘湯(39)(頻度)
2nd-line:五苓散(17)(頻度±苓桂朮甘湯(39)
②慢性期
  • 頭や体の向きで増悪する→苓桂朮甘湯(39)(頻度)
  • フワフワ、クラっとする→真武湯(30)(頻度)
  • 心因性、自律神経異常(女性)→加味逍遥散(24)(頻度)
  • 心因性、自律神経異常(男性)→柴胡加竜骨牡蛎湯(12)(頻度)
  • その他→半夏白朮天麻湯(37)(頻度)
概論
  • 急性期のめまいにも漢方薬は使用できるが、慢性期、再発性の方が漢方薬の得意分野である。もちろん器質的疾患の精査は必要。
  • 回転性、非回転性、基礎疾患などよりも症状を中心とした漢方病態で漢方薬を選択することが多い。
  • めまいの原因は主に①水毒と②気鬱の2つ。この2つの漢方病態を知っておくと理解しやすい。
    水毒(すいどく):水分代謝異常を指し、脳浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。例えば、メニエール病の原因が内リンパ水腫(・・)と言われているように、めまいの原因で最も多いのは水毒である。水毒の治療薬は利水剤(りすいざい)と呼ばれ、利水作用をもつ。今回、説明する漢方薬の中では、苓桂朮甘湯(39)、真武湯(30)、五苓散(17)、半夏白朮天麻湯(37)が利水剤である。
    気鬱(きうつ):気の巡りが悪い状態を指し、抑うつ、ストレス性、自律神経異常などが含まれる。気鬱の治療薬には柴胡剤(さいこざい)順気剤(じゅんきざい)などがあり、抗ストレス作用、抗うつ作用、自律神経調節作用をもつ。今回、説明する漢方薬の中では、加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、釣藤散(47)が気鬱の治療薬である。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも使用できる漢方薬はあるが、特に慢性期・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う。
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 慢性期、再発性のめまいに対する漢方薬は症状の改善だけでなく、予防や体質改善も兼ねるのが利点。
各論
☆頭位性・起立性めまい×苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)☆
  • 頭位性めまいとは、頭の向きで悪化するタイプのめまいを示す。良性発作性頭位めまい症なども含むが、類似症状(例:横を向くとめまい感がある)にも使用できる。
  • 起立性めまいとは、起立時に悪化するタイプのめまいを示す。起立性低血圧や起立性調節障害なども含むが、類似症状(例:血圧低下のない立ちくらみ程度)にも使用できる。苓桂朮甘湯の起立性低血圧に対する機序としては、血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されている1)
  • 苓桂朮甘湯は利水作用を持つ茯苓、朮が含まれているため、水毒の関与しためまいに効果を示す。その中でも頭位性・起立性めまいに有効性が高い
  • 効果不十分な場合は利水作用を強めるために、五苓散(ごれいさん)(17)を併用する。あるいは下記の気鬱の漢方薬を併用する。
  • 急性期の場合は12包や1日3回以上など多く服用する方が効果的。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆浮動性・動揺性めまい×真武湯(しんぶとう)(30)☆
  • 浮動性めまいとは、フワフワする雲の上を歩く感じと表現されるようなめまいを示す。
  • 動揺性めまいとは、クラっとするフラっとするようなめまいを示す。
  • これらのめまいについては、昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」として提示している2)。その中には浮動性・動揺性めまい以外に、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる。眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある。」などが記載されており参考になる。
  • このタイプのめまいは比較的高齢者に分布が多いため、フレイルや加齢の影響と判断されることもあるが、真武湯が効く可逆性のめまいであることも少なくない。
  • 真武湯は利水作用を持つ茯苓、朮が含まれているため、水毒の関与しためまいに効果を示す。その中でも浮動性・動揺性めまいに有効性が高い
  • 真武湯には、生姜、附子という温熱作用の生薬が含まれている。よって、冷え性の人に適合しやすい。冷え性でない場合は、五苓散(ごれいさん)(17)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)などの利水剤を選択する。
  • 効果不十分な場合は下記の気鬱の漢方薬を併用する。
  • 副作用としては、附子が含まれているので教科書的には附子中毒に注意が必要だが、エキス製剤であればリスクは少ないと思われる。
☆気鬱のめまい×柴胡剤(さいこざい)☆
  • 慢性、難治性のめまい気鬱が関与していることがある。
  • 利水剤で効果不十分な場合は気鬱の関与を検討する。
  • 気鬱とは抑うつ、ストレス性、自律神経異常などが含まれる。
  • 気鬱の治療薬には柴胡剤や順気剤などがあり、個人的には女性では加味逍遥散(24)男性では柴胡加竜骨牡蛎湯(12)高齢者では釣藤散(47)を使用することが多い。
  • 副作用としては、加味逍遥散では甘草による偽アルドステロン症、下痢、眠気、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)、柴胡加竜骨牡蛎湯では黄芩による肝障害、間質性肺炎、釣藤散では甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆その他のめまい×半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)(37)☆
  • 半夏白朮天麻湯は一般にめまいの漢方薬として有名であるが、個人的には上記の漢方薬で改善することが多いため、使用頻度は少ない。
  • よって、上記の漢方薬で効果不十分な場合に使用している
  • 半夏白朮天麻湯には朮、茯苓、沢瀉の利水作用以外に、天麻の抗めまい作用がある。また、六君子湯をベースに麦芽なども含まれているため健胃・補気作用にも優れている。すなわち、胃腸虚弱者のめまいに適合しやすい。
  • 副作用としては特記事項なし。
事例
53歳女性。数ヶ月前からめまいが持続している。めまいはフワフワする感じで、特に歩いているときが悪い。また曇りの日も調子が悪い。睡眠は浅く、中途覚醒2〜3回。イライラしやすい。冷え性。
処方①:真武湯11包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「めまいは半分程度に減った。まだ睡眠は悪い。」
処方②:真武湯1回1包+加味逍遥散11 1日3回 毎食後 28日分
56日後:「めまいはほとんど良くなった。よく眠れるようになり夜中に1回は起きるがまたすぐに眠れる。イライラも減った。」

文献
1)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993

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不眠

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、眠れなくて困っています。イライラや動悸もあります。」

ポイント
・不眠の漢方薬を主要な生薬で分類し、イメージすることが大切。
・年齢、性別、症状などによって、漢方薬の選択パターンがある。
・不眠以外にイライラ、興奮、動悸、不安、抑うつなどにも効果が期待できる。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→抑肝散(54)
  • 成人女性→加味逍遥散(24)
  • 成人男性→柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
  • 高齢者→酸棗仁湯(103)
  • うつ→加味帰脾湯(137)
概論
  • 本稿では不眠に使用する漢方薬を主要な生薬で分類する。
  • 以下のように一つの漢方薬に複数の催眠作用の生薬が含まれていることも多い。
  • 不眠の漢方薬には催眠作用以外に、自律神経安定作用、鎮静作用、抗不安作用、抗うつ作用などを有していることが多いため、イライラ、興奮、動悸、不安、抑うつなどにも効果が期待できる。
    柴胡(さいこ)系:柴胡(さいこ)には自律神経安定作用、抗うつ作用、抗ストレス作用1)などがある。イメージとしては「脳にグッと作用する系」で西洋薬に例えるなら催眠作用の強い抗うつ薬(トラゾドンなど)に近いか。
    例:加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、抑肝散(54)、加味帰脾湯(137)、竹筎温胆湯(91)。
    竜骨(りゅうこつ)牡蛎系(ぼれい):竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)には自律神経安定作用、精神安定作用、抗不安作用などがある2)。漢方医学的には、悪夢、腹部大動脈の拍動が目立つ(おそらく交感神経優位の状態を表す)、動悸、不安、驚きやすいなどを参考に選択することが多い。イメージとしては「自律神経調節系」で、西洋薬ではベンゾジアゼピン(抗不安薬)に近いか。
    例:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)。
    黄連(おうれん)系:黄連(おうれん)には自律神経安定作用(主に交感神経抑制)、鎮静作用3)がある。漢方医学的には赤ら顔、イライラ、興奮などを参考に選択することが多い。イメージとしては「興奮を冷ます系」で、西洋薬ではチアプリドに近いか。
    例:黄連解毒湯(15)、竹筎温胆湯(91)。
    酸棗仁(さんそうにん)系:酸棗仁(さんそうにん)には催眠作用4)抗不安作用5)補血作用(体力をつける、潤す)などがある。漢方医学的には体力の低下した虚弱者、乾燥・脱水傾向の人などに用いる。イメージとしては「睡眠ゾーンまで優しく持ち上げてくれる系」で、西洋で例えるならば(脱水できつくて眠れない場合の)点滴や栄養補助食品に近いか。
    例:酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)。
    蘇葉(そよう)系:蘇葉(そよう)には抗うつ作用6)などがある。イメージとしては「モヤモヤを取り除く系」で、“紫蘇の香り”のようにアロマテラピーに近いか。
    例:香蘇散(70)、半夏厚朴湯(16)。
     
西洋薬との位置づけ
  • 軽度の不眠には漢方薬のみで改善する場合もあるため、西洋薬の副作用の観点からもまずは漢方薬を優先して試みてよいと思われる。
  • 中等度以上の不眠には漢方薬のみでは不十分な場合もあるが、漢方薬を併用する方が「ぐっすり眠れる」「悪夢が減る」など“睡眠の質”を改善する可能性はある。
  • 西洋薬を減量していく過程において、漢方薬の併用は有用だと思われる。
各論
☆小児・認知症の不眠×抑肝散(よくかんさん)(54)☆
《生薬構成》
  • 抑肝散は柴胡(さいこ)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の 7種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」にあたる。「柴胡系」の中でも抑肝散の特徴は“柴胡+釣藤鈎”であり、より鎮静作用が強い。
《処方解説》
  • 抑肝散には柴胡、釣藤鈎の鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎の補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。西洋薬に例えるなら“トラゾドン少量+チアプリド少量+栄養補助食品”のイメージ。
  • すなわち抑肝散は、体力を補いながら鎮静する漢方薬であり、やや体力の低下した人の“怒り、イライラ、興奮”などを伴う不眠に第一選択となる。
  • 抑肝散の使用目標について、漢方の大家である浅田宗伯が「怒気は無しやと問うべし。若し怒気あらばこの方効なしということなし(怒りはないか問うべき。もし怒りがあれば抑肝散が効かないことはない」7)と言っているように、ポイントは“”である。抑肝散の名称は“肝を抑える”とあるが“疳の虫を抑える”と置き換えると理解しやすい。抑肝散は本来、小児の不眠、夜泣き、ひきつけなどに対して作られた漢方薬であるが、近年では認知症の「陽性症状」にも有効性を示すことから高齢者にも頻用されるようになった8)9)。小児と比較すると高齢者の方が有効率は低い印象。
《対象者》
  • 基本的に老若男女に使用できるが、分布としては小児、高齢者(認知症の陽性症状)が多い
《使い方》
  • 抑肝散は比較的速効性も期待できるため、眠前の頓用でもよい。
  • 定期服用の場合も“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • 小児の不眠には甘麦大棗湯(72)も使用する。抑肝散が“怒”に対して、甘麦大棗湯は“泣”である。よく小児には“怒”と“泣”が混在するため、併用することも多い。その際は飲みやすい甘麦大棗湯から処方するのがコツ。また、起立性調節障害には苓桂朮甘湯(39)+補中益気湯(41)or加味帰脾湯(137)パニック障害には苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)などがあるが、併存する不眠にも良い場合がある。
  • 中高生ぐらいになると、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)や加味帰脾湯(137)などの使用頻度が増えてくる。第一選択は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)で、効果不十分例、抑うつ、倦怠感(特に午前中)などを認める場合は加味帰脾湯(137)を選択する。
  • 認知症の「陽性症状」を伴う不眠には「黄連系」の黄連解毒湯(15)もある。黄連解毒湯も鎮静作用は強いが、抑肝散が“虚弱者で顔色普通〜青白い”に対して、黄連解毒湯は“体力があり赤ら顔”と適応者が異なる。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症。偽アルドステロン症は、特に高齢者(その中でも女性)にリスクが高いため注意が必要。
☆成人女性の不眠×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
《生薬構成》
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の 10種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」にあたる。「柴胡系」の中でも加味逍遥散の特徴は、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、女性ホルモン安定作用である。
《処方解説》
  • 加味逍遥散には柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用、過緊張を緩める)、抗不安作用、抗うつ作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン安定作用、血液循環改善作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。西洋薬に例えるなら、“トラゾドン少量+エチゾラム少量+低用量ピル(+β遮断薬少量)”のイメージ。
  • すなわち、加味逍遥散は主に成人女性に適した漢方薬で、不眠、イライラ、不安、抑うつ、のぼせ、動悸、めまいなどの精神症状、自律神経症状に対応するため、成人女性の不眠には第一選択となる。また抑肝散よりは少ないが気力や体力を補う生薬も配合されている。
  • 抑加味逍遥散の特徴は自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用、過緊張を緩める)、女性ホルモン安定作用であるため、特に月経周期や更年期世代女性ホルモンが関与する(揺れ動く)時期の不眠には有効性が高い。
  • 上記の理由で、不眠以外に、イライラ、不安、抑うつ、のぼせ(ホットフラッシュを含む)、発汗、動悸、めまい、頭痛(緊張型、月経周期)などにも効果が期待できる。
《対象者》
  • 典型的には“更年期世代の女性”であるが、個人的には20代〜70代の女性の不眠に幅広く用いている。すなわち成人女性の不眠に第一選択となる。
《使い方》
  • 速効性に乏しいため、頓用で用いることは少ないが、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
[加味逍遥散からの変更]
  • 華奢な体格、“控えめで、気を使いすぎる、断れない”性格で仕事から帰宅後にぐったりするタイプなどには柴胡桂枝乾姜湯(11)へ変更する。
[加味逍遥散からの変更あるいは併用]
  • イライラが強い場合は抑肝散(54)へ変更あるいは併用する。
  • イライラよりも抑うつが強い場合は加味帰脾湯(137)へ変更あるいは併用する。
  • 咽喉頭異常感症など“喉から胸部の閉塞症状”を伴う場合は「紫蘇系」の半夏厚朴湯(16)を併用する。
  • 悪夢を見る、動悸が強い場合などには「竜骨・牡蛎系」の桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
《注意点》
  • まれに日中も眠くなる場合がある。その際は眠前のみにする。
  • その他、下痢、甘草による偽アルドステロン症、山梔子腸間膜静脈硬化症(長期服用例)などがある。
☆成人男性の不眠×柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)☆
《生薬構成》
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡(さいこ)黄芩(おうごん)半夏(はんげ)竜骨(りゅうこつ)牡蛎(ぼれい)桂皮(けいひ)茯苓(ぶくりょう)人参(にんじん)生姜(しょうきょう)大棗(たいそう) の 10種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」「竜骨・牡蛎系」にあたる。柴胡、竜骨、牡蛎は自律神経安定作用、精神安定作用をもつ重要な生薬であるが、この3生薬が含まれている漢方薬は柴胡加竜骨牡蛎湯のみである。
《処方解説》
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯の中でも柴胡、竜骨、牡蛎、黄芩、半夏、茯苓には自律神経安定作用、精神安定作用、鎮静作用2)などがあり、交感神経緊張の抑制作用10)抗うつ作用11)が示されている。一見、相反する作用にみえるが、実臨床でも同様の効果を実感するため、自律神経を調節してくれるイメージと思われる。
  • 「竜骨・牡蛎系」であるため、特に悪夢、動悸、不安などを伴う不眠によい。また、腹部大動脈の拍動が目立つ、驚きやすいなどの症候も参考になる。
  • 西洋薬に例えるなら、“トラゾドン少量+ベンゾジアゼピン少量+β遮断薬”のイメージ。
《対象者》
  • 成人男性の不眠に第一選択となる。成人女性にも使用できるが分布としては男性に多い印象。典型的には“体格や体力が中等度以上”と言われている。
《使い方》
  • 速効性に乏しいため、頓用で用いることは少ないが、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • 華奢な体格、“控えめで、気を使いすぎる、断れない”性格で仕事から帰宅後にぐったりするタイプなどには柴胡桂枝乾姜湯(11)へ変更する。
  • イライラが強い場合赤ら顔には「黄連系」の黄連解毒湯(15)赤ら顔以外には抑肝散(54)へ変更する。
《注意点》
  • 黄芩による肝障害、間質性肺炎。
☆高齢者の不眠×酸棗仁湯(さんそうにんとう)(103)☆
《生薬構成》
  • 酸棗仁湯は酸棗仁(さんそうにん)、知母(ちも)、茯苓(ぶくりょう)、川芎(せんきゅう)、甘草(かんぞう)の5種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「酸棗仁系」にあたる。酸棗仁湯は、名称通り主薬が酸棗仁であり、漢方エキス製剤の中では最も酸棗仁が多く含有されている漢方薬である。
《処方解説》
  • 酸棗仁には催眠作用、抗不安作用、補血作用(体力をつける、潤す)がある4)5)。酸棗仁以外の生薬は補助的に作用しているため、これらが方剤全体の作用と捉えてよい。西洋薬に例えるなら、“ベルソムラ®少量+点滴(or経口栄養補助食品)”で、睡眠ゾーンまで優しく持ち上げてくれるイメージ。
  • 一般に不眠に対する酸棗仁湯の効果は示されているが12)、特に体力の低下、乾燥や脱水傾向(脳や身体のエネルギー不足による相対的な交感神経亢進状態)があるような虚弱者、高齢者の不眠に適合しやすい。「寝るにも体力が必要」であり、「きついのに眠れない」という訴えがあればさらに有効性が高い印象。
  • 酸棗仁湯について、大塚敬節は「心身疲労して,ことに心気疲れて眠ることのできないものに用いる。慢性病のある人,虚弱な人,高齢者などで,夜間眼が冴えて眠れないというものによい」13)、山本巌は「適応する病態は、軽度の栄養不良状態により脳の抑制過程が減弱し、これにともなって興奮性の増大や自律神経系の興奮が発生したものと考えられる」4)と解説している。
  • また、酸棗仁湯は不眠だけでなく、過眠にもよいとも言われている。
《対象者》
  • 薬効からは、体力の低下、乾燥や脱水傾向(脳や身体のエネルギー不足による相対的な交感神経亢進状態)があるような人の不眠に適合しやすいが、分布としては高齢者に多い。他の漢方薬と比較しても、優しく無難な薬剤のため、高齢者でも気軽に使用できる。
《使い方》
  • 酸棗仁湯は比較的速効性も期待できるため、眠前の頓用でもよい。
  • それでも効果不十分な場合は、1日2〜3包(例:朝1包、眠前2包)へ増量する。
  • 定期服用の場合もなるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • もう少し体力を補いたい場合は補中益気湯(41)14)や十全大補湯(48)を併用する。
  • イライラがある場合は抑肝散(54)へ変更あるいは併用する。
  • 抑うつがある場合は加味帰脾湯(137)へ変更あるいは併用する。
  • それ以外では、「柴胡系」「黄連系」の竹茹温胆湯(91)へ変更あるいは併用する。竹茹温胆湯は一般に感染症後の不眠に適応があるが、特に特徴のない不眠にも使用できる。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症。偽アルドステロン症は、特に高齢者(その中でも女性)にリスクが高いため注意が必要。
☆うつの不眠×加味帰脾湯(かみきひとう)(137)☆
《生薬構成》
  • 加味帰脾湯は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、酸棗仁(さんそうにん)、遠志(おんじ)、竜眼肉(りゅうがんにく)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の14種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」「酸棗仁系」にあたる。漢方エキス製剤で柴胡と酸棗仁が含まれている漢方薬は加味帰脾湯のみである。
《処方解説》
  • 加味帰脾湯は名称の如く、帰脾湯(65)に柴胡と山梔子が加味された漢方薬であり、帰脾湯よりも精神・自律神経症状に対する作用が強い(イライラにも対応)。加味帰脾湯には柴胡、酸棗仁、遠志、竜眼肉、山梔子、木香の精神安定作用、抗うつ作用、自律神経安定作用、抗不安作用、鎮静作用などがあり、気力、体力を補う補中益気湯(から升麻と陳皮を除いたもの)も含まれている。西洋薬に例えるなら“抗うつ薬少量+ベンゾジアゼピン少量+栄養補助食品”のイメージ(ベンゾジアゼピン受容体が関与した抗不安作用15)も示されている)。
  • よって、加味帰脾湯はうつ傾向、不安、イライラ、倦怠感、焦燥感などを伴う不眠に使用する16)17)。特に、うつの不眠には第一選択となる。うつでは、気分の落ち込みだけでなく、不安、イライラ、倦怠感、焦燥感なども伴うことも多く、加味帰脾湯はこれらにも対応できる薬剤である。倦怠感は午後よりも午前に強く認めるのが特徴。
《対象者》
  • うつがなくても使用できるが、うつがあれば老若男女問わず、優先して使用される。
《使い方》
  • 軽症であれば眠前の頓用でもよいが、心身の状態を整える薬剤でもあるため、基本的には定期服用をお勧めする。その際も、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用がよい。
《鑑別》
  • 咽喉頭異常感症など、喉から胸部の閉塞症状を伴う場合は「蘇葉系」の半夏厚朴湯(16)を併用する。
  • 感情失禁を伴う場合は甘麦大棗湯(72)を併用する。
  • 抑うつよりもイライラが強い場合、女性では加味逍遥散(24)、男性では黄連解毒湯(15)へ変更あるいは併用する。
  • 悪夢や動悸が目立つ場合は「竜骨・牡蛎系」の桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
  • それ以外腹部膨満を伴う場合は「蘇葉系」の香蘇散(70)を併用する。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症、山梔子による腸間膜静脈硬化症(長期服用例)などがある。
事例
48歳女性。数ヶ月前より不眠があり、寝つきが悪く、中途覚醒3〜4回で熟睡感がない。気分の落ち込みはなく、イライラが強い。喉がつまった感じ、動悸、顔面のほてりなども認める。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「だいぶ眠れるようになりました。まだ途中で2回ぐらい起きます。喉がつまった感じが辛いです。イライラやほてりは減ってきました。」
処方②:加味逍遥散1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。ぐっすり眠れています。喉のつまり、イライラ、動悸も落ち着きました。」
以後、経過良好。

文献:
1)渡辺大士,他:オレキシン分泌の制御を介した加味逍遥散の抗ストレス作用. 昭和学士会誌, 77(2):146-155, 2017.
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 388, 1982.
3)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 258, 1982.
4)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 384, 1982.
5)筒井末春:酸棗仁湯②基礎と臨床. 日病薬誌, 20(36): 87-88, 2000.
6)Tsuji, M. et al.:Pharmacological characterization and mechanisms of the novel antidepressive- and/or anxiolytic-like substances identified from Perillae Herba. 日本神経精神薬理学雑誌, 28(4):159-167, 2008.
7)浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣, 近世漢方医学書集成96(大塚敬節,矢数道明編). 名著出版, 110, 1982.
8)Matsuda Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.
9)Shinno H, et al:Effect of yokukansan, a traditional herbal prescription, on sleep disturbances in patients with Alzheimer’s disease. J.Alzheimers Dis. Parkinsonism, 6:1-5, 2016.
10)岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49, 766-774, 1999.
11)金子善彦,他:抗うつ状態に対する柴胡加竜骨牡蛎湯の効果. 臨床と研究, 57(10):3377-3383, 1980.
12)Cheng-long Xie, et al:Efficacy and safety of Suanzaoren decoction for primary insomnia:a systematic review of randomized controlled trials. BMC Complementary and Alternative Medicine, 13(18):2013.
13)大塚敬節:症例による漢方治療の実際5版. 南山堂,67, 2000.
14)木村容子,他:補中益気湯で不眠が改善した7症例. 日東医誌, 66(3):228-235, 2015.
15)栗原久,他:マウスの改良型高架式十時迷路テストによる漢方製剤の抗不安効果. 神経精神薬理, 18:179-189, 1996.
16)斎藤文男,他:神経症およびうつ病に対する加味帰脾湯の効果. Prog.Med., 13(7):1456-1464, 1993.
17)大原健士郎,他:不眠症に対する加味帰脾湯(TJ-137)の効果. 臨床と研究, 89:3285-3300, 1992.
 

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倦怠感

《こんな時困りませんか?》
患者「疲れがなかなか取れません。検査では異常がありませんでした。」

ポイント
・倦怠感に対する漢方薬の有効性は高くないが、他に方法がない場合には考慮する。
・倦怠感には補気作用の四君子湯が含まれた漢方薬を使用することが多い。
・倦怠感+αの特徴で漢方薬を選択する。

とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:補中益気湯(41)、2nd-line:十全大補湯(48)
概論
  • 倦怠感に対する漢方治療は四君子湯(75)が基本となることが多い。
  • しくんしとう四君子湯(75)は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)(生姜、大棗)の主に4種類の生薬で構成されており、補気作用(気力を補う)を有する。
  • 実際は四君子湯(75)を使用する機会は少なく、四君子湯(75)が含まれた漢方薬を使用することが多い。
西洋薬との位置づけ
  • 倦怠感に対する漢方薬の有効性は高くないが、他に方法がない場合には考慮する。
  • がん、心不全、うつ病など基礎疾患が関与する倦怠感にはさらに有効性が低くなるが西洋薬と併用してもよい
各論
☆倦怠感×補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)☆
  • 補中益気湯は「中(消化機能)を補い気を」という名称の漢方薬であり、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、柴胡(さいこ)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 人参、朮、甘草(四君子湯-茯苓)、黄耆、当帰には補気(血)作用があり、倦怠感に対応する。
  • 柴胡には抗炎症作用があり、慢性炎症性疾患、感染後の倦怠感などに対応する。
  • 升麻には升堤(しょうてい)作用があり、弛緩した筋トーヌスを引き締める働きがある。補中益気湯の使用目標として、目や声に力が入らない、手足がだるいといった弛緩症状もある。同様の概念で、胃下垂、子宮脱、弛緩性便秘にも対応する(そのような体質者に適合しやすい)といわれている。
  • 陳皮、生姜、大棗には健胃作用があり、食欲不振、胃が弱い人に対応する。
  • 黄耆には止汗作用もあり、寝汗などに対応する。
  • 補中益気湯は免疫系賦活作用1)2)3)があり、感染予防などに第一選択となる。
  • また、化学療法や放射線療法による副作用軽減(倦怠感、食欲不振)にも用いる4)5)
  • よって、補中益気湯は気力や免疫力を高め、食欲不振にも対応する漢方薬であり、胃が弱い人にも安心して使用できる。治療対象者(証)、味、副作用などにおいて無難な漢方薬であり、倦怠感にとりあえず処方できる。また医王湯(医薬の王様のようによく効く)という別名もある。
  • 六君子湯(43)も食欲不振、倦怠感に使用するが、補中益気湯は倦怠感>食欲不振六君子湯は倦怠感<食欲不振というイメージ。
  • 清暑益気湯(136)は補中益気湯に類似した漢方薬で、黄柏(おうばく)の清熱作用、五味子(ごみし)の止汗作用、麦門冬(ばくもんどう)の滋潤作用(潤す)が含まれている。よって、暑くて汗をかいて脱水傾向になるような病態、すなわち夏バテや熱中症(Ⅰ度)の倦怠感に適合しやすい。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症がある。
☆倦怠感×十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)(48)☆
  • 十全大補湯は「大きく補い全快させる」という名称の漢方薬であり、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、地黄(じおう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、桂皮(けいひ)の10種類の生薬で構成されている。
  • 人参、朮、茯苓、甘草(四君子湯)、黄耆には補気作用があり、倦怠感に対応する。
  • 補中益気湯とは異なり、十全大補湯には地黄、当帰、芍薬、川芎で構成される四物湯(71)が含まれており補血作用がある。けつとは、血液だけでなく栄養や潤いなども含む概念であり、けっきょ血虚(血が不足した病態)に対応する。血虚とは臓器や細胞の末端まで栄養や潤いが行き届いていない状態であり、貧血、皮膚乾燥、爪の異常、脱毛、こむら返りなどが該当する。簡単に表現すれば、十全大補湯は四物湯が含まれている分、気力だけでなく体力も補うイメージであり、補中益気湯よりも補う作用が強いとされている。
  • 桂皮には温熱作用があり、冷えに対応する。
  • 黄耆には止汗作用もあり、寝汗などに対応する。
  • 十全大補湯には免疫賦活作用6)抗腫瘍作用7)8)9)化学療法による副作用軽減10)(倦怠感、食欲不振)などの報告があり、がん患者に頻用される。
  • 十全大補湯には、女性に頻用する当帰芍薬散(23)が含まれているため、個人的には十全大補湯を女性に使用することが多い。女性の方が月経関連などで貧血(血虚)傾向であることが多く、家事や介護などで体力的な消耗も多いと想像する。
  • よって、十全大補湯は気(気力)だけでなく血(体力、栄養、潤い)も補うため、補中益気湯よりも作用が強く、血虚になりやすい女性、がん患者、冷え性などの倦怠感に使用される。一方、胃もたれに注意すべき生薬(地黄、当帰など)が含まれるため、胃が弱い人には①食後に内服②1日1~2包からの開始などの対策が必要である。
  • 人参養栄湯(108)は十全大補湯に類似した漢方薬で、五味子(ごみし)、陳皮(ちんぴ)、遠志(おんじ)が含まれている。五味子は小青竜湯(19)にも含まれ、鎮咳去痰作用がある。陳皮は六君子湯(43)にも含まれ、食欲増進作用、去痰作用がある。遠志は加味帰脾湯(137)にも含まれ精神安定作用、認知機能改善作用がある。よって、人参養栄湯は十全大補湯よりも呼吸器疾患患者、高齢者などに使用される。
  • 注意点は、地黄や当帰による胃もたれ、甘草による偽アルドステロン症がある。
☆午前中の倦怠感×加味帰脾湯(かみきひとう)(137)☆
  • 加味帰脾湯(137)は帰脾湯(65)に柴胡、山梔子が加味された漢方薬であり、柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、遠志(おんじ)、酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の14種類の生薬で構成されている。
  • 加味帰脾湯には補中益気湯(から陳皮、升麻を除いたもの)に精神安定作用の酸棗仁、遠志、竜眼肉、鎮静作用の山梔子、抗うつ作用、健胃作用の木香が含まれている。
  • よって加味帰脾湯は一般に抑うつ、不眠、倦怠感などに使用される。
  • 午後よりも午前の方が悪い倦怠感(通常は日中の活動によって午後の方が疲れやすい)には抑うつが関与している可能性が高く、加味帰脾湯が第一選択となる。
  • また、仕事中はあまり感じないが帰宅後にぐったりする「帰宅後の倦怠感」には柴胡桂枝乾姜湯(11)がよいと言われている。柴胡桂枝乾姜湯は補気作用ではなく精神安定作用、抗ストレス作用をもつ漢方薬だが、「気を使いすぎる人」に適合しやすい。「帰宅後の倦怠感」の本質は体力不足ではなく、仕事中の気疲れであり、その過緊張を緩和してくれるのが柴胡桂枝乾姜湯である。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症、山梔子による腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
☆冷え性の倦怠感×茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)☆
  • 茯苓四逆湯は人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)、附子(ぶし)の5種類の生薬で構成されている。エキス製剤では人参湯(32)+真武湯(30)で代用できる。
  • 茯苓四逆湯には、四君子湯(から朮を除いたもの)に温熱作用の乾姜、附子が含まれている。
  • よって、茯苓四逆湯は体を温めて気力をつける漢方薬である。
  • 茯苓四逆湯の適応となる倦怠感は、①自他覚的に冷えが強い(例:夏でも厚着、手足が非常に冷たい)②倦怠感が強い(例:1日中、横になりたい)ことが特徴である。
  • 注意点は甘草による偽アルドステロン症がある。
事例
70歳代男性。慢性心不全、虚血性心筋症(EF28%)、慢性腎臓病などで近隣病院より紹介。数ヶ月前より倦怠感、食欲不振を認めている。心不全は比較的安定しており、その他の異常所見も認めなかった。冷え性ではない。抑うつなし。
処方:補中益気湯1回1包 1日3回 毎食後 28日分
1ヶ月後:「倦怠感も食欲も5割ぐらいに良くなった」
2ヶ月後:「疲れはほとんどない。食欲も戻りました」

文献:
1)池田善明,他:白血球減少症マウスでの補中益気湯の感染防御効果. 和漢医薬学誌, 3:372, 1986.
2)大野修嗣:補中益気湯のNatural-Killer細胞活性に及ぼす影響. アレルギー, 37:107, 1988.
3)杉山幸比古,他:COPDに対する漢方製剤・補中益気湯の効果. 日本胸部臨床, 56:105-109, 1997.
4)阿部憲司,他:癌術後化学療法時の副作用に対する補中益気湯の効果. Prog. Med, 9:2916-2922, 1989.
5)細川康,他:十全大補湯および補中益気湯による放射線障害の防護. 和漢医薬学誌, 2:260, 1985.
6)木岡清英,他:ヒト末梢血単核細胞のインターロイキン1β産生能および抗体産生に及ぼす十全大補湯の影響. 和漢医薬学誌, 4:332, 1987.
7)原中瑠璃子,他:十全大補湯,桂皮の抗腫瘍作用に関する研究. 和漢医薬学誌, 4:49, 1987.
8)樋口清博,他:十全大補湯による肝発癌抑制効果の検討. 肝胆膵, 4(3):341-346, 2002.
9)安達勇:Randomized studyを用いた進行乳癌患者に対する十全大補湯の併用効果の検討. 和漢医薬学誌, 4:338, 1987.
10)黒田胤臣,他:十全大補湯による抗癌剤副作用防止効果および臨床免疫学的検討. Biotherapy, 3:789-795, 1989.

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ハートナーシング誌 2022年8号 イラストでわかる!ケアに役立つ!循環器のくすり 漢方薬 作用&観察ポイント  執筆 土倉潤一郎

サッとわかる!

① 服薬方法について
Q1)食前や食間がよいのでしょうか?
A1) 漢方薬の添付文書には「食前又は食間」と記載されています。また、空腹時と食後では胃内pHに差があり、効果や副作用に影響を及ぼす可能性を指摘した研究もありますが、臨床的には治療上問題となるほどの差ではない1)2)という意見も多数あります。医師によっても考え方は異なるようですが、個人的には理想よりも服薬アドヒアランスを重視して、食後で処方することが多いです。
Q2)西洋薬との併用で注意点はありますか?
A2)添付文書で禁忌として記載があるのは「小柴胡湯×インターフェロン」のみです。その他の注意点としては、「甘草×ループ利尿薬」でループ利尿薬は甘草による偽アルドステロン症(低カリウム血症)のリスクになります。それ以外の「漢方薬×西洋薬」では基本的に臨床上大きな問題となることは少ないとされております。
Q3) 1日3回がよいのでしょうか?
A3)服用できるのであれば1日3回が望ましいですが、服薬アドヒアランスを重視して、1日2回で処方する場合も少なくありません。「治す」ためには1日2回以上が望ましいですが、「現状を維持する」であれば1日1回でよい場合もあります。
Q4)高齢者、腎障害や肝障害の患者への用量調節は?
A4)基本的に腎障害、肝障害の患者に減量の必要はありません。高齢者も同様ですが、臨床的には体格や服薬アドヒアランスなどを考慮して1日2回へ減量する場合はあります。もともと日本の漢方薬の用量は中国と比較すると少量で設定されているため、多少多く服用しても問題は少ないとされています。
Q5) 漢方薬が飲みづらい時の対処法は?
A5)漢方薬が苦手な理由として「味」や「顆粒」などが多いです。対処法としては、「甘い飲み物などと一緒に飲む」「オブラートを使用する」「錠剤やカプセルタイプがあれば選択する(製薬会社によって異なる)」「お湯に溶かして飲む」などの方法があります。あとは、患者自身が「漢方薬の効果」よりも「飲みづらさ」を上回って感じていることが多いため、漢方薬を一旦中止して、漢方薬の必要性を再検討する方法もあります。症状が再増悪すれば患者も漢方薬の必要性を実感して頑張って服用することもあります。
Q6)水分制限のある患者が少量の水分で飲める方法は?
A6)漢方薬の服用時に水分摂取量が多い人は、「顆粒が口の中に残る」ことが原因として多いようです。対処法としては、「漢方薬をお湯で溶かして錠剤も一緒に服用する」などの方法があります。
Q7)漢方薬の中止基準は?
A7) 特に基準はなく、基本的には「症状が落ち着いている状態で、減量・中止を試みて、再増悪なければ中止可」となります。中止できる期間としては、器質的疾患の有無、対象疾患、罹患期間、重症度などによって異なります。あとは患者が減量・中止を希望した時や残薬が増えた時が、減量・中止を検討するタイミングとなることも多いです。患者自身が感じる必要性に応じて判断するとスムーズです。
② 特に注意すべき副作用について
A) 甘草による偽アルドステロン症(浮腫、血圧上昇、低カリウム血症)
循環器領域で最も注意すべき漢方薬の副作用です。心不全に関しては、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪と紛らわしい”などがあります。また低カリウム血症により不整脈のリスクも伴います。特に甘草による偽アルドステロン症は高齢者(その中でも女性)に多い3)4)とされておりますので、高齢者が甘草を含む漢方薬を長期に服用する場合には注意が必要です。
本稿で取り上げる漢方薬では六君子湯(43)、抑肝散(54)、芍薬甘草湯(68)に甘草が含まれています。
B)黄芩(おうごん)による肝障害、間質性肺炎
漢方薬による副作用で肝障害(7.1%)5)、間質性肺炎(0.004%)6)がありますが、その原因生薬の9割以上が黄芩です。よって、黄芩が含まれている漢方薬を服用している場合は定期的な採血や聴診などが必要です。
C)麻黄、地黄による胃もたれ
胃弱者において麻黄や地黄で胃もたれを認める場合があります。対応としては、漢方薬の減量・中止、食後の服用などがあります。本稿で取り上げる漢方薬では牛車腎気丸(107)に地黄が含まれています。麻黄は葛根湯(1)のように風邪薬の漢方薬に含まれていることが多いです。
D)大黄による下痢
大黄の主成分はセンノシドであり、下剤の漢方薬に含まれていることが多いです。中には防風通聖散(62)、治打撲一方(89)、乙字湯(3)など便秘以外の目的で使用する漢方薬にも含まれていることがあるため注意が必要です。

文献

  • 1) 稲木一元, 杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A. 東京都, 中外医学社, 2014, 202-203, 2014
  • 2) 牧野利明:いまさら聞けない生薬漢方薬. 東京都, 医薬経済社, 77-82, 2015.
  • 3) 「薬剤師のための漢方薬の副作用-正しい服薬指導のために第2版」. 東京都, 協和企画, 2014, 11-16.
  • 4) 稲木一元, 他:臨床医のための漢方Q&A. 東京都, 中外医学社, 2014, 211-212.
  • 5) 堀池典生,他:薬物性肝障害の実態-全国集計-. 薬物性肝障害の実態. 中外医学社. 2008, 1-10.
  • 6) 本間行彦:小柴胡湯による間質性肺炎について. 日本東洋医学雑誌. 47(1), 1996, 1-4.
 

じっくり理解!

① 循環器領域に頻用される漢方薬
A) 半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)
いわゆる「精神的な関与のある心臓神経症(胸痛、動悸)」に第一選択となります。最も有名な症候は咽喉頭異常感症(喉のつまった感じ)ですが、「息苦しい」「大きく息が吸いづらい」などの「喉から胸部の閉塞症状」に頻用します。特に投与前後の注意点はありません。効果判定は2〜4週間程度で可能です。
B) 五苓散(ごれいさん)(17)
水分代謝調節薬で、溢水には利尿作用、脱水には抗利尿作用として働きます1)。またナトリウムやカリウムなどの電解質異常にも影響はありません2)。五苓散は心不全や下腿浮腫などthird spaceに体液貯留がある場合に頻用されますが、基本的に水分バランスを調節する薬剤です。例え尿量が増えても適切な水分バランスで留まるため中止せずに様子をみて構いません。効果判定には数ヶ月必要な場合もあります。
C) 木防已湯
ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており3)4)、典型的には低心機能で肺うっ血がある場合に使用することが多いです。基本的には体を冷やす漢方薬のため、寒がりの人には合わない可能性があります。効果判定は1、2ヶ月程度のことが多いです。
② 循環器患者の周辺症状に頻用される漢方薬
A) 六君子湯(りっくんしとう)(43)
食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用5)、胃排出能促進作用6)、胃適応性弛緩作用7)などがあり、食欲不振や胃もたれなどの上部消化器症状に第一選択となる漢方薬です。胃の水毒(浮腫)をさばく働きもあるため、心不全患者のような浮腫傾向の食欲不振に適合しやすいです。甘草が含まれるため偽アルドステロン症に注意が必要です。効果判定は2〜4週間程度で可能です。
B) 麻子仁丸(ましんがん)(126)
瀉下作用(便を出す)、潤腸作用(腸の中を潤して滑りを良くする)、腸蠕動調節作用(主に促進作用)、鎮痛鎮痙作用(腹痛や腹満をきたしにくい)があり、特に高齢者の便秘に第一選択となります。潤腸作用や腸蠕動促進作用があるためか、麻子仁丸を服用すると「スッキリと出る」と快便を感じる人も少なくありません。比較的強い下剤のため、難治性の便秘に使用し、西洋薬の下剤を減薬できる場合もあります。効果判定は数日以内で可能です。
C) 牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)
循環器領域では高齢者の下腿浮腫に第一選択となります。特に利尿剤では調節しづらい下腿浮腫に使用することが多いです。五苓散と同様で利尿作用はありますが、脱水になることはありません。牛車腎気丸は、高齢者のサルコペニア、腰痛、下肢しびれ、冷え、認知機能低下など加齢に伴う諸症状にも適応があり、アンチエイジングの漢方薬といわれています。温める漢方薬のため、暑がりの人には注意が必要です。効果判定には数ヶ月必要な場合もあります。
③ 他科で頻用される漢方薬
A) 大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)
消化管術後の腸閉塞予防として頻用されます。大建中湯は「腸管を温めて腸蠕動を正常化する働き」があるため、腸管が冷えて腸蠕動が低下あるいは亢進している病態に適合します。下剤と認知されている傾向がありますが、腸内環境を正常化する働きがあるため下痢にも使用します。大建中湯の適合者は冷たい飲食物で腹部症状が悪化することがあるため注意が必要です。中止基準は難しいですが、患者のアドヒアランスに応じて減量、中止していることが多いです。
B) 抑肝散(よくかんさん)(54)
認知症の周辺症状(陽性症状)に頻用されます。鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)などがあるため、イライラ、興奮などの陽性症状に適合しやすいです。甘草が含まれるため偽アルドステロン症に注意が必要です。効果判定は1〜2週間以内で可能です。
C) 芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)(68)
鎮痙・鎮痛作用があり、こむら返りに頻用されます。速効性があるため頓用として用いることができます。甘草の量が比較的多いため、偽アルドステロン症のリスクが高く、必要最小限の使用が望ましいです。
ドクターからナースへ伝えておきたいポイント
漢方薬の残薬のチェックをお願いします。残薬が多い場合は減量・中止を検討する目安になりますし、処方時に日数調節も必要になります。

文献

  • 1)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6), 1994, 1774-1791.
  • 2)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14, 1981, 105-110.
  • 3)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4(3), 2007, 335-41.
  • 4)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3), 1985, 688-89.
  • 5)Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59, 2012, 62-66.
  • 6)Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomaized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7), 2014, 950-61.
  • 7)Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20), 2010, 2195-202.

北九州市医報 「ちょっと一言」私のお勧めの漢方薬 麻子仁丸(ましにんがん)(126)  執筆 土倉潤一郎

私は開業前に飯塚病院の漢方診療科に8年間在籍しており、現在も漢方専門医として、西洋と漢方のお互いの長所を活かした診療を心がけております。その中で、私がお勧めする漢方薬の1つである麻子仁丸(ましにんがん)(126)をご紹介します。
 麻子仁丸は麻子仁、大黄、枳実、杏仁、厚朴、芍薬の6種類の生薬で構成されております。大黄の薬効成分はセンノシドで瀉下作用があり、麻子仁、杏仁は油性成分で潤腸作用があり(腸内を潤して滑りを良くする)、枳実には腸管蠕動促進作用があります。
麻子仁丸は一般的に高齢者向けの便秘の漢方薬として知られておりますが、この潤腸作用や腸蠕動促進作用などが乾燥傾向で腸蠕動が低下している高齢者に適合しやすいのだと思われます。
麻子仁丸の特徴としては、①瀉下作用が比較的強い②デメリットが少ないことです。
① については、便秘の漢方薬の中でも瀉下作用の大黄の量が比較的多く、さらに腸蠕動促進作用や腸内を潤す作用があるため、下剤の中では比較的強いタイプになります。よって、高齢者の難治性便秘に使用します。導入のタイミングも大事で、患者さんが最近便秘気味で数日以上便が出なくて困っていると言われた時などに麻子仁丸を処方すると、排便があるだけでなく、(腸蠕動促進作用もある影響か)他の下剤よりも「便がスッキリと出る」と快便に喜ばれることが多い印象です。既に下剤を飲んでいる場合は、麻子仁丸を追加することで数種類の下剤が中止でき、減薬にも役立つこともあります。
② については、比較的味が飲みやすいこと、腹痛が少ないこと(芍薬や厚朴などの腹痛を和らげる生薬も配合されている)、甘草や胃腸障害を起こす生薬などが含まれていないことなどが挙げられます。特に高齢者は甘草による偽アルドステロン症(血圧上昇、浮腫、低カリウム血症)のリスクが高いため、甘草には十分気をつける必要があります。麻子仁丸には甘草が入っていないため、安心して長期的に服用できます。

処方例:麻子仁丸5g2×朝夕食後 14日間
*便秘が軽度の場合は1日1包でも下痢になることがあります。中等度以上であれば1日1〜2包から開始して、効果不十分であれば1日3包まで増量することが多いです。

月刊誌「治療」 2023年1月号 困ったときの2の手、3の手 今こそ知りたい漢方・鍼灸
「緩和ケアに使える漢方」 〜親和性が低い分野だからこそ厳選して使用する〜  執筆 土倉潤一郎

症例

83歳女性の大腸癌術後再発。腸閉塞の既往あり。ADLは自立で食事も少量ずつ摂取できている。1ヶ月前から、腹痛、腹部膨満、下痢が続いている。整腸剤やオピオイドを使用しているが効果不十分であった。
緩和ケアは、がんだけでなく非がん領域などにも幅広く必要とされているが、今回は「がんの緩和ケア」を中心に記載する。

緩和ケア領域での漢方治療は親和性が低い?
筆者は漢方専門医であるが、在宅医療では多くのがん終末期患者の緩和ケア、看取りなども行っている。そのような経験から、個人的にはがんの緩和ケアに漢方薬の出番は少ないと感じている。その理由としては、①服薬しづらい速効性や確実性に劣ることなどがあげられる。①については、がんの終末期などでは経口摂取量の低下を認める中で、錠剤ですら飲みづらくなり減薬する時期でもある。その状況で、粉で味も飲みづらい漢方薬を新たに追加することは非常にハードルが高い。②については、最期を穏やかに迎えることが大切なこの時期において、苦痛症状を速やかに改善させることが大変重要となる。すなわち、速効性や確実性が求められる領域でもあるため、西洋薬での治療が中心となることが多い。
親和性の低い緩和ケア領域で漢方薬の出番はどこにあるのか?
現代医学における漢方の位置づけとしては、「標準的なアプローチで苦痛症状が取り切れない場合」に用いられることが多いと思われる。また、飲みづらい漢方薬のデメリットを上回るメリットがないと服薬を継続しないことが多い。よって、がんの緩和ケアに役立つ漢方薬は、「標準的治療で苦痛症状が取り切れない場合」で、「速効性や確実性を持ち合わせているもの」となる。また、近年では「早期からの緩和ケア」も重要視されているが、経口摂取が困難となる終末期よりも、もう少し手前の状態(外来通院の時期)の方が、漢方薬の出番は多いと思われる。今回は、筆者ががん緩和ケアを実践している中でも、特にお勧めできる漢方薬を紹介する。

取り切れない腹部症状(腹痛、腹満、下痢、便秘)に大建中湯(100)

大建中湯は一般に、腸閉塞や便秘に使用されることが多いが、実は下痢にも奏功しやすい。大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4種類の生薬で構成されており、“腸管を温めて腸内環境を正常化する働き”がある。 まず、大建中湯の重要な働きは、“腸管を温める”ことである。よって、腸管が冷えている患者に適合しやすい。腸管が冷えていることを見極める方法としては、①自他覚的に冷えている(寒がり、触って冷たい)②冷たい飲食物で腹部症状が悪化する③温めると腹部症状が緩和するなどがある。触診では腹部、特に臍周囲がそれ以外よりも冷たい場合には大建中湯の適応であることが多いとも言われている1)。患者自身から冷えの存在を訴えることは少ないため、医療者側から見つけ出すことがコツである。 次に重要な働きは“腸内環境の正常化”である。大建中湯には腸管運動亢進作用2)を認める一方で、腸管運動亢進モデルには腸管運動抑制作用3)を認めることがわかっており、いわゆる“ちょうど良い状態”に調節的に働く(正常化)。臨床的にも便秘、下痢、腹痛、腹満などの症状がいずれもちょうど良い状態に改善することを経験する。その中でも特に腹痛、腹満、下痢に効果を発揮しやすいと思われる。西洋薬で例えるならば過敏性腸症候群の薬剤や整腸剤などにイメージが近い。個人的にはがん末期だけでなく在宅医療で慢性的に下痢が続いている患者は大建中湯の適応が多いと感じる。そして、がん末期では日単位〜短い週単位などになると冷えよりも熱が主体となり、大建中湯も不要となることが多い。 実臨床でのアプローチとしては、慢性的に腹痛、腹満、下痢などで困っている場合、腸管の冷えがないか、すなわち大建中湯の適応がないかを探ることから開始する。そのような目でみると、腹部手術後、腸閉塞などの患者で大建中湯の適合者が比較的多い(癌性腹膜炎などには効果不十分な印象)。当然このような患者では嘔気や嘔吐などで服薬も難しくなることがあるが、大建中湯は比較的速効性もあり服用直後に症状が緩和するために頑張って服用することも少なくない。理想はまだ嘔気が少ない時期からの開始が望ましい。大建中湯は用量依存性もあるため1日3包で効果不十分な場合には、服用可能なら通常量の1日6包まで増量した方がよい。
2の手:桂枝加芍薬湯(60)
大建中湯の服用後も腹痛、腹満が残存する場合には、さらに腸蠕動をスムーズにさせるために桂枝加芍薬湯(60)を併用する。桂枝加芍薬湯には横紋筋や平滑筋を緩める芍薬が含まれており、大建中湯との相性も良い。大建中湯の効果不十分例だけでなく、大建中湯の適応外(腸管の冷えがない場合)にも使用できる。また、大建中湯+桂枝加芍薬湯の量が多くて飲みづらい場合は、当帰湯(102)で代用できる。
3の手:半夏瀉心湯(14)
化学療法後の下痢などには半夏瀉心湯(14)が知られているが、半夏瀉心湯は温熱作用+抗炎症作用であり、下痢以外の腹痛や腹満などには改善が乏しい。よって、慢性の下痢で、腸管の冷えや炎症がありそうな場合に用いられる

難治性の便秘に麻子仁丸(126)

がん終末期患者ではオピオイドの使用などにより難治性の便秘を認めやすい。便秘薬だけで多剤を服用し、さらに座薬や浣腸などを使用している場合もある。その中で、重宝されるのが麻子仁丸(126)である。  麻子仁丸は麻子仁(ましにん)、大黄(だいおう)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)、芍薬(しゃくやく)の6種類の生薬で構成されており、大黄の薬効成分はセンノシドで瀉下作用がある(麻子仁丸の大黄は1日4gと比較的量が多い)。また、麻子仁、杏仁は油性成分で、潤腸作用があり(腸内を潤して滑りを良くする)、枳実は腸管蠕動促進作用がある。大黄で腹痛を認める場合があるが、鎮痙・鎮痛作用の芍薬や厚朴が含まれており、麻子仁丸での腹痛は少ない。  よって、麻子仁丸は上記のような作用がある比較的強い下剤で、乾燥傾向や腸蠕動が低下する高齢者に適合しやすい便秘薬とされている。筆者の経験としては高齢者以外での難治性便秘にも第一選択でよいと思われる。麻子仁丸には腸管蠕動促進作用や潤腸作用などもあるためか、服用した患者からは「すっきり出る」と快便に喜ばれることも少なくない。
2の手:通導散(105)
麻子仁丸でも効果不十分な場合には、通導散(105)を使用する。通導散にも腸管蠕動促進作用の枳実が含まれており、瀉下作用の大黄に加え、芒硝(ぼうしょう)も含まれている。総合的には麻子仁丸よりも瀉下作用が強い。
3の手:大建中湯(100)
下剤を服用すると下痢、服用しないと下痢になるような下剤の調節が難しい軽度の便秘に大建中湯(100)がよい場合がある。上記の理由で、腸管の冷えがあると大建中湯は適合しやすい。大建中湯の下剤としての効果は弱いため、難治性の便秘には適合しにくい。

食欲不振に六君子湯(43)

六君子湯(43)には食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用、胃排出能促進作用、胃適応性弛緩作用などがあり、がん患者の食欲不振に対する漢方薬としてエビデンスも豊富で、第一選択となる。がん終末期の悪液質が関与した食欲不振にはステロイドやアナモレリンを優先的に使用することが多いと思われるが、その手前の段階(外来通院の時期)での食欲不振には本剤が適応となることが多い。
2の手: 茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
がん患者の食欲不振には茯苓飲合半夏厚朴湯(116)も使用することも多い。構成生薬をみると、茯苓飲合半夏厚朴湯の中に六君子湯と共通の生薬が多く含まれていることが分かる。茯苓飲合半夏厚朴湯の特徴は、ストレスの関与した蠕動運動低下に良いとされている枳実が含まれていることであり、いわゆるストレス性の食欲不振に第一選択となる。がんと診断されている患者は少なからずストレスを感じていることがあるため、本剤が効果を示すのだろうと推察している。
3の手:釣藤散(47)
高齢者向けの食欲不振の漢方薬としては釣藤散(47)がある。釣藤散にも六君子湯の多くが含まれている。

ストレス性の喉のつまり感、呼吸困難感に半夏厚朴湯(16)

半夏厚朴湯(16)は抗うつ作用、抗不安作用などがあり、特にストレスによって生じる喉〜胸部の閉塞症状(喉のつまり、息苦しさ、息が吸いづらいなど)には第一選択となる。終末期における緩和ケアでは、薬剤の依存性よりも速効性や有効性が重要視され、ベンゾジアゼピンを使用することも多いが、その手前の時期やベンゾジアゼピンを拒まれる場合には本剤を優先して使用してよいと思われる。
2の手:加味帰脾湯(137)
半夏厚朴湯のみでは効果不十分な場合は、さらに抗うつ作用、抗不安作用を強化するために、加味帰脾湯(137)を併用する。催眠作用もあるため、軽度の不眠などにも効果を示す場合がある。
3の手:茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
上記と重なるが、本剤は半夏厚朴湯と茯苓飲の合剤であり、ストレス性の食欲不振に第一選択となる。喉〜胸部の閉塞症状だけでなく、胃の閉塞症状(食欲不振、ゲップ、胃が張るなど)も認める場合は本剤を使用する

がんの進行抑制に希望を持ちたい時に十全大補湯(48)

患者から「がんをなるべく抑える漢方薬を飲みたい」と言われた場合は十全大補湯(48)を推奨する。十全大補湯には免疫賦活作用4)、抗腫瘍作用5)、化学療法による副作用軽減(倦怠感、食欲不振)などの報告があり、がん患者に頻用される。ただ、胃もたれに注意すべき生薬の地黄が含まれているため、食欲不振や胃もたれなどの症状がある場合には注意が必要である。
2の手:補中益気湯(41)
十全大補湯よりはがんに対するエビデンスは劣るが、補中益気湯にも免疫系賦活作用、化学療法や放射線療法による副作用(倦怠感、食欲不振)の軽減効果などが認められている。利点は健胃作用があり食欲不振や胃もたれを認める場合にも使いやすいことである。

症例のその後

冷え症で、手足を触ると冷たく、冷たい飲食物の摂取では下痢が悪化するとのことであった。
処方1:大建中湯(100)7.5g3×食後 7日間
7日後:「下痢は良くなりました。腹痛と腹部膨満も減っていますが、まだ時々あります。漢方薬はもう一つ増えても大丈夫です」
処方②:大建中湯(100)7.5g3×食後桂枝加芍薬湯(60)7.5g3×食後 7日間
14日後:「腹痛、腹部膨満はほとんど良くなりました。」

文献

  • 1) 犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
  • 2) Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
  • 3) Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
  • 4) 木岡清英,他:ヒト末梢血単核細胞のインターロイキン1β産生能および抗体産生に及ぼす十全大補湯の影響. 和漢医薬学誌, 4:332, 1987.
  • 5) 原中瑠璃子,他:十全大補湯,桂皮の抗腫瘍作用に関する研究. 和漢医薬学誌, 4:49, 1987.

循環器ジャーナル 第72巻 第1号 2024年1月 地域におけるこれからの心不全在宅医療 「在宅心不全患者に役立つ漢方薬の使い方」 執筆 土倉潤一郎

ポイント

ポイント
1.西洋と漢方のお互いの長所を活かした診療が望ましい。
2.心不全患者における漢方の出番は心不全治療よりも体調管理。
3.漢方薬を処方する際は必ず甘草の量をチェックする。

総論

1.西洋医学の限界が現代医学の限界ではない。
西洋医学の標準的なアプローチで効果不十分な場合に、「この治療法でも症状が取り切れないのであればしょうがない」と経過観察の方針となることが多いと思われる。一方で、このような一般的な困難事例に対して、漢方医学的なアプローチで容易に改善する場合も少なくない。西洋医学の限界が現代医学の限界ではなく、その他にも治療法がある可能性を探って欲しいと思われる。
漢方以外にもさまざまな治療法はあるが、日本において西洋薬以外では唯一の保険適応の薬剤である漢方薬を使わない手はないと思われる。確かに漢方薬はエビデンスが少なく、副作用の懸念も伴う。しかし、実臨床において漢方薬を適切に使用すれば患者の症状緩和に役立つと感じる。副作用に注意して処方することは西洋薬と同様であり、過度に怖がる必要はないと思われる。患者の困った症状にぜひ漢方薬を活かして頂きたい。
2. 漢方にも得意不得意がある
西洋医学にも漢方にも得意不得意がある。お互いの長所を活かした診療が望ましいことは言うまでもない。私見ではあるが、漢方の得意不得意な分野を図1に示す。残念ながら循環器領域(虚血性心疾患、不整脈、弁膜症、心不全、高血圧症、脂質異常症など)への治療には不得意と言わざるを得ない。
また、診療科においても漢方との親和性に差があると感じる。それは学会や研究会の数にも反映されている。漢方との親和性が高いと思われる、産婦人科、心療内科、耳鼻咽喉科、消化器内科、小児科、小児外科、脳神経外科などは一定以上の規模で学会や研究会が発足されている。
3.心不全患者に漢方の出番はあるのか?
図1に示すように、漢方薬の長所を活かせる分野は心不全自体よりも、こむら返り、便秘、めまい、心臓神経症、倦怠感、慢性下痢、食欲不振といった心不全患者の体調不良に対するアプローチ、QOLの改善と思われる。
例えば、便秘、慢性下痢、食欲不振などで栄養状態が悪化している場合、めまいや倦怠感などでリハビリテーションが滞っている場合に、漢方薬でこれらの症状が改善し、栄養療法やリハビリテーションを行うことが可能になれば、間接的ではあるが漢方薬も心不全管理に役立つ可能性もあると思われる

各論

使用頻度
★少ない、
★★中間、
★★★多い
で表示

有効率
★30%以下、
★★50%前後、
★★★70%以上
で表示

甘草の量 常用量における甘草の量
*使用頻度、有効率は私見のためご参考まで。
*今回掲載した漢方薬には利便性のため株式会社ツムラの製品番号を併記した。

便秘

心不全患者にとって便秘は食欲不振や(いきむことによる)心負荷に繋がる可能性があるため、排便コントロールは重要である。また高齢者においてはさらに便秘傾向となりやすいため、高齢者の難治性便秘にも対応していく必要がある。
高齢者の難治性便秘に麻子仁丸(126)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★★
甘草の量 なし

□作用
麻子仁丸には瀉下作用(便を出す)に加え、腸蠕動促進作用や潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする)などがある。腸蠕動が低下し、乾燥傾向となりやすい高齢者向けの漢方薬である。

□使い方
比較的強い便秘薬のため、軽度の便秘ではなく、中等度以上の難治性便秘に使用する。目安としては「排便間隔が数日以上の高齢者」には第一選択で使用してよい。状況によって異なるが1回1包の頓用や1日1~2包から開始することが多い。腸蠕動促進作用や潤腸作用の影響か、麻子仁丸を服用した患者からは「便がスッキリでた」と快便に喜ばれることが少なくない。複数の便秘薬(西洋薬)を服用している場合は、麻子仁丸を追加することで、その他の便秘薬を減らせることもある。服薬が多い心不全患者にとって、減薬に繋がる可能性があることは大きい。
個人的には高齢者において最も処方頻度が多い漢方薬であり、ぜひ覚えて頂きたい。

□注意事項
大黄(センノシド)も含まれるが、腹痛や腹部膨満を緩和する生薬も含まれており、腹痛の副作用は少ない。甘草が含まれていないことも高齢者、心不全にとってメリットが大きい。

西洋薬が合わない軽度の便秘に大建中湯(100)

使用頻度 ★☆☆
有効率 ★★★
甘草の量 なし

□作用
大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整える漢方薬で、便秘以外にも下痢や腹部膨満などにも使用できる“温める整腸剤”のイメージ。

□使い方
軽度の便秘で、少量の便秘薬を服用すると下痢、服用しないと便秘となるような西洋薬が合わないタイプに良い。頻度は少ないが、このような場合は冷え症で腸管が冷えていることが多く、腸管を温める大建中湯が適合しやすい。冷え症ではない場合には桂枝加芍薬湯(60)を使用する。

□注意事項
多く服用しても下痢になることは少ない。暑がりタイプに使用すると体が暑くなるため注意。1日6包が常用量。

食欲不振

食欲不振が持続すると低栄養、フレイルなどが進行し、心不全や生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。食欲不振に対する西洋薬は限られているため、漢方薬の存在は大きいと思われる
食欲不振に代表的な六君子湯(43)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★☆
甘草の量 1g/日

□作用
生薬の働きからは「胃の水毒」をさばく漢方薬で、「胃の水毒」が関与した食欲不振に効果を示す。昔から、「胃の水毒」は胃と繋がっている舌の所見で予想し、胃の水毒(浮腫)を舌の浮腫(腫れぼったい感じ)で判断する(図2)。もともと胃が弱く食欲不振になりやすい人や心不全患者には「胃の水毒」のタイプが比較的多く、六君子湯の適応となりやすい。基礎研究では食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用1)、胃排出能促進作用2)、胃適応性弛緩作用3)などが認められている。

□使い方
本来は舌の浮腫を確認した方が有効率は高いが、心不全患者の食欲不振にとりあえず六君子湯を使用してもよいと思われる。効果判定は1ヶ月程度で、甘草も含まれるため必要最小限がよい。

□注意事項
甘草1g/日が含まれる。

ストレス性の食欲不振に茯苓飲合半夏厚朴湯(116)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★☆
甘草の量 なし

□作用
茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤で、ストレス性の食欲不振に対応する茯苓飲に半夏厚朴湯が加わることでさらに自律神経調節作用を強化している。ストレス性の食欲不振には第一選択となるが、実は六君子湯が含まれる構成となっている。さらに甘草が含まれないため、「六君子湯を使いたいが甘草は避けたい」場合にも使用できる。個人的には上記の理由から六君子湯よりも頻用している。

□使い方
典型的には、元々胃は弱くない人がストレスによって食欲低下を認める場合に適合しやすい。また、空腹感がない場合よりも、少し空腹感があって食べるとすぐに食べられなくなる早期飽満感やゲップなどの方が有効率は高い。イメージとしてはストレスで胃の蠕動や拡張が低下している状態を改善させる漢方薬である。ただ、上記の理由で「六君子湯-甘草」として使用してもよいと思われる。

注意事項
特になし

慢性下痢

急性下痢は自然軽快することが多いため大きな問題となることは少ないと思われるが、一般的な止痢薬でも改善しない慢性下痢の場合は長期に渡ると食欲不振、脱水、腎不全などに繋がる可能性があり早期の改善が望ましい慢性下痢に関しては漢方薬の方が優れる可能性がある
慢性下痢に代表的な半夏瀉心湯(14)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★☆
甘草の量 2.5g/日

□作用
半夏瀉心湯には抗炎症作用と温熱作用があり、下痢に対して急性期から慢性期まで幅広く対応できる。水様性下痢が持続すると体液が外に出ることで熱を奪われる影響か、腸管が冷える傾向にある。そのため、腸管を温める作用も必要になってくる。

□使い方
半夏瀉心湯は幅広く対応できるため、慢性下痢に対してとりあえず使用してよいと思われる。また腹鳴も特徴的といわれており、“お腹ゴロゴロ半夏瀉心湯”で覚えるとよい。効果不十分な場合は腸管の冷えが強く、大建中湯が必要なことが多い。

□注意事項
甘草と肝障害に注意すべき黄芩が含まれているため、必要最小限がよいと思われる。味はやや苦い。

冷え症の慢性下痢に大建中湯(100)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★★
甘草の量 なし

□作用
大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整える漢方薬で、便秘に使用することが多いと思われるが、実は下痢、腹痛、腹部膨満にも効果的である。基礎研究では、大建中湯には腸管運動亢進作用4)を認める一方で、腸管運動亢進モデルには腸管運動抑制作用5)をもたらす働きがあり、調節的に作用することが示されている。腸内を丁度良い状態にしてくれる“温める整腸剤”のイメージである。

□使い方
大建中湯は腸管を温める漢方薬であるため、下痢や腹痛の背景に“腸管の冷え”がないと効果を示さない。“腸管の冷え”を予測する徴候としては、「冷え症、お腹が冷える、腹診で臍周囲がその他よりも冷たい、冷たい飲食物で下痢が悪化する、温めると緩和する、便臭があまりしない」などがある。ただ、慢性下痢(水様性)の場合、体液が外に出ることで熱を奪われる影響か腸管が冷えていることが多く、大建中湯の適応となりやすい

□注意事項
腸管の冷えがない場合に使用すると体が暑くなるため注意。1日6包が常用量。

倦怠感

低灌流による倦怠感には漢方薬も効果不十分なことがあるが、試す価値はあると思われる。低灌流の関与しない倦怠感の方が有効率は高くなる印象。少なくとも心不全の倦怠感に対する西洋薬は限定的なため、漢方薬の存在は大きいと思われる
倦怠感に代表的な補中益気湯(41)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★☆
甘草の量 1.5g/日

□作用
補中益気湯には気力を補う補気作用と健胃作用があり、食欲不振や胃が弱い人にも対応できる。

□使い方
補中益気湯の特徴は健胃作用であり、食欲不振や胃が弱い人の倦怠感には第一選択となる。本剤は幅広い層で使用でき、デメリットも少ない漢方薬であるため、胃が丈夫であってもとりあえず処方してよいと思われる

□注意事項
甘草1.5g/日が含まれる

気力と体力を補う十全大補湯(48)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★☆
甘草の量 1.5/日

□作用
十全大補湯には補気作用の四君子湯(75)と補血作用の四物湯(71)が含まれている。四君子湯は上記の補中益気湯にも含まれているため、四物湯が本剤の特徴となる。四物湯の補血作用は、貧血の改善だけでなく、潤いや栄養などの改善も含まれるため、四君子湯が気力を補うことに対して、四物湯は体力を補うイメージである。

□使い方
簡単に表現すれば、十全大補湯は四物湯が含まれる分、補中益気湯よりも強い漢方薬であり、倦怠感が強い場合には十全大補湯を優先して使用する。ただ、四物湯には地黄という胃もたれに注意すべき生薬が含まれるため、胃が弱い人には1日1~2包の少量からの開始か、補中益気湯の選択の方が望ましい。

□注意事項
胃もたれに注意。甘草1.5g/日が含まれる。

抑うつ傾向の倦怠感に加味帰脾湯(137)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★☆
甘草の量 1.0g/日

□作用
加味帰脾湯には気力を補う補気作用と抗うつ作用、自律神経調節作用がある。

□使い方
不眠や抑うつなどを伴う倦怠感には加味帰脾湯が第一選択である。また、倦怠感が午後よりも午前の方が強いタイプも鬱の関与の可能性があり、本剤を優先して使用する。抗うつ作用、自律神経調節作用もあるため、倦怠感だけでなく、不眠や抑うつも改善する可能性がある。

□注意事項
甘草1.0g/日が含まれる。

めまい

めまいは比較的漢方薬が得意としている分野と思われる。めまいで日常生活に支障がある場合、リハビリなどが進まない場合には漢方薬を積極的に勧めてよいと思われる。
起立性・頭位性のめまいに苓桂朮甘湯(39)

使用頻度 ★★☆
有効率 ★★★
甘草の量 2.0g/日

□作用
苓桂朮甘湯は、血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されており6)、起立性低血圧や立ちくらみなどに頻用される。

□使い方
苓桂朮甘湯は坐位時や立位時におきる起立性めまい頭の向きを動かした時におきる頭位性めまいに第一選択である。起立性めまいとしては、起立性低血圧、たちくらみ、起立性調節障害なども含まれる。

□注意事項
甘草2.0g/日と比較的量が多いため、高齢者の場合はできるだけ必要最小限がよいと思われる。

浮動性・動揺性めまいに真武湯(30)

使用頻度 ★☆☆
有効率 ★★☆
甘草の量 なし

□作用
体を温めてめまいを改善させる漢方薬であるため、冷え症タイプに適合しやすい

□使い方
歩いていてフワフワするような浮動性めまいクラっとするような動揺性めまいには真武湯が第一選択である。冷え症ではない場合には苓桂朮甘湯や五苓散(17)を使用する。
またフワフワするめまいはストレス性の場合もあり、女性は加味逍遙散(24)、男性は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、高齢者は釣藤散(47)などの抗ストレス作用、自律神経調節作用の漢方薬を使用する。

□注意事項
暑がりタイプに使用すると体が暑くなるため注意。

下腿浮腫

心不全の増悪による下腿浮腫には漢方薬の効果が乏しい印象だが、心不全治療でも取り切れない下腿浮腫や心不全の関与しない下腿浮腫などには漢方薬の出番があると思われる。
高齢者の下腿浮腫に牛車腎気丸(107)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★☆
甘草の量 なし

□作用
牛車腎気丸には水分代謝調節作用、末梢循環改善作用、温熱作用があり、高齢者の下腿浮腫に代表的な漢方薬である。

□使い方
高齢者の下腿浮腫には末梢循環障害や冷えを伴うことが多く、牛車腎気丸が第一選択となる。暑がりタイプには六味丸(87)や五苓散(17)を使用する。フロセミドのような速効性は乏しく、月単位で少しずつ減少していくことが多い。効果不十分な場合には当帰芍薬散や五苓散を併用する。

□注意事項
胃もたれに注意すべき地黄が含まれている。

オールラウンダーの五苓散(17)

使用頻度 ★★★
有効率 ★☆☆
甘草の量 なし

□作用
五苓散は水輸送チャネルのアクアポリンを介して働くことが示されている水代謝調節薬(利水薬)である。フロセミドのような強制的な利尿作用とは異なり、溢水には利尿作用を示す一方で、脱水には抗利尿作用として働く7)。すなわち水分バランスを丁度よい状態にする作用があり、多く服用しても脱水になることは少ない。またナトリウムやカリウムなどの電解質にも影響しない8)

□使い方
五苓散は利水薬の代表で、特に注意事項はなく、浮腫があればとりあえず使用してよい漢方薬である。用量依存性があるため、効果不十分な場合は増量や牛車腎気丸(107)や当帰芍薬散(23)など他の利水薬の併用を検討する。下腿浮腫だけでなく、低アルブミン血症などの全身浮腫にも使用できる。

□注意事項
特になし

こむら返り

こむら返りの治療は西洋薬よりも漢方薬の方が得意と思われる。頻度が少ない場合には芍薬甘草湯の頓用でもよいが、甘草の量が多いため、長期の服用には注意が必要である。
軽度のこむら返りに芍薬甘草湯(68)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★★
甘草の量 6g/日

□作用
芍薬甘草湯は芍薬と甘草の2つの生薬で構成されており、横紋筋と平滑筋に対して鎮痙鎮痛作用として働く。漢方薬の性質として生薬が少ないほど速効性があるため、芍薬甘草湯の効果発現は早い

□使い方
速効性があること、甘草の量が多いことから、基本的には1回1~2包の頓用が望ましい。ただ、頻度が多い場合、例えば明け方のこむら返りに対して寝る前1包を定期服用することもあるが、偽アルドステロン症のリスクを考慮し、必要最小限が良いと思われる。

□注意事項
甘草が1包に2g含まれており、1日3包だと6g/日と多い。

中等度以上のこむら返りに疎経活血湯(53)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★★
甘草の量 1g/日

□作用
通常、疎経活血湯は腰痛や下肢しびれなど整形外科的な疼痛やしびれに使用する漢方薬だが、こむら返りにも非常に高い効果を示す。17種類の生薬で構成され、芍薬と甘草も含まれるが甘草の量が少なく、その他の下肢の血流改善作用や鎮痛鎮痙作用の生薬が多く含まれている。

□使い方
芍薬甘草湯と比較して速効性はやや劣り、持続性と有効性に優れる。よって、発作時には芍薬甘草湯で、予防投与としては疎経活血湯の方が良い。用量依存性と時間依存性があり、1包よりも2包の方が効果は高く、なるべく発作に近い時間帯の服用が望ましい。よって、明け方のこむら返りには疎経活血湯3包3×食前よりも「眠前2包」の方が効果は高く、筆者の調査では「眠前2包」の有効率は90%以上であり、芍薬甘草湯の報告よりも優れていた9)。例えば、午前中と明け方にこむら返りを繰り返す場合は「朝1包・眠前2包」と発症の時間帯によって調節することも重要である。

□注意事項
甘草1g/日が含まれる。味が苦いため、事前に患者へ説明しておいた方が親切。

心臓神経症

心不全患者にも器質的疾患のない胸痛や無害性の期外収縮などの動悸を認めることがある。心因性、ストレス性の胸部症状にはベンゾジアゼピンを使用する前にぜひ漢方薬を試して頂きたい
心因性の胸痛・動悸に半夏厚朴湯(16)

使用頻度 ★★★
有効率 ★★★
甘草の量 なし

□作用
半夏厚朴湯は軽度の抗うつ作用、自律神経調節作用があり、特に喉~胸部の閉塞症状(喉のつまり、胸部圧迫感など)の改善を得意としている漢方薬である。

□使い方
心因性やストレス性の胸部症状には半夏厚朴湯が第一選択である。特に喉のつまりや胸部圧迫感のような喉~胸部の閉塞症状には有効性が高い。動悸症状もベンゾジアゼピンが対象となるような場合には半夏厚朴湯も適応となる。半夏厚朴湯で効果不十分な場合、男性は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)女性は加味逍遙散(24)うつ傾向には加味帰脾湯(137)を併用するとさらに効果的である。半夏厚朴湯は非心臓性であっても肋軟骨炎などのような胸痛には効果を示さないため、正確に鑑別する必要がある。

□注意事項
特になし

心不全

心不全自体に対する漢方治療は得意分野ではないが、標準的治療で効果不十分な場合、症状安定を目的に漢方薬を併用することもある。
浮腫タイプの心不全に五苓散(17)

使用頻度 ★☆☆
有効率 ★☆☆
甘草の量 なし

□作用
五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリンを介して水分の代謝調節を行う。強制利尿はなく、水分バランスの調節を行うため効果はマイルドだが、脱水や電解質異常のリスクは少ない。

□使い方
個人的には心不全の急性増悪時よりも比較的安定した代償期に五苓散を併用し、ループ利尿薬の増量をなるべく防ぐ、あるいは標準的治療で取り切れないthird spaceの体液貯留を減らす目的で使用する。冷え症の場合は温めるタイプの当帰芍薬散(23)を選択する。

□注意事項
特になし

HFrEFのうっ血タイプに木防已湯(36)

使用頻度 ★☆☆
有効率 ★☆☆
甘草の量 なし

□作用
木防已湯はラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くこと(≒血管拡張作用)心収縮力増大作用が示されている10)11)

□使い方
上記の作用のため、HFrEFにおいて標準的治療でも肺うっ血や息切れが残る場合などに使用することが多い。清熱作用の石膏が含まれるため、寒がりタイプには使用しづらいが、特に非高齢者のHFrEF患者は暑がりタイプが多い印象。冷え症には当帰芍薬散(23)を選択する。

□注意事項
寒がりタイプには使用しづらい。

副作用

漢方薬の生薬の中で特に注意すべき副作用がある甘草、黄芩おうごん地黄じおうについて解説する。
甘草による偽アルドステロン症(浮腫、血圧上昇、低カリウム血症)
心不全に関しては、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪と紛らわしい"などがあり、最も注意すべき副作用である。甘草による偽アルドステロン症は特に高齢者(その中でも女性)に多い12)とされており、個人的には在宅医療の対象となるようなADLが低下した要介護者はさらにリスクが高いと感じる。よって特に高齢の在宅心不全患者に甘草を含む漢方薬を長期服用する場合には十分な注意が必要である。
黄芩による肝障害・間質性肺炎
漢方薬による副作用で肝障害(7.1%)13)、間質性肺炎(0.004%)14)の報告があるが、その原因となる生薬の9割以上が黄芩である。発症年齢の分布は40~70代に多く、高齢者は少ない。よって、その世代に黄芩を含む漢方薬を処方する際には副作用を意識して定期的な採血や聴診が必要である。本稿で取り上げた漢方薬の中では柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、半夏瀉心湯(14)に含まれる。
地黄による胃もたれ
特に胃が弱い人においては、地黄で胃もたれや食欲不振をきたすことがある。対応としては、漢方薬の減量・中止、食後の服用などがある。本稿で取り上げた漢方薬の中では、十全大補湯(48)、疎経活血湯(53)、四物湯(71)、六味丸(87)、牛車腎気丸(107)に含まれる。

漢方薬を処方する際のポイント

①まず患者に漢方薬の希望を聞く
患者によっては漢方薬の味や細粒が苦手なことも多い。また、治療効果への期待としても漢方薬より西洋薬を希望する場合もある。漢方薬を希望しない患者に(気づかずに)漢方薬を処方しても服薬コンプライアンスは悪く、患者だけでなく処方医にとっても残念な結果となることが多い。漢方薬を希望されない場合は無理をせず、希望されるまで待つのが賢明である。

②柔軟さが必要
患者に応じて、1日2回や食後の処方など柔軟な対応が必要である。「味」や「顆粒」で飲みづらい場合は、「味がマスクされる飲み物などと一緒に飲む」「オブラートを使用する」「錠剤やカプセルタイプがあれば選択する(製薬会社によって異なる)」「お湯に溶かして飲む」などの方法がある。

③効果判定は?
対象疾患と漢方薬によっても異なる。例えば、こむら返りに対する芍薬甘草湯や風邪に対する漢方薬は分単位で評価できる。上記に述べた慢性疾患に対する漢方薬は2~4週間程度で改善を認めることが多く、1~2ヶ月後に改善がなければ変更あるいは中止を検討している。

④毎回、残薬の確認を行う
漢方薬は西洋薬と比較的して残薬が増える傾向にあると思われる。残薬の状況を知ることで、残薬整理だけでなく、患者の漢方薬に対する必要性の度合いを確認できる。

⑤漢方薬の中止基準は?
特に基準はなく、基本的には「症状が落ち着いている状態で、減量・中止を試みて、再増悪しなければ中止可」となるが、中止できる期間としては、器質的疾患の有無、対象疾患、罹患期間、重症度などによって異なる。患者が減量・中止を希望した時や残薬が増えた時が、減量・中止を検討するタイミングとなることも多い。患者自身が感じる必要性に応じて判断するとスムーズである。

⑥腎不全・肝不全への対応
基本的に腎障害、肝障害の患者に漢方薬の減量の必要はないとされている。

文献

  • 1) Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59:62-66, 2012
  • 2) Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomaized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7):950-61, 2014.
  • 3) Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20):2195-202, 2010.
  • 4) Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
  • 5) Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
  • 6) 塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994.
  • 7) 田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994
  • 8) 原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981
  • 9) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
  • 10) Nishida S, et al:Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007
  • 11) 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. Pharma Medica. 新春増刊号:193-200, 1986
  • 12) 稲木一元, 他:臨床医のための漢方Q&A. 東京都, 中外医学社, 2014, 211-212.
  • 13) 堀池典生,他:薬物性肝障害の実態-全国集計-. 薬物性肝障害の実態. 中外医学社. 2008, 1-10.
  • 14) 本間行彦:小柴胡湯による間質性肺炎について. 日本東洋医学雑誌. 47(1), 1996, 1-4.

薬局 2025年7月号 スペシャリスト厳選!定番ベスト漢方薬 南山堂
循環器科領域 執筆 土倉潤一郎

①わたしの定番ベスト漢方薬

主症状/シーン 鉄板処方 新定番処方 大穴処方
動悸 柴胡加竜骨牡蛎湯
加味逍遙散
半夏厚朴湯 炙甘草湯
胸痛/心臓神経症 半夏厚朴湯 柴胡加竜骨牡蛎湯
加味逍遙散 加味帰脾湯
木防已湯
起立性低血圧/立ちくらみ/起立性調節障害 苓桂朮甘湯 補中益気湯
人参養栄湯
加味帰脾湯
五苓散
浮腫 五苓散 牛車腎気丸 当帰芍薬散

②循環器科領域での漢方薬の使いどころ

□動悸
循環器科領域において最も漢方薬が有用と思われる症候が動悸である。すなわち標準的な治療では取り切れない症状が比較的多く、かつ漢方薬が得意としている分野なのである。心室頻拍、発作性上室性頻拍、発作性心房細動などには西洋治療が中心となるが、不整脈のない動悸、期外収縮、心房頻拍などは症状コントロールが主体となり、西洋薬よりも漢方薬の方が有用である。動悸には自律神経異常の関与が多く、自律神経を調節するタイプの漢方薬が主体となる。動悸の患者をよく観察すると、意外と背景にストレスや不眠などが多く、動悸や不整脈自体を治すというよりは心身ともに整えて、その結果、動悸症状も落ち着くようなアプローチになる。

動悸に関与する漢方医学的な病態として、気逆、気鬱、血虚がある。
  • 気逆きぎゃく気の逆上のことで、動悸やのぼせなど気が上向きのベクトルの状態を指す。竜骨、牡蠣、桂皮+甘草、黄連などの気を降ろす生薬(主に交感神経抑制)が治療薬となる。例:柴胡加竜骨牡蛎湯、炙甘草湯、桂枝加竜骨牡蛎湯、黄連解毒湯など。
  • 気鬱きうつ気のうっ滞のことで、抑うつ、不眠などがある。柴胡、山梔子、半夏、厚朴、茯苓、蘇葉などの気の巡りを改善する生薬が治療薬となる。例:柴胡加竜骨牡蛎湯、加味逍遙散、半夏厚朴湯など。
  • 血虚けっきょ潤い、栄養、血液などが臓器の末端で不足する病態で、脱毛、皮膚乾燥、爪が脆い、倦怠感などがある。地黄、当帰、芍薬などのけつを補う生薬が治療薬となる。動悸の原因の一つに血虚が関与するといわれている(細かく言えば気血水のいずれの不足も関与している)。例:炙甘草湯、当帰芍薬散
鉄板処方
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:気逆、気鬱に対応する。自律神経調節作用、抗うつ作用、抗ストレス作用などがある。交感神経緊張の抑制作用1)、アドレナリン作動性神経系の抑制作用2)が報告されているが、抑うつなどにも効果を示すため実臨床の印象としては交感神経抑制だけでなく、自律神経を調節するイメージである。10歳代~60歳代の男性の動悸に使用することが多い。暑がりタイプに適合しやすいため、寒がりタイプの男性には柴胡桂枝乾姜湯を使用する。不眠、抑うつ、不安などにも効果がある。
  • 加味逍遙散:気逆、気鬱に対応する。自律神経調節作用(主に交感神経抑制)、抗不安作用、抗ストレス作用、抗うつ作用、女性ホルモン調節作用などがあり、自律神経症状、精神症状、血管運動神経症状(ホットフラッシュなど)によい。全体的なイメージとしては緩める方向性の薬剤で、女性の自律神経や女性ホルモンを調節し、動悸以外にイライラ、肩こり、緊張型頭痛、不眠、めまい、ホットフラッシュ、月経前症候群、月経痛なども緩和する可能性がある。特に更年期世代や月経周期に伴う動悸には最優先で用いられるが、10歳代~60歳代の女性の動悸に幅広く使用できる。
新定番処方
  • 半夏厚朴湯:気鬱に対応する。自律神経調節作用、抗ストレス作用などがある。上記の漢方薬と併用することでさらに動悸が改善する可能性がある。咽喉頭異常感症(喉のつまり感)、呼吸苦、胸が締めつけられるなどの喉~胸部の閉塞症状が有名な使用目標であり、これらがあれば優先して使用する。抑うつ、不安、不眠などにも効果がある。
大穴処方
  • 炙甘草湯:気逆、血虚に対応する。自律神経や精神症状の関与に乏しい動悸に第一選択となる。動悸を抑える作用以外に気力・体力を補う作用もあるため、倦怠感などにも効果がある。

*症例 40歳代女性 動悸
現病歴:数ヶ月前から週2,3回程度の動悸を認めていたが最近は毎日認める。また、その頃から仕事のストレスが増え、喉から胸にかけて苦しい感じがあり、不安や不眠も伴う。
心電図で心室性期外収縮を認める以外は異常所見なし。
【処方①】
加味逍遥散1回1包 1日3回 14日分
【14日後】
「動悸は半分程度に減った。以前より眠れるようになったけど、胸の苦しさはまだある。」
【処方②】
加味逍遥散1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 14日分
【28日後】
「だいぶ良いです。動悸も胸の苦しさもほとんど良くなりました。」

□胸痛
胸痛の原因はさまざまであるが、今回はストレスなどが関与した器質的疾患のない心臓神経症を対象とする。胸痛の中でも、「胸が痛い」といった鋭い痛みよりも「胸が締めつけられる」「胸部圧迫感」のことが多い。ベンゾジアゼピンなどを使用することもあるが、副作用の観点からは漢方薬を優先してよいと思われる。

鉄板処方
  • 半夏厚朴湯:ストレスや精神症状が関与した胸痛には本剤が第一選択である。老若男女の幅広い層で使用できる。抗不安作用、抗うつ作用などがあるが、喉~胸の閉塞症状(喉のつまり感、胸のつまり感、呼吸困難感、大きく息を吸いづらいなど)の緩和を得意としている。不安や不眠などにも効果がある。
新定番処方
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯:
    自律神経調節作用、抗うつ作用、抗ストレス作用がある。半夏厚朴湯では効果不十分な場合に併用する。主に男性に使用することが多い。
  • 加味逍遙散:
    自律神経調節作用、抗ストレス作用、抗不安作用、抗うつ作用がある。半夏厚朴湯では効果不十分な場合に併用する。主に女性に使用することが多い。
  • 加味帰脾湯:
    抗うつ作用、抗ストレス作用がある。半夏厚朴湯に併用することが多いが、上記の柴胡加竜骨牡蛎湯や加味逍遙散で効果不十分な場合、高齢者などに使用する。
大穴処方
  • 木防已湯:
    血管拡張作用3)があり、冠攣縮性狭心症に伴う胸痛に効果がある。一見、心臓神経症と思われる症例でも、spasmの関与がある場合もあり、上記の漢方薬で効果不十分な場合には試してよいと思われる。

*症例 50歳代男性 心臓神経症、不眠症
現病歴:3ヶ月前より仕事が忙しくなり、胸が圧迫される感じが出現。主に仕事中に出現する。労作時には胸痛なし。ニトロで改善なし。心電図などの検査で異常所見なし。最近、中途覚醒が2回程度あり、その後眠れないことも多い。
【処方①】
半夏厚朴湯1回1包 1日3回 14日分
【14日後】
「胸部圧迫感は1/3ぐらいに減りました。中途覚醒はまだあります。」
【処方②】
半夏厚朴湯1回1包+柴胡加竜骨牡蛎湯1回1包 1日3回 14日分
【28日後】
「胸部圧迫感はありません。夜も眠れるようになりました。」

起立性低血圧/立ちくらみ/起立性調節障害
立ちくらみや起立性調節障害に対しては、十分な西洋薬がなく、漢方薬の得意分野と思われる。起立性低血圧に対する西洋薬はあるが、効果不十分な場合には漢方薬を併用すると更に良い場合もある。

鉄板処方
苓桂朮甘湯:
末梢血管抵抗を増加させる作用4)があり、起立性低血圧、立ちくらみ、起立性調節障害に第一選択である。立ちくらみ程度であればかなり有効率は高い。起立性調節障害にも効果を示すことが多いが、症状が残存する場合は下記の漢方薬を併用する。
新定番処方
  • 補中益気湯:
    補気作用で気力を補う。健胃作用もあるため、胃もたれや食欲不振にも対応できる。苓桂朮甘湯に併用する。
  • 人参養栄湯:
    補気作用、補血作用があり、気力だけでなく体力も補うイメージである。補中益気湯よりもパワーがあるが、胃もたれに注意すべき生薬が含まれているのが難点。胃が弱い人には1日1、2回の食後で処方するか、補中益気湯を選択する。
  • 加味帰脾湯:
    補中益気湯のほとんどが含まれており、かつ自律神経調節作用、抗ストレス作用がある。主に不眠、抑うつ、午前中の倦怠感がある場合に優先して使用する。
大穴処方
  • 五苓散:
    水代謝調節作用があり、水毒といわれる水代謝分布異常の病態に対応する。水毒症状には浮腫、低気圧時に悪化する頭痛、めまい、車酔いしやすいなどがある。立ちくらみや起立性調節障害の人は水毒体質者であることが多い。苓桂朮甘湯も水代謝調節作用があるが、さらに効果を高めるためには五苓散を併用する。低気圧時の症状悪化が残存している場合に使用することが多い。

*症例 15歳代女性 立ちくらみ、起立性調節障害
現病歴:半年前から朝が起きられなくなり、学校には週1,2,回、午後から行っている。立ちくらみを毎日認める。低気圧時には頭痛やめまいが悪く動けなくなる。小児科を受診し起立性調節障害と診断され西洋薬を服用しているが改善なく来院。
【処方①】
苓桂朮甘湯1回1包 1日3回 14日分
【14日後】
「以前より朝が起きられるようになりました。少し遅刻しますが毎日学校に行っています。立ちくらみも減りました。天気が悪い日はまだ体調が悪いです。」
【処方②】
苓桂朮甘湯1回1包+五苓散1回1包 1日3回 14日分
【28日後】
「朝から学校に行けています。天気が悪い日も頭痛やめまいはないです。」

□浮腫
病態にもよるが基本的には西洋薬が優先される分野であり、漢方薬よりも効果が高いことが多い。漢方薬では水代謝調節作用を有する利水(・)薬が使用される。利水(・)薬は利尿薬と異なり、溢水には利尿作用、脱水には抗利尿作用として働く5)。すなわち、水分バランスを調節する働きで除水作用は弱い。用量依存性があるため、効果不十分な場合は増量すると利水作用が増す。電解質に与える影響はほとんどないため6)、増量しても安心して使用できる。主に西洋薬の利尿薬の適応外の病態(若い女性の浮腫など)、利尿薬でも浮腫が取り切れない場合などに漢方薬(利水薬)を使用することが多い。
 

鉄板処方
  • 五苓散:
    利水薬の代表である。五苓散には5つの生薬が含まれるがそのうち4つが利水作用の生薬である。五苓散には水輸送チャネルのアクアポリンを介して働くことが分かっており、その中でも脳に多く分布するアクアポリン4に作用する。よって五苓散は下腿浮腫よりも脳浮腫に効果が高く脳神経外科領域で頻用されている。
    また五苓散のアクアポリンを介する作用は溜まった水を引き戻すのではなく、正常ではない位置に行かないように働く7)。すなわち、浮腫が発生してから五苓散を服用するよりも、事前に五苓散を服用して浮腫が発生しないようにする方が効率的である。よって、立ち仕事などで夕方に下腿浮腫が増悪する場合には朝、昼、夕に1包ずつよりも、朝に2包、昼に1包の方が効果を発揮しやすい。
    五苓散は利水薬の中でもオールラウンダーであり、老若男女にとりあえず使用できるが、高齢者よりも若い人の方が効果を認めやすい。
新定番処方
  • 牛車腎気丸:
    高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。温める生薬が含まれているため、冷え症タイプに適合しやすい。すぐに効果を示すことは少なく、評価に数ヶ月かかる場合もある。また、牛車腎気丸は浮腫だけでなく、腰痛、膝関節痛、下肢しびれ、認知機能低下、サルコペニアなどの加齢に伴う諸症状に効果を示す可能性がある漢方薬のため、浮腫は残存していても継続することも多い。地黄という胃もたれに注意すべき生薬が含まれているため、胃が弱い人には1日2回の食後などの工夫が必要である。
大穴処方
  • 当帰芍薬散:
    本剤は利水作用、温熱作用、末梢循環改善作用、女性ホルモン調節作用を有するため、浮腫や月経関連症状がある冷え症の女性に適合しやすい漢方薬である。五苓散よりも利水作用の生薬は少ないが、末梢循環改善作用の生薬も含まれるため、五苓散よりも効果が高い場合もある。若い女性の浮腫には頻用されるが、高齢者の下腿浮腫にも使用できる。

*症例 80歳代女性 下腿浮腫 心不全 腎不全
現病歴:慢性心不全(EF63%)、ペースメーカー植え込み後、三尖弁閉鎖不全症(中等度)、慢性腎臓病(Cr1.1mg/dl)で当院紹介。下腿浮腫が著明で歩きづらく困っている。利尿剤を増量すると腎不全が悪化する。脊柱菅狭窄症で下肢しびれも認める。下肢が冷える。
【処方①】
牛車腎気丸1回1包 1日2回 14日分
【14日後】
「足のむくみは少し減りました。体重が58.4kgから57.2kgへ減りました。」
【28日後】
「足のむくみはだいぶよいです。朝は足がすっきりしています。体重56.1kgに減りました。」

文献

  • 1)岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49, 766-774, 1999.
  • 2)伊藤忠信,他:柴胡加竜骨牡蛎湯および柴胡桂枝乾姜湯の中枢神経系に及ぼす作用-マウス脳内モノアミン含量および代謝に及ぼす影響-. 日本東洋医学雑誌 47, 593-601, 1997.
  • 3)Nishida S, et al:Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007.
  • 4)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994.
  • 5)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994.
  • 6)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981.
  • 7)Isohama:Y. J. Pharm. Soc. Jpn, 126:70-73, 2006.

漢方と最新治療 高齢者の総合診療と在宅医療の漢方
「在宅心不全患者に対する漢方薬の有用性」 執筆 土倉潤一郎

はじめに

心不全治療において、西洋薬が中心となることはいうまでもないが、標準的治療でも症状が残存し、患者のQOLが低下する場合も少なくない。それは息切れや浮腫などの心不全症状だけでなく、便秘やめまいなどその他の症状のこともある。特に高齢心不全患者においては、日本心不全学会の『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』で、「生命予後延長を目的とした薬物療法よりQOLの改善を優先するべき場合が少なくない」1)と記述されているように、QOLの改善や維持も心不全管理にとっては重要となる。
筆者の臨床経験からは、漢方薬は心不全そのものの治療というよりも、患者の全身状態、随伴症状の改善において有用性を発揮することが多いと考えられる。本稿では、循環器医・漢方医・在宅医という立場から、在宅心不全患者における漢方薬の実践的な活用について述べる。

1. 在宅医療における漢方薬の位置づけ

  • 一般的に、在宅医療は漢方薬との親和性が高いとされるが、実臨床では必ずしもそうとは限らない。在宅医療は通院困難な患者が対象になるが、ADLの低下に伴い、嚥下機能も低下していくことが多い。服薬の負担軽減が求められる状況において、服用量が多く服用しづらい漢方薬を新たに追加していくことは容易ではない。
  • 在宅医療では、患者の困った症状に対して迅速に対応し、早期に改善させないと自宅での生活が困難になる。疾患としても癌の終末期、難病、加齢性変化などで治療に難治する例も多い。その中で、有効率が高く、比較的早期に効果を示す漢方薬を選択する必要がある。
  • 高齢者は甘草による偽アルドステロン症のハイリスク群である。また、個人的な印象では、同じ高齢者でも外来通院されている人よりもADLが低下した人の方がさらにリスクが高い可能性があり、より一層、在宅医療での漢方薬の使用については注意が必要となる。

2. 心不全患者における漢方薬の位置づけ

  • 漢方薬は心不全自体の治療よりも心不全患者の全身管理により効果を発揮しやすいと思われる。また、「食欲不振の改善による栄養状態の改善」「便秘の改善による努責および心負荷の軽減」「ふらつきや倦怠感の改善によるリハビリテーションや活動性の向上」など、間接的に心不全の予後に良い影響を与える可能性もある。
  • 心不全患者においては、特に甘草の量、偽アルドステロン症に注意が必要である。
    その理由として以下が挙げられる。
    a)浮腫の増悪時に心不全悪化との鑑別が必要となる。
    b)偽アルドステロン症による体液貯留や血圧上昇で心不全が悪化する可能性がある。
    c)ループ利尿剤を服用していると甘草による低カリウム血症を助長する可能性がある。
    よって、可能な限り甘草を含まない漢方薬を選択し、甘草が含まれる場合は最小限にとどめることが望ましい。

3. 在宅心不全患者に頻用する漢方薬

1 便秘

心不全患者にとって便秘は食欲不振や(いきむことによる)心負荷に繋がる可能性があるため、排便コントロールは重要である。また高齢者においてはさらに便秘傾向となりやすいため、高齢者の難治性便秘にも対応していく必要がある。

  1. 高齢者の難治性便秘に麻子仁丸
    ■作用
    麻子仁丸には瀉下作用(便を出す)に加え、腸蠕動促進作用や潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする)などがある。腸蠕動が低下し、乾燥傾向となりやすい高齢者向けの漢方薬である。
    ■使い方
    比較的強い便秘薬のため、軽度の便秘ではなく、中等度以上の難治性便秘に使用する。目安としては「排便間隔が数日以上の高齢者」には第一選択で使用してよい。状況によって異なるが1回1包の頓用や1日1〜2包から開始することが多い。腸蠕動促進作用や潤腸作用の影響か、麻子仁丸を服用した患者からは「便がスッキリでた」と快便となり喜ばれることが多い。複数の便秘薬(西洋薬)を服用している場合は、麻子仁丸を追加することで、その他の便秘薬を減らせることもある。服薬が多い心不全患者にとって、減薬に繋がる可能性があることは大きい。
    ■注意事項
    大黄(センノシド)も含まれるが、腹痛や腹部膨満を緩和する生薬も含まれており、腹痛の副作用は少ない。甘草が含まれていないことも高齢者、心不全にとってメリットが大きい。
  2. 西洋薬が合わない軽度の便秘に大建中湯
    ■作用
    大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整える漢方薬で、便秘以外にも下痢や腹部膨満などにも使用できる“温める整腸剤”のイメージ。
    ■使い方
    軽度の便秘で、少量の便秘薬を服用すると下痢、服用しないと便秘となるような西洋薬が合わないタイプに良い。頻度は少ないが、このような場合は冷え症で腸管が冷えていることが多く、腸管を温める大建中湯が適合しやすい。冷え症ではない場合には桂枝加芍薬湯を使用する。
    ■注意事項
    多く服用しても下痢になることは少ない。暑がりタイプに使用すると体が暑くなるため注意。甘草は含まれない。
2 食欲不振

食欲不振が持続すると低栄養、フレイルなどが進行し、心不全や生命予後にも悪影響を及ぼす可能性がある。食欲不振に対する西洋薬は限られているため、漢方薬の存在は大きいと思われる。

  1. 食欲不振に代表的な六君子湯
    ■作用
    生薬の働きからは「胃の水毒」をさばく漢方薬で、「胃の水毒」が関与した食欲不振に効果を示す。昔から、「胃の水毒」は胃と繋がっている舌の所見で予想し、胃の水毒(浮腫)を舌の浮腫(腫れぼったい感じ)で判断する。もともと胃が弱く食欲不振になりやすい人や心不全患者には「胃の水毒」のタイプが比較的多く、六君子湯の適応となりやすい。基礎研究では食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用2)、胃排出能促進作用3)、胃適応性弛緩作用4)などが認められている。
    ■使い方
    本来は舌の浮腫を確認した方が有効率は高いが、心不全患者の食欲不振にとりあえず六君子湯を使用してもよいと思われる。効果判定は1ヶ月程度で、甘草も含まれるため必要最小限がよい。
    ■注意事項
    甘草が含まれる。
  2. ストレス性の食欲不振に茯苓飲合半夏厚朴湯
    ■作用
    茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤で、ストレス性の食欲不振に対応する茯苓飲に半夏厚朴湯が加わることでさらに自律神経調節作用を強化している。ストレス性の食欲不振には第一選択となるが、実は六君子湯の多くが含まれる構成となっている。さらに甘草が含まれないため、「六君子湯を使いたいが甘草は避けたい」場合にも使用できる。
    ■使い方
    典型的には、元々胃は弱くない人がストレスによって食欲低下を認める場合に適合しやすい。また、空腹感がない場合よりも、少し空腹感があって食べるとすぐに食べられなくなる早期飽満感やゲップなどの方が有効率は高い。イメージとしてはストレスで胃の蠕動や拡張が低下している状態を改善させる漢方薬である。ただ、上記の理由で「甘草が含まれない六君子湯」として使用してもよいと思われる。
    ■注意事項
    特になし。甘草は含まれない。
3 慢性下痢

急性下痢は自然軽快することが多いため大きな問題となることは少ないと思われるが、一般的な止痢薬でも改善しない慢性下痢の場合は長期に渡ると食欲不振、脱水、腎不全などに繋がる可能性があり早期の改善が望ましい。慢性下痢に関しては漢方薬の方が優れている可能性がある。

  1. 慢性下痢に代表的な半夏瀉心湯
    ■作用
    半夏瀉心湯には抗炎症作用と温熱作用があり、下痢に対して急性期から慢性期まで幅広く対応できる。水様性下痢が持続すると体液が外に出ることで熱を奪われる影響か、腸管が冷える傾向にある。そのため、腸管を温める作用も必要になってくる。
    ■使い方
    半夏瀉心湯は幅広く対応できるため、慢性下痢に対し第一選択薬として使用してよいと思われる。また腹鳴(お腹がゴロゴロと鳴る)も特徴的といわれている。効果不十分な場合は腸管の冷えが強く、大建中湯が必要なこともある。
    ■注意事項
    甘草が含まれる。また、肝障害に注意すべき黄芩も含まれている。味はやや苦い。
  2. 冷え症の慢性下痢に大建中湯
    ■作用
    大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整える漢方薬で、便秘に使用することが多いと思われるが、実は下痢、腹痛、腹部膨満にも効果的である。基礎研究では、大建中湯には腸管運動亢進作用5)を認める一方で、腸管運動亢進モデルには腸管運動抑制作用6)をもたらす働きがあり、調節的に作用することが示されている。
    ■使い方
    大建中湯は腸管を温める漢方薬であるため、下痢や腹痛の背景に“腸管の冷え”がないと効果を示さない。“腸管の冷え”を予測する徴候としては、「冷え症、お腹が冷える、腹診で臍周囲がその他よりも冷たい、冷たい飲食物で下痢が悪化する、温めると緩和する、便臭があまりしない」などがある。
    ■注意事項
    冷えがない場合に使用すると体が暑くなるため注意。甘草は含まれない。
4 倦怠感

低灌流による倦怠感には漢方薬も効果不十分なことがあるが、試す価値はあると思われる。低灌流の関与しない倦怠感の方が有効率は高くなる印象。少なくとも心不全の倦怠感に対する西洋薬は限定的なため、漢方薬の存在は大きいと思われる。

  1. 倦怠感に代表的な補中益気湯
    ■作用
    補中益気湯には気力を補う補気作用と健胃作用があり、食欲不振や胃が弱い人にも対応できる。
    ■使い方
    補中益気湯の特徴は健胃作用であり、食欲不振や胃が弱い人の倦怠感には第一選択となる。本剤は幅広い層で使用でき、デメリットも少ない漢方薬であるため、胃が丈夫であっても処方してよいと思われる。
    ■注意事項
    甘草が含まれる。
  2. 気力と体力を補う十全大補湯
    ■作用
    十全大補湯には補気作用の四君子湯と補血作用の四物湯が含まれている。四君子湯は上記の補中益気湯にも含まれているため、四物湯が本剤の特徴となる。四物湯の補血作用は、貧血の改善だけでなく、潤いや栄養などの改善も含まれるため、四君子湯が気力を補うことに対して、四物湯は体力を補うイメージである。
    ■使い方
    簡単に表現すれば、十全大補湯は四物湯が含まれる分、補中益気湯よりも強い漢方薬であり、倦怠感が強い場合には十全大補湯を優先して使用する。ただ、四物湯には地黄という胃もたれに注意すべき生薬が含まれるため、胃が弱い人には1日1〜2包の少量からの開始か、補中益気湯の選択の方が望ましい。
    ■注意事項
    胃もたれに注意。甘草が含まれる。
  3. 抑うつ傾向の倦怠感に加味帰脾湯
    ■作用
    加味帰脾湯には気力を補う補気作用と抗うつ作用、自律神経調節作用がある。
    ■使い方
    不眠や抑うつなどを伴う倦怠感には加味帰脾湯が第一選択である。また、倦怠感が午後よりも午前の方が強いタイプも鬱の関与の可能性があり、本剤を優先して使用する。抗うつ作用、自律神経調節作用もあるため、倦怠感だけでなく、不眠や抑うつも改善する可能性がある。
    ■注意事項
    甘草が含まれる。
5 めまい

めまいは比較的漢方薬が得意としている分野と思われる。めまいで日常生活に支障がある場合、リハビリなどが進まない場合には漢方薬を積極的に勧めてよいと思われる。

  1. 起立性・頭位性のめまいに苓桂朮甘湯
    ■作用
    苓桂朮甘湯は、血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されており7)、起立性低血圧や立ちくらみなどに頻用される。
    ■使い方
    苓桂朮甘湯は坐位時や立位時におきる起立性めまい、頭の向きを動かした時におきる頭位性めまいに第一選択である。起立性めまいとしては、起立性低血圧、たちくらみ、起立性調節障害なども含まれる。
    ■注意事項
    甘草の量が比較的多いため、高齢者の場合はできるだけ最小限の使用がよいと思われる。
  2. 浮動性・動揺性めまいに真武湯
    ■作用
    体を温めてめまいを改善させる漢方薬であるため、冷え症タイプに適合しやすい。
    ■使い方
    フワフワするような浮動性めまい、クラっとするような動揺性めまいがいずれも歩行時に認める場合は真武湯が第一選択である。起立直後に認める場合、冷え症ではない場合には苓桂朮甘湯を使用する。
    ■注意事項
    暑がりタイプに使用すると体が暑くなるため注意。甘草は含まれない。
6 下腿浮腫

心不全の増悪による下腿浮腫には漢方薬の効果が乏しい印象だが、心不全治療でも取り切れない下腿浮腫や利尿剤の適応とならない下腿浮腫などには漢方薬の出番があると思われる。

  1. 高齢者の下腿浮腫に牛車腎気丸
    ■作用
    牛車腎気丸には水分代謝調節作用、末梢循環改善作用、温熱作用があり、高齢者の下腿浮腫に代表的な漢方薬である。
    ■使い方
    高齢者の下腿浮腫には末梢循環障害や冷えを伴うことが多く、牛車腎気丸が第一選択となる。暑がりタイプには六味丸や五苓散を使用する。西洋薬のような速効性は乏しく、月単位で少しずつ減少していくことが多い。効果不十分な場合には当帰芍薬散や五苓散を併用する。
    ■注意事項
    胃もたれに注意すべき地黄が含まれている。甘草は含まれない。
  2. オールラウンダーの五苓散
    ■作用
    五苓散は水輸送チャネルのアクアポリンを介して働くことが示されている水代謝調節薬(利水薬)である。ループ利尿薬のような強制的な利尿作用とは異なり、溢水には利尿作用を示す一方で、脱水には抗利尿作用として働く8)。すなわち水分バランスを丁度よい状態にする作用があり、多く服用しても脱水になることは少ない。またナトリウムやカリウムなどの電解質にも影響しない9)
    ■使い方
    五苓散は利水薬の代表である。用量依存性があるため、効果不十分な場合は増量や牛車腎気丸や当帰芍薬散など他の利水薬の併用を検討する。下腿浮腫だけでなく、低アルブミン血症などの全身浮腫にも使用できる。
    ■注意事項
    特になし。甘草は含まれない。
7 こむら返り

こむら返りの治療は西洋薬よりも漢方薬の方が得意と思われる。頻度が少ない場合には芍薬甘草湯の頓用でもよいが、甘草の量が多いため、長期の服用には注意が必要である。

  1. 軽度のこむら返りに芍薬甘草湯
    ■作用
    芍薬甘草湯は芍薬と甘草の2つの生薬で構成されており、横紋筋と平滑筋に対して鎮痙鎮痛作用として働く。漢方薬の性質として生薬が少ないほど速効性があるため、芍薬甘草湯の効果発現は早い。
    ■使い方
    速効性があること、甘草の量が多いことから、基本的には1回1〜2包の頓用が望ましい。ただ、頻度が多い場合、例えば明け方のこむら返りに対して寝る前1包を定期服用することもあるが、偽アルドステロン症のリスクを考慮し、必要最小限が良いと思われる。
    ■注意事項
    甘草が多く含まれる。
  2. 中等度以上のこむら返りに疎経活血湯
    ■作用
    通常、疎経活血湯は腰痛や下肢しびれなど整形外科的な疼痛やしびれに使用する漢方薬だが、こむら返りにも非常に高い効果を示す。17種類の生薬で構成され、芍薬と甘草も含まれるが甘草の量が少なく、その他の下肢の血流改善作用や鎮痛鎮痙作用の生薬が多く含まれている。
    ■使い方
    芍薬甘草湯と比較して速効性はやや劣り、持続性と有効性に優れる。よって、発作時には芍薬甘草湯で、予防投与としては疎経活血湯の方が良い。用量依存性と時間依存性があり、1包よりも2包の方が効果は高く、なるべく発作に近い時間帯の服用が望ましい。よって、明け方のこむら返りには疎経活血湯3包3×食前よりも「眠前2包」の方が効果は高く、筆者の調査では「眠前2包」の有効率は90%以上であり、芍薬甘草湯の報告よりも優れていた10)。例えば、午前中と明け方にこむら返りを繰り返す場合は「朝1包・眠前2包」と発症の時間帯によって調節することも重要である。
    ■注意事項
    甘草が含まれる。味が苦い。
8 心不全

心不全自体に対する漢方治療は得意分野ではないが、標準的治療で効果不十分な場合、症状安定を目的に漢方薬を併用することもある。

  1. 浮腫を伴う心不全に五苓散
    ■作用
    五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリンを介して水分の代謝調節を行う。強制利尿はなく、水分バランスの調節を行うため効果はマイルドだが、脱水や電解質異常のリスクは少ない。
    ■使い方
    個人的には心不全の急性増悪時よりも比較的安定した代償期に五苓散を併用し、ループ利尿薬の増量をなるべく防ぐ、あるいは標準的治療で取り切れないthird spaceの体液貯留を減らす目的で使用する。冷え症の場合は温めるタイプの当帰芍薬散を選択する。
    ■注意事項
    特になし。甘草は含まれない。
  2. 息切れを伴う心不全に木防已湯
    ■作用
    木防已湯はラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くこと(≒血管拡張作用)や心収縮力増大作用が示されている11)12)
    ■使い方
    上記の作用のため、標準的治療でも肺うっ血や息切れが残る場合に有用である。清熱作用の石膏が含まれるため、一般的に暑がりタイプに使用する漢方薬だが、息切れを伴う心不全患者は胸部に熱を持つとされており、寒がりタイプでも適応になると思われる。
    ■注意事項
    甘草は含まれない。

文献

  • 1)日本心不全学会ガイドライン委員会:高齢心不全患者の治療に関するステートメント, 2016
  • 2)Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59:62-66, 2012.
  • 3)Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7):950-61, 2014.
  • 4)Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20):2195-202, 2010.
  • 5)Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
  • 6)Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
  • 7)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994.
  • 8)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994
  • 9)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981
  • 10)土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
  • 11)Nishida S, et al:Vascular pharmacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007
  • 12)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. Pharma Medica. 新春増刊号:193-200, 1986

土倉監修 「高齢者心不全の7症候に対する11処方」 資材

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高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」解説

概論
高齢社会に伴い高齢者の心不全が増加している。心不全を管理するためには単に心臓の治療だけでなく、全身を診る必要がある。また高齢者においては加齢に伴い病態が複雑になるため、さまざまなアプローチが必要となる。
高齢者心不全に漢方の出番はあるのか?
漢方には得意、不得意分野があるが、心不全自体の治療よりも、心不全患者の体調管理、QOLの改善を得意としている。ここに漢方の出番があると思われる。例えば、“めまい、倦怠感、下腿浮腫”などでADLが低下しリハビリテーションができなくなる、あるいは、“慢性下痢、便秘、食欲不振”などで腎機能や栄養状態が悪化しているとする。そのような状態を漢方薬で改善できれば、その結果、リハビリテーションが可能となり、栄養状態も回復する可能性がある。このように、間接的ではあるが漢方薬が心不全患者の生命予後の改善に貢献できるのではないかと思っている
高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」解説
この度、私が監修しツムラ社より高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」を作成させて頂いた。これは製薬会社のプロモーション資材であるため、添付文書以上の文言で表現できないという縛りがあった。今回、十分に伝えきれなかった部分に対して補足をさせて頂く。ちなみに下記の症候は、基本的に標準的治療で効果が乏しい場合、精査で異常が認められない場合に漢方薬を使用することを想定している。
《便秘》
高齢者の便秘に対しては麻子仁丸(ましにんがん)(126)がお勧めである。麻子仁丸は比較的強い下剤であるため、一般的な下剤を2、3剤服用しても便が出にくい場合に追加することが多い。麻子仁丸には、大黄(センノシド類似成分)による瀉下作用(便を出す)、麻子仁・杏仁による潤腸作用(腸の中を潤して滑りを良くする)、枳実による腸管蠕動促進作用、厚朴・芍薬による鎮痙・鎮痛作用(腹満の改善。大黄による腹痛を減らす)などがある。麻子仁丸は高齢者の難治性便秘に第一選択薬となる。その他、兎糞状(コロコロした)の便にも頻用される。比較的味も飲みやすく、甘草や芒硝(マグネシウム類似成分)が含まれていないため、偽アルドステロン症のリスクは無く、腎不全の患者にも使用しやすい。
《その他の下部消化器症状》
これは主に「慢性下痢」についての解説である。本文の「体が冷えやすい」は「腸管の冷え」を意味する。治療のアプローチとしては、「腸管の冷え」の有無で分類する。「腸管の冷え」を伴う慢性下痢には腸管を温める漢方薬を用いると改善が早い。「腸管の冷え」は①冷たい飲食物を摂取して腹部症状が悪化する腹部を温めると軽減する冷え性の3つのうち1つでも該当すれば「腸管の冷え」があると捉える。
腸管の冷え」があり、「腹痛、腹満」を伴う場合には大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)、「食欲不振」を伴う場合には人参湯(にんじんとう)(32)それ以外であれば真武湯(しんぶとう)(30)を選択する。大建中湯は一般に腸閉塞や便秘に使用されるが、効能としては「腸管を温め、腸蠕動を正常化する」働きがあり、下痢、腹痛、腹満にも大変有用である。
腸管の冷え」がない場合は五苓散(ごれいさん)(17)を選択する。
《上部消化器症状》
これは主に「食欲不振」についての解説である。冷え性の場合は、体を温める作用の人参湯(32)冷え性が軽度あるいは無しの場合は六君子湯(りっくんしとう)(43)を選択する。六君子湯が適合しやすい患者の徴候の1つに「舌の腫大(浮腫)」があるため、食欲不振の患者では舌を診ることをお勧めする。
《倦怠感》
倦怠感に対しては第一選択薬として補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)第二選択薬として十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)(48)でよいと思われる。補中益気湯には胃の調子を整える作用があるため、食欲不振や胃が弱い人にも使用できる。十全大補湯は地黄という胃もたれに注意すべき生薬が含まれているが、その分、補中益気湯よりも効果が強い人参養栄湯(にんじんようえいとう)(108)は十全大補湯に五味子、遠志、陳皮が加わった処方であり、十全大補湯を使用するような人で主に呼吸器症状を伴う場合に選択する。
《めまい》
頭位性(頭の向きで悪化する)めまい、起立性(坐位や起立時に悪化する)めまいには苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)を選択する。効果不十分な場合は五苓散(17)を追加する。浮動性(フワフワする)、動揺性(クラっとする)めまいには真武湯(30)を選択する。真武湯は温める漢方薬のために暑がりの人には適合しにくい。それ以外のめまいには五苓散(17)を選択する。
《下腿浮腫》
高齢者の下腿浮腫には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)が第一選択薬である。牛車腎気丸は温める漢方薬であるため、冷え性に適合しやすい。また、牛車腎気丸は下腿浮腫だけでなく、フレイル、腰痛、下肢しびれなどの加齢に伴う諸症状にも適応がある。第二選択薬としては五苓散(17)がある。
《心不全》
心不全自体の治療に用いる漢方薬として木防已湯(もくぼういとう)(36)がある。木防已湯はラットで大動脈や肺動脈の血管拡張作用心収縮力増強作用などが認められており、主に左室収縮能の低下した心不全に使用される。
【効果判定・副作用】
上記の漢方薬はすべて2週間程度で効果判定が可能。少なくとも4週間で効果不十分な場合は変更あるいは併用を考慮する。
副作用は主に甘草による偽アルドステロン症があげられる。特に甘草の量が多い漢方薬高齢女性にはリスクが増えるため、長期服用の際は注意が必要である。

土倉監修 「高齢者心不全の10症候に対する16処方」 資材

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漢方スクエア連載「高齢心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」

総論

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便秘

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慢性下痢

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食欲不振

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倦怠感

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めまい

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下腿浮腫

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こむら返り

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風邪のひき始め

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漢方薬のハードルを下げるコツ

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Gノート おなかに漢方!  執筆 土倉潤一郎

消化器疾患の術後

Ⅰ.Point

  • ①六君子湯のレスポンダーは「舌」で判断する。
  • ②大建中湯のレスポンダーは「腸管の冷え」で判断する。
  • ③次の一手として、茯苓飲や桂枝加芍薬湯も役に立つ。
 

Ⅱ. Keyword

六君子湯、大建中湯、消化器疾患術後

Ⅲ. はじめに

消化器疾患の術後に使用する漢方薬の代表として、上部消化管には六君子湯、下部消化管には大建中湯があります。しかし、全ての肺炎にセフトリアキソンを選択するわけでないのと同様に、漢方薬にも使い分けがあります。本編では、六君子湯や大建中湯のレスポンダーの特徴や、これらの漢方薬で効果不十分な場合の次の一手についてご紹介いたします。

Ⅳ.本文

1.消化器疾患術後の漢方レビュー
  • 1)六君子湯
    • ①薬理・作用
      • 六君子湯には食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌促進作用がある1)
      • 胃適応性弛緩の改善2)胃排出能促進3)なども報告されている。
    • ②エビデンス
      • グレリンは、幽門側胃切除術で術前の約40%、胃全摘術で約10%程度に減少する4)
      • 六君子湯は胃切除後患者のグレリンを増加し、機能障害を改善させる5)
      • 六君子湯は幽門輪保存胃切除術後の胃の停滞症状を改善させる6)
  • 2)大建中湯
    • ①薬理・作用
      • 腸管運動亢進作用:セロトニン3型・4型受容体を介するアセチルコリン遊離促進7)、モチリン分泌促進8)などの機序で腸管運動亢進作用がみられた(ちなみに腸管運動過亢進モデルには運動抑制作用9)として働く)。
      • 抗炎症作用:TNBS誘発炎症モデルマウスにおいて、結腸蛋白中炎症性サイトカイン(TNF-α、IFN-γ)の産生が抑制された10)
    • ②エビデンス
      • 消化器癌で手術した患者1134名のメタアナリシスで、大建中湯を術前に投与した患者群は、非投与患者群と比較して術後イレウスの発生が有意に軽減された11)
      • 大腸癌術後癒着性イレウスに対する大建中湯投与が非投与群と比較してロングチューブ減圧治療の期間短縮ならびに医療費抑制を有意に示した12)
2.こんな症例によく効きます!

エビデンスに従って、消化器疾患術後に六君子湯や大建中湯を使用しても有効性を得られない場合もあります。効率よくレスポンダーを見つけるためには漢方医学的な作用機序や適応を理解する必要があります。

  • 1)六君子湯のレスポンダーは「舌」で判断する
    • ①生薬構成とその作用

      君子湯=君子湯(人参・朮・茯苓・甘草)+陳湯(陳皮・半夏)です。四君子湯は健胃作用+補気作用、すなわち「胃腸の働きを高めて元気をつける」作用があります。また、“陳皮・半夏”は「胃の水毒(胃内停水)」をさばく作用があります。四君子湯は補中益気湯や十全大補湯にも含まれているため、六君子湯の特徴は「胃の水毒」になります。「胃の水毒」は西洋医学的には胃下垂などと表現されることがありますが、漢方医学的な概念で理解しづらく正確な病態は解明されておりません。しかし、結果的に「胃の水毒」をさばく作用の陳皮・半夏によって胃の働きが改善することから、個人的には「胃の水毒」とは「胃壁の浮腫などによって胃の働きが低下している状態」と推測しております。

    • ②「胃の水毒」を見極める方法

      実は「胃の水毒」は体質的にもっている人が多く、「水を飲むと胃がチャポチャポする」といった現象として自覚できます。また、胃と舌が繋がっていることから、「胃の水毒」は「舌の浮腫」として反映していると言われており、「舌の腫大・歯痕(舌がむくんで歯型がつく)」(写真1)を確認することが「胃の水毒」を見極める方法となります。
       すなわち、もともと体質として「胃の水毒」をもっている人が食欲不振などの胃の不調を生じた場合に六君子湯が有効となることが多いわけですが、その見極めには忙しい外来でも1秒で確認できる舌診がポイントとなります。

★ ここが漢方治療ポイント:胃症状+舌の腫大・歯痕→六君子湯

症例1:60歳代男性
主訴:食欲不振
現病歴:2ヶ月前に胃癌に対して幽門側胃切除術を施行。その後から食欲不振が持続しており、当院を受診された。上部消化管内視鏡検査を含めた諸検査では特に異常なし。
漢方医学的初見:舌に腫大・歯痕を認める。明らかな冷えなし。早期飽満感、咽喉頭異常感、抑うつ症状などはない。
処方:六君子湯(43) 1回2.5g,1日3回(毎食前)
経過:
2週間後「食事が半分程度、食べられるようになってきました。」
4週間後「ほとんど食欲は戻りました。」と経過良好であった。

「舌の腫大・歯痕をみたら→六君子湯!!」

  • 2)大建中湯のレスポンダーは「腸管の冷え」で判断する
    • ①生薬構成とその作用

      大建中湯は乾姜、山椒、人参、膠飴の4つの生薬で構成されております。その中でも乾姜と山椒が特に重要で、「胃腸を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和させる」といった働きがあります。よって大建中湯には①腸管を温める②腸蠕動を正常化するといった2つの特徴があります。②については腸蠕動の亢進や低下のいずれにおいても正常化させ7)8)9)、かつ腹痛や腹満の改善を得意としています。つまり、大建中湯の適応病態は「腸管の冷えが原因で腸蠕動に異常を認めている状態」となります。そして、腹痛や腹満を主体とする腸閉塞に最適ですが、「腸管の冷え」が関与した便秘や下痢、過敏性腸症候群などにも使用します。

  • 「腸管の冷え」を見極める方法

    大建中湯は腸管を温める漢方薬ですので、腸管が冷えていないと効果を発揮できません。よって「腸管の冷え」を見極めることが重要となります。「腸管の冷え」を示唆する所見としては、①(冷房や冷たい飲食物で)お腹が冷えると腹部症状が悪化する②(腹巻き・カイロ・温かい飲食物で)お腹を温めると腹部症状が改善する③腹診で臍周囲が冷たい④大建中湯が飲みやすいなどがあり、これらを問診や診察で判断致します。④に関しては、大建中湯に含まれる乾姜が、(生姜)辛く感じる→「腸管の冷えがない」、辛くない→「腸管の冷えがある」といった傾向にあります。これを応用して、「腸閉塞予防に大建中湯をいつまで継続するべきか?」について迷われる場合にはぜひ大建中湯の味も参考にしましょう。味が辛い場合には「腸管の冷え」がない可能性があり、大建中湯の中止を検討してもよいかもしれません。

★ ここが漢方治療ポイント:大建中湯の適応である「腸管の冷え」を探ることが大事!!

症例2:70歳代女性
主訴:腹痛、腹満
現病歴:10年前に大腸癌の手術を行ってから腸閉塞を2回発症している。2週間前から腹痛、腹満を自覚するようになり、当院へ受診された。下剤を使用し、排便は毎日認めている。診察上、右下腹部を中心に圧痛を認めたが、採血やレントゲン等では明らかな異常所見は認めなかった。
漢方医学的所見:冷え症で温かい飲み物を好む。腹痛時はカイロでお腹を温めると和らぐ。腹部全体に冷感を認める。
処方:大建中湯(100) 1回5g,1日3回(毎食間)
経過:
1週間後「大建中湯を飲んでからすぐに腹痛やお腹の張りは良くなった。味も甘い。」
以後、大建中湯は継続し経過良好。

「腸管の冷えをみたら→大建中湯!!」

  • 3)次の一手
    • ①上部消化器疾患術後

      <茯苓飲(69)>
       上部消化器疾患術後の食欲不振、特に早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップ、嘔気、胸焼けなどの症状に茯苓飲をよく用います。茯苓飲は陳皮・枳実・生姜・人参・朮・茯苓の生薬で構成され、六君子湯と重なる生薬が多い漢方薬です(図2)。茯苓飲のみに含まれる生薬が枳実であり、胃や食道の蠕動運動亢進作用があります。茯苓飲には胃切除後早期吻合部症状に対して1週間以内の症状消失が85.7%で、非投与群と比較して有意に短縮したという報告もあります13)

      <茯苓飲合半夏厚朴湯(116)>
       茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤で茯苓飲合半夏厚朴湯という漢方薬があり、術後に随伴するさまざまな症状を改善した報告もあります14)。半夏厚朴湯は喉や胸の閉塞感(つまった感じ)を代表とする抑うつ症状に使用します。よって茯苓飲の適応となる人で、より精神的な関与がある場合には茯苓飲合半夏厚朴湯を選択します。実は、茯苓飲合半夏厚朴湯には六君子湯のほとんどが含まれているため(図2)、個人的には「六君子湯+スルピリド」といったイメージで幅広く使用しております。

      <人参湯(32)>
       人参湯には大建中湯と同様に乾姜(胃腸を温める生薬)が含まれております。大建中湯が下部消化器疾患に使用されるのに対して、人参湯は上下部消化器疾患に使用されます。どちらかといえば下部よりも上部消化器疾患を得意としておりますので、胃腸が冷えている人の食欲不振などに第一選択となります。

      <釣藤散(47)>
       釣藤散にも六君子湯の多くが含まれており、さらに釣藤鈎や菊花といった脳血流障害を改善させ興奮を調節する生薬があります(図3)。よって、主に高齢者の食欲不振に使用します。体を冷ます作用があるため、冷え症にはあまり適しません。

      <抑肝散加陳皮半夏(83)>
       抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬で、抑肝散+六君子湯のイメージでよいかと思います(図3)。よって、術後せん妄などで興奮やイライラがあり食欲不振を認める場合に第一選択となります。釣藤散よりも鎮静作用が強いです。

    • ②下部消化器疾患術後

      <桂枝加芍薬湯(60)>
       桂枝加芍薬湯には横紋筋や平滑筋の異常痙攣を和らげる芍薬が含まれており、腹痛や腹満を主体とした腹部症状(腸閉塞や過敏性腸症候群など)に使用します。開腹術後の消化管機能異常に伴う不定愁訴に86.7%の改善があったとの報告もあります15)。大建中湯との違いは①腸管を温める作用は少ない②芍薬で腹痛や腹満を和らげるなどが挙げられます。よって、腸閉塞に対しての使用は①「腸管の冷え」の関与が少ない場合の第一選択②大建中湯で効果不十分な場合に追加あるいは変更するとなります。大建中湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせは非常に相性がよく、昭和の名医である大塚敬節が考案し、中建中湯(桂枝加芍薬湯は小建中湯と似ており大建中湯+小建中湯の意味)と名付けられました。現代でも頻用される組み合わせです。

Ⅴ.おわりに

今回、術後の腹部症状について述べましたが、その他にも術後にはせん妄、感染症、倦怠感、フレイルなどさまざまな症状があると思います。これらに対しても適応となる漢方薬がありますので、ぜひ他書を参考にして頂きたいと思います。

Ⅵ.文献

  • 1) Takeda, H., et al.:Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism. Gastroenterology, 134:2004-2013, 2008.
  • 2) Hayakawa, T., et al.:Liu-Jun-Zi-Tang, a kampo medicine, promotes adaptive relaxation in isolated guinea pig stomachs. Drugs Exp Clin Res, 25(5):211, 1999.
  • 3) 原澤茂:TJ-43ツムラ六君子湯の胃排出能に及ぼす効果と臨床治療効果についての検討. 消化器科, 12:215-222, 1990.
  • 4) Takachi, K. et al.:Postoperative ghrelin levels and delayed recovery from body weight loss after distal or total gastrectomy. J Surg Res, 130:1-7, 2006.
  • 5) Takiguchi, S. et al.:Effect of rikkunshito, a Japanese herbal medicine, on gastrointestinal symptoms and ghrelin levels in gastric cancer patients after gastrectomy. Gastric Cancer, 16:167-174, 2013.
  • 6) Takahashi T, et al.:Effect of Rikkunshito, a Chinese herbal medicine, on stasis in patients after pylorus-preserving gastrectomy. World J Surg, 33:296-302, 2009.
  • 7) Satoh K. et al:Mechanisms for Contractile Effect of Dai-Kenchu-To in Isolated Guinea Pig Ileum. Dig Dis Sci, 46(2):250-256, 2001.
  • 8) Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
  • 9) Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
  • 10) Kono T, et al.:Anti-colitis and –adhesion effects of daikenchuto via endogenous adrenomedullin enhancement in Crohn’s disease mouse model. J Crohn’s Colitis, 4(2):161-170, 2010.
  • 11) Ishizuka M, et al:Perioperative administration of traditional Japanese herbal medicine daikenchuto relieves postoperative ileus in patients undergoing surgery for gastrointestinal cancer: a systematic review and meta-analysis. Anticancer Res, 37:5967-5974, 2017.
  • 12) Yasunaga H, et al.:Effect of the Japanese herbal kampo medicine dai-kenchu-to on postoperative adhesive small bowel obstruction requiring long-tube decompression:a propensity score analysis. Evid Based Complement Altemat Med Epub , 2011 Mar 3:2011.
  • 13) 服部和伸ら:胃切除術後早期吻合部狭窄に対する茯苓飲の効果. 日消外会誌, 28(4):966-970, 1995.
  • 14) 小川恵子ら:茯苓飲合半夏厚朴湯の術後栄養管理に対する効果. 日本静脈経腸栄養学会雑誌, 32:1514-1517, 2017.
  • 15) 阿部憲司:開腹術後の消化管機能異常に伴う不定愁訴に対する桂枝加芍薬湯の治療効果. Progress in Medicine, 11(5):1355-1361, 1991.
 

Ⅶ.プロフィール

名前:土倉潤一郎 Dokura Junichiro
所属:土倉内科循環器クリニック 院長
専門:循環器内科 漢方
平成30年1月より開業しました。飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務していた経験を活かし、西洋医学と漢方医学のバランスを意識して日々診療をしております。標準治療で治らない症状に対して次の一手(漢方)を提案できることは患者だけでなく医療者にとっても救いとなります。

図表タイトル
図1:舌の腫大・歯痕所見
図2:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯)
図3:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(釣藤散、抑肝散加陳皮半夏)

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内科医のための不定愁訴対応  執筆 土倉潤一郎

MUSと漢方治療

ポイント

  • ・漢方薬は診断名がなくても症状からアプローチできる薬剤
  • ・漢方にも得意・不得意がある
  • ・副作用に注意する

MUSと漢方

MUSと漢方は非常に相性が良いと思われる。それは、漢方は診断名がなくても症状からアプローチができるからだ。どんな症状に対しても軽減する可能性のある治療薬を提供できることは、患者だけでなく医療者にとっても救いとなる。また、標準的な治療で改善しない患者が難治性、治療適応外と言われ、藁にもすがる思いで漢方外来へ来院されるが、漢方医学的な視点で見ると容易に治療ポイントがみつかり速やかに改善する場合もある。真正面の治療法が西洋医学以外に存在する可能性を医療者は知っておく必要がある。よって、医師がよく言葉にする「治療法はありません」というのは「現在の西洋医学では治療法がありません」というのが適切だと思われる。他国と異なり、日本では西洋医が漢方薬を処方できる資格があるのだから、ぜひ活用して頂きたい。

知っておいて損はない漢方病態

“漢方薬が効きやすいフレーズ”ベスト4
  • 1. 低気圧時(曇天・台風など)に悪化する →下記の「水毒」へ
     例:曇天時に悪化する頭痛、めまい、関節痛
  • 2. 冷えると悪化する(温めると緩和する) →下記の「冷え」へ
     例:冷たい飲食物で悪化する腹痛、下痢
  • 3. 月経周期や閉経で悪化する →下記の「瘀血」へ
     例:月経前のにきび、閉経後の不眠
  • 4. ストレスで悪化する →下記の「気鬱」「柴胡剤」へ
     例:緊張時の腹痛、下痢

患者の困っている症状が上記のいずれかに該当すると漢方医は安堵する。これらは漢方薬が得意とする症状であり、アプローチしやすいからだ。大事なことはこれらを問診で聞き出すことである。もし上記に該当しない場合でも、漢方医学的な見方をすればそのほとんどで異常所見があり治療の切り口を見いだせる。絡まった糸を少しずつ解いていくように、取れる症状からアプローチしていけば、不定愁訴と言われた症状も徐々に収束していくことも少なくない。不定愁訴ではなく、多愁訴なのだと感じる。
 下記の漢方薬の理解のために、次の漢方病態解説を参考にして頂きたい。簡略化のため、本稿と関連のある内容のみに割愛している。

〈表1〉
漢方病態解説
冷え
(陰証)
冷え症で冷房が苦手、厚着を好む人などに見られる。ある症状が冷えると悪化する、温めると緩和する場合も含まれる。手足末端のみが冷える場合は瘀血(末梢循環障害)のこともあるため注意が必要。
治療:温める作用がある温熱剤(例:大建中湯、真武湯など)
水毒すいどく
(水滞)
体液の偏在した病態を指し、溢水や脱水も含まれる。症状としては胸腹水や下腿浮腫だけでなく、頭痛(微小な脳浮腫)、めまい(内リンパ水腫)、関節痛(関節液)などもある。特に低気圧時に症状が悪化する場合は水毒関連である可能性が高い。寺澤の水滞(水毒)スコア1)も参考にされたい。
治療:体液の偏在を元に戻す作用がある利水剤(例:五苓散、苓桂朮甘湯など)
瘀血おけつ いわゆる「ドロドロ血」、末梢循環障害、動脈硬化などが含まれる。月経周期や閉経で悪化する症状(にきび、頭痛、腹痛、不眠など)も瘀血である。寺澤の瘀血スコア2)も参考にされたい。
治療:ドロドロ血をサラサラにする(血漿粘度低下)作用がある駆瘀血剤(例:当帰芍薬散、加味逍遥散など)
気虚ききょ 元気、やる気などの“気”の不足、エネルギー不足を指す。症状として、倦怠感、気力がない、食欲不振などがある。寺澤の気虚スコア3)も参考にされたい。
治療:気を補う作用がある補気剤(補中益気湯、十全大補湯など)
気鬱きうつ “気”の鬱滞を指す。症状として、抑うつ、不眠、閉塞症状(喉のつまり感)、腹部膨満などがある。寺澤の気鬱スコア4)も参考にされたい。
治療:気を巡らす作用がある順気剤(半夏厚朴湯、香蘇散など)
気逆きぎゃく “気”の逆上を指す。症状として、のぼせ、動悸などがある。寺澤の気逆スコア5)も参考にされたい。
治療:気を降ろす作用がある降気剤(加味逍遥散、黄連解毒湯など)
腎虚じんきょ 腎気(生命エネルギー)の減少を指す。加齢に伴う諸症が該当し、認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイルなどが含まれる。
治療:腎気を補う(アンチエイジング)作用がある補腎剤(八味地黄丸、牛車腎気丸など)
〈その他〉
柴胡剤さいこざい
柴胡(狭義では柴胡+黄芩)という生薬が含まれている方剤を指す。柴胡は偶然にもpsychoと同じだが、抗ストレス作用、自律神経調節作用、抗炎症作用などがある。本項に関しては、イライラ、抑うつ、不眠、自律神経失調などのストレスや自律神経異常が関連した症状に頻用される。
例:柴胡加竜骨牡蛎湯(腹診にて腹壁の緊張が強いタイプ)、柴胡桂枝乾姜湯(腹壁の緊張が弱いタイプ)、四逆散(胃腸症状が主体)、加味逍遥散(女性が多い)など

 

診断名がなくても症状からアプローチできる漢方治療

次は症状別に解説する。漢方にも得意・不得意があるため、初学者は漢方の得意分野から学ぶことを推奨する。よって、今回は一般的で平坦な内容でなく、“漢方の得意分野”を中心に、より実践的な内容を意識して個人的な見解も多く含めた。また、推奨度を☆印で示したため参考にして頂きたい。

頭痛

☆☆☆五苓散ごれいさん(17):低気圧時(曇天・台風など)に悪化する頭痛には第一選択となる。速効性や用量依存性もあるため、増悪時には2包服用するなどの方法も有用。それでも低気圧時の頭痛が残存する場合、男性は☆☆苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう(39)、女性は☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23)を追加してもよい。
漢方解説:低気圧で悪化するタイプは水毒(表1)であるため、利水剤の漢方薬を中心に使用する。五苓散には利水作用の生薬が最も多く含まれている。

☆☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性の頭痛で、肩こり(緊張性頭痛を含む)、ストレス、自律神経異常、月経周期などが関連している場合は第一選択となる。男性であれば、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(12)なども候補に挙がる。個人的には女性の慢性頭痛に対して、五苓散+加味逍遥散を選択する場合が多い。
漢方解説:加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡剤(表1)という方剤で、抗ストレス作用、自律神経調節作用(主に交感神経の過緊張を和らげる)などがある。緊張性頭痛以外にも上記症状の改善が期待できるため、多愁訴の患者に適合しやすい。

☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23):女性の頭痛で、月経周期や低気圧時に増悪する場合に選択する。上記の漢方薬と合わせることもある。
漢方解説:当帰芍薬散には月経周期の諸症状を改善する生薬(駆瘀血作用)と五苓散の3/4程度(利水作用)が半分ずつ入っている。

☆☆呉茱萸湯ごしゅゆとう(31):片頭痛に代表されるような“吐くほどの頭痛”に第一選択とされている。ただ、曇天時や月経周期と関連している場合は上記漢方薬を優先する。難点は苦い。
漢方解説:呉茱萸湯は胃を温めて頭痛を治す働きがある。よって、胃が冷えている人が対象となるため、“冷え症”“心窩部が冷たい”“胃が弱い”なども参考にする。

☆☆釣藤散ちょうとうさん(47):早朝時・起床時の頭痛に第一選択となる。機序は不明だが、効果を示す例は少なくない。

☆☆葛根湯かっこんとう(1):筋緊張を緩める働きがあるが、体質改善効果はないため、イメージとしてはエペリゾンに近い(対症療法)。速効性があるため、頓用でも使用可。

めまい・ふらつき・立ちくらみ

☆☆☆苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう(39):頭や体の向き(頭位性、起立性)で悪化するめまいに第一選択となる。良性発作性頭位めまい症や起立性低血圧の診断に至らなくても効果を示す。効果不十分例には☆☆五苓散(17)を合わせる。すべての年齢層に効果を示すが、特に思春期で有効率が高く、起立性調節障害にも大変有用である。

☆☆☆真武湯しんぶとう(30):ふわふわする、クラっとする、歩いてフラーっとするなどの動揺性のめまい、ふらつきに第一選択となる。温める漢方薬のため、暑がりには適さない。暑がりの場合は☆☆五苓散(17)を使用する。

☆☆五苓散ごれいさん(17):上記以外のめまいに使用する。一般に五苓散が頻用される回転性めまいでも、頭位性や起立性の場合は苓桂朮甘湯(39)を優先する。 漢方解説:メニエル病が内リンパ水腫と関連しているように、めまいは水毒(表1)が関係していることが多い。よって、水毒体質の患者や低気圧時に発症しやすい。上記の苓桂朮甘湯、真武湯、五苓散はすべて水毒の治療薬である利水剤に分類される。

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):慢性的なめまいや再発例で、ストレスや自律神経異常が関与している場合には柴胡剤(表1)を使用する。上記の利水剤と合わせることが多い。

赤ら顔・のぼせ

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性では第一選択となる。更年期でなくても使用できる。効果不十分例には☆桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん(25)を合わせる。

黄連解毒湯おうれんげどくとう(15):男性では第一選択となる。体を冷ます作用があるため、寒がりの人は対象外。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:赤ら顔、のぼせは気逆(表1)という病態である。気を降ろす作用があるため、下記の「イライラ(頭に血が上る)」の治療薬と重なることが多い。

イライラ

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):壮年〜中年女性のイライラには第一選択となる。月経周期で悪化する場合にも有効。軽度の抑うつもカバーする。効果不十分例には☆☆☆抑肝散よくかんさん(54)を合わせる。

☆☆☆抑肝散よくかんさん(54):小児、高齢者のイライラには第一選択となるが、老若男女で使用できる。小児の場合は、母子同服といって母親も一緒に飲んだ方がよいとされている。

黄連解毒湯おうれんげどくとう(15):中年男性や元気な高齢者で、赤ら顔や舌苔が黄色の場合に用いることが多い。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:上記方剤に含まれている柴胡、山梔子、釣藤鈎、黄連といった生薬に鎮静作用があり、イライラを抑える。交感神経を緩める働きがあるため、不眠などにも用いる。

鼻汁・鼻閉・後鼻漏

☆☆☆辛夷清肺湯しんいせいはいとう(104):抗炎症作用があり、黄色鼻汁や鼻閉に第一選択となる。急性副鼻腔炎にも使用するが、慢性的に繰り返す副鼻腔炎の予防に大変有用である。効果不十分例には、☆☆小柴胡湯加桔梗石膏しょうさいことうかききょうせっこう(109)を合わせる。いずれも黄芩の副作用に注意(表2)。
後鼻漏は粘稠性のタイプには辛夷清肺湯、漿液性のタイプには☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16)を用いる。

☆☆葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい(2):小児の白色〜黄色鼻汁、鼻閉に第一選択となる。飲みづらい場合は☆葛根湯かっこんとう(1)でも可。

☆☆小青竜湯(19):水様性鼻汁に第一選択となる。小青竜湯には抗ヒスタミン作用、鎮咳去痰作用、温熱作用があるため、アレルギー性、風邪、冷え(冷えると鼻汁が出るタイプ)のいずれが関与していても使用できる。効果不十分な場合、寒がりには☆☆麻黄附子細辛湯まおうぶしさいしんとう(127)、暑がりには☆☆越婢加朮湯えっぴかじゅつとう(28)や☆☆五虎湯ごことう(95)などを合わせる。鼻汁、咳などの風邪を繰り返す小児には普段から小青竜湯+五虎湯を服用させると有用である。いずれも麻黄の副作用に注意(表2)。

呼吸困難・喉のつまり感

☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16):器質的異常がない呼吸困難には第一選択となる。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用があるが、うつ病を治すというよりも、喉〜胸部の閉塞症状を改善させることを得意とする。すなわち、喉のつまり感(咽喉頭異常感症含む)、息苦しい、胸がしめつけられる、深呼吸がしづらいなどの症状に大変有用である。問診上はうつが判断つかない場合でも効果を示す場合がある。効果不十分例には、柴胡剤(表1)を合わせる。柴胡剤としては、☆☆加味逍遥散(女性が多い)、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯(男性が多い)、☆☆小柴胡湯しょうさいことう(9)(抗炎症作用あり。半夏厚朴湯+小柴胡湯=☆☆柴朴湯さいぼくとう(96)という合剤あり)などがある。 漢方解説:半夏厚朴湯には気鬱(表1)に対する順気作用と鎮咳去痰作用の大きく2つの働きがある。よって、喉のつまり感や湿性咳嗽に第一選択となる。例えば、「喉に痰がひっかかった感じがする」といった患者に対して、“気のせい”でも“喀痰”でも半夏厚朴湯1剤で対応できる。効果不十分例には☆☆麦門冬湯ばくもんどうとう(29)で潤すとよい場合がある。

胸痛

☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16):基本的には呼吸困難と同様の理由で、半夏厚朴湯が第一選択となる。

当帰湯とうきとう(102):温める漢方薬であるため冷え症患者が対象となる。腹部膨満にも良い。

動悸

☆☆炙甘草湯しゃかんぞうとう(64):例えば期外収縮などの不整脈に伴い動悸症状を認めるが、標準的治療後でも症状や不整脈が残存している場合に第一選択となる。不整脈自体は変わらなくても、動悸症状が軽減することも少なくない。甘草が多いため副作用に注意。

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性で自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。

☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(12):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が強い人に使用する。黄芩の副作用に注意(表2)。

☆☆桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとう(26):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が弱い人に使用する。神経過敏、恐怖感が強い、驚きやすいなどが特徴的。
漢方解説:効果不十分な場合は上記漢方薬を組み合わせるが、加味逍遥散と柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯は類似方剤のため通常合わせない。

食欲不振

☆☆☆六君子湯りっくんしとう(43):“舌のむくみ”(図1)がある場合に第一選択となる。“舌のむくみ”は舌が全体的に腫れぼったい感じ、歯型がつくなどで見極める。
漢方解説:六君子湯は“胃の水毒”をさばいて食欲不振を改善させる働きがある。“胃の水毒”の明確な病態は解明されていないが、胃と舌が繋がっていることから、“舌のむくみ”が“胃の水毒”を反映し、六君子湯の適応者の所見とされている。

☆☆☆茯苓飲ぶくりょういん(69):抑うつやストレスで食欲不振がある場合に第一選択となる。茯苓飲の適応者として、早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップが特徴的。早期飽満感は胃の閉塞症状と言えるが、喉〜胸部の閉塞症状も合併しやすく、その場合は前述の半夏厚朴湯(16)を合わせるとより効果的。
漢方解説:茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤である☆☆☆茯苓飲合半夏厚朴湯ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう(116)もある。この方剤には六君子湯が含まれており幅広く使用できるため、個人的には頻用している。

☆☆人参湯にんじんとう(32):冷え症、胃腸の冷えがある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。
漢方解説:乾姜という生姜を蒸して乾燥させた生薬が含まれており、胃腸を温めて機能改善させる働きがある。

腹痛・腹部膨満

☆☆☆四逆散しぎゃくさん(35):柴胡剤(表1)の1つであり、過敏性腸症候群に代表されるような、ストレスや自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。腹部膨満が強い場合は☆☆香蘇散こうそさん(70)を合わせる。

☆☆☆大建中湯だいけんちゅうとう(100):“腸管の冷え”(表1)がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”は冷え症、冷たい飲食物で悪化する、腹巻きや入浴で温めると緩和する、自他覚的な腹部の冷感(お腹が冷える、冷たい)などで判断する。症状が残存する場合は桂枝加芍薬湯(60)を合わせる。

☆☆☆小建中湯(99):小児に第一選択となる。甘くて飲みやすい。速効性もあるため頓用使用も可。

☆☆桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとう(60):上記以外の場合に使用する。
漢方解説:比較的年齢によって判別できる傾向がある。小学生までは小建中湯、中高生は四逆散、それ以降は四逆散か大建中湯、あるいはその混合タイプが多い。いずれも腸管蠕動運動の過緊張や痙攣を緩ませる働きがあるため、腹痛や腹部膨満に有用である。

慢性下痢

☆☆☆大建中湯だいけんちゅうとう(100):“腸管の冷え”+腹痛・腹部膨満がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”については上記参照。

☆☆人参湯にんじんとう(32):“腸管の冷え”+上腹部症状(食欲不振など)がある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。

☆☆真武湯しんぶとう(30):“腸管の冷え”+上記以外の場合に第一選択となる。 漢方解説:“腸管の冷え”(表1)が関与した下痢(陰証の下痢)は意外と多く、実は慢性期だけでなく、急性腸炎(水様性・小腸性)や、急性腸炎が長引いた場合にも認めることが少なくない。いずれも上記の温熱剤が奏効しやすい。また、陰証の下痢は急性腸炎でも便臭が軽度なことが多い。

☆☆半夏瀉心湯はんげしゃしんとう(14):上腹部症状もカバーする。腹鳴(お腹ゴロゴロ)が典型的。黄芩の副作用に注意(表2)。
漢方解説:半夏瀉心湯には温める生薬と冷ます生薬(抗炎症作用)が含まれており、幅広く使用できる。

倦怠感

☆☆補中益気湯ほちゅうえっきとう(41):胃弱、食欲不振、感染症後、食後の眠気などを参考に選択する。極端な寒がりには注意する。

☆☆十全大補湯じゅうぜんたいほとう(48):胃が丈夫、疲労感が強い、がん患者などを参考に選択する。極端な暑がりには注意する。

☆☆加味帰脾湯かみきひとう(137):うつが関与した、特に午前中に倦怠感が強い場合に選択する。不眠やイライラにも有用。

☆☆清暑益気湯せいしょえっきとう(136):冷ます作用もあり、夏バテが関与した場合に選択する。

☆☆真武湯しんぶとう(30):全身の冷えが比較的強い場合に選択する。効果不十分な場合は☆☆人参湯にんじんとう(32)も合わせる。

☆☆黄耆建中湯おうぎけんちゅうとう(98):小児の倦怠感(疲れやすい)に第一選択となる。小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)でも代用可能。10歳代は☆☆補中益気湯ほちゅうえっきとう(41)も有用。
漢方解説:倦怠感のほとんどは気虚(表1)が関与しているため、いずれも補気作用の生薬が含まれている。

浮腫

☆☆五苓散ごれいさん(17):第一選択薬。女性の効果不十分例には☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23)を合わせる。

防已黄耆湯ぼういおうぎとう(20):第二選択薬。五苓散と合わせてもよい。膝関節痛・水腫にも使用される。
漢方解説:浮腫は水毒症状であり、利水剤を使用する。用量に依存することが多いため、効果不十分例は組み合わせると良い。

こむら返り

☆☆☆芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう(68):速効性があること、甘草の量が多く偽アルドステロン症のリスクが高いことから、基本的には頓用使用。繰り返す場合は疎経活血湯を定期服用する。

☆☆☆疎経活血湯そけいかっけつとう(53):繰り返すこむら返りに第一選択となる。時間依存、用量依存があるため、明け方のこむら返りには、「眠前2包」が最も効果的6)。難点はやや苦いこと。

しもやけ・末端冷え症

☆☆☆当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう(38):末梢循環障害が関与した冷えに第一選択となる。難点は苦い。効果不十分例には、高齢者は☆☆牛車腎気丸ごしゃじんきがん(107)、体全体の冷えもある人は☆☆真武湯しんぶとう(30)、体全体の冷えがない人は☆☆桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん(25)を合わせる。

☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23):当帰四逆加呉茱萸生姜湯が苦くて飲めない場合に選択する。効果不十分例への対応は上記と同様。
漢方解説:しもやけも末端冷え症も末梢循環障害(瘀血)が関与しているため、治療薬も駆瘀血剤が主体となる(表1)。

加齢症状

八味地黄丸はちみじおうがん(7):表1の「腎虚」にあるように、漢方では加齢現象に対する薬剤があり、その代表が八味地黄丸である。加齢に伴う諸症状(認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイル)に用いるが、個人的には症状軽減効果よりも進行予防効果の方が大きいと感じる(加齢に伴う諸症状に困った患者に処方提案できる)。地黄の副作用に注意(表2)。

牛車腎気丸ごしゃじんきがん(107):構成生薬は八味地黄丸+2つの生薬(牛膝ごしつ車前子しゃぜんし)であり、八味地黄丸よりも血流障害や浮腫を改善させる効果が増す。地黄の副作用に注意(表2)。

 

服薬方法のコツ

漢方薬は「味」「顆粒」「1日3回」「食前」などとハードルが高い。これを上回る利点がないと患者は服用しづらい。服薬方法のコツを3つ述べる。

  • 好みを聞く
    患者には漢方に対する好みがある。例えば「漢方薬は飲めますか?」「西洋薬と漢方薬はどちらがよいですか?」などの質問で、どちらでもよい場合は勧めてみるが、苦手な人には無理強いしない方がよい。
  • 柔軟さが必要
    漢方薬は通常「1日3回食前または食間」であるが、服薬アドヒアランスが低下する場合は、「1日2回」「食後」といった柔軟さも必要。飲まない薬は効かないため、なるべく患者個人の特性に合わせて調節する。
  • 意識付け
    西洋薬に比べて、漢方薬は「飲まなくてもよい」「長く飲まないと効かない」といったイメージが多い中、さらには上記のようなハードルがある。服薬を継続するためには患者が困っている症状が改善する可能性について具体的に説明することが大事
下記に筆者が普段説明している内容(例)を記す。

「この漢方薬は胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので良いかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です。」

 

副作用

特に重要な副作用を挙げる(甘草以外は色に注意と覚える)。漢方薬を処方する時は、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的に下記の副作用をチェックする必要がある。

〈表2〉

・甘草:偽アルドステロン症。特に甘草の量が多い場合や高齢女性でリスクが高い。高血圧、低カリウム血症、浮腫の全てが出現するわけではない。甘草を中止後も1,2ヶ月以上遷延する場合がある。
・黄芩(おうごん):肝障害、間質性肺炎。漢方薬による薬剤性肝障害の9割以上が黄芩である。
・地黄:胃もたれ
・麻黄:胃もたれ、動悸、尿閉、口渇など

 

最後に症例を示す。

症例38歳女性
主訴:動悸、不眠、息苦しさ、頭痛、めまい、顔のほてり、月経痛、月経前のイライラ
現病歴:1年前から特に誘因なく、動悸(脈不整なし)、息苦しさ(安静時)、不眠(中途覚醒1,2回で浅い)、めまい(ふわふわ感)などを自覚するようになった。2ヶ月前から増悪し、内科や耳鼻科を受診したが明らかな異常所見は認めなかった。心療内科でベンゾジアゼピンを処方されたがめまいが悪化したため、中断となった。また、数年前から雨降り前の頭痛、顔のほてり、月経痛、月経前のイライラも認め、困っているとのこと。
バイタルサイン、身体所見、諸検査に明らかな異常所見なし。
その他:やや暑がりだが手足の先が冷える。食欲良好。便秘なし。めまいは低気圧で悪化しない。
処方:加味逍遥散(24) 3包3×朝夕食後・眠前 14日分
   (不眠があるため眠前にも服用)
経過:
2週間後「動悸、めまい、顔のほてり、息苦しさは良くなった。中途覚醒が1回に減り、ぐっすりと眠れるようになった。雨降り前の頭痛は変わらない。」
処方:加味逍遥散(24) 3包3×朝夕食後・眠前 28日分
   五苓散(17) 3包3×朝夕食後・眠前 28日分
4週間後「だいぶ調子が良くなった。頭痛もなくなった。朝まで1回も起きない。月経痛やイライラもあまりなかった」

解説:加味逍遥散は非常に多様性のある漢方薬であり、いわゆる不定愁訴の女性に第一選択となる。自律神経調節作用、抗ストレス作用、抗うつ作用、降気作用、駆瘀血作用などがあり、漢方病態としては、気鬱・柴胡剤(不眠、めまい、息苦しさ、イライラ)、気逆(動悸、顔のほてり)、瘀血(月経痛、月経前のイライラ)に対応できる(表1)。しかし、利水作用は含まれていないため、水毒症状(雨降り前の頭痛)に対しては、五苓散が必要である。
本症例のように多愁訴も漢方医学的視点で診ると病態・治療が単純な場合もあると感じる。

 

参考文献
  • 1) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:57.
  • 2) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:47.
  • 3) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:17.
  • 4) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:23.
  • 5) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:32.
  • 6) 土倉潤一郎, ほか:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討.
      日本東洋医学雑誌. 2017; 68:40-46.
有用な資料
  • ・齊藤裕之, ほか:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂. 2016; 98(7): 954-1115.
  • ・吉永亮, ほか:Gノート メジャー漢方薬. 羊土社. 2017; 4(6): 8-187.
  • ・吉永亮, ほか:Gノート おなかに漢方. 羊土社. 2019; 6(1): 6-96.
  • ・柴田龍宏,ほか:実践・心不全緩和ケア. 日経メディカル. 2018, 87-92.

循環器における漢方診療  執筆 土倉潤一郎

現代医学では西洋医学が基本であり、漢方は「西洋医学では手の届きにくい症状や疾患に使用する」ことが多いのではないかと思います。「循環器における漢方診療」の特徴は、「親和性が低い」と「多剤」です。よって、循環器領域で漢方を活かすためには、「見極めが必要」「服用方法にコツが必要」という2つのポイントが重要になると考えています。

【循環器×漢方】には見極めが必要

「西洋医学では治りにくい」症状や疾患のなかには、「漢方でも治りにくい」ものがあるため注意が必要です。大事なことは、「西洋医学では治りにくい」かつ「漢方で治りやすい」分野を見極め、漢方を活かすことです。

心臓神経症

胸部症状を有する患者で致死的な疾患がない場合に、「命にかかわる異常はないので安心してください」という助言だけでなく、きちんと症状緩和を行うことも大切です。そのような場面において、心臓神経症に対する半夏厚朴湯はんげこうぼくとうは大変有用です。心臓神経症の治療薬にはベンゾジアゼピンなどもありますが、副作用を考慮すると漢方薬が第一選択となり得ます。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用がありますが、うつ病を改善するというよりは、「喉〜胸部の閉塞症状を取り除く」ことを得意としています。すなわち、喉のつまり(咽喉頭異常感症)、胸が締めつけられる、息苦しい、深呼吸がしづらいなどの症状に用いられます。半夏厚朴湯で効果が不十分な場合は、柴胡剤さいこざいを合わせると効果が増強します。柴胡剤にはいくつかの種類がありますが、筆者は女性なら加味逍遥散かみしょうようさん、男性なら柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとうをよく使用します。

症例1:50歳代男性
主訴:胸部圧迫感
現病歴:3ヵ月前より仕事が忙しくなり、胸の圧迫感を自覚するようになった。主に仕事中に出現し、労作では悪化なし。ニトログリセリン舌下錠では改善なし。身体所見に異常なし。X線、心電図など諸検査に異常所見なし。
処方:半夏厚朴湯 7.5g/1日3回×食前(食後でも可)14日分
経過:
2週間後:胸部圧迫感は10分の3程度に改善した。症状がない日も多い。
4週間後:少し怪しい感じはあったが、ほとんど症状はない。
その後:仕事の負荷によっては軽度の胸部圧迫感を自覚するため、半夏厚朴湯 1回2.5g/1日2回で継続加療している。

 

起立性低血圧

起立性低血圧に対する漢方薬は、苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとうが第一選択となります。低血圧は変わらなくても自覚症状が改善することがあり、また、低血圧はなくても起立性のふらつき(いわゆる「立ちくらみ」)にも有効率は高いです。効果が不十分な例には補中益気湯ほちゅうえっきとう五苓散ごれいさんを合わせる場合もあります。

不整脈

漢方薬で期外収縮などの不整脈自体を減らすこともありますが、不整脈は不変でも、動悸などの自覚症状を減らす場合も少なくありません1)。第一選択としては炙甘草湯しゃかんぞうとうがありますが、自律神経(とくに交感神経)が関与している場合や脈不整のない動悸の場合は、加味逍遥散かみしょうようさん(女性に多い)、柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(男性に多い)、桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとう(恐怖感が強い人に多い)なども鑑別に挙がり、単独あるいは併用で使用します

心不全

漢方薬と心不全に関してエビデンスレベルの高い報告はありませんが、一部の症例では効果を示す場合もあるようです。そのなかでも比較的多くの報告がある漢方薬は、木防已湯もくぼういとうと五苓散です。
木防已湯には、血管平滑筋や血管内皮へ作用し、ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや、心収縮力増大作用が示されており2,3)、低心機能で肺うっ血がある場合によいとされています。五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリンを介した働きがあり、サードスペースに移行した水分貯留が多い場合によいとされています4)

心不全の周辺症状(食欲不振・慢性下痢・めまい)

漢方薬は、心不全自体よりも心不全に伴う周辺症状に活かされやすいです。また、漢方医学的な概念である陰(冷え)・陽・気・血・水などの視点でみると、心不全患者には主に「水毒」と「冷え」という2つの病態がみられやすいです5)
「水毒」とは、漢方用語で「体液の偏在した状態」を指します。溢水や脱水も含まれますが、心不全患者が水毒傾向となることは想像に難くないと思います。
「冷え」については、心不全患者は低灌流、循環障害、β遮断薬、加齢などで冷えていることが少なくありません。西洋薬には温める薬剤はありませんが、漢方薬には多く存在します。冷えで悪化した病態には、温める漢方薬(温熱薬)を用います。
これらを踏まえて、食欲不振、慢性下痢、めまいについて解説します。

食欲不振
  • 水毒
    六君子湯りっくんしとうは、「胃の水毒」をさばくことで食欲不振を改善させる働きがあります。舌と胃がつながっていることから、「舌のむくみ」(図)のある人に適応する人が多いと言われています。
  • 冷え
    冷え症の人の食欲不振には人参湯にんじんとうが第一選択となります。乾姜かんきょうという生姜を蒸して乾燥させた生薬などが含まれており、胃腸を温めて消化機能を改善させる働きがあります。また、腹診で心窩部に冷感を認める場合はさらに有効率が高くなると言われています。

図 舌のむくみ
むくみがある舌では、全体的に舌の腫れた感じがあり、歯型(矢印)がつく場合もある。

慢性下痢
  • 冷え
    とくに高齢、低心機能、腎不全患者などに慢性下痢が合併した場合は、重症化につながる可能性があります。そのため早期改善が望まれますが、治療に難渋することも少なくありません。実は心不全患者の慢性下痢には冷えが関与していることが比較的多く、温熱薬が奏効しやすいです。冷えが関与した下痢は、「体(あるいは腹部)が冷える」「冷たい飲食物の摂取で悪化する」「便臭が軽度」などを参考にして判断します。数ある温熱薬のなかでも、腹痛や腹満を認める場合は大建中湯だいけんちゅうとう、食欲不振を認める場合は人参湯にんじんとう、倦怠感を認める場合は真武湯しんぶとうを選択します。
  • 水毒
    冷えがない場合は、五苓散を用います。とくに水様性の下痢は水毒の範疇になります。
めまい
  • 水毒
    メニエール病が内耳リンパ水腫と関連しているように、めまいは水毒が関係していることが多いです。頭の向きで悪化する頭位性(良性発作性頭位めまい症を含む)や、起き上がる・立ち上がるなどで悪化する起立性のタイプには苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう、ふわふわする・クラッとするなどの動揺性のタイプには真武湯を用います。真武湯は温熱薬のため冷え症患者が対象になりますが、暑がりの場合は五苓散や半夏白朮天麻湯はんげびゃくじゅつてんまとうを用います
 

【循環器×漢方】には服用方法にコツが必要

循環器疾患の患者は、すでに多くの薬剤を服用していることが多いです。そのため、さらに漢方薬を追加するにはいくつかのコツが必要となります。

好みを知る

漢方薬の多くは顆粒であり、独特の味があります。また西洋薬に比べて効かないといったイメージを持つ人もいますので、導入時には必ず漢方薬が飲めそうな人かどうかの判別が必要です。例えば「漢方薬は飲めますか?」「西洋薬と漢方薬はどちらがよいですか?」などの質問をしてみましょう。どちらでもよさそうな場合にはぜひ漢方薬を勧めてみてください。極端に否定的な人に無理強いは禁物です。このような場合は、苦痛症状に困って患者側から漢方薬を希望するまで待ちましょう

柔軟さ

漢方薬は、通常「1日3回、食前または食間」に服用しますが、服薬アドヒアランスが低下する場合は、「1日2回」「食後」といった柔軟さも必要になります。飲まない薬は効きませんので、なるべく患者個人の特性に合わせて調節しましょう。

意識付け

 西洋薬に比べて漢方薬は、「飲まなくてもよい」「長く飲まないと効かない」といったイメージが多いなか、さらに上述のようなハードルがあります。患者は基本的に、それらを上回るメリットがないと服用を継続しません。そのためには、患者が困っている症状が改善する可能性について具体的に説明することが大事です。
下記は、普段筆者が説明しているものの一例です。参考にしてみてください。
「この漢方薬は、胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので、よいかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも、1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です」

副作用について

とくに注意すべき副作用は、甘草による偽アルドステロン症と黄芩おうごんによる肝障害です。すべての漢方薬に甘草や黄芩が含まれているわけではありませんので、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的にチェックする必要があります。

SUMMARY
漢方薬は、西洋薬以外で唯一の医療保険が使える薬剤になります。患者が困っている症状が西洋薬で治りにくい場合には、漢方薬という選択肢も考慮していただければと思います。

引用・参考文献
  • 1)北村順.“不整脈・動悸”.循環器医が知っておくべき漢方薬.東京,文光堂,2013,37-8.
  • 2)Nishida, S. et al. Vascular phamacology of Mokuboito(mu-fang-yi-tang)and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. Evid Based Complement Alternat Med. 4(3), 2007, 335-41.
  • 3)広瀬智道ほか.木防已湯、炙甘草湯、当帰湯の心臓に及ぼす作用について.和漢医薬学会誌.2(3),1985,688-9.
  • 4)江崎裕敬ほか.重症難治性心不全患者における木防已湯の有用性.日本東洋医学雑誌.67(2),2016,169-77.
  • 5)柴田龍宏ほか.“心不全に伴う症状緩和に漢方を生かすには”.実践・心不全緩和ケア.東京,日経メディカル,2018,87-92.

⼼不全に伴う症状の緩和に有⽤

⼼不全緩和ケアに漢⽅を⽣かすには  執筆 土倉潤一郎

私は⻄洋医学(主に循環器内科)と漢⽅医学を、ほぼ同じ期間、学んできました。そこで感じたことは、「どちらの医学も必要であり、お互いの利点を活かすことが患者の利益になる」です。例えば、冷え性、かぜ、胃腸疾患、⽉経関連疾患、気候の変化で悪化する頭痛、めまいなどは、漢⽅薬の使⽤頻度が多い分野と思います。⼀⽅で、循環器内科の分野においては、⻄洋薬が第⼀選択となることが多いですが、それでも取りきれない症状には漢⽅薬を使⽤します。

⼼不全の予後改善効果の⾯では確⽴したものがありませんが、“⼼不全に伴う症状の緩和”には幾つか漢⽅薬も有⽤と思われます。標準的治療を⾏っているにもかかわらず、患者が困っている場合にはぜひ漢⽅薬を検討してみてください。新たな治療選択肢があることは患者だけでなく医療者にとっても救いになりますし、効果を認めた際には共に喜ぶことができます。

今回は総論を中⼼に記述させていただき、⼼不全患者に伴う代表的な苦痛症状1)2)への具体的な漢⽅処⽅に関しては、ポイントを絞って、3症候について提⽰いたします。難しい漢⽅理論などにつきましては、他書を参考にしていただきたいと思います。

漢⽅の視点から⾒た⼼不全患者の特徴

漢⽅には陰(冷え)・陽・気・⾎・⽔といったように漢⽅独⾃の視点(病態把握)があります。⼼不全患者にはどの病態も絡んでいることがありますが、その中でも特徴は“⽔毒”“冷え”と思います。そして、病態とは異なりますが、⼼不全と漢⽅で密接な関係にあるのが“多剤”です。

(1)⽔毒について

⽔毒とは“体液の偏在”を表します。溢⽔や脱⽔、またはそれらが混在する場合も含まれます。例えば、急性腸炎(下痢と⾎管内脱⽔)、低アルブミン⾎症を伴う浮腫、⼆⽇酔いなどが典型的です(⼆⽇酔いは脳浮腫による頭痛や嘔気、むくみなどがある⼀⽅で、⾎管内は脱⽔で⼝渇がある状態)。

また、⽔毒の治療薬を利⽔薬といいます。利⽔薬には体液の偏在を是正し正常に戻そうとする働きがあります。フロセミドほど利尿効果が強くありませんが、⼤量に服⽤しても脱⽔になることはなく、電解質にも影響しない便利な薬です3)4)。利⽔薬の代表である五苓散(ごれいさん)には⽔輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがある5)といわれており、様々な⽔毒症状に使⽤します。

〈⽔毒症状〉
浮腫胸⽔ 腹⽔ めまい(内リンパ⽔腫) 曇天などの低気圧時に悪化する諸症状(頭痛、倦怠感、関節痛など) ⽔様性下痢 ⽔様性⿐汁 脳浮腫 ⼆⽇酔いなど
利⽔薬(例︓五苓散)の適応

(2)冷えについて

特に経過の⻑い⼼不全患者は低灌流、循環不全、β遮断薬、加齢などの影響で体が冷えやすい傾向にあります。⼼不全患者が慢性的に困っている症状には冷えが要因となっていることも多く、温める漢⽅薬(温熱薬)で奏効することも少なくありません。例えば、⼼不全患者の⾷欲不振、慢性下痢、倦怠感など、温熱薬の適応は多いようです。

〈冷えが関与する症状〉
冷え性の⼈が有する諸症状 ⾝体の冷感 気温の低下(季節や冷房)・冷たい飲⾷物の摂取などで冷えると悪化するまたは⾐類や⼊浴などで温めると改善する症状(腹痛、下痢、頭痛、しびれ、関節痛)
温熱薬(例︓真武湯[しんぶとう]や⼈参湯[にんじんとう])の適応

利⽔薬や温熱薬は⻄洋薬に同様のものがないことから、貴重な薬剤と思われます。

(3)多剤について

多剤を服⽤している⼼不全患者の場合、漢⽅薬を断念する例は多く、継続していただくためにちょっとした⼯夫が必要になります。漢⽅薬は味や形状が飲みづらいなどの難点もあるため、それを上回るだけの利点がないと患者も受け⼊れられませ3)4)5)ん。よって、「どのような薬なのか、効果が得られる可能性があるのか」についてしっかりと説明する必要があります。また、場合によっては「⾷前でなく⾷後の服⽤」「⽩湯に溶かして(または溶かさずに)他の錠剤と⼀緒に服⽤してもよい」などの柔軟さも必要になります。

説明の例︓この漢⽅薬はお腹を温めて下痢を改善させる漢⽅薬で、冷え性の⽅の下痢に良いといわれておりますが試してみますか︖2週間しっかり服⽤していただいても効果がない場合には中⽌します。通常は⾷前で処⽅しますが、⾷後で他のお薬と⼀緒に服⽤しても構いません。飲み⽅は、お湯で溶かしても、そのままでも飲みやすい⽅法で構いません。

では、次に⼼不全と代表的な付随症状に対する漢⽅治療について少し解説します。なお、以下の漢⽅薬は組み合わせて使⽤することも可能です。

⼼不全
  • ⽊防已湯(もくぼういとう)︓2000年前から⾮代償性⼼不全と思われる疾患に使⽤されてきた漢⽅薬。現代でも低灌流所⾒や右⼼不全などを有する治療抵抗性の重症⼼不全に有効であったとの報告が散⾒される6)7)。また、⽊防已湯は、ラットの実験で⾎管平滑筋や⾎管内⽪へ作⽤し、⼤動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調整的に働くことが⽰されており6)8)、前負荷や後負荷を軽減したい⼼不全に優先される。
  • 五苓散(ごれいさん)︓利⽔薬の代表的漢⽅薬で⼼不全にも頻⽤される9)10)。胸⽔や浮腫などのサードスペースへ移動した⽔分代謝不均衡がある場合に優先される。
⾷欲不振
  • 六君⼦湯(りっくんしとう)︓冷え性でない場合に使⽤する。胃の⽔毒をさばく漢⽅薬であり、⾆(胃とつながっている)がむくんで⻭型を認める⼈が典型的な適応とされている。
  • ⼈参湯(にんじんとう)︓冷え性の場合に使⽤する。⾃他覚的に⼼窩部が冷えている場合には優先的に使⽤する。
慢性下痢

以下の3剤とも、胃腸を温める漢⽅薬(温熱薬)。腸管が冷えているタイプの慢性下痢に使⽤する。冷えの下痢には“冷たい飲⾷物で悪化する”“便臭が軽度“などの傾向がある。

  • 真武湯(しんぶとう)︓利⽔薬でもあり第⼀選択となる。倦怠感にも良い。
  • ⼈参湯(にんじんとう)︓⾷欲不振などの上部消化器症状も認める場合に使⽤する。
  • ⼤建中湯(だいけんちゅうとう)︓腹痛や腹部膨満を伴う場合に使⽤する。⾃他覚的に臍周囲が冷えている場合には優先的に使⽤する。

最後に症例を提⽰します。

症例︓70歳代後半の男性
慢性⼼不全の急性増悪、虚⾎性⼼筋症、慢性腎臓病にて⼊院となった。標準的な治療で軽快し、退院後は外来でフォローすることに。⼼不全のコントロールは良好だったが、1カ⽉前から、徐々に⽔様性下痢を頻回(1⽇5〜6回以上)に認めた。整腸剤やロペラミドなどの⽌瀉薬は効果なく、感染や薬剤の関与も考えにくい状況だった。糖尿病性腎症により Cr 1.8mg/dL(eGFR 29.2mL/min/1.73m)で、⾼度の左室収縮能低下(EF20%)もあり、体液バランスの調節が難く、⻑期にわたる下痢は避けたい状況にあった。⾃然軽快の兆候はなく、漢⽅薬の処⽅を検討した。

細⾝で顔⾊は⻘⽩く、⾷欲不振倦怠感を認め、冷え性であった。また、冷たい飲⾷物で下痢が悪化するため控えているとのこと。

⼈参湯エキス1回1包を1⽇3回を処⽅

経過︓2週間後、「1カ⽉続いていた下痢が⼈参湯を飲み始めて数⽇後には⽌まり、⾷欲も出て、元気になった」と⾔われ、表情も明るくなっていた。家族も「以前はきついとしか⾔わなかったのが、ゴルフに⾏きたいと⾔うようになった」と喜んでいた。その後も経過良好であった。

Q1︓効果判定はいつ⾏いますか︖
A1︓基本的には2週間〜1カ⽉が多いです。1カ⽉間、しっかり服⽤していただいて全く効果が⾒られない場合には効果なしと判断しますが、「少し良いかも」といった程度でも変化があった場合には継続します。

Q2︓副作⽤について教えてください。
A2︓⽐較的頻度の⾼い副作⽤としては、⽢草による偽性アルドステロン症や⻩芩による肝障害などがあります。⽢草や⻩芩は全ての漢⽅薬に含まれるわけではありませんので、⽅剤ごとに構成⽣薬を調べてから、重点的に副作⽤チェックを⾏う必要があります。

Q3︓どのようにして冷えの有無を判断するのですか︖
A3︓「冷え性ですか︖」「冷えると悪化する、温めると改善する症状はありますか︖」。この2つの質問でいずれかを認めれば“冷えあり”で良いかと思います。他には「冷房が苦⼿」「熱い⾵呂で⻑湯できる」「温かい飲⾷物を好む」なども参考になります。

■参考⽂献

  • 1) Nordgren L, et al.: Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end-stage heart failure. Eur J of Cardiovascular Nursing,2003;2(3):213-7.
  • 2) Hanratty B, et al.︓Doctors' perceptions of palliative care for heart failure: focus group study. BMJ, 2002;325(7364):581-5.
  • 3) ⽥代眞⼀︓漢⽅薬はなぜ効くか――現代薬理学からの解明――. ProgMed,1994;14:1774-91.
  • 4) 原中瑠璃⼦,他︓利尿剤の作⽤機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報︓成⻑,⽔分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について.和漢医薬学雑誌,1981;14:105-6.
  • 5) Isohama, Y. Aquaporin Modification: A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan. J. Pharm. Soc. Jpn.2006;126:70-3
  • 6) ⻄⽥清⼀郎,佐藤広泰.⽊防已湯の慢性⼼不全における新しい臨床応⽤の可能性について.漢⽅の最新治療,2009;18(4):297-303.
  • 7) 江崎裕敬,他.重症難治性⼼不全患者における⽊防已湯の有⽤性. ⽇東医誌,2016;67(2):169-77.
  • 8) Nishida S, Satoh H. Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yitang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM,2007;4:335-41.
  • 9) 薄⽊成⼀郎,⻄本隆.僧帽弁置換術後の難治性胸⽔に対して五苓散追加が有効であった⼀症例.⽇東医誌,2012;63:103-8.
  • 10) 松井⿓吉,他.低⾎圧症を伴う慢性⼼不全の⽔分管理に五苓散が有効であった⼀症例.⽇東医誌,2012;63:185-90.

medicina誌 2021年7月号 ジェネラリスト・漢方-とっておきの漢方活用術  執筆 土倉潤一郎

循環器(動悸、浮腫)

POINT

  • 漢方薬は基礎疾患よりも症状、性別、年代などを参考に選択することが多い。
  • 西洋薬と漢方薬をバランスよく使い分ける、あるいは併用することが重要。
  • 効果不十分な場合には漢方薬を2剤併用する。

キーワード:動悸、浮腫、自律神経、利尿、利水

Ⅰ. 動悸と漢方

動悸に対する漢方治療は、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、西洋薬の適応外、副作用などを考慮して選択される。漢方薬は不整脈や基礎疾患の有無に関わらず使用できること、不眠、不安、イライラなどその他の自律神経症状も改善する可能性があること、ベンゾジアゼピンなどよりは有害事象が少ないことなどが利点だと思われる。動悸の背景にはさまざまな病態が含まれていることも多い。そのため、漢方治療によって動悸だけでなく心身共に治していくことが最終的には動悸の改善にも繋がりやすい。漢方薬と西洋薬との併用は可能であり、お互いの長所を活かすことが大事である。

Ⅰ-1. 女性の動悸には加味逍遥散(No.24)

a)解説
加味逍遥散は柴胡、山梔子、薄荷、牡丹皮、当帰、芍薬、朮、茯苓、生姜、甘草の10種類の生薬で構成されている。柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮には女性ホルモンを調節する作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称される。
加味逍遥散の特徴は自律神経と女性ホルモンを調節する働きであるため、女性の動悸には第一選択となる。また同様の理由で、月経周期に関連する動悸、更年期障害に伴う動悸などにも適合しやすい。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。

b)エビデンス
山崎の臨床研究では、76歳女性の動悸、のぼせに対して加味逍遥散を使用した結果、いずれも改善した症例を報告している2)

c)症例提示
35歳女性。主訴:動悸、月経前の頭痛、不眠。3、4ヶ月前より動悸(脈拍80〜90回/分の不整なし)を自覚するようになり、最近は毎日認める。仕事のストレスは増えている。不眠もあり、寝つき悪く、中途覚醒1回、熟睡感がない。月経前に頭痛も認める。イライラしやすい。
処方:加味逍遥散11包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は4-5/10へ減った。よく眠れるようになった。イライラもあまりない。」
28日後:「動悸はほとんどない。月経前の頭痛もあまりなかった。」

Ⅰ-2. 男性の動悸には柴胡加竜骨牡蛎湯(No.12)

a)解説
柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡、黄芩、半夏、桂皮、茯苓、竜骨、牡蛎、人参、生姜、大棗の10種類の漢方薬で構成されている。柴胡、黄芩、半夏、茯苓、竜骨、牡蛎には自律神経安定作用、精神安定作用がある。その中でも特に竜骨、牡蛎は動悸を抑える作用がある。典型的には“冷え性でない”“体格中等度以上”に適するため、男性の動悸には第一選択となりやすい。一方で、“冷え性”や“虚弱者”の場合には桂枝加竜骨牡蛎湯(No.26)柴胡桂枝乾姜湯(No.11)を選択する。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、動悸だけでなく不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。

b)エビデンス
柴胡加竜骨牡蛎湯には交感神経緊張の抑制作用3)、アドレナリン作動性神経系の代謝抑制作用4)などが示されている。

c)症例提示
53歳男性。主訴:動悸、不眠。5ヶ月前より動悸(不整あり)を自覚するようになった。この3日間は特に症状が強いため来院された。夜間、動悸で目が覚めて眠れないとのこと。心電図では3段脈を認めた。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯11包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は3/10へ減った。よく眠れるようになった。」
28日後:「動悸はほとんどない。調子良い。」

Ⅰ-3. あらゆる動悸に炙甘草湯(No.64)

a)解説
炙甘草湯は炙甘草、地黄、麦門冬、桂皮、麻子仁、阿膠、人参、生姜、大棗の9種類の生薬で構成されている。地黄、麦門冬、麻子仁、阿膠、人参には「血」や「水」を補う作用(血液や栄養分を補う、水分で潤す)があり、甘草、人参には「気」を補う作用(元気をつける)がある。また、「桂皮+甘草」の組み合わせには動悸を抑える作用がある。動悸の原因として、「気・血・水」の不足(心身ともに疲れたイメージ)の関与があると考えられており、これらを補う炙甘草湯が使用される。炙甘草湯は上記の漢方薬と異なり、自律神経が関与しない動悸にも使用できる。動悸に幅広く対応するため、とりあえず処方するには炙甘草湯がよい。

b)エビデンス
難治性不整脈5)やバセドウ病の動悸6)に対して炙甘草湯が有効であった症例報告がある。

c)症例提示
68歳男性。主訴:動悸。数週間前から動悸(脈拍140〜150回/分の不整あり)を自覚するようになった。特に数日前より悪化しており、1回30分程度持続する。ホルター心電図では心房頻拍、心室性期外収縮を認めた。元々の心拍数が60台であるため、ビソプロロール0.625mgから開始したが、1ヶ月後に動悸は増悪していた。
処方:炙甘草湯1回1包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は1-2/10へ減った。1回の動悸も10分ぐらいで治まる」
28日後:「動悸は少しあるが、あまり気にならない程度になった」

Ⅰ-4. 次の一手

・上記漢方薬とよく併用するのが半夏厚朴湯(No.16)である。半夏厚朴湯には抗うつ作用、抗不安作用があるが、特に喉〜胸部の閉塞症状(喉のつまり、胸痛等)や不安感などを目標に使用することが多い。動悸に対しても、特に上記の加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯のような自律神経調節作用の漢方薬と併用することが多い。
突然に発症する動悸(発作性上室性頻拍、発作性心房細動など)やパニック発作などには苓桂甘棗湯(苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)で代用)を用いる。

Ⅱ. 浮腫と漢方

浮腫に対する漢方治療についても、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、利尿剤の適応外(若い女性の浮腫)、副作用(利尿剤による腎機能や電解質の悪化)などを考慮して選択される。基本的には基礎疾患の有無を問わないことが多いが、基礎疾患がある方が有効率は低い。浮腫に対する漢方薬は、利水作用(水分代謝調節作用)を有する利水剤(水分代謝調節薬)を使用し、浮腫の部位、冷えの有無、年齢などを参考にして選択する。
例えば、利水剤の代表である五苓散(17)はアクアポリン(AQP)という水輸送チャネルを介して働くことがわかっている7)。また、五苓散(おそらくその他の利水剤も)は浮腫状態では利尿作用、脱水では抗利尿作用として働くことが示されており8)水分バランス(分布の不均衡)を丁度よい状態に調節してくれる薬剤となる。すなわち、利水剤は利尿剤よりも効果は劣るが、多く服用しても基本的に脱水にはならず、腎機能も悪化させない。また、ナトリウムやカリウムなどの電解質に与える影響もほとんどない9)

Ⅱ-1. あらゆる浮腫に五苓散(No.17)

a)解説
五苓散は沢瀉、朮、茯苓、猪苓、桂皮の5種類の生薬で構成されている。そのうち4つが利水作用の生薬であり、利水剤の代表といえる。五苓散はどのタイプの浮腫にも使用できるが、特に脳浮腫に対して効果を示しやすい。それは実臨床でも実感するが、五苓散が作用しやすいAQP4が比較的脳に多く分布していることからも説明できる10)。脳神経外科の分野でも五苓散は頻用されているが11)、特に低気圧時の頭痛、二日酔いの頭痛(微小な脳浮腫が関与するといわれている)などに有効性が高いと感じる。
五苓散は全年齢層に使用できるが、特に小児との親和性が高く、小児の浮腫には五苓散が第一選択となる。

b)エビデンス
心不全に対する五苓散の有効性を示した報告もある12)13)

c)症例提示
91歳女性。主訴:両下腿浮腫、顔面浮腫。ADL半介助にて施設入所中。食事は摂取できている。2型糖尿病、慢性腎臓病(Cr 1.7, eGFR 22)、著明な両下腿浮腫、顔面浮腫を認めており、歩行困難な状態であった。アゾセミド30mgを追加したところ、体重1kg減少したが、下腿浮腫は著変なく、腎機能の悪化を認めた。牛車腎気丸5g/日を追加したが効果不十分であった。
処方:五苓散1回1包 1日2回 毎食間 14日分
14日後:「浮腫は1/3程度減り、体重も2kg減った」
28日後:「浮腫は1/2程度残存しているが、だいぶ楽になった」
 

Ⅱ-2. 高齢者の下腿浮腫には牛車腎気丸(No.107)

a)解説
牛車腎気丸は、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子、牛膝、車前子の10種類の生薬で構成されている。牛車腎気丸には沢瀉、茯苓などによる利水作用以外にも、滋養強壮作用、温熱作用、末梢循環改善作用などがある。牛車腎気丸に類似する漢方薬に八味地黄丸(No.7)があるが、牛車腎気丸=八味地黄丸+牛膝、車前子であり、八味地黄丸より下腿浮腫に効果を示しやすい。また、下腿浮腫だけでなく、加齢に伴う諸症状(認知機能低下、腰痛、下肢しびれ、下肢の冷え、サルコペニアなど)にも適応があり、高齢者向けの漢方薬である。よって、牛車腎気丸は高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。また、基本的に体を温める漢方薬のため、冷え性に適合しやすい。

b)エビデンス
リンパ浮腫患者に対するランダム化比較試験14)。圧迫療法に加え牛車腎気丸エキス製剤を1ヶ月投与群(40名)、もしくは非投与群(40名)で比較した結果、上肢リンパ浮腫、下肢リンパ浮腫ともに牛車腎気丸は非投与群と比較して浮腫を有意に減少させた。

c)症例提示
87歳女性。主訴:下腿浮腫、下肢しびれ。ADL自立で外来通院中。慢性心不全(EF63%)、慢性腎臓病(Cr1.1mg/dl)、著明な下腿浮腫があり歩行しづらい状態。利尿剤を増量すると腎機能が悪化する。脊柱菅狭窄症で下肢しびれも認める。足が冷えやすい。
処方:牛車腎気丸1回1包 1日2回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減り、体重も2.2kg減った」
28日後:「浮腫はだいぶ良い。体重もさらに1kg減った。足のしびれは変わらない」
 

Ⅱ-3. 女性の浮腫には当帰芍薬散(No.23)

a)解説
当帰芍薬散は当帰、芍薬、川芎、朮、茯苓、沢瀉の6つの生薬で構成されている。茯苓、朮、沢瀉の利水作用、当帰、川芎の末梢循環改善作用、女性ホルモンを調節する作用、当帰、芍薬の温熱作用がある。すなわち、当帰芍薬散は(特に若年〜中年で冷え性の)女性の浮腫に第一選択となる。その中でも月経周期に伴う浮腫(月経前の浮腫)などに対応しやすい。

b)エビデンス
妊娠中の浮腫に当帰芍薬散が有効であった症例報告もある15)

c)症例提示
24歳女性。主訴:下腿浮腫、曇天時の頭痛。以前から仕事後に下腿浮腫や下肢のだるさを認めていたが、最近は翌朝にも浮腫が残存している。月経前には全体的にむくみやすくなる。曇天時の頭痛、月経痛を認める。手足が冷えやすい。
処方:当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減っている。曇天時の頭痛もなかった」
28日後:「浮腫の調子はだいぶ良い。月経痛もあまりなかった」
 

Ⅱ-4. 次の一手

・上下肢など体表面の浮腫に対応する漢方薬にも鑑別がある(上記の漢方薬も使用する)。蜂窩織炎など炎症性浮腫の場合、抗炎症作用も有する越婢加朮湯(No.28)を使用する。炎症が乏しい場合上肢には桂枝加朮附湯(No.18)、葛根加朮附湯(三和SG-141)下肢には牛車腎気丸(No.107)、防已黄耆湯(No.20)などを使用する。
・心不全には木防已湯(No.36)を使用することもある。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており16)17)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが下腿浮腫は少ない場合に使用することが多い。心不全で下腿浮腫がある場合には上記の五苓散や牛車腎気丸を使用することが多い。
・利水薬を併用することで効果が高まる可能性があるため、1剤で効果不十分な場合には2剤を併用する。

文献

  • 花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003
  • 山崎武俊:動悸/不整脈に対する漢方治療の有効性. 心臓 48(5):504-510, 2016
  • 岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49:766-774, 1999
  • 伊藤忠信,他:柴胡加竜骨牡蛎湯および柴胡桂枝乾姜湯の中枢神経系に及ぼす作用-マウス脳内モノアミン含量および代謝に及ぼす影響-. 日本東洋医学雑誌 47:593-601, 1997
  • 坪敏仁,他:炙甘草湯が著効した難治性不整脈の症例. 漢方と診療 3:214-216, 2012
  • 田原英一,他:漢方治療が有効であったバセドウ病の2症例. 日本東洋医学雑誌 48:341-348, 1997
  • Isohama Y.:Aquaporin modification:A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan.J Pharm Soc Jpn 126:70-73, 2006
  • 大西憲明,他:モデルマウスを用いた漢方方剤の利水作用の検証. 和漢医薬学雑誌 17:131-136, 2000
  • 原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯) 第Ⅰ報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. 和漢医薬学雑誌 14:105-106, 1981
  • Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med 6:159-163, 2000
  • 宮上光祐, 他:慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性. Neurol Surg 37:765-770, 2009
  • 玉野雅裕,他:トルバプタンノンレスポンダー心不全患者における五苓散併用効果の臨床的検討. Progress in Medicine 37:777-782, 2017
  • 松井龍吉,他:再発した胸水貯留に対し五苓散が有効であった一症例. 日本東洋医学雑誌 57:339-344, 2006
  • 阿部吉伸:リンパ浮腫に対する牛車腎気丸の効果. 漢方医学 25:284-287, 2002
  • 諸橋弘子,他:妊娠中の皮膚疾患(アトピー性皮膚炎,妊娠性痒疹,尋常性ざ瘡)に当帰芍薬散が奏功した4症例. 日本東洋医学雑誌 71:115-120, 2020
  • Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007
  • 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌 2(3):688-89, 1985

月刊薬事2022年2月臨時増刊号 救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方よく使う漢方製剤 真武湯  執筆 土倉潤一郎

組成

茯苓4g、芍薬3g、朮3g、生姜1.5g、附子0.5g
コタロー・三和・JPSは附子1g、茯苓5g
コタローは生姜0.8g JPS・三和は生姜1g
ツムラ・JPSは蒼朮 コタロー・三和は白朮

エビデンス

真武湯のエビデンスは検索した限りでは見当たらないため、症例報告を提示する。

「真武湯が後期高齢者の心不全に有効であった2症例」1)
後期高齢者の心不全2症例に真武湯を投与した。
症例1:84歳男性。重症大動脈狭窄症を有する心不全で、入退院を繰り返していた。入院中に真武湯を追加してから胸水減少、心胸郭比の改善を認めた。
症例2:84歳男性。心不全と誤嚥性肺炎で入院。真武湯を追加してから、尿量増加し、肺うっ血と心胸郭比の改善を認めた。

適応となる病態

真武湯は茯苓、芍薬、朮、生姜、附子で構成され、主に「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」「補気作用(元気をつける)」を有する漢方薬である。よって、「冷え」「水分代謝・分布異常(水毒)」「気虚(気の不足)」といった病態に適応する。
よって、真武湯が適応とする症候はめまい、倦怠感、下痢、冷え、浮腫、心不全などがある。
1. めまい
例えば、メニエル病の原因が内リンパ腫といわれているように、めまいと「水分代謝・分布異常(水毒)」が関係することが多く、水分代謝調節作用を有する真武湯は鑑別処方の一つである。その中でも真武湯が得意としているめまいは、浮動性めまい(フワフワする)と動揺性めまい(クラっとする)である。
昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」2)を提示しており、その中には「歩いていてクラっとする」「雲の上を歩いているみたいで、なんとなく足元が心もとない、あるいは地にしっかり足がついていないような感じ(フワフワ)する」といった浮動性・動揺性めまいについて記載されており、それ以外にも、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる」「眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある」なども記載されている。
急性期の回転性めまいよりも、亜急性期以降のめまい感といったタイプで、安静時ではなく労作時に出現しやすい傾向がある。対象者は冷え症の高齢者に比較的多くみられる。急性期の回転性めまいや、頭位性めまい(頭の向きで悪化するタイプで良性発作性頭位めまい症なども含む)、起立性めまい(立ちくらみも含む)には苓桂朮甘湯を優先して使用される。
2. 倦怠感
真武湯には「温熱作用(温める)」「補気作用(元気をつける)」があるため、適応となる倦怠感は「体の冷えが強く、横になりたいほどのきつさがある」が典型的である。
真武湯で効果不十分な場合には人参湯を併用すると効果が高まる。冷えが強くない倦怠感には補中益気湯や十全大補湯、抑うつを伴う倦怠感には加味帰脾湯なども使用される。
3. 下痢
真武湯には「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、適応となる下痢は「冷えを伴う水様性下痢」である。「冷えを伴う下痢」とは、発熱や炎症がなく、体が冷える、冷たい飲食物で下痢が悪化する、便臭が軽度などを意味する。下痢は水様性で腹痛を伴わないことが多い。
「冷えを伴う下痢」において、腹痛を伴う場合は大建中湯、食欲不振を伴う場合は人参湯、軽度の炎症を伴う場合は半夏瀉心湯なども使用される。
4. 冷え
真武湯には「温熱作用(温める)」があるため、基本的に暑がりでなく冷え症に適合しやすい。冷え症の中でも、末梢循環障害を示唆するような手足末端のみの冷えよりも、体全体の冷え(厚着を好む、冷房が苦手、長風呂できる)が典型的である。
前者の末端冷え症には末梢循環改善作用のある当帰四逆加呉茱萸生姜湯や当帰芍薬散が使用される。真武湯と併用する場合も多い。
5. 浮腫
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、浮腫にも適応がある。水分代謝調節作用を有する漢方薬(利水薬)には基本的に「ちょうどよい状態にしてくれる」作用がある。例えば、利水薬の代表である五苓散の研究では「浮腫状態には利尿作用、脱水状態には抗利尿作用」をもたらすことも報告されている3)。また、西洋薬の利尿薬にみられるような電解質異常もきたしにくい4)。真武湯の抗浮腫作用は軽度で、典型的には冷え症の浮腫に使用される。
抗浮腫作用を強めるため、他剤と併用することもある。抗浮腫作用の比較的強い五苓散、高齢者の下腿浮腫に頻用される牛車腎気丸、女性の浮腫に頻用される当帰芍薬散などがある。
6. 心不全
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、心不全にも適応がある1)。また、心不全患者は低灌流、β遮断薬、加齢などの影響で冷え症が多く、「温熱作用」を有する真武湯の対象となりやすい。漢方薬の利水薬は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく、体内の水分バランスを調節する働きである。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりももっと落ち着いた代償期、心不全のステージ分類では「ステージC(末期を含むステージDではない)」などに使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけと思われる。
心不全に用いるその他の漢方薬としては、五苓散や木防已湯などがある。五苓散は抗浮腫作用に比較的優れているため、third spaceなどの体液貯留の調節に用いることが多い。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており5)6)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが浮腫は少ない場合に使用することが多い。

注意点

附子が含まれているため附子中毒に注意が必要だが、極端に暑がりな人に投与しなければリスクは少ないと思われる。附子中毒の症状は、口唇(口の周囲)や舌のしびれ、動悸、嘔気、ほてりなどがあるが、これらが服用直後ではなく、服用30分~2時間後あたりに発症することが特徴である。もし附子中毒を発症しても数時間後には代謝され落ちつく。不整脈などがでている場合や症状が強い場合は点滴や心電図モニターも必要になる。

症例

72歳女性。1年前からめまいを自覚。めまいは主に歩いているときにフワフワする。時々、クラっとすることもある。頻度は週2~3回程度。頭部MRIなどの検査では異常なく、脳外科で加療したが改善なし。手足を触ると冷たく、夏でも厚着をするほどの冷え症とのこと。BP124/65mmHg, HR 65, SpO2 98%。
処方:真武湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分

2週間後:「この2週間にめまいは1度だけでした。」
4週間後:「めまいはなく、調子良いです。」

文献
1)山本昇伯,他:日東医誌, 68(2):117-122, 2017
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993
3)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994
4)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981
5)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4(3):335-41, 2007
6)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3):688-89, 1985

月刊誌「薬局」2022年3月号 心不全薬物治療の道しるべ 「心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」  執筆 土倉潤一郎

  • 漢方は心不全の治療よりも心不全患者のQOL改善の方が得意。
  • 高齢心不全患者では甘草による偽アルドステロン症に注意。
  • 漢方薬にはさまざまなハードルがあるため個別対応が必要。

心不全患者において、予後改善効果のある薬剤が大切なことは言うまでもないが、全身状態やQOLを改善する薬剤も大事である。また、漢方は心不全自体の治療よりも心不全患者のQOLを改善する役割を得意としている。例えば、“食欲不振が改善し栄養状態も回復する”“便秘が改善し(いきむことも減り)心負荷も軽減する”“ふらつきや倦怠感が改善しリハビリテーションもできるようになる”などで、QOLの改善だけでなく、間接的に予後の改善にも関わる可能性がある。
また、漢方薬にはさまざまな副作用があるが、特に心不全患者では甘草による偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)に注意が必要である。両者には密接な関係性があり、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪と紛らわしい”などがある。
今回、心不全患者のQOL改善に役立つ漢方について述べる。

【便秘】
  • 麻子仁丸(126):特に高齢者の便秘(難治性)に第一選択となる。比較的“強い下剤”のため、西洋薬を複数服用しても効果不十分な難治性の便秘に使用するとよい。これまで便秘に困っていた患者が「スッキリ出た」と快便に喜ぶことも少なくない。心不全患者は元々多剤を服用している場合が多いが、麻子仁丸を追加することで便秘薬(西洋薬)を数種類減薬できる可能性がある。また、甘草が含まれていないことも利点。
【食欲不振】
  • 六君子湯(43):「胃の水毒(後述)」が関与した食欲不振には六君子湯が第一選択となる。六君子湯は大きく四君子湯(75)+二陳湯(81)という2つの漢方薬に分かれる(4+2=6)。四君子湯は消化機能を高めて気を補い(元気をつける)、二陳湯は「胃の水毒」をさばく働きがある。六君子湯にはグレリンによる上部消化器症状の改善効果、病態生理なども解明されているが1)2)3)、漢方医学的な視点でみると、六君子湯は「胃の水毒」を改善して食欲不振を治す漢方薬といえる。「胃の水毒」は西洋医学的に説明しづらいが、心不全患者は浮腫傾向であるため、「胃の水毒」を有する可能性が高い。よって、心不全患者の食欲不振には六君子湯が適合しやすい
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯(116):ストレスが関与した食欲不振には茯苓飲合半夏厚朴湯が第一選択となる。茯苓飲合半夏厚朴湯は茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤である。茯苓飲は四君子湯(−甘草)に順気作用(気の巡りをよくする、抗ストレス作用)の枳実などが含まれており、ストレス性の上部消化器症状に対応する。早期飽満感(食べるとすぐに胃が張る)、ゲップ、胸焼けなど、ストレスで胃の蠕動が低下した状態を改善する漢方薬である。また、半夏厚朴湯にも順気作用があり、咽喉頭異常感症(喉のつまり)、心臓神経症(胸のつまり)などの喉から胸の閉塞症状を和らげる働きがある。すなわち、茯苓飲合半夏厚朴湯は“喉から胃までの蠕動低下(気の滞り、詰まった感じ)を改善する漢方薬”であり、ストレス性の食欲不振に適合しやすい。また、生薬構成をみると六君子湯(−甘草・大棗)が含有されているため、“六君子湯+抗ストレス作用”のイメージで、西洋薬で例えるならスルピリドに近い。六君子湯と異なり、甘草が含まれていないのも利点
【倦怠感】
  • 補中益気湯(41):倦怠感に第一選択となる。食欲不振にも対応できる薬剤のため、胃が弱い患者にも使用できる。心不全ステージ分類のStageCよりもStageDの進行した状態の方が倦怠感は増加するが、一方で漢方薬の有効率は低下する傾向にある。
  • 十全大補湯(48):倦怠感に使用される漢方薬だが、補中益気湯との大きな相違点は四物湯(71)が含有されていること。四物湯によって、やや効果が高まる一方で、胃もたれなどに注意すべき生薬が含まれるため胃が弱い患者には注意が必要になる。心不全の進行に伴い、倦怠感に対する漢方薬の有効率が低下することは補中益気湯と同様。
【こむら返り】
  • 芍薬甘草湯(68):頻度の少ないこむら返りに第一選択となる。芍薬甘草湯は速効性がある一方で甘草の量が多いため、基本的に頓用で使用する。
  • 疎経活血湯(53):再発するこむら返りに第一選択となる。発作時には芍薬甘草湯を使用するが、繰り返す場合には疎経活血湯を定期服用して予防する。時間依存性、用量依存性があるため、明け方のこむら返りには夕よりも寝る前、1包よりも2包の方が効果が高い4)。よって、明け方のこむら返りには“寝る前2包”が推奨される。
【下腿浮腫】
  • 牛車腎気丸(107):高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。女性の浮腫には当帰芍薬散(23)、水太りの女性の下腿浮腫には防已黄耆湯(20)、それ以外の浮腫や全身の浮腫には五苓散(17)を優先して使用する。効果不十分な場合には、これらを併用する。

~心不全治療における漢方薬の位置づけ~
漢方薬の利水薬(水分代謝調節薬)は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく体内の水分バランスを調節する(水を引き込むよりも正常でない場所に行かないようにする)働きがある。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりも比較的落ち着いた代償期に使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけだと思われる。

  • 五苓散(17):オールラウンダーの利水薬。水分代謝調節作用に比較的優れているため、third spaceなどの体液貯留の調節に用いることが多い。よって、心不全だけでなく、下腿浮腫、低アルブミン血症などの全身浮腫などにも使用できる。その他の利水薬として、当帰芍薬散(23)、真武湯(30)、牛車腎気丸(107)などを使用あるいは併用することもある。
  • 木防已湯(36):ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くこと(≒血管拡張作用)心収縮力増大作用が示されており5)6)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが浮腫は少ない場合などに使用することが多い。
【漢方薬のハードルを下げる方法】

漢方薬には西洋薬と異なる特性がある。利点としてはこれまで記載したような西洋薬にはない、あるいは西洋薬を上回る効果を持つ側面があること、また、患者の治療選択肢が増えることなどがある。難点としては“飲みづらさ”であろう。漢方薬は西洋薬よりも健康食品に近い存在であり、好み服薬意識(低い)などが大きく関与する。どんなに良い漢方薬でも飲まない薬は効かないため、患者に合わせて漢方薬のハードルを下げる工夫が必要である。これは漢方薬を適切に選択することと同等に重要だと思われる。

《好み》
まず患者によって漢方薬への好み(苦手意識)が異なることを認識すべきである。よって漢方薬を初めて服用される場合には「漢方薬は飲めますか?」などの質問をする方が親切である。漢方薬に対してあまり良い返事がない場合には下記の方法を検討する。
《味》
漢方薬の味が苦手な場合もある。理想的にはインスタントコーヒーのように“白湯に溶かして香りも含めて服用する”ことが勧められているが、個人的には「オブラートやジュースなどどのような方法でもよいのでとにかく飲んで下さい」と伝えている。また錠剤やカプセルの製品(限定されるが)を選択することもある。
《細粒》
粉が苦手な場合は“お湯に溶かす”“錠剤やカプセルの製品を選択する”“オブラートを使用する”などの対応がある。
《服薬方法》
添付文書には「1日2~3回」「食前又は食間」に服用すると記載されているが、患者によっては「1日2回」「食後」「西洋薬と同時服用可」などの柔軟さが必要である。漢方薬の服用のタイミングに関しては、空腹時と食後で胃内pHに差があり、効果や副作用に影響を及ぼす可能性を指摘した研究もあるが、臨床的には治療上問題となるほどの差ではない7)という意見も多数ある。個人的には服薬アドヒアランスを重視して食後で処方することが多く、また服用のタイミングも個人に任せて「服用時間がずれても、服用間隔が短くてもよいので、1日分を1日の中で飲み切ることが大事です」と強調している。ただし、“不眠に対する漢方薬は寝る前“”食欲不振や食後の膨満感などには食前“”頓用で使用する場合には速効性を期待して空腹時“の方がよいと思われる。
《服薬意識》
一般に“飲まないといけない西洋薬”と“飲まなくてもよい漢方薬”の違いはあると感じる。漢方薬の服薬意識を高める方法としては“漢方薬を飲んでみよう”という期待値を高めることである。具体的には、“どのような効果をもつ漢方薬か”“どのような症状が改善する可能性があるか”“どれくらいで効果を認めるか”“次回の診察時に改善がなければ処方変更を検討する”などを説明する。例えば、個人的な説明内容としては「この漢方薬は○○の働きがあり、○○の症状が改善する可能性があります。2~4週間で症状が軽減する可能性がありますのでまた経過を教えてください。」などとお伝えしている。
《効果発現》
一般に漢方薬は長く飲まないと効かないというイメージをもつ人が多い。実際、そのような場合もあるが、慢性疾患を対象とした漢方薬でも2~4週間以内に効果を示すことが多い。漢方薬の効果に対して半信半疑の患者も、早期に効果を実感するとその後の服薬アドヒアランスが向上する。そのため、なるべく早期の成功体験を意識し、速効性や有効性の高い“症候×漢方薬“から開始することが大事である。漢方薬にも得意不得意があるため、これまで記載した内容(得意分野)を参考にして頂きたい。
《副作用》
なるべく副作用の少ない漢方薬を選択することも大事である。一度、副作用を経験すると他の漢方薬も拒むようになる場合がある。特に注意すべき副作用は、甘草による偽アルドステロン症、黄芩による肝障害、地黄や麻黄による胃もたれなどがある。もちろん、患者には予めそのような副作用の可能性を(あまり強調しすぎずに)説明しておくべきである。


文献
1) Takeda, H, et al:Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism. Gastroenterology, 134:2004-2013, 2008.
2) Arai M, et al:Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastoenterology, 59:62-66, 2012.
3) Tominaga K, et al:A randomized, placebo-controlled, double-blind clinical trial of Rikkunshito for patients with non-erosive reflux disease refractory to proton-pump inhibitor:the G-PRIDE study. J Gastroenterol, 49:1392-1405, 2014.
4) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017.
5) Nishida S, et al:Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007.
6) 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. Pharma Medica, 新春増刊号:193-200, 1986.
7) 稲木一元,他:臨床医のための漢方Q&A, 中外医学社, 202-203, 2014.

知識ゼロでも簡単に理解できる! 循環器診療の諸症状に役立つ漢方

総論

循環器×漢方 ~循環器診療に漢方の出番はあるのか?~

漢方にも得意不得意がある。それは症候や診療科によっても異なる傾向があり、婦人科、心療内科、耳鼻科、脳神経外科、小児科などは漢方との親和性が高く、学会や研究会も発足されている。一方で、循環器領域は漢方との親和性は高いとはいえず、実際の使用頻度も少ないと思われる。一般に漢方薬は標準的治療で取り切れない症状に使用されることが多いが、循環器領域(虚血性心疾患、高血圧、脂質異常症、心不全など)では西洋医学で改善する場合が比較的多く、さらに漢方治療も不得意であることが多い。
しかし、そのような循環器領域の中でも“ここは漢方の方が役立つ”といった分野もある。対象としては、更年期、自律神経や精神的な関与、高齢者などが多いと思われる。患者が困っているときに治療の選択肢の1つとして漢方薬を提案できると、診療の幅が広がり患者の満足度も上がると思われる。
なお、今回掲載した漢方薬には利便性のため株式会社ツムラの製品番号を併記した。

各論

動悸

心房細動、心室頻拍、房室結節回帰性頻拍などは西洋治療が優先されるが、期外収縮、心房頻拍、洞性頻脈(不整脈のない動悸も含む)などで患者が動悸症状に困っている場合は漢方薬も治療選択肢の一つになり得る。漢方薬を使用することで不整脈は減らなくても動悸症状が軽減することはよく経験する。

①自律神経を調節する漢方薬(気剤)

例:加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、半夏厚朴湯(16)、加味帰脾湯(137)、苓桂甘棗湯(苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72))など。

上記の漢方薬には自律神経調節作用、抗不安作用、抗うつ作用、抗ストレス作用などがあり、動悸の原因としてストレス、不眠、不安、イライラなどが関与している場合、西洋薬ではベンゾジアゼピンなどが適応となるような場合に使用することが多い。これらの漢方薬で動悸だけでなく、不眠、不安、イライラなども改善する可能性がある。動悸症状や不整脈だけを治すというよりも、心身ともに整えるイメージであり、これが漢方の醍醐味と思われる。患者としても動悸だけでなくさまざまな不調が良くなるため喜ばれやすい。

②気力・体力を補う漢方薬(補剤)

例:炙甘草湯(64)、十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)、加味帰脾湯(137)など。

東洋医学では動悸の治療に、気力や体力を補う薬剤も鑑別処方として挙げられている。イメージとしても、動悸は元気な状態よりも疲れや睡眠不足などがあるほうが起きやすい印象である。実臨床では気剤が適応となる場合が多いが、補剤を併用して(あるいは単独で)改善する場合も少なくない。

動悸に使用する漢方薬

・加味逍遥散(24):女性の動悸に第一選択。自律神経調節作用(主に交感神経抑制)、抗不安作用、抗ストレス作用、抗うつ作用、女性ホルモン調節作用などがあり、自律神経症状、精神症状、血管運動神経症状(ホットフラッシュなど)によい。全体的なイメージとしては緩める方向性の薬剤で、女性の自律神経や女性ホルモンを調節し、動悸以外にイライラ、肩こり、緊張型頭痛、不眠、めまい、ホットフラッシュ、月経前症候群、月経痛なども緩和する可能性がある。特に更年期世代や月経周期に伴う動悸には最優先で用いられる

*効果不十分例
①喉のつまり感、呼吸困難感(息苦しさ)などを伴う場合、不眠などの精神症状が残存している場合は半夏厚朴湯(16)を併用
②それ以外の場合、動悸症状や不安が強い場合は桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用
③疲労が強い場合は下記の補剤を併用
④抑うつや不眠が残る場合は加味逍遥散を加味帰脾湯(137)へ変更

・柴胡加竜骨牡蛎湯(12):男性の動悸に第一選択。自律神経調節作用、抗不安作用、抗ストレス作用、抗うつ作用などがある。基本的には暑がりタイプに使用する漢方薬であり、寒がりや虚弱タイプには柴胡桂枝乾姜湯(11)を用いる。柴胡加竜骨牡蛎湯には交感神経緊張の抑制作用1)、アドレナリン作動性神経系の抑制作用2)が報告されているが、抑うつなどにも効果を示すため実臨床の印象としては交感神経抑制だけでなく、自律神経を調節するイメージである。また、含有生薬の竜骨や牡蛎自体に動悸を減らす作用もある。

*効果不十分例
①喉のつまり感、呼吸困難感(息苦しさ)などを伴う場合、不眠などの精神症状が残存している場合は半夏厚朴湯(16)を併用
炙甘草湯(64)を併用
③抑うつや不眠が残る場合は柴胡加竜骨牡蛎湯を加味帰脾湯(137)へ変更

・半夏厚朴湯(16):抗不安作用、抗うつ作用などがあり、喉のつまり感(咽喉頭異常感症)、胸のつまり感、呼吸困難感(息苦しさ)などの喉~胸部の閉塞症状を伴う場合に使用する。動悸に対しては、第一選択薬というよりも加味逍遥散(24)や柴胡加竜骨牡蛎湯(12)などで効果不十分な例に併用することが多い。

・炙甘草湯(64):自律神経や精神症症状を伴わない動悸に第一選択。気力・体力を補う作用、動悸を抑える作用などがある。気剤と併用する場合もある。疲労、倦怠感が強い場合は十全大補湯(48)や人参養栄湯(108)を選択する。

・苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう):エキス製剤にはない漢方薬であるため、苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)で代用する。小児や若年者の動悸に第一選択。突発的に発症する動悸発作、パニック障害、めまい、起立性調節障害などを認める場合によい。

心臓神経症(胸痛、呼吸困難感)

基本的なことではあるが、心電図で異常のない胸痛患者をすぐに心臓神経症と診断するのではなく、丁寧な診察をして筋骨格系や炎症による疼痛などを除外することが大切である。それらの器質的疾患が除外された心臓神経症、いわゆるベンゾジアゼピンなどが適応となるような胸部症状には漢方薬も大変有用であり、副作用の観点からは漢方薬を優先してよいと思われる

・半夏厚朴湯(16):自律神経や精神症状を伴う胸部症状に第一選択。抗不安作用、抗うつ作用などがあるが、喉〜胸の閉塞症状(喉のつまり感、胸のつまり感、呼吸困難感、大きく息を吸いづらいなど)の緩和を得意としている。不安や不眠などにもよい可能性がある。

*効果不十分例
①女性には加味逍遥散(24)を併用
②男性には柴胡加竜骨牡蛎湯(12)を併用
③抑うつや不眠には加味帰脾湯(137)を併用
④食欲不振を伴う場合は茯苓飲合半夏厚朴湯(116)へ変更

起立性調節障害、起立性低血圧

両者は同じ漢方薬を使用する。起立性低血圧の診断基準を満たさないような軽度の立ちくらみやめまいなどにもよい。神経難病などの基礎疾患があると有効率は低い印象。西洋医学的なアプローチとして水分摂取を促す方法があるが、漢方医学的な視点でみると水を溜め込みやすい水毒体質者が多く、症状が改善しないだけでなく、悪化の要因となっている可能性もある。水毒体質者は低気圧時に頭痛やめまいなどの症状悪化を認める、車酔いしやすい、飲水量が少ない(喉が渇かない、飲めない)などの傾向が多い。個人的には口渇症状に合わせた通常の飲水量でよいと指導している。

・苓桂朮甘湯(39):起立性調節障害、起立性低血圧に第一選択。血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されている3)。血管運動神経系に作用するため、立ちくらみ、起立時に悪化するめまいや動悸、頭の向きで悪化する頭位性めまいなどにもよい。苓桂朮甘湯は水分代謝調節薬(利水薬)であり、むくみ、車酔い、低気圧時の体調不良などを認める水毒体質者には特に有効率が高い。朝が起きられず不登校となっているような起立性調節障害には本剤のみでは症状が取り切れず、下記の漢方薬を併用することが多い。

*効果不十分例
▷まずは補剤(気力・体力を補う)の併用
・食欲がない場合は補中益気湯(41)を併用
・食欲がある場合は人参養栄湯(108) or 十全大補湯(48)を併用
・抑うつや不眠には加味帰脾湯(137)を併用
▷低気圧時の体調不良が強い場合
五苓散(17)を併用
・月経周期の不調を伴う場合は当帰芍薬散(23)を併用。
▷それ以外
・胃腸虚弱には半夏白朮天麻湯(37)へ変更
・月経周期の不調を伴う場合は当帰芍薬散(23)+柴胡桂枝乾姜湯(11)へ変更
・神田橋処方:桂枝加芍薬湯(60)+四物湯(71)へ変更
*小中高生が対象となることが多く、味や顆粒を敬遠される場合もある。製薬会社によって苓桂朮甘湯、補中益気湯、加味帰脾湯、五苓散、当帰芍薬散、桂枝加芍薬湯、四物湯には錠剤タイプもある。

下腿浮腫

漢方薬では利水作用を持つ利水薬(水分代謝調節薬)を使用する。利水薬の代表である五苓散は水輸送チャネルのアクアポリン4)を介する働きが示されている。利水薬は利尿薬と比較して利尿効果はマイルドであるが、「浮腫状態では利尿作用、脱水では抗利尿作用」として働くため基本的には脱水になりにくいこと5)6)腎機能や電解質への影響も少ないこと7)が利点である。浮腫に対する漢方薬の出番は、基礎疾患がなく利尿薬を投与しづらい場合、基礎疾患があっても利尿薬を増やしづらい場合などがあり、患者が浮腫で困っている時に提案できる薬剤の1つと思われる。利尿薬ほどの速効性はないことが多く、数ヶ月服用して効果を認める場合もある。

・五苓散(17):利水作用の生薬が最も多く含まれている漢方薬で利水薬の代表とされている。下腿浮腫だけでなく、顔面や上肢、低アルブミン血症などによる全身浮腫にも幅広く使用できる。利水薬としてはオールラウンダーであるが、末梢循環改善作用は乏しい

・当帰芍薬散(23):利水作用、温熱作用、末梢循環改善作用、女性ホルモン調節作用などがあるため、冷え症の女性や末梢循環障害が関与した浮腫に頻用される。典型的には女性に頻用される漢方薬だが末梢循環障害が関与した浮腫には男性でも用いることがある。若年女性の浮腫に対して五苓散との併用も多い。女性ホルモン調節作用もあるため、月経痛、月経不順、月経に伴う浮腫などにもよい。温める漢方薬であるため、寒がりタイプに適合しやすい。

・牛車腎気丸(107):高齢者の下腿浮腫に第一選択。利水作用、温熱作用、末梢循環改善作用がある。また、加齢に伴う諸症状(認知機能低下、サルコペニア、腰痛、下肢しびれ、冷えなど)にもよいとされており、高齢者に使用する漢方薬の代表である。温める漢方薬であるため、寒がりタイプに適合しやすい。

・防已黄耆湯(20):典型的な対象者として「肥満で膝関節痛などを伴う中年〜高齢女性」といわれているが、利水作用があるため下腿浮腫の治療目的のみで使用することもある。甘草が含まれるため偽アルドステロン症に注意が必要。

*効果不十分例
上記の漢方薬を2剤併用する。

高血圧

動脈硬化性、遺伝性、加齢などによる高血圧には漢方薬の効果が乏しい印象。イライラや不安が強く、ベンゾジアゼピンやβ遮断薬などが適応となるような交感神経亢進タイプや自律神経不安定タイプには漢方薬もよい場合がある。降圧薬にこれらの漢方薬を併用すると安定しやすくなる場合もある。

・黄連解毒湯(15):鎮静作用や清熱作用がある。典型的には暑がり、赤ら顔でイライラしやすいタイプに適合しやすい。苦いことが難点だが製薬会社によってはカプセル製剤もある。

・柴胡加竜骨牡蛎湯(12):自律神経調節作用、抗不安作用、抗ストレス作用、抗うつ作用がある。暑がりタイプの自律神経症状、精神症状に幅広く対応できる

・加味逍遥散(24):自律神経調節作用(主に交感神経抑制)、抗不安作用、抗ストレス作用、抗うつ作用、女性ホルモン調節作用がある。自律神経症状、精神症状、血管運動神経症状(ホットフラッシュなど)に幅広く対応できる。女性のイライラに第一選択

・抑肝散(54):鎮静作用、補気作用(気力・体力を補う)がある。主にイライラや興奮などに使用する。対象者は老若男女で可能。小児のイライラや癇癪、認知症の陽性症状(イライラや興奮)などにも用いられる。

末梢動脈疾患

・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38):温熱作用、末梢循環改善作用に優れる漢方薬で、末梢動脈疾患だけでなく、しもやけや末端冷え症などの四肢の末梢循環障害に第一選択。末梢動脈疾患の間欠性跛行に本剤が有効であった報告もある8)。苦いことが難点。

・桂枝茯苓丸(25):末梢循環改善作用があるため、末梢循環障害が強い場合に当帰四逆加呉茱萸生姜湯と併用する。温熱作用はないため、暑がりタイプには本剤を単独で使用する場合もある。

・当帰芍薬散(23):末梢循環改善作用、利水作用、温熱作用、女性ホルモン調節作用があるため、特に女性で浮腫や冷えがある場合に当帰四逆加呉茱萸生姜湯と併用、あるいは単独で使用する。

・牛車腎気丸(107):主に高齢者向けの漢方薬で末梢循環改善作用、利水作用、温熱作用があるため、高齢者で浮腫や冷えがある場合に当帰四逆加呉茱萸生姜湯と併用、あるいは単独で使用する。

心不全患者の諸症状

総論

心不全自体に対する治療は西洋薬が中心となるが、心不全患者の体調管理には漢方薬も出番があると思われる。特に高齢者では、日本心不全学会の『高齢心不全患者の治療に関するステートメント』で、「生命予後延長を目的とした薬物療法よりQOLの改善を優先するべき場合が少なくない」9)と記述されているように全身管理が重要視されている。個人的には、例えば漢方薬によって“食欲不振が改善し栄養状態も回復する”“便秘が改善し(いきむことも減って)心負荷も軽減する”“ふらつきや倦怠感が改善しリハビリテーションもできるようになる”など、間接的ではあるが生命予後の改善に漢方薬が役立つ可能性もあると思われる。
また、特に高齢女性では甘草による偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)のリスクが高いため注意が必要である。さらに心不全においては、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪の徴候と紛らわしい”といったように甘草との関わりが比較的大きいため、なるべく甘草を含まない、あるいは甘草が少ない漢方薬の選択が望ましいと思われる。

心不全患者が陥りやすい漢方病態

漢方には「陰・陽・虚・実・気・血・水」などの病態を表すパラメーターがあるが、心不全患者が陥りやすい漢方病態はいくつかの特徴がある。

・水毒(すいどく):胸水、浮腫だけでなく、血管内脱水などの水の代謝・分布異常を幅広く示す(多くは貯留を意味することが多い)。心不全患者が水毒傾向となることは想像しやすいと思われる。治療薬は水分代謝調節作用を有する利水薬で五苓散(17)、苓桂朮甘湯(39)、当帰芍薬散(23)、防已黄耆湯(20)、六君子湯(43)などがある。

・気虚(ききょ):倦怠感などの気の不足、気力の低下を示す。治療薬は気を補う補気薬で、補中益気湯(41)、十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)、六君子湯(43)などがある。

・気鬱(きうつ):抑うつや不眠などを示す。心不全患者の10〜40%にうつ(うつ状態含む)を認めた報告10)もある。治療薬は気を巡らす順気薬で、加味帰脾湯(137)、半夏厚朴湯(16)、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)、香蘇散(40)などがある。

・血虚(けっきょ):血(けつ)の不足を示す。血は血液だけでなく栄養や潤いなども含む概念である。血虚とは臓器や細胞の末端まで栄養や潤いが行き届いていない状態であり、貧血、皮膚乾燥、爪の異常、脱毛、こむら返りなどが該当する心不全の心拍出量低下は血虚であり、心不全患者の倦怠感は上記の気虚と血虚が合わさった気血両虚となることが多いと思われる。治療薬は血を補う補血薬で十全大補湯(48)、人参養栄湯(108)、四物湯(71)などがある。十全大補湯(48)と人参養栄湯(108)は気血両虚に対応できる。

・陰証(いんしょう):寒がり、冷え症を示す。四肢末端の冷えよりも新陳代謝が低下した体全体の冷えを示す。冷えは加齢、低灌流、β遮断薬などが関与する可能性があり、特に高齢の心不全患者にみられることが多い。治療薬は温める温熱薬で、真武湯(30)、人参湯(32)、大建中湯(100)、牛車腎気丸(107)、当帰芍薬散(23)などがある。

・陰虚(いんきょ):東洋医学では水分を陰液と表現し、陰虚とは水分(陰液)不足(虚)で熱をもつ状態(ラジエーターの水がなくなったイメージ)を示す。特に非高齢者のHFrEF患者にみられることが多い。治療薬は滋潤作用(潤す)、清熱作用の滋陰薬で麦門冬湯(29)や滋陰降火湯(93)などがあるが、心不全治療薬の木防已湯(36)もこの系統に入ると思われる。

心不全患者の諸症状に対する漢方薬

便秘

心不全患者にとっても排便コントロールは非常に重要である。1、2剤の西洋薬(下剤)で排便困難がある場合には漢方薬が推奨される。

・麻子仁丸(126):高齢者の難治性便秘に第一選択。大黄(センノシド)が含まれるが、潤腸作用(腸内を潤して滑りをよくする)や腸管蠕動調節作用などもあるため、腹痛を伴うことなく快便が得られやすい。麻子仁丸は比較的強い下剤のため、導入時期は患者が数日以上も便が出ずに困っている時(難治性)が良いタイミングで1日1〜2包から開始する方が無難。麻子仁丸を併用することで他の下剤を減量できることもあり、多剤を服用することの多い心不全患者にとって大変助かる漢方薬である。センノシドが含まれるが、さまざまな生薬が含まれている影響か、耐性は少ないといわれている。難治性便秘に使用する他の漢方薬は桃核承気湯(61)、通導散(105)などがある。

・大建中湯(100):腸管を温め、腸蠕動を調節する漢方薬である。整腸剤のようなイメージで便秘だけでなく下痢にも用いられる。基本的には冷え症(陰証)患者に適合しやすく、少量の下剤(西洋薬)で下痢や腹痛をきたすような調節が難しい軽度の便秘によいことがある。軽度の便秘に使用する他の漢方薬は桂枝加芍薬湯(60)、ストレス性には四逆散(35)などがある。

倦怠感

心不全の重症度によっても漢方薬の有効率が異なると思われる。例えば、ACCF/AHAの心不全ステージ分類のStageCよりもStageDの方が倦怠感を認めるようになるが、漢方薬の有効率も低下していく傾向にある。よって、なるべく早い段階で漢方薬を使用し、体調を維持することが重要となる。低心拍出量症候群の関与した倦怠感には改善が乏しいこともあるが、他に方法がない場合には治療選択肢の1つとして有用と思われる。

・補中益気湯(41):気を補う漢方薬で上記の気虚に対応できる。倦怠感だけでなく、食欲不振にもよい漢方薬である。

・十全大補湯(48):気と血を補う漢方薬で上記の気血両虚に対応できる。気だけでなく血まで補う十全大補湯は補中益気湯よりも効果が高く、気血両虚となりやすい心不全の倦怠感に用いることが多い。地黄という胃もたれしやすい生薬が含まれるため胃が弱い人には注意が必要である。

・加味帰脾湯(137):補気作用(気を補う)+抗うつ作用を有する漢方薬で上記の気虚、気鬱に対応できる。特にうつ傾向や午前中に悪い倦怠感には第一選択となる。

・清暑益気湯(136):補気作用+清熱作用を有する漢方薬で夏バテなどに第一選択となる。暑がりのHFrEF患者の倦怠感によい場合もある。

食欲不振

食欲不振は低栄養、サルコペニアなどで心不全の増悪にも関与する可能性があるため、比較的早期の介入が必要である。終末期における食欲不振には漢方薬の効果が限定的であり、服薬も苦痛となる場合があるため、この時期は症状緩和(緩和ケア)を重視することが多い。

・六君子湯(43):「胃の水毒(浮腫)」をさばく働きがあり、水毒傾向となる心不全患者の食欲不振に第一選択。「胃の水毒」は胃と繋がっている舌で判断し、古来より舌の浮腫(腫大)所見で「胃の水毒」の存在を予測することが多い(図1)。甘草が含まれるため高齢者への長期投与は控える。

・茯苓飲合半夏厚朴湯(116):枳実など気を巡らす生薬が含まれており、ストレス性の食欲不振に第一選択。生薬構成をみると六君子湯の多くが含まれていること、甘草が含まれないことから、個人的には偽アルドステロン症のリスクが高い高齢者の食欲不振に頻用している高齢者の食欲不振には釣藤散(47)もよい場合がある。

・補中益気湯(41):補気作用を有するため倦怠感を伴う食欲不振に第一選択。六君子湯も補気作用をもつが、六君子湯は食欲不振>倦怠感、補中益気湯は倦怠感>食欲不振の場合に使用する。

・人参湯(32):温熱作用があり、冷え症(寒がり)の食欲不振に第一選択。甘草が比較的多く含まれるため高齢者への長期投与には注意が必要。

めまい

メニエール病の原因として内リンパ水腫が知られているように、めまいには水代謝異常(水毒)が関与していることが多く、治療薬は利水薬を用いることが多い

・苓桂朮甘湯(39):本剤は利水薬の一つであるが、血管運動神経系に作用するため、起立性や頭位性のめまいに第一選択となる。起立性とは立ちくらみや起立性調節障害などでみられる起立時に悪化するタイプ、頭位性とは上や横を向いたときに悪化するタイプを意味する。効果不十分な場合は五苓散(17)などの利水薬を追加する。本剤は甘草が比較的多く含まれるため高齢者への長期投与は控える。

・真武湯(30):浮動性、動揺性のめまいに第一選択となる。浮動性とは歩いていてフワフワするタイプ、動揺性とは歩いていてクラっとする、フラっとするタイプを意味する。真武湯も利水薬だが温める漢方薬のため、寒がりタイプに適合しやすい。浮動性、動揺性のめまいは寒がりの高齢者に比較的多くみられやすい。真武湯には甘草が含まれないため高齢者でも安心して長期投与できる。
浮動性めまいはストレス性の場合もある。非高齢者に比較的多いが、男性では柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、女性では加味逍遥散(24)、高齢者であれば加味帰脾湯(137)などの抗ストレス作用、自律神経調節作用の漢方薬を選択する。さらに効果不十分な場合は五苓散(17)などの利水薬を追加する。

慢性下痢

下痢は一時的であれば影響が少ないと思われるが、長期に渡ると脱水や低栄養など心不全治療に影響を及ぼす可能性があるため、比較的早期の介入が必要である。整腸剤や止痢剤で効果不十分な場合は漢方薬も治療選択肢の一つとなる。

・大建中湯(100):腸管を温め、腸蠕動を調節する漢方薬である。整腸剤のようなイメージで便秘だけでなく下痢にも用いられる。また、腹痛や腹部膨満にもよい生薬が含まれているため、寒冷刺激性の過敏性腸症候群などにも有用である。西洋薬に効果不十分な難治性下痢の患者は腸管が冷えていることがあり(陰証)、本剤のような温める漢方薬が奏功することも少なくない
「腸管の冷え」の関与を見極める方法としては、①冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する②腹部を温めると症状が緩和する③自覚的な腹部の冷感(お腹が冷える)④腹部、特に臍周囲の他覚的な冷感(触って冷たい)を認める⑤便臭が少ない⑥寒がりタイプなどがある。また、食欲不振を伴う場合には人参湯(32)冷えや倦怠感が強い場合には人参湯(32)+真武湯(30)が適応になる。人参湯には甘草が多く含まれるため高齢者への長期投与に注意が必要。

・半夏瀉心湯(14):胃腸を温める作用+抗炎症作用の漢方薬である。よって慢性下痢で「腸管の冷え」に加え、比較的強い便臭や微熱がある場合などに用いる。また腹鳴(お腹ゴロゴロ)がある場合にもよいとされている。甘草が比較的多く含まれているため高齢者への長期投与には注意が必要。腸管の冷えがなく、炎症が強い場合には柴苓湯(114)を選択する。

こむら返り

・芍薬甘草湯(68):芍薬と甘草の2つの生薬で構成されており、鎮痙・鎮痛作用があるため、こむら返りに第一選択である。横紋筋と平滑筋に作用するため、吃逆、腹痛、腰痛、尿管結石発作などにも用いられる。速効性があること、甘草の量が多いことから、基本的には頓用が推奨される。明け方のこむら返りを繰り返す場合には「芍薬甘草湯 眠前1〜2包 定期」でもよいが、特に高齢者には偽アルドステロン症のリスクがあるため、短期間での使用に留める。

・疎経活血湯(53):芍薬と甘草も含まれているが、甘草の量が少ないこと、その他の鎮痙・鎮痛作用や末梢循環改善作用の生薬が含まれており有効性が高いことが利点。疎経活血湯をこむら返りに使用することは一般に知られていないが、筆者の報告では有効率96.9%と芍薬甘草湯よりも有効性が高い可能性がある11)。時間依存性、用量依存性があり、なるべく発作の時間帯に近いタイミングで多く服用することがコツ。よって、明け方のこむら返りに対して、毎食前の1包ずつよりも「疎経活血湯 眠前2包 定期」の方が有効率は高い。例えば、週の半分以上の頻度でこむら返りを繰り返している場合には、発作の時間帯に合わせた疎経活血湯の定期服用で予防し、発作時には芍薬甘草湯を頓用で使用する。疎経活血湯の難点は味が苦いことであるため、処方の際は事前に伝えた方が親切。

副作用

漢方薬による副作用で注意すべき事項はいくつかあるが、頻度と重症度から特に重要な内容は下記の2つと思われる。

・甘草による偽アルドステロン症
偽アルドステロン症は低カリウム血症、血圧上昇、浮腫の3徴候であるが、1つのみ認めることも多い。また、薬剤を中止しても数ヶ月持続することもあるため注意が必要である。好発年齢は高齢者(特に女性)が最も多く12)13)、小児や若年者ではほとんど報告がない。甘草2.5g/日以上が偽アルドステロン症のリスクといわれているが、高齢女性では甘草2.5g/日以下でも発症することが少なくない
今回掲載した中で甘草2.5g/日以上を含む漢方薬:芍薬甘草湯(68) 6g/日、人参湯(32) 3g/日、炙甘草湯(64) 3g/日、半夏瀉心湯(14) 2.5g/日

・黄芩による肝障害
好発年齢は中高年者14)に多く、高齢者や小児では頻度が少ない。漢方薬で肝障害を発症した場合、その原因のほとんどが黄芩である(90.5%, 89%の報告あり)14)15)。発症時期は服用開始後2〜3ヶ月以内14)16)に多い。また、2回目の発症の方がさらに発症期間が短く肝障害も悪化しやすい可能性があり、一度黄芩による肝障害を認めた場合には、再度服用しないように十分な注意が必要である。
今回掲載した中で黄芩を含む漢方薬:柴胡桂枝乾姜湯(11)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、半夏瀉心湯(14)、黄連解毒湯(15)、柴苓湯(114)

腎障害・肝障害患者への投与量

腎障害・肝障害の患者において、漢方薬の減量の必要性が記載された報告はほとんどない。よって、通常量でよいと思われるが、個人的には透析患者や小柄な腎不全患者などは1日2回で処方することが多い。

服用方法

添付文書には「食前又は食間」と記載されている。また、空腹時と食後では胃内pHに差があり、効果や副作用に影響を及ぼす可能性を指摘した研究もあるが、臨床的には治療上問題となるほどの差ではないという意見も多数ある17)18)。医師によっても考え方は異なるようだが、個人的には服薬アドヒアランスを重視して、食後で処方することが多い。

漢方薬を中止するタイミング

漢方薬は自覚症状やQOLを改善する目的で使用することが多い。西洋薬のようにエビデンスで治療期間が決まっていることはほとんどなく、患者の症状や希望などを踏まえて治療方針を決めていくことが多い。基本的には漢方薬を中止しても症状が再発しなければ中止でき、再発すれば必要性があったと判断する。しかし、患者によって、「症状が改善していても体調維持のために漢方薬を継続したい」「まだ症状は残っているが中止したい」などさまざまであるため個別対応が必要となる。
また、残薬の増加は服薬意識の低下を疑うサインであり、減量、中止、変更のタイミングであることが多い。そのため、残薬チエックは診察時に毎回行うべきである

文献

  • 1)岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49, 766-774, 1999.
  • 2)伊藤忠信,他:柴胡加竜骨牡蛎湯および柴胡桂枝乾姜湯の中枢神経系に及ぼす作用-マウス脳内モノアミン含量および代謝に及ぼす影響-. 日本東洋医学雑誌 47, 593-601, 1997.
  • 3)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
  • 4)Isohama Y.:Aquaporin modification:A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan.J Pharm Soc Jpn, 126: 70-73, 2006.
  • 5)大西憲明, 他:モデルマウスを用いた漢方方剤の利水作用の検証. 和漢医薬学雑誌, 17:131-136, 2000.
  • 6)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994.
  • 7)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981.
  • 8)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.
  • 9)日本心不全学会ガイドライン委員会:高齢心不全患者の治療に関するステートメント, 2016
  • 10)Rutledge T, et al:Depression in heart failure a meta-analytic review of prevalence, intervention effects, and associations with clinical outcomes. J Am Coll Cardiol, 48(8):1527-37, 2006
  • 11)土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
  • 12)「薬剤師のための漢方薬の副作用-正しい服薬指導のために第2版」, 協和企画, 11-16, 2014
  • 13)稲木一元, 杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A, 中外医学社, 211-212, 2014
  • 14)五野由佳理,他:漢方薬による薬物性肝障害の症例検討. 日本東洋医学雑誌, 61:828, 2010
  • 15)寺田真紀子,他:漢方薬による間質性肺炎と肝障害に関する薬剤疫学的検討. 医療薬学, 28:425-434, 2002.
  • 16)Mantani N, et al:Incidence and clinical features of liver injury related to Kampo(Japanese herbal) medicine in 2,496 cases between 1979 and 1999: problems of the lymphocyte transformation test as a diagnostic method. Phytomedicine, 9: 280-287, 2002
  • 17)稲木一元, 杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A, 中外医学社, 202-203, 2014
  • 18)牧野利明:いまさら聞けない生薬漢方薬, 医薬経済社, 77-82, 2015

漢方初学者が簡単に成功体験できる方法(YouTube)

漢方初学者が簡単に成功体験できる方法2(YouTube)

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