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漢方内科

私は循環器内科が専門でありますが、飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務し、漢方専門外来を担当しておりました。 当院の特徴としては、

  • 専門性の高い本格的な漢方治療だけでなく、必要に応じて西洋医学的な検査や治療もご提案できる
  • 漢方治療としてエキス製剤(粉薬)だけでなく、効果の高い煎じ薬(生薬)も扱っている
ことだと思います。

他の病院へ通院している場合も、特に紹介状の必要はなく、当院での併診が可能です。
どんな症状でも東洋医学的なアプローチは可能ですので、お気軽にご相談ください。

1 患者さんそれぞれの病態に合ったオーダーメイドの漢方治療

東洋医学的な見方(診断)をすれば、ほとんどの方に何かしらの偏りが見られます。その偏りを参考に、困っている症状や疾患にアプローチしていくため、あらゆる病態に対応できます。
特に漢方が得意だと思われる分野は、風邪や感染性胃腸炎などのウイルス性疾患、胃腸疾患(食欲不振、過敏性腸症候群、下痢、腹痛、膨満感)、冷えが関連する症状、月経関連疾患(月経痛、月経に伴う頭痛・にきび・イライラ)、ストレス性疾患などがあります。
当院は、エキス製剤(粉薬)だけでなく、煎じ薬(生薬)も保険診療で扱っておりますので、患者さんそれぞれの病態に合ったオーダーメイド治療ができます。

2 患者さんにとって漢方治療のメリット

漢方薬は植物や鉱物など自然なもので構成されており、より体に優しい治療ができます。よく世間では、「漢方は長く飲まないと効かない」というイメージがあるようですが、風邪などには30分以内、その他の疾患でも数日以内に効果が現れることも少なくありません。
漢方は西洋医学とは異なった視点でのアプローチですので、西洋薬で改善が乏しい例にも著効することや、一つの漢方薬でさまざまな症状が改善することもあります。もちろん西洋薬との併用も可能です。また、症状の緩和だけでなく、根本から治す体質改善の効果もあります。

3 どんな症状でもご相談ください

私はこれまで西洋医学と東洋医学をほぼ同じ期間に学びました。そこで強く感じたことは、「人間にはどちらの医学も必要である」ということです。確かに日本の現代医学のなかで、東洋医学は必須ではありません。しかし、西洋医学では治療困難な分野でも、東洋医学で容易に治る場合が少なくありません。
医師は漢方薬を処方できる資格がありますが、実は漢方の教育はほとんどありませんし、漢方専門医であっても漢方に精通している医師はごく少数です。もし一般的な治療でも症状が残っている場合には、ぜひ一度、ご相談をして頂ければと思います。

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medicina誌 ジェネラリスト・漢方-とっておきの漢方活用術 循環器(動悸、浮腫)

月刊薬事2022年2月臨時増刊号 救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方よく使う漢方製剤 真武湯

月刊誌「薬局」2022年3月号 心不全薬物治療の道しるべ 「心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」

土倉監修 「高齢者心不全の7症候に対する11処方」 資材

漢方内科一覧

漢方診療の流れ

  • 漢方診断に必要な問診票を記入して頂きます。
  • 医師が問診、漢方医学的な診察(舌・脈・お腹)を行い、処方を致します。お腹の診察を致しますので、服装にご注意ください。
  • 初めは2週間毎に再来して頂き、処方の調整を行います。ある程度処方が定まれば2週間~1ヶ月毎の診察になります。
    疾患にもよりますが、お薬が合えば、通常は2週間~1ヶ月程度で何かしらの症状の改善が見られます。
    「漢方薬はいつまで飲めばいいか?」については、「体質が改善されるまで」になりますが、通常は「半年から1年以上」の場合が多いです。
  • 漢方薬は副作用が少ないと言われておりますが、ゼロではありません。副作用チェックとして、定期的に採血をさせて頂いております。

漢方診療 問診票

当院へ来院し漢方診療を希望された場合、こちらの問診票に記入して頂きます。
予め、印刷して頂き、記入後持参して頂ければ待ち時間の短縮になります。
こちらをクリックすると問診票がダウンロードできます。

漢方薬服用の注意事項

~漢方薬を服用される患者様へ~

  • 服用のタイミングはいつでも大丈夫です。
    例:食後、食前、食間(朝・夕・寝る前)
    生活スタイルに合わせて調節してください。
    *西洋薬と一緒に服用して頂いて構いません。
  • 最も大事なのは「1日分を1日の中で飲みきること」です。
  • 服用の仕方は飲みやすい方法で構いません。
    例:オブラート、お茶、ジュース、ココアなど
    *一般的には「お湯に溶かして服用」が勧められています。
    *冷え性の方は温かいものor常温での服用をお勧めします。
  • 副作用は少ない頻度ですが、肝機能悪化、むくみ、血圧上昇、胃もたれなどがありますので、その際はすぐに中止orご連絡してください。
  • もしよろしければ、今の症状を覚えて頂き、次回の診察時に漢方薬を服用した後の変化を教えて下さい。
  • 漢方で体質改善を目指しましょう。

費用について

  • 当院での診察料、薬局での調剤料などは通常と同様です。
  • お薬代に関しては下記になります。漢方薬もすべて保険が適応されます。

例:補中益気湯1日3回の28日分の場合
・エキス剤(粉薬)7,872円→3割負担2,361円、1割負担787円
・煎じ薬 (生薬)8,320円→3割負担2,496円、1割負担832円
*薬局に煎じて頂く場合(真空パック):手数料100円/日×28日分+送料が追加

執筆・講演

漢方医の耳寄り情報

風邪のひき始め

《こんな時困りませんか?》
患者「よく風邪をひいて困ります。すぐに良くなる薬はありませんか?」

ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・効かせるコツとして、服用方法の工夫、養生の仕方などがある。

とりあえず処方したい場合
☆体質→冷え性・虚弱無し
  • 「寒気や頭痛」から始まる風邪→軽度:葛根湯(1)(頻度)、中等度:麻黄湯(27) (頻度)、重度:大青竜湯(麻黄湯+五虎湯)(頻度)
  • 「水様性鼻汁」から始まる風邪→軽度:小青竜湯(19)(頻度)、中等度:小青竜湯+五虎湯
  • 「咳」から始まる風邪→五虎湯(95)(頻度)
  • 「咽頭痛」から始まる風邪→軽度:葛根湯(1)(頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
☆体質→冷え性・虚弱有り
  • 「寒気や頭痛」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)
  • 「水様性鼻汁」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、中等度:麻黄附子細辛湯(127)+小青竜湯(19) (頻度)
  • 「咳」から始まる風邪→軽度:桂枝加厚朴杏仁湯(東洋28)(頻度)、中等度:桂枝加厚朴杏仁湯(東洋28)+麻黄附子細辛湯(127)(頻度)
  • 「咽頭痛」から始まる風邪→軽度:麻黄附子細辛湯(127) (頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
概論
  • ひき始めとは、わずかでも風邪症状が出現した瞬間~2日間ぐらいを指す。
  • 風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ。
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。
  • 風邪の漢方治療は「患者の体質(冷え性・虚弱の有無症状のタイプ×症状の程度」を考慮して漢方薬を選択するため、やや難しく面倒。しかし、ピッタリと当てはめることができれば速攻で効く。
  • 患者の体質を考慮する必要があるのは、風邪の漢方治療がウイルスだけを抑えるのではなく、患者の体に働きかけ、免疫力を上げてウイルスを除去するように働くからである。例えば、冷え性や虚弱体質であれば、体の芯から温めるタイプの漢方薬を使用する。
  • また、風邪のひき始めには「麻黄や桂皮」が含まれている漢方薬を使用することが多い。
  • 個人によって風邪の経過にパターンがあることが多いため、処方選択にあたり参考となる(例:風邪をひくと体が冷え、喉がイガイガしやすい→麻黄附子細辛湯)。
  • ウイルスなどの病原体の種類は関係なく、起きている状態で漢方薬を選択する。よって、インフルエンザでも麻黄湯以外を使用し、インフルエンザ以外に麻黄湯を使用することもある。
  • 処方の選択と同程度に、服用方法の工夫、養生の仕方が大事である。
西洋薬との位置づけ
  • 細菌性感染症やインフルエンザなどの一部のウイルス感染症が除外できれば風邪の診断に至るが、西洋医学での風邪治療は基本的に症状を緩和する対症療法のみである。すなわちウイルス自体は自己免疫力で減らすしかない。
  • 一方で、風邪の漢方薬には症状緩和だけでなく、例えば体を温め、自己免疫力を高めてウイルスを排除させる働きもある。また、風邪のひき始めの漢方薬に含まれている「麻黄や桂皮」などの生薬にも、抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などが認められている1)2)
  • 風邪に対する漢方治療は速効性があるため、時間単位で風邪を積極的に治しにいくことができる。西洋では対症療法が主体のため守るイメージだが、漢方は攻めるイメージ
各論
☆軽度の風邪のひき始め×葛根湯(かっこんとう)(1)☆
  • 葛根湯の治療対象の症状は、寒気、頭痛、後頚部の凝り、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、いずれも症状が軽度
  • 葛根湯の対象者比較的体力のある子供~成人であり、高齢者、極端な冷え性、虚弱者は対象外であることが多い。
  • 葛根湯には「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。よって服用のタイミングが重要であり、発汗する前なるべく早く服用するのが効果的。
  • 服用方法も重要である。上記の葛根湯の対象者であれば、少なくとも初日は多少詰めて服用した方がよい。より効果的な服用方法として、「初回は2包を服用する」「1回服用して症状の改善がなければ1時間あけてさらに追加する」「初日は1日3~6包服用してもよい」「発汗後も症状が残っていればもう少し継続する」などがある。
  • また、葛根湯の温熱・発汗作用をより効率的にひきだすために、養生の仕方も重要である。「体を温める環境にする(服装、室温など)」「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」「布団にくるまって寝る(少しでも仮眠をとる)」などを併用すると更に効果的。
  • 教科書的な葛根湯の使い方は「まだ発汗していない風邪のひき始めに服用し、発汗すれば中止する」といわれている。しかし、葛根湯を服用後、発汗しない場合や、発汗ではなく利尿の場合もある。発汗は目指すべき徴候の1つだが、風邪症状が改善すればこだわらなくてもよいと思う。
  • ちなみに葛根湯には発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれており、安全弁となっている。よって、個人的に「とりあえず葛根湯」はアリだと思う。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。また、甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「軽い風邪のひき始め×葛根湯」を参照。
☆中等度の風邪のひき始め×麻黄湯(まおうとう)(27)☆
  • 麻黄湯は、葛根湯と同様に「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。しかし、発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれていないため、葛根湯よりも作用が強い
  • よって、葛根湯よりも症状が強い風邪に使用する。
  • 具体的な症状としては、比較的強い悪寒、発熱に加え、関節痛や筋肉痛などが特徴的である。
  • インフルエンザの典型的な症状に麻黄湯の適応症状が似ているため、インフルエンザに麻黄湯がよく使用される。しかし、個人的にはインフルエンザで症状が激しい場合には次の大青竜湯の方が適合しやすい印象。
  • 服用方法、養生の仕方は葛根湯と同様
  • 副作用も葛根湯と同様。
☆重度の風邪のひき始め×大青竜湯(だいせいりゅうとう)☆
  • 大青竜湯はエキス製剤にないため、麻黄湯(27)+五虎湯(95)で代用。五虎湯の代わりに越婢加朮湯(28)や麻杏甘石湯(55)でも可。
  • 大青竜湯にも「麻黄+桂皮」が含まれており温熱産生を高めて発汗させる作用がある。そして、麻黄湯と同様に、発汗しすぎないようにする「芍薬」が含まれていないため、葛根湯よりも作用が強い。さらに抗炎症作用のある石膏が含まれており、麻黄湯よりも作用が強い
  • よって、麻黄湯よりも症状が強い風邪に使用する。
  • 具体的な症状としては、かなり強い悪寒、高熱、関節痛、筋肉痛に加え、強い倦怠感や口渇(冷水を好む)などが特徴的である。
  • 個人的にはインフルエンザで症状が激しい場合には大青竜湯が適合しやすい印象。
  • 服用方法、養生の仕方は葛根湯と同様
  • 副作用も葛根湯と同様。
☆水様性鼻汁から始まる風邪×小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)☆
  • 小青竜湯の治療対象の症状は、水様性鼻汁がメインであるが、軽度であれば、寒気、鼻閉、咳嗽、喀痰(白色・水様性)、喘鳴などもカバーする。
  • 鼻汁の風邪症状に対しては総合感冒薬や抗ヒスタミン薬が用いられることがあるが、有効性だけでなく眠気などの副作用においても小青竜湯の方が優れている可能性がある3)
  • 小青竜湯には葛根湯などと同じように麻黄と桂皮が含有されているため温熱発汗作用がありウイルスを減少させる働きがあるが、実際には方剤全体のバランスから発汗させることは少ない
  • 麻黄、半夏、細辛には利水作用があり、水様性鼻汁や水様性喀痰などを減らす作用がある。半夏、五味子、細辛には鎮咳・去痰作用がある。乾姜、細辛には体の芯から温める温熱作用がある。
  • 服用方法は、葛根湯のように発汗を目標に多めに服用することはしないが、初回に2包の服用や、初日に1日4回程度の服用などは試みてもよい。また、風邪のひき始めだけでなく、風邪が治るまで長期的に服用してもよい。
  • 養生の仕方は、小青竜湯の温熱作用をより効率的にひきだすために、「体を温める環境にする(服装、室温など)」「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」などを併用すると更に効果的。
  • 小青竜湯が飲みづらい(酸っぱい)場合は製薬会社によっては錠剤も選択できる。小児の場合、飲みやすくなる方法として「りんごジュース、蜂蜜、服薬ゼリーなどと混ぜる」があるが、あとは児の好みに合わせる。
  • 小青竜湯単独で効果不十分な場合は他剤との併用をお勧めする。個人的には効果を優先して初めから併用することも少なくない。鼻汁が改善しない場合は、冷え性であれば麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)を併用あるいは変更、冷え性でなければ五虎湯(ごことう)(95)を併用する。
  • 副作用は葛根湯と同様。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「水様性鼻汁の風邪×小青竜湯」を参照。
☆冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)☆
  • 麻黄附子細辛湯の治療対象の症状は、寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、いずれも症状が軽度
  • 冷え性や虚弱者は、風邪をひきやすい、治りにくい、総合感冒薬が合わないなどの傾向があり、体を温める麻黄附子細辛湯を重宝する人も少なくない
  • 麻黄附子細辛湯の特徴は、附子と細辛の温熱作用の生薬が含まれていることである。葛根湯は温熱・発汗作用であり、例えるなら、辛いカレーを食べて一時的に体を温め、発汗させて治すイメージ。麻黄附子細辛湯は温かい鍋を食べて、体の芯から持続的に体を温めて治すイメージ。
  • また附子と細辛には鎮痛作用があり咽頭痛にも効果を示す。なぜか分からないが、麻黄附子細辛湯が適合する咽頭痛は「痛い」よりも「イガイガする」と表現する場合が多い。ちなみに「痛い」であれば、喉の炎症が強い可能性があり、桔梗湯(ききょうとう)(138)を単独あるいは併用する場合もある。
  • 麻黄附子細辛湯、その中でも麻黄には抗炎症作用抗ウイルス作用などが認められている4)。主成分がエフェドリンのため、鼻汁や鼻閉にも効果を示す。
  • 服用方法、養生の仕方は小青竜湯と同様
  • 麻黄附子細辛湯(特に細辛)が飲みづらい場合は製薬会社によってはカプセル製剤も選択できる。
  • 鼻汁が強い場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)、咳が強い場合は桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)(東洋28)咽頭痛が強い場合は桔梗湯(138)喀痰がある場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)などを合わせてもよい。また、冷え性の人で悪寒、発熱、頭痛などの症状が強い場合は葛根湯加朮附湯(三和141)を選択する。葛根湯加朮附湯は葛根湯+真武湯で代用可能。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯」を参照。
☆咽頭痛の風邪×桔梗湯(ききょうとう)(138)☆
  • 桔梗湯は主に咽喉頭部へ局所的に作用する対症療法の薬剤である。すなわち、葛根湯などのように体全体に働きかけ自己免疫力を高めてウイルスを減らすような作用は乏しい。
  • よって、西洋薬のトローチやトラネキサム酸などと同じ立ち位置であり、これらの薬剤と併用あるいは優先的に使用する。
  • 個人的にはトローチやトラネキサム酸よりも速効性、有効性に優れていると感じている。難点は顆粒であることで、漢方薬が飲めそうであれば優先的にお勧めしている。
  • 桔梗と甘草には抗炎症作用、鎮痛作用がある5)6)7)。桔梗には排膿作用、鎮咳去痰作用などもある。
  • 効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」である。もちろん、服用のみでも効果はあるが、うがいを併用する方が喉へ直接的に作用するため速効性がある。飲めない場合は「うがいのみ」でも可。
  • 桔梗湯は甘くて飲みやすい。また速効性もあるため、漢方が苦手な人でも桔梗湯を気に入ることが多い
  • 効果不十分例や発熱がある場合は葛根湯(1)+小柴胡湯加桔梗石膏(109)へ変更する。
  • 甘草3g/日と比較的量が多いため、偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「咽頭痛の風邪×桔梗湯」を参照。
☆咳から始まる風邪(非虚弱者)×五虎湯(ごことう)(95)☆
  • 五虎湯は鎮咳去痰作用、抗炎症作用、気管支拡張作用のある麻杏甘石湯(55)に鎮咳去痰作用、気管支拡張作用のある桑白皮が加わった漢方薬である。
  • 咳嗽が主体の風邪のひき始めに用いることが多い。
  • 五虎湯の対象者比較的体力のある小児~成人であり、虚弱者、冷え性、高齢者は対象外であることが多い。特に小児の咳の風邪には第一選択薬となる。
  • 副作用は葛根湯と同様。
☆咳から始まる風邪(虚弱者)×桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)(東洋28)☆
  • 桂枝加厚朴杏仁湯は虚弱者の軽い風邪のひき始めに使用する桂枝湯(45)に鎮咳去痰作用、気管支拡張作用のある厚朴、杏仁が加わった漢方薬である。
  • 咳嗽が主体の軽い風邪のひき始めに用いることが多い。
  • 桂枝加厚朴杏仁湯の対象者虚弱者、冷え性、高齢者などが多い。
  • 冷え性であれば、麻黄附子細辛湯(127)との相性が良く、効果不十分な場合は併用することも多い。
  • 副作用は、甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
事例

82歳女性。よく風邪をひくが、治りにくい。もともと冷え性で冷房は苦手。風邪をひくと更に体が冷え、鼻汁や咽頭痛(イガイガする)を認める。長引くと咳も出るようになる。熱は出ない。総合感冒薬を飲むと体がきつくなる。
処方①:麻黄附子細辛湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
7日後:「あの漢方薬は良かった。喉のイガイガはすぐに良くなったが、鼻水がまだ少し出る」
処方②:麻黄附子細辛湯1回1包+小青竜湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
14日後:「鼻水も喉も良くなりました」

文献:
1) ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
2) Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
3) 宮本昭正,他:TJ-19 ツムラ小青竜湯の気管支炎に対するPlacebo対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 17 : 1189-1214, 2001.
4) Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
5) 高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
6) Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
7) Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.

 

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こじれた風邪

《こんな時困りませんか?》
患者「1週間前から咽頭痛、咳、痰などの治療をしていますが、良くなりません」

ポイント
・風邪の漢方薬の利点は、抗炎症作用、温熱作用(温める)、滋潤作用(潤す)。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・この時期には症状が1つでないことも多く、複数の薬剤が必要な場合がある。

 
とりあえず処方したい場合
☆体質→冷え性・虚弱無し
  • 「微熱・発熱」が主体→小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「鼻汁」が主体→白色:小青竜湯(19)(頻度)、黄色:辛夷清肺湯(104)(頻度)
  • 「咳」が主体→乾性:麦門冬湯(29)(頻度)、湿性:柴朴湯(96)(頻度)
  • 「咽頭痛」が主体→小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「痰」が主体→柴朴湯(96)(頻度)
☆体質→冷え性・虚弱有り
  • 「微熱・発熱」が主体→軽度:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、中等度:小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 「鼻汁」が主体→白色:麻黄附子細辛湯(127)(頻度)、黄色:辛夷清肺湯(104)(頻度)
  • 「咳」が主体→乾性:麦門冬湯(29)(頻度)、湿性:柴朴湯(96)(頻度)
  • 「咽頭痛」が主体→軽度:麻黄附子細辛湯(127) (頻度)、中等度:桔梗湯(138)(頻度)
  • 「痰」が主体→柴朴湯(96)(頻度)
概論
  • 「こじれた風邪」とは、ウイルス性上気道炎において「風邪のひき始め」以降の亜急性期、発症2、3日以降、下気道症状が出現する時期などを示す。また、細菌性においても抗菌薬と併用しながら漢方薬を使用できる。
  • 「風邪はひき始めに仕留める」が基本であるため、こじれた場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。しかし、漢方薬には抗炎症作用などもあるため、漢方薬を使用した方が回復は早いと思われる。
  • この時期には症状が1つでないことも多く、複数の薬剤が必要な場合がある。
  • 風邪の漢方治療は「患者の体質(冷え性・虚弱の有無)×症状のタイプ×症状の程度」を考慮して漢方薬を選択する必要がある。
  • 抗炎症作用の生薬は体を冷やす方向性をもつことが多い。冷え性や虚弱体質の風邪には麻黄附子細辛湯(127)などの温める漢方薬をベースに使用することが多いが、炎症が強い場合には体を冷やす抗炎症作用の漢方薬を一時的に使用することもある。
西洋薬との位置づけ
  • 西洋薬にはない、風邪の漢方薬の利点は、抗炎症作用温熱作用(体を温めて免疫力を高める)、滋潤作用(潤す)と思われる。
  • よって、ほとんどの風邪患者に漢方薬の適応がある
  • この時期では、必要に応じて西洋薬も併用することも少なくなく、お互いの長所を活かす組み合わせが望ましい。
各論
☆発熱・咽頭痛のこじれた風邪×小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)☆
  • 小柴胡湯加桔梗石膏(109)は小柴胡湯(9)+桔梗石膏(N324)である。小柴胡湯には抗炎症作用、解熱作用、鎮咳去痰作用があり、桔梗には排膿作用、鎮咳去痰作用、抗炎症作用1)2)、石膏には抗炎症作用、解熱作用がある。
  • すなわち小柴胡湯加桔梗石膏は主に抗炎症作用があり、上気道の炎症(発熱を含む)、その中でも特に扁桃炎や咽頭炎などに使用される。
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)。
☆水様性鼻汁のこじれた風邪×小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)☆
  • 小青竜湯は、麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、乾姜(かんきょう)、半夏(はんげ)、五味子(ごみし)、細辛(さいしん)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)の8つの生薬で構成されている。
  • 麻黄や桂皮には抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などある3)4)
  • 乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)や細辛には温熱作用がある。
  • 麻黄、半夏、細辛には利水作用があり、水様性鼻汁や水様性喀痰などを減らす作用がある。
  • 半夏、五味子、細辛には鎮咳・去痰作用がある。
  • 五味子、細辛には抗ヒスタミン作用があり、小青竜湯がアレルギー性鼻炎に有効な報告もある5)
  • すなわち、小青竜湯は温める方向性(軽度)の漢方薬であり、水様性鼻汁を主体とした風邪に適合しやすい。また、症状としては水様性鼻汁だけでなく軽度であれば鼻閉、咳嗽、喀痰、病態としては風邪だけでなく冷えやアレルギーの関与にも対応できる。
  • 鼻汁が改善しない場合は、冷え性であれば麻黄附子細辛湯(127)を併用あるいは変更、冷え性でなければ五虎湯(95)を併用。中等度以上の鼻閉や黄色鼻汁を伴う場合は辛夷清肺湯(104)を併用あるいは変更。
  • 味は酸っぱい。飲みづらい場合は製薬会社によっては錠剤も選択できる。
  • エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要。
  • 甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「水様性鼻汁の風邪×小青竜湯」を参照。
☆黄色鼻汁・鼻閉のこじれた風邪×辛夷清肺湯
  • 辛夷清肺湯は、辛夷(しんい)、石膏(せっこう)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、知母(ちも)、百合(びゃくごう)、麦門冬(ばくもんどう)、枇杷葉(びわよう)、升麻(しょうま)の9つの生薬で構成されている。
  • 石膏、黄芩、山梔子、知母、升麻には抗炎症作用、辛夷には鼻閉改善作用、知母、百合、麦門冬には滋潤作用(潤す)、百合、麦門冬、枇杷葉には鎮咳去痰作用などがある(無理矢理に西洋医学で例えると抗菌薬+ステロイド点鼻薬+鼻洗浄+カルボシステインか)。
  • すなわち、辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤であるため、黄色鼻汁や鼻閉を認める上気道炎、副鼻腔炎、粘液性の後鼻漏などに使用されている。
  • 効果不十分な場合は更に抗炎症作用を高める目的で、小柴胡湯加桔梗石膏(109)や桔梗石膏(N324)を併用する。
  • 味はやや苦い
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「粘液性の後鼻漏×辛夷清肺湯」を参照。
☆乾性咳嗽のこじれた風邪×麦門冬湯(ばくもんどうとう)(29)☆
  • 麦門冬湯は、麦門冬(ばくもんどう)、粳米(こうべい)、半夏(はんげ)、人参(にんじん)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)の6つの生薬で構成されている。
  • 麦門冬、粳米、人参には滋潤作用(潤す)がある。
  • 麦門冬、半夏には鎮咳作用がある。
  • すなわち、麦門冬湯は潤しながら咳を止める漢方薬であり、乾性咳嗽に使用される。特に、「喉が乾燥して咳がでる。マスクや加湿で咳が和らぐ」といったタイプの咳には適合しやすい。また冬は乾燥しやすいため、冬季の咳にも出番が多い。
  • 西洋薬の鎮咳薬は中枢性が多いが、麦門冬湯は末梢性鎮咳作用6)のため、眠気や便秘などの副作用はない。
  • 乾性咳嗽に関して、急性期には麻黄(主成分がエフェドリン)を中心とした鎮咳薬を用いるが、亜急性期以降は乾燥傾向となることが多いため、滋潤作用の麦門冬湯が頻用される。よって、麦門冬湯は乾性咳嗽の急性期にはあまり用いない。
  • 潤す漢方薬のため、「痰がからんで出しづらい」場合にも使用できる。
  • 効果不十分な場合、①麻黄や厚朴で鎮咳作用(末梢性)を強める→五虎湯(95)、桂枝加厚朴杏仁湯(TY28)、神秘湯(85)、麻黄附子細辛湯(127)の併用や変更、②滋潤作用を強める→滋陰降火湯(93)への変更、③抗炎症作用を強める→小柴胡湯加桔梗石膏(109)を併用④去痰作用も必要→半夏厚朴湯(16)、柴朴湯(96)を併用する。
  • 激しい乾性咳嗽の場合には、確実性や速効性を考慮して西洋薬との併用も多い。
  • 甘草が含まれているため偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
☆湿性咳嗽のこじれた風邪×柴朴湯(さいぼくとう)(96)☆
  • 柴朴湯は小柴胡湯(9)+半夏厚朴湯(16)である。小柴胡湯には抗炎症作用、解熱作用、鎮咳去痰作用があり、半夏厚朴湯には鎮咳去痰作用がある。
  • すなわち、柴朴湯は鎮咳去痰作用、抗炎症作用があり、湿性咳嗽、黄色喀痰などに使用される。
  • 効果不十分な場合、①麻黄で鎮咳作用を強める→五虎湯(95)、神秘湯(85)を併用、②抗炎症作用、鎮咳去痰作用を強める→桔梗石膏(N324)、清肺湯(90)の併用や変更、③滋潤作用も必要→麦門冬湯(29)を併用する。
  • 基本的には体を冷やす方向性の漢方薬のため、冷え性患者に対する長期服用は注意が必要。
  • 黄芩や甘草が含まれているため、肝障害や間質性肺炎、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆咽頭痛のこじれた風邪×桔梗湯(ききょうとう)(138)☆
  • 桔梗湯は桔梗(ききょう)と甘草(かんぞう)で構成されており、抗炎症作用、鎮痛作用1)2)7)があるため、扁桃炎や咽頭炎などに使用される。
  • 桔梗湯は風邪自体を治すというよりも、主に咽喉頭部へ局所的に作用する対症療法の薬剤である。
  • よって、西洋薬のトローチやトラネキサム酸などと同じ立ち位置であり、これらの薬剤と併用あるいは優先的に使用する。
  • 効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」である。もちろん、服用のみでも効果はあるが、うがいを併用する方が喉へ直接的に作用するため速効性がある。
  • 効果不十分例や発熱がある場合は、より抗炎症作用のある小柴胡湯加桔梗石膏(109)へ変更する。
  • 甘草3g/日と比較的量が多いため、偽アルドステロン症に注意が必要だが、短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「咽頭痛の風邪×桔梗湯」を参照。
☆冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)☆
  • 麻黄附子細辛湯は麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)の3つの生薬で構成されている。
  • 附子と細辛には温熱作用、鎮痛作用、麻黄には抗炎症作用、抗ウイルス作用などが認められている8)。麻黄の主成分はエフェドリンのため、鼻汁や鼻閉にも効果を示す。
  • すなわち、麻黄附子細辛湯は体を温めて風邪を治す漢方薬であり、軽度であれば冷え性や虚弱者の寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などに使用される。
  • なぜか分からないが、麻黄附子細辛湯が適合しやすい咽頭痛は「痛い」よりも「イガイガする」と表現する場合が多い。ちなみに「痛い」であれば、喉の炎症が強い可能性があり、桔梗湯(138)を単独あるいは併用する場合もある。
  • 鼻汁が強い場合は小青竜湯(19)を併用する。
  • 味は酸っぱい。飲みづらい場合は製薬会社によってはカプセル製剤も選択できる。
  • 副作用は、エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯」を参照。
事例
39歳男性。1週間前から咽頭痛、咳、痰を認めており、近医にて風邪の診断にて加療されているが改善がないため当院へ来院。咽頭痛が最も強く、軽度の痰がらみの咳、白黄色の喀痰を認める。冷え性ではない。

処方①:小柴胡湯加桔梗石膏1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 7日分
7日後:「咽頭痛は良くなりました。痰のからみの咳が残っていて、痰が出しづらいです」
処方②:柴朴湯1回1包+麦門冬湯1回1包 1日3回 毎食後 7日分
14日後:「良くなりました」

文献
1)高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
2)Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
5)馬場駿吉,他:耳鼻咽喉科疾患とEBM-アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の薬効評価を中心に-. Prog Med, 22(9), 2123-2126, 2002.
6)宮田健,他:気管支炎病態動物における麦門冬湯とcodeineの鎮咳作用の比較. 日本胸部疾患学会雑誌, 27(10): 1157-1162, 1989.
7)Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
8)Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.

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食欲不振

《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常がなく薬も飲んでいるけどまだ食欲がありません」

ポイント
・食欲不振の漢方薬は消化機能を高めて気力を補う四君子湯が基本となる。
・漢方薬の有効率は高くないが他に治療法がない場合には十分考慮すべき選択肢の1つになりうる。
・それぞれの漢方薬の特徴を理解し、患者のタイプによって使い分ける。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:六君子湯(43)、2nd-line:茯苓飲合半夏厚朴湯(116)
概論
  • 食欲不振に使用する代表的な漢方薬として、六君子湯(43)、人参湯(32)、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)、補中益気湯(41)、釣藤散(47)などがある。
  • これらの漢方薬の共通点として、消化機能を高めて気力を補う四君子湯(しくんしとう)(75)が基本となっている。四君子湯は人参、朮、茯苓、甘草(生姜、大棗)の主に4種類の生薬で構成されている。
西洋薬との位置づけ
  • 食欲不振の治療として、鬱に対するスルピリド、癌に対するステロイド、夏バテに対する点滴などと比較すると、漢方薬のキレは劣ると感じる。
  • しかし、西洋薬で副作用が懸念される場合、他に治療法がない場合などには漢方薬も十分考慮すべき選択肢の1つになりうる
各論
☆水毒の食欲不振×六君子湯(りっくんしとう)(43)☆
  • 六君子湯は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、陳皮(ちんぴ)、半夏(はんげ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の8種類の生薬で構成されている。
  • 六君子湯は四君子湯(75)+二陳湯(にちんとう)(81)である(4+2=6)。
  • 二陳湯(81)は陳皮、半夏の2種類の生薬がメインの漢方薬であり、「胃の水毒」を治す働きがある。
  • よって、六君子湯は「胃の水毒」がベースにある人の上部消化器症状(食欲不振や胃もたれなど)に効果を示す。
  • 「胃の水毒」は漢方独特の概念で想像しづらいが、胃の水毒→胃のむくみ→舌のむくみ(胃と舌が繋がっている)という発想で、「胃の水毒」の所見の一つに「舌のむくみ」がある。すなわち、六君子湯の適応者の判断に「舌のむくみ」も参考にする。「舌のむくみ」は「舌全体が腫れぼったい感じ、口角より広い、歯型がついている」などで判断する。「胃の水毒」のその他の所見として、「飲水後に胃がチャポチャポと鳴る」などもある。元々体質として「胃の水毒」をもつ人は比較的多く、胃もたれしやすく、六君子湯が効きやすい。
  • 六君子湯は多くの基礎研究、臨床研究が行われており、食欲増進ホルモンであるグレリン分泌促進作用1)、胃排出能促進作用2)、胃適応性弛緩作用3)などを含め、その有効性が確認されている。しかし、筆者の実臨床における手応えとしては、下記の漢方薬も同等に研究されたら自ずと結果は出ると思われる。
  • 効果不十分例では、①倦怠感が強い場合に補中益気湯(41)抑うつがある場合に香蘇散(70)若年者、交感神経過緊張、過敏性腸症候群を伴う場合に四逆散(35)を併用する。また高齢者によく使用する釣藤散(47)やイライラに使用する抑肝散加陳皮半夏(83)には六君子湯が含まれており、高齢者の食欲不振に釣藤散(47)イライラを伴う食欲不振に抑肝散加陳皮半夏(83)がよい場合がある。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆冷え性の食欲不振×人参湯(にんじんとう)(32)☆
  • 人参湯は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)の4種類の生薬で構成されている。
  • 人参湯は四君子湯(75)+乾姜のイメージ。乾姜は生姜を蒸して乾燥させたものであり、胃腸を温める作用がある。
  • よって、人参湯は「冷え性の食欲不振」に第一選択薬となる。また、腹診にて腹部全体より心窩部が特に冷えている場合も人参湯適応者の1徴候とされている。
  • 人参湯は胃腸を温めて胃腸の調子を整え、気力も補う漢方薬であるため、食欲不振だけでなく、下痢や倦怠感などにも使用できる。
  • 効果不十分例では、さらに温める方法として①真武湯(30)の併用附子理中湯(三和S-09)への変更などがある。附子理中湯=人参湯+附子(体を温める生薬)である。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要(人参湯は甘草の量が1日3gと比較的多い)。
☆ストレス性の食欲不振×茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)(116)☆
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯は茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤である。
  • 茯苓飲(69)単剤でも気の巡りを改善して胃の蠕動を促進させる枳実(きじつ)などが入っているためストレス性の食欲不振に使用されるが、半夏厚朴湯(16)を合わせることでさらに強化される。
  • 半夏厚朴湯(16)は喉のつまりや息苦しさなどの喉〜胸部の閉塞症状、不安や抑うつに使用されるが、茯苓飲を合わせることで喉〜胃部の閉塞症状(食べるとすぐに満腹になる早期飽満感、げっぷ等)にも対応できるようになる。詳細は「推奨ベスト20」の「喉のつまり×半夏厚朴湯」を参照。
  • 実は中身をみると、茯苓飲合半夏厚朴湯(116)≒六君子湯(43)+気の巡りを改善する生薬(枳実、蘇葉、厚朴=抗うつ作用、自律神経調節作用)という構成であり、「ストレス性の食欲不振」には第一選択薬となる。
  • 西洋薬だとスルピリドのイメージ。
  • 一般に、がん患者の食欲不振に六君子湯が頻用されているが、個人的には茯苓飲合半夏厚朴湯(116)の適応者(抑うつの合併)の方が多いと思う。
  • 甘草が含まれていないのは最大の利点。
☆倦怠感を伴う食欲不振×補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)☆
  • 補中益気湯≒四君子湯+柴胡(さいこ)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、陳皮(ちんぴ)という構成である。
  • 黄耆、当帰は気力、体力を補う作用があり、陳皮(六君子湯にも含まれている)は食欲増進作用がある。また、升麻は弛緩した筋トーヌスを引き締める働きがあり胃下垂の人などに適合しやすく、柴胡は抗炎症作用があり感染症後の倦怠感や食欲不振などにも使用できる。
  • よって、補中益気湯(41)は六君子湯(43)よりも気力、体力を補う作用があるため、倦怠感を伴う食欲不振に第一選択薬となる。さらには、胃下垂の人や感染症後の倦怠感や食欲不振にも使用される。
  • 補中益気湯(41)と六君子湯(43)の使い分けは、倦怠感>食欲不振だと補中益気湯倦怠感<食欲不振だと六君子湯。効果不十分な場合は両者を併用することもある。
事例
48歳女性。数ヶ月前から食欲不振を認めている。検査では異常所見なく、近医で加療されているが改善がないため当院へ来院。倦怠感はなく、冷えは軽度のみ。舌のむくみを認める。
処方①:六君子湯1回1包 1日3回 毎食前 14日分
14日後:「少し食べられるようになったけど、まだ食べ物が喉を通りにくい。食欲不振はストレスがきっかけかもしれない。」
処方②:茯苓飲合半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食前 14日分
28日後:「だいぶ食べられるようになりました。喉の通りもすっきりしました。」

文献
1)Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59:62-66, 2012.
2)Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomaized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7):950-61, 2014.
3)Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20):2195-202, 2010.

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胃が痛い

準備中

腹痛・腹満(過敏性腸症候群などを含む)

ポイント
・年齢、ストレス、冷えの有無で鑑別する。
・対象疾患は過敏性腸症候群など主に機能性疾患に幅広く対応できる。
・効果不十分な場合は他剤を併用する。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→小建中湯(99)(頻度)
  • 中高生orストレス性→四逆散(35)(頻度)
  • 冷たい飲食物の摂取で悪化する→大建中湯(100)(頻度)
  • その他→桂枝加芍薬湯(60)(頻度)
概論
  • 器質的疾患の精査は必要だが、器質的疾患があっても漢方薬は使える。
  • 腹痛、腹満はいずれも腸蠕動がスムーズに動いていない状態であり、同じ漢方薬を使うことが多い
  • 漢方薬は腸蠕動を調節的にコントロールする働きがある。すなわち腸蠕動が低下していれば亢進させ、腸蠕動の亢進や異常な攣縮(spasm)があれば緩ませる。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも漢方薬は使用できるが、特に慢性・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 対象疾患は、過敏性腸症候群、(亜)腸閉塞、原因不明の腹痛症、腹部膨満、ストレス性疾患など主に機能性疾患に幅広く対応できる。悪性腫瘍などの器質的疾患があると有効性は劣る。
各論
☆小児の腹痛・腹満×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)☆
  • 小建中湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 症状が出現するタイミング(例:通学前など)がわかれば、その直前に服用する方が効果的
  • 効果不十分な場合は量を増やす(特に量の制限はない)。冷えが強ければ、大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)を併用する。
  • 小建中湯は小児の便秘、下痢、過敏性腸症候群などにも頻用される。
  • 甘草含有であるが、小児では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「小児の腹痛×小建中湯」を参照。
☆中高生orストレス性の腹痛・腹満×四逆散(しぎゃくさん)(35)☆
  • 四逆散には自律神経調節作用、抗ストレス作用、腸管蠕動調節作用などがある。
  • 年齢に限らずストレス性の過敏性腸症候群には四逆散が第一選択薬となる。
  • 対象患者の分布としては中高生が最も多い
  • 頓用ではあまり使用しない。定期服用し自律神経を整えていくイメージ。多少の速効性はあるため、症状が出現する直前に1〜2包服用する方が効果的。
  • 腹痛が残存する場合は、大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)の適応となる“寒冷刺激で悪化するタイプ”が併存していることがある。
  • 腹満が残存する場合は、香蘇散(こうそさん)(70)を併用する。
  • 甘草含有であるが、特に中高生では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「ストレスで悪化する過敏性腸症候群×四逆散」を参照。
☆寒冷刺激性の腹痛・腹満×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある。小建中湯よりも腸管を温める作用が強い。
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 寒冷刺激性とは、「腸管の冷え」が存在し、寒冷刺激で悪化するタイプを指す。①冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する腹部を温めると症状が緩和する、の2つは特に特異度が高い印象。ちなみに腹巻きや腹部にカイロを使用している人は②に該当する。また、③自覚的な腹部の冷感(お腹が冷える)腹部、特に臍周囲の他覚的な冷感(触って冷たい)を認める場合や⑤便臭(特に水様性下痢)が軽度冷え症の人にも「腸管の冷え」すなわち大建中湯の適応者が多いと言われている1)2)3)4)
  • 患者自ら「お腹を冷やすと悪い」と伝えないことがあるので、こちらから聞き出すことが大事。
  • 大建中湯は「腸管の冷え」があれば、腹痛・腹満以外にも下痢、便秘、過敏性腸症候群などにも頻用される5)
  • 腹痛、腹満が残存する場合は、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)を併用する。腹痛、腹満を和らげる芍薬や甘草が入るため効果が増す。
  • 副作用に特記事項はない。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「寒冷刺激で悪化する過敏性腸症候群×大建中湯」を参照。
☆その他の腹痛・腹満×桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)☆
  • 桂枝加芍薬湯には、腸管を温めて腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがある5)
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 腹痛、腹満に対する桂枝加芍薬湯の処方は無難な対応。効かないことはあっても悪さはしない。
  • 「桂枝加芍薬湯=小建中湯—膠飴」であり、桂枝加芍薬湯と小建中湯は似ている。小建中湯は小児用、桂枝加芍薬湯は大人用と捉えてもよい。
  • 甘草含有(2g/日)であり、偽アルドステロン症に注意。
事例
中学3年生の男子。1年前より、毎日腹痛と下痢を自覚するため困っているとのこと。特に学校で多く、発症の時間帯は午前と午後どちらにも認める。学校では昼休みにも漢方薬を飲めるとのこと。

処方①:四逆散11包 1日2回 朝昼食後 14日分
14日後:「半分ぐらいに減っているけど、時々腹痛、下痢がある」
冷たい飲食物で悪化するかを問うと「そうかもしれない」とのこと。
処方②:四逆散1回1包+大建中湯11 1日2回 朝昼食後 14日分
28日後:「腹痛も下痢も良くなった。きちんと飲めている。」

文献
1)三潴忠道:はじめての漢方診療十五話.医学書院, 214, 2005.
2)犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
3)土倉潤一郎:Gノート 本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬. 羊土社, 4(6):1044-1055, 2017.
4)土倉潤一郎:Gノート おなかに漢方!. 羊土社, 6(1):58-64, 2019.
5)日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 改訂第2版 過敏性腸症候群. 南江堂, 74-76, 2020.

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下痢

《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常なく、整腸剤や止痢薬を飲んでも下痢が続いています」

ポイント
・下痢の漢方治療は①炎症②腸管の冷え③水毒の観点から処方選択する。
・器質的疾患を除外された慢性下痢には「腸管の冷え」の関与が多い。
・「腸管の冷え」の関与した下痢には大建中湯などの温熱薬が奏功しやすい。

 
とりあえず処方したい場合
  • 急性期
    1st-line:半夏瀉心湯(14)、2nd-line:柴苓湯(114)
  • 亜急性期〜慢性期
    1st-line:大建中湯(100)、2nd-line:半夏瀉心湯(14)、3rd-line:五苓散(17)
概論
  • 下痢の原因として感染性、炎症性、薬剤性などがあるが、疾患名は参考程度であり、漢方医学的な視点で漢方薬の選択を行う。なお、過敏性腸症候群の漢方治療については別項目を参照して頂きたい。
  • 下痢の漢方治療は、①炎症腸管の冷え水毒の観点から処方選択する。
    ①「炎症」に対しては抗炎症作用の漢方薬を使用する。「炎症」を示唆する所見として、「発熱(高熱)、便臭が強い、テネスムス(大腸に炎症があり頻回に便意を催すが便が少量しか出ない状態)」などがあり、大腸性下痢のことが多い。下痢に使用する漢方薬で抗炎症作用の強い順に並べると、黄芩湯(三和S35)→柴苓湯(114)→五苓散(17)→半夏瀉心湯(14)→小建中湯(99)→大建中湯(100)である。急性期(の下痢には「炎症」の関与が最も多い。
    ②「腸管の冷え」に対しては温熱作用の漢方薬を使用する。「腸管の冷え」を示唆する所見として、「冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する、腹部を温めると症状が緩和する、自他覚的な腹部の冷感、便臭(炎症)が軽度、冷え性の人」などがあり、水様性下痢、小腸性下痢のことが多い。感染性腸炎でも意外と「腸管の冷え」が関与している場合がある(冷えて免疫力が低下し治りづらいイメージ)。下痢に使用する漢方薬で温熱作用の強い順に並べると、茯苓四逆湯(真武湯+人参湯)→真武湯(30)→大建中湯(100)→人参湯(32)→小建中湯(99)→半夏瀉心湯(14)である。器質的疾患を除外された亜急性期〜慢性期の下痢には「腸管の冷え」の関与が最も多い。
     ③「水毒(すいどく)」とは水分代謝異常のことで、脱水や溢水といった水分の不均衡を是正する水分代謝調節作用の漢方薬を使用する。「水毒」を示唆する所見として、「水様性下痢、口渇、脱水」などがある。下痢に使用する漢方薬で水分代謝調節作用の強い順に並べると、柴苓湯(114)・五苓散(17)→真武湯(30)である。小児の嘔吐下痢には水毒の関与が最も多い。
西洋薬との位置づけ
  • 個人的には急性期よりも23日経過した亜急性期以降に漢方薬の使用が多い。その理由は、ほとんどの急性腸炎は数日以内で自然軽快するからである。漢方薬には抗炎症作用などもあるため、少しでも回復を早めるために急性期から使用してもよいが、亜急性期〜慢性期の方が漢方薬の恩恵は大きい。
  • よって、急性期よりも亜急性期〜慢性期の下痢で、整腸剤や止痢薬でも効果がない場合などに漢方薬の出番があると思われる。
  • 下痢の漢方治療の特徴は①炎症に対する抗炎症作用②腸管の冷えに対する温熱作用③水分代謝異常に対する水分代謝調節作用であり、西洋薬との併用も可能である。
各論
☆炎症の強い下痢×黄芩湯(おうごんとう)(三和S35)☆
  • 黄芩湯は黄芩(おうごん)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)の4種類の生薬で構成されており、抗炎症作用に優れている。芍薬、甘草による鎮痙・鎮痛作用もあるため腹痛にも対応できる。
  • 嘔気を伴う場合は制吐作用も兼ねる黄芩加半夏生姜湯という漢方薬があり、黄芩湯+小半夏加茯苓湯(21)で代用可能だが、個人的には西洋薬の制吐剤を用いることが多い。
  • よって、黄芩湯は発熱を伴うなど炎症の強い下痢に使用される1)
  • 副作用としては、黄芩による肝障害や間質性肺炎、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆炎症と冷えの下痢×半夏瀉心湯(はんげしゃしんとう)(14)☆
  • 半夏瀉心湯は半夏(はんげ)、黄芩(おうごん)、黄連(おうれん)、乾姜(かんきょう)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)の7種類の生薬で構成されている。
  • 半夏瀉心湯は、黄芩、黄連の抗炎症作用、乾姜の温熱作用、半夏、乾姜、人参の制吐作用などがあり、幅広く使用できる。
  • 抗炎症作用の黄芩、黄連は冷ます力が強く、乾姜は温める力が強い。通常はいずれかの生薬を中心としてその方向性を持つ漢方薬が多いが、半夏瀉心湯は冷ます生薬(抗炎症作用)と温める生薬(温熱作用)が混在したタイプの漢方薬である。よって、黄芩湯(三和S35)と大建中湯(100)の中間の位置付けとなり、両者と比較すると幅広くカバーできる一方で、抗炎症作用や温熱作用は弱まる
  • 下痢(特に急性期〜亜急性期)にはそのような「炎症+腸管の冷え(例:便臭は強いがお腹が冷える)」あるいは「炎症→腸管の冷え(例:初日は便臭が強かったが2日目には便臭軽度でお腹も冷える)」といった病態に陥ることもあり、使用頻度は比較的多い
  • 昔から腹鳴(お腹がゴロゴロ鳴る)を使用目標にするとよいとも言われている。
  • 抗がん剤(イリノテカン塩酸塩)による下痢(特に遅発性)には半夏瀉心湯が適合しやすく、第一選択薬とされている2)
  • 副作用としては、黄芩による肝障害や間質性肺炎、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆冷えの下痢×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4種類の生薬で構成されている。
  • 乾姜、山椒には温熱作用鎮痙・鎮痛作用があり、上記の「腸管の冷え」が関与した下痢、腹痛、腹満に対応する。
  • 一般に大建中湯は便秘やイレウスに使用されることが多いが、腸蠕動調節作用があるため、下痢にも効果を示す(大建中湯は腸管を温めて腸内環境を整えるイメージ)。
  • 強くはないが、抗炎症作用もあると報告されている3)
  • 慢性下痢には意外と「腸管の冷え」が関与していることが多く、大建中湯のような温熱薬が奏功しやすい。
  • 「腸管の冷え」の下痢に使用する漢方薬として、大建中湯(100)、人参湯(32)、茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)などがある。大建中湯冷えの下痢に第一選択でよいが、腹痛、腹満がある場合には優先する。人参湯(32)は下痢だけでなく食欲不振も伴う場合に選択する。茯苓四逆湯は人参湯(32)+真武湯(30)で構成され、冷えが強い場合や倦怠感を伴う場合に選択する。
  • 効果不十分例では、①大建中湯の増量(1日6包まで処方可)②桂枝加芍薬湯(60)の併用(鎮痙・鎮痛作用を強める)③真武湯(30)の併用(温熱作用を強める)などがある。
  • 副作用は特記事項なし。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「寒冷刺激で悪化する過敏性腸症候群×大建中湯」を参照。
☆水毒・小児の下痢×五苓散(ごれいさん)(17)☆
  • 五苓散は茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)、朮(じゅつ)、猪苓(ちょれい)、桂皮(けいひ)の5種類の生薬で構成されている。
  • 茯苓、沢瀉、朮、猪苓には水分代謝調節作用があり、下痢(主に水様性)4)、脱水、嘔吐などの水分代謝異常(水毒)に対応できる。
  • 小児の嘔吐下痢口渇を伴う水様性下痢には五苓散が第一選択となる。
  • 小児の嘔吐下痢で内服が難しい場合は注腸も有効とされている5)
  • 効果不十分例では、①柴苓湯(114)へ変更(柴苓湯は五苓散+小柴胡湯で抗炎症作用が強める)②大建中湯(100)へ変更(冷えが関与している場合がある)③小建中湯(99)へ変更(小児の亜急性期以降の下痢に頻用される)。
事例
65歳男性。数年前から1日10回以上の水様性下痢が持続している。検査では異常所見なく、整腸剤や止痢薬も効果がなかった。冷えの関与や便臭について尋ねると、「冷たいものを摂取すると悪化するので取っていません。元々冷え性です。臭いはあまりしません」とのこと。腹痛なし。腹鳴なし。
処方①:大建中湯11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「だいぶよいです。まだ1日2,3回の下痢があります」
処方②:大建中湯12 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「便の調子が良いです。便は1日1回の軟便になりました」

文献
1)犬塚央, 他:高齢者施設で多発した嘔吐下痢症に対する黄芩湯の使用経験. 日東医誌, 62(1):53-56, 2011.
2)坂田優,他:塩酸イリノテカン(CPT-11)の下痢に対する半夏瀉心湯(TJ-14)の臨床効果. 癌と化学療法, 21:1241-1244.
3)Ueno N, et al:TU-100(Daikenchuto) and ginjer ameliorate anti-CD3 antibody induced T cell-mediated murine enteritis: microbe-independent effects involving Akt and NF-κB suppression. PLos One, 9:e97456, 2014.
4)岡村信幸, 他:塩類下剤誘発下痢モデルマウスに対する五苓散の効果. 日東医誌, 60(5):493-501, 2009.
5)福富悌,他:小児の急性胃腸炎に伴う嘔吐に対する五苓散注腸の検討. 小児科臨床, 53:967-970, 2000.

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便秘

《こんな時困りませんか?》
患者「数種類の下剤を飲んでいるけど便が出なくて困っています」

ポイント
・便秘の漢方薬の利点は、腸蠕動を意識したアプローチができること。
・年齢層によって使用する漢方薬がある程度大別できる。
・場合によっては体質改善効果も期待できる。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→小建中湯(99)
  • 中高生→四逆散(35)
  • 若年〜中年者→通導散(105)
  • 高齢者→麻子仁丸(126)
概論
  • 便秘に関係する生薬の働きとして、①瀉下作用(便を出す):大黄(センノシド)、芒硝(マグネシウム)②腸蠕動調節作用(主に腸蠕動促進):枳実、山椒、乾姜、山梔子③鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善):芍薬、厚朴、甘草④潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする):麻子仁、桃仁、杏仁などがある。
  • この中でも腸蠕動調節作用、鎮痙・鎮痛作用、潤腸作用などが便秘の漢方薬の特徴であり、特に腸蠕動を意識したアプローチができることが最大の利点と思われる。
  • 自律神経異常の関与には自律神経調節作用の四逆散(35)や小建中湯(99)血流障害(ドロドロ血)の関与には末梢循環改善作用の通導散(105)腸内乾燥には滋潤作用の麻子仁丸(126)腸管の冷えによる蠕動運動異常には温熱作用の大建中湯(100)や小建中湯(99)などのアプローチがある。
  • 腸内環境を整えることは体調管理において非常に重要だが、さらに漢方薬では便秘の改善だけでなく、上記の+αの作用による体質改善効果も期待できる(例:虚弱体質、食欲不振、免疫・アレルギー性疾患、皮膚疾患、月経異常など)。
  • 年齢層によって使用する漢方薬がある程度大別できる。
西洋薬との位置づけ
  • 効果、副作用の点において西洋薬のみでバランスが取れているのであれば、敢えて漢方薬を導入する必要はない。
  • 通常、標準的加療で効果不十分な場合に漢方薬を選択するため、現実的には、西洋薬と漢方薬を併用する場合が多い
  • 上級編としては、便秘の漢方薬を上記のような慢性疾患、難治性疾患に対する体質改善目的として使用する場合もある。
各論
☆小児の便秘(軽度〜中等度)×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)☆
  • 小建中湯は桂枝加芍薬湯(60)+膠飴である。桂枝加芍薬湯(60)は大人にも使用するが、膠飴が加わることで小児に適した漢方薬へ変化する。桂枝加芍薬湯には桂皮、芍薬、甘草などの生薬が含まれており、腸管を温めて腸蠕動を調節する働きがある。また、膠飴には健胃作用、補気作用、滋養作用などがある。
  • 小建中湯は小児の便秘に第一選択薬となるが、便秘以外にも腹痛、腹満、下痢、過敏性腸症候群などにも使用できる。
  • 小建中湯は腸内環境を整え、体質改善効果も期待できるため、小児の虚弱、少食、易疲労、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹)、慢性頭痛、夜尿症、気管支喘息などのさまざまな病態に使用される1)
  • 小建中湯(ツムラ社)の常用量は115g(6)と多いが、体重換算で分包しやすいメリットもある。教科書的には1日15gタイプだと0.2mg〜0.4mg/kg/日などと記載されているが、児に合わせて飲めそうな量で設定してよい。
  • 効果不十分例では、①小建中湯の増量②特に冷えが強い場合や腹部手術後には大建中湯(100)へ変更あるいは併用③高度便秘の場合には桂枝加芍薬大黄湯(134)へ変更する。
  • 甘草含有であるが、小児では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「小児の便秘×小建中湯」を参照。
☆中高生の便秘(軽度〜中等度)×四逆散(しぎゃくさん)(35)☆
  • 四逆散は柴胡、枳実、芍薬、甘草の4種類の漢方薬で構成されている。
  • 柴胡の自律神経調節作用、枳実の腸蠕動調節作用、芍薬、甘草の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)があるため、便秘だけでなく腹痛、下痢、過敏性腸症候群にも頻用される。
  • 四逆散は便秘薬というより、腸蠕動調節薬のイメージ
  • 四逆散の適応者は、手汗をかきやすい過緊張タイプ(交感神経亢進タイプ)に多いと言われている。成長過程の影響か、中高生は四逆散が適合しやすい傾向にある。
  • 効果不十分例では、①冷えがある場合は大建中湯(100)を併用②高度便秘には桂枝加芍薬大黄湯(134)へ変更する。
  • 甘草含有であるが、中高生では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「ストレスで悪化する過敏性腸症候群×四逆散」を参照。
☆若年〜中年者の便秘(重度)×通導散(つうどうさん)(105)☆
  • 通導散は大黄(だいおう)、芒硝(ぼうしょう)、枳実(きじつ)、厚朴(こうぼく)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、紅花(こうか)、木通(もくつう)、蘇木(そぼく)、陳皮(ちんぴ)の10種類の生薬で構成されている。
  • 通導散は、大黄、芒硝の瀉下作用、枳実の腸蠕動調節作用、厚朴、甘草の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)、当帰、紅花、蘇木の末梢循環改善作用などがあり、比較的強い下剤末梢循環改善作用が特徴である。
  • よって、主に血流障害(ドロドロ血)の関与が強い過食、肥満傾向、月経異常などを伴う比較的体力のある若年〜中年者難治性便秘に使用される。
  • 末梢循環改善作用があるため、血流障害の関与する慢性疾患、難治性疾患(皮膚疾患、月経異常、頭痛、肩こりなど)に対する体質改善効果も期待できる。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
☆高齢者の便秘(中〜重度)×麻子仁丸(ましにんがん)(126)☆
  • 麻子仁丸は、麻子仁(ましにん)、大黄(だいおう)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)、芍薬(しゃくやく)の6種類の生薬で構成されている。
  • 大黄の瀉下作用、枳実の腸蠕動調節作用、麻子仁丸、杏仁の潤腸作用(腸内を潤して滑りを良くする)、厚朴、芍薬の鎮痙・鎮痛作用(腹痛や腹満の改善)がある。麻子仁丸は大黄が4g/日と比較的量が多く比較的強い下剤であるが、潤腸作用もあり乾燥傾向となりやすい高齢者の難治性便秘に第一選択薬となる。
  • 手応えが分からないうちは1日12包から開始して、反応を見ながら1日3包まで増量する。
  • 腸蠕動調節作用や潤腸作用の影響か、麻子仁丸を服用された患者が「スッキリ便が出る」と快便に喜ぶことも少なくない
  • 高齢者以外でも兎糞状のコロコロ便を伴う便秘に使用する場合もある。
  • 甘草、芒硝(マグネシウム類似成分)が含まれず、偽アルドステロン症や腎不全の心配をしなくてよいので、高齢者診療において使いやすい。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「高齢者の難治性便秘×麻子仁丸」を参照。
☆冷え性の便秘(軽度)×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)☆
  • 大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4種類の生薬で構成されている。
  • 大建中湯は「腸管を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和する働き2)があるため、腸管が冷えて腸蠕動異常(便秘、下痢、腹痛、腹満、腸閉塞)をきたしている病態に適する。ちなみに大建中湯は便秘よりも下痢、腹痛、腹満、腸閉塞の治療の方が得意としている漢方薬である。
  • 大建中湯が適合しやすい便秘の人は冷え性であること、そして虚弱体質が多いため西洋薬の下剤(特に大腸刺激性下剤)が合わないことも多い。例えば、「西洋薬の便秘薬が合わない→冷え性の確認→大建中湯を処方→快便」という流れのこともある。
  • 便秘薬としての大建中湯はマイルドであるため、もう少し便を出したい場合には大黄製剤(桂枝加芍薬大黄湯、麻子仁丸など)を併用する。
  • 副作用の特記事項はない。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「寒冷刺激で悪化する過敏性腸症候群×大建中湯」を参照。
事例
45歳女性。肥満体型。以前から便秘があり、1週間出ないときもある。酸化マグネシウムは効果がなく、センノシドでは腹痛があるため、現在は何も服薬していない。便は硬く、便秘時は腹部膨満感あり。月経痛が強く、頭痛を伴う。慢性湿疹もあり皮膚科で加療しているが治らない。
処方:通導散11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「便が毎日出るようになり、お腹の張りはなくなりました。下剤による腹痛もありません。」
28日後:「便の調子は良いです。月経痛は軽くなり、頭痛はありませんでした。湿疹も少し減ってきました。」

文献
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 79, 1982.

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冷え性

準備中

しもやけ

《こんな時困りませんか?》
患者「皮膚科で治療しても毎年しもやけができるので困ります」

ポイント
・しもやけの主病態は血流障害であり、末梢循環改善作用の漢方薬を使用する。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)が第一選択薬となる。
・効果不十分例には他剤を併用する。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)、2nd-line:当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)+桂枝茯苓丸(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)
概論
  • 一般的なしもやけ(凍瘡)だけでなく、膠原病が関与した凍瘡様皮疹などにも使用できる。
  • しもやけの主病態は血流障害であり、治療薬としては末梢循環改善作用を有する漢方薬が中心となる。
  • しもやけに使用する末梢循環改善作用の代表的な漢方薬として、当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)、桂枝茯苓丸(25)、当帰芍薬散(23)などがある。
西洋薬との位置づけ
  • しもやけに対する西洋薬はあるが、漢方薬を優先的にあるいは併用で使用できる。
  • 個人的には西洋薬よりも漢方薬の方が有効性に優れている印象
各論
☆しもやけ×当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)☆
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の 9種類の生薬で構成されている。
  • 当帰には末梢循環改善作用があり、血流障害などに対応する1)
  • 当帰、桂皮、細辛、呉茱萸、生姜には温熱作用があり、冷えに対応する1)2)
  • 細辛、芍薬、甘草、呉茱萸には鎮痛作用があり、疼痛に対応する。
  • 木通には利水作用(抗浮腫作用)があり、浮腫に対応する。
  • すなわち当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、主に「血流障害+冷え+疼痛+浮腫」に対応できる漢方薬であり、しもやけに対して第一選択薬となる。
  • しもやけ以外では同様の理由で、末端冷え性1)2)、末梢循環障害(レイノー症候群3)、閉塞性動脈硬化症4))、冷えタイプの疼痛(月経痛、頭痛、腰痛、腹痛)などにも頻用される。
  • 服薬期間に関しては、しもやけを発症した時のみでも効果は見込めるが、難治性の場合はシーズン前からの開始、あるいは体質改善目的に一年中服用することもある。
  • しもやけの症状はいくつかあるが、冷えや紅斑よりも疼痛の方が改善しやすい印象。例えば、「赤くはなるがこれ以上悪くならない」という患者も少なくない。
  • 効果不十分例では、①血流障害が強い場合には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)②血流障害+浮腫がある場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)or当帰芍薬散加附子(三和SG143)③体全体の冷えが強い場合は真武湯(しんぶとう)(30)④高齢者や下肢の冷えが強い場合は牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)を併用する。
  • しもやけは基本的に冷え性タイプにみられるが、まれに暑がりでも認めることがある。その場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯ではなく、桂枝茯苓丸(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)を用いる。
  • 味が苦いのが難点。
  • 副作用としては甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「しもやけ×当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を参照。
☆しもやけ×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 基本的に桂枝茯苓丸は用量依存性があるため、量が多い方が効果は高い。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)は各生薬が3gに対して、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸には各生薬が4gと量が多い
  • 桃仁、牡丹皮は末梢循環改善作用が強く、血流障害に対応する。ただ、体を冷ます方向性の生薬のため、桂枝茯苓丸は基本的に暑がりの人に適合しやすい。
  • すなわち、桂枝茯苓丸単剤では「暑がりだが血流障害が強く、しもやけを認めている人」に使用する漢方薬である。
  • しかし、冷え性のしもやけに当帰四逆加呉茱萸生姜湯を使用する際、さらに末梢循環改善作用を強めるために桂枝茯苓丸を加えることはある。
  • 副作用は特記事項なし。
事例
58歳女性。皮膚科で内服薬と軟膏を処方されているが、毎年、手足にしもやけができる。今年の冬も手足の先に紅斑、浮腫、疼痛を認めている。
処方①:当帰四逆加呉茱萸生姜湯1回1包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「痛みや浮腫は良くなりましたが、まだ赤いです。」
処方②:当帰四逆加呉茱萸生姜湯1回1包+桂枝茯苓丸加薏苡仁1回1包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「まだ少し手足が冷たいですが、だいぶ良くなりました。」

文献
1)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
2)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
3)金内日出男:レイノー病と慢性動脈閉塞症,膠原病におけるレイノー現象の臨床症状とサーモグラフィーを用いた皮膚温との比較-当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効評価. 公立豊岡病院紀要, 11:69-76, 1999.
4)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.

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月経関連症状

《こんな時困りませんか?》
患者「月経痛、不眠、月経前のイライラ、頭痛、むくみ、ニキビに困っています。」

ポイント
・月経や女性ホルモン関連の主病態は、漢方では瘀血(ドロドロ血)といわれている。
・病態が瘀血で共通ならば、1剤で複数の症状が改善する可能性がある。
・瘀血の治療薬にはさまざまな特徴があり、瘀血+αの病態に応じて使い分ける。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:加味逍遥散(24)、2nd-line:当帰芍薬散(23)
概論
  • 月経関連症状とは、月経痛、月経不順、月経時の頭痛や痤瘡、月経前症候群、月経前不快気分障害、更年期障害など、月経や女性ホルモンに関連する症状を示す。
  • 月経や女性ホルモン関連の主病態は、漢方では瘀血(おけつ)(ドロドロ血、血液循環障害)といわれている。そのため、症状や疾患は異なっても病態は一つ(瘀血)であることが多く、1つの漢方薬で複数の症状が改善する可能性がある
  • 瘀血の治療薬は駆瘀血剤(くおけつざい)(サラサラにする、血液循環改善薬)と呼ばれている。駆瘀血剤にはさまざまな特徴があり、瘀血+αの病態に応じて使い分ける
西洋薬との位置づけ
  • 基本的には西洋薬での治療が難しい場合に漢方薬の位置づけがあるが、病態、治療薬の利点や難点、患者の希望などを総合的に判断し、いずれから開始してもよいと思われる。
  • 婦人科領域は他の分野と比較しても、漢方のニーズが高く、有効性も高いと感じる。よって、少なくとも漢方薬という治療の選択肢をもっている方がよいと思われる。
各論
☆月経関連症状+精神・自律神経症状×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散には当帰、牡丹皮の駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用1)、柴胡、山梔子、薄荷の精神安定作用、自律神経安定作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、芍薬、甘草の鎮痙鎮痛作用、朮、茯苓、甘草の補気作用(気力を補う)などがある。
  • 駆瘀血剤の中でも加味逍遥散の特徴は精神安定作用、自律神経安定作用であり、月経関連症状に精神症状、自律神経症状を伴う場合には第一選択となる(例:月経前のイライラ、女性ホルモンが減る時期での不安、不眠、動悸、めまい、のぼせ)。加味逍遥散は漢方のマイナートランキライザー2)と称されるように、基本的には緊張を緩める方向性の薬剤であり、女性の肩こりや緊張型頭痛にも第一選択である。
  • また、駆瘀血作用や鎮痙鎮痛作用があるため月経不順や月経痛などにも対応できる。
  • 漢方では患者の体質(暑がり、寒がり、華奢、がっしりタイプなど)を考慮する必要があるが、加味逍遥散はどのタイプでも幅広く使用できる漢方薬であり、女性の精神症状や自律神経症状であれば月経と関連していなくても頻用される(例:女性の不眠、動悸)。
  • 加味逍遥散の対象者は更年期世代のイメージがあるが、個人的には上記症状があれば20代〜70代まで幅広く使用しており、駆瘀血剤の中で(全漢方薬の中でも)最も使用頻度が高い。主訴が月経痛や月経不順などでも、問診すると不眠やイライラなどの精神・自律神経症状を伴っていることも多く、これらをカバーする加味逍遥散が頻用される。
  • 加味逍遥散は抑うつよりもイライラの方が得意としており、抑うつ>イライラの場合加味帰脾湯(137)の方がよい(例:月経前の落ち込み)。
  • 不眠や不安が強い場合、①喉から胸部の閉塞症状(例:喉がつまる感じ、息苦しい)を伴えば半夏厚朴湯(16)②それ以外には桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
  • のぼせやホットフラッシュが強い場合、①桂枝茯苓丸(25)白虎加人参湯(34)黄連解毒湯(15)の併用、または女神散(67)へ変更する。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆月経関連症状+水毒・疼痛×当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)☆
  • 当帰芍薬散は当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)の6つの生薬で構成されている。
  • 当帰芍薬散には当帰、川芎の駆瘀血作用、茯苓、朮、沢瀉の利水作用(水分代謝調節作用)、当帰、芍薬、川芎の補血作用(血液、体力、潤いなどを補う)、当帰、芍薬の温熱作用、芍薬、川芎の鎮痙鎮痛作用などがある。
  • よって、冷え性で月経関連症状に水分代謝異常(水毒)、貧血傾向、疼痛などを伴う場合に第一選択となる(例:月経前のむくみ、月経痛、月経周期の頭痛)。また、昔から「当芍(とうしゃく)美人」とも称され、色白の美人女性には当帰芍薬散が適合しやすいと言われている(もちろん参考程度に)。
  • 駆瘀血剤の中でも当帰芍薬散の特徴は利水作用と鎮痛作用であり、水毒症状、月経痛3)、月経周期の頭痛などを伴う場合に頻用される。
  • 水毒症状としては浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどがあり、これらは月経と関連していなくても使用できる。効果不十分例には利水作用の五苓散(17)を併用する。
  • 冷えや疼痛が強い場合には附子(ぶし)という温熱作用、鎮痛作用の生薬や当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)を加える。附子は加工ブシ末(三和S-01)、アコニンサン錠(三和ST-01)などがあり、当帰芍薬散+附子の当帰芍薬散加附子(三和SG143)もある。
  • もっと潤したい場合には温経湯(うんけいとう)(106)を使用する。温経湯は駆瘀血作用、補血作用、滋潤作用(潤す)、温熱作用、鎮痙鎮痛作用があるため、冷え性で月経関連症状に皮膚乾燥、手湿疹、貧血傾向、疼痛などを伴う場合に使用する。両方剤の違いは、当帰芍薬散は利水作用、温経湯は滋潤作用に優れる。
  • 注意点としては、当帰、川芎による胃もたれが稀にある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「色白女性の月経痛×当帰芍薬散」を参照。
☆月経関連症状+暑がり×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 桂枝茯苓丸には桃仁、牡丹皮の駆瘀血作用、芍薬の鎮痙鎮痛作用、牡丹皮の体を冷ます作用、牡丹皮、桂皮ののぼせを抑える作用、茯苓の利水作用がある。
  • よって、暑がりで月経関連症状、疼痛、のぼせなどを伴う場合に頻用される(例:月経不順、月経痛、月経周期の頭痛、ホットフラッシュ)。
  • 基本的には暑がりタイプに使用する漢方薬だが、月経関連症状が取り切れない場合や子宮筋腫(瘀血の塊)がある場合などで、駆瘀血作用をさらに強化するために冷え性タイプにも併用することがある(例:当帰芍薬散+桂枝茯苓丸)。
  • エキス製剤には桂枝茯苓丸(25)と桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)がある。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)よりも、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸の方が桂枝茯苓丸自体の量が多いため、より高い効果が期待できる。
  • 比較的強い便秘がある場合には通導散(105)を使用する。通導散は桂枝茯苓丸よりも駆瘀血作用が強い下剤としての効果も強いため、若年者の難治性便秘にも使用される。
  • 注意点としては特記すべき事項なし。
☆月経関連症状+冷え・疼痛×当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)☆
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の9種類の生薬で構成されている。
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯には、当帰の駆瘀血作用、末梢循環改善作用、当帰、桂皮、細辛、呉茱萸、生姜の温熱作用、細辛、芍薬、甘草、呉茱萸の鎮痛作用、木通の利水作用がある。
  • 駆瘀血剤の中でも当帰四逆加呉茱萸生姜湯の特徴は、末梢循環改善作用、温熱作用4)5)、鎮痛作用であるため、冷え性(特に末端)で疼痛がある場合に頻用される(例:月経痛、頭痛、腰痛、しもやけ)。
  • 当帰芍薬散と類似するが、当帰四逆加呉茱萸生姜湯は利水作用が弱い一方で、当帰芍薬散よりも温熱作用、鎮痛作用が強い
  • 冷えや疼痛が強い場合には①当帰芍薬散(23)or当帰芍薬散加附子(三和SG143)加工ブシ末(三和S-01)orアコニンサン錠(三和ST-01)を併用する。
  • 瘀血症状が強い場合には①当帰芍薬散(23)桂枝茯苓丸(25)を併用する。
  • 注意点は、暑がりには不適応、味が苦い、甘草による偽アルドステロン症、胃もたれなどがある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「しもやけ×当帰四逆加呉茱萸生姜湯」を参照。
事例
24歳女性。以前から、月経痛、不眠、月経前症候群(イライラ、頭痛、むくみ、痤瘡)に困っているとのことで来院。冷え性で特に手足の末端が冷える。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 28日分
1ヶ月後:「だいぶ良くなりました。まだ、むくみは変わらず、月経痛と頭痛が半分程度残っています。」
処方②:加味逍遥散1回1包+当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 28日分
2ヶ月後:「ほとんど良くなりました。」

文献
1)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
3)Kotani N, et al.:Analgesic effect of a herbal medicine for treatment of primary dysmenorrhea - a double-blind study. The American Journal of Cinese Medicine, 25:205-12, 1997.
4)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
5)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.

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イライラ

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、イライラしやすくなり、夫とよく喧嘩するようになりました。」

ポイント
・基礎疾患を問わず、イライラに対して漢方薬を使用できる。
・年齢や性別によって適合しやすい漢方薬が異なる。
・副作用の観点から向精神薬の前に漢方薬を試す価値はあると思う。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:抑肝散(54)、2nd-line:加味逍遥散(24)(女性)
概論
  • 基礎疾患を問わず、イライラに対して漢方薬を使用できる。
  • イライラに対応する漢方薬は主に鎮静作用、交感神経抑制作用があるため、不眠、不安、動悸などにも良い場合がある。年齢や性別によって適合しやすい漢方薬が異なる。
  • 今回提示する薬剤の中では抑肝散(54)、黄連解毒湯(15)などは比較的速効性もあるため、頓用でも使用できる。
西洋薬との位置づけ
  • 速効性、有効性の観点からは向精神薬の方が優れる可能性があるが、副作用とのバランスを考慮して、漢方薬も検討するべきである。
  • 個人的には、向精神薬の前に漢方薬を試す価値はあると思う。
各論
☆イライラ×抑肝散(よくかんさん)(54)☆
  • 抑肝散は柴胡(さいこ)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の7種類の生薬で構成されている。
  • 抑肝散には柴胡、釣藤鈎の鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎の補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • すなわち、抑肝散は主にイライラや興奮などの陽性症状に対応する一方で、気力や体力を補う配合となっている。疲れているとイライラしやすくなり、イライラするとさらにエネルギーを消耗するためにこのような構成になっていると想像する。
  • もともと抑肝散は「疳の虫を抑える」というように小児のイライラや夜泣きのために作られた漢方薬だが、老若男女に使用できる
  • 抑肝散加陳皮半夏(83)という漢方薬もある。抑肝散に陳皮(ちんぴ)と半夏(はんげ)の生薬が加わったもので、抑肝散+六君子湯(43)に近く、食欲不振などを伴う場合に使用する。
  • 小児のイライラには抑肝散が第一選択である。しかし、発達障害などの特性があると効果不十分な場合があり、大柴胡湯(8)への変更や併用を検討する。大柴胡湯は下剤効果もあるため、排便状況に応じて調節が必要である。また、(典型的にはシクシクよりワーっと発作的に)泣くことが多い場合甘麦大棗湯(72)を併用する。いずれも自律神経安定作用があるが、「怒」の抑肝散、「悲」の甘麦大棗湯で鑑別する。両者が混在していることも多く、また甘麦大棗湯は甘くて飲みやすいため、児には意図的に甘麦大棗湯から開始することもある。
  • 抑肝散の原典「保嬰撮要(1556年)」には「子母同じく服す」とあり、昔から抑肝散は母子同服(親も一緒に服用する)が良いとされている。やはり児のイライラは親のイライラを伴う場合も多く、一緒に整えた方がよいのであろう。
  • また、高齢者のイライラにも抑肝散が第一選択である。最近では認知症の周辺症状(陽性症状)1)に頻用されている。その他の鑑別処方として、赤ら顔で暑がりの場合には黄連解毒湯(15)脳動脈硬化、高血圧、起床時の頭痛、めまい、食欲不振(六君子湯が含有)などがある場合には釣藤散(47)などがある。これらの鑑別が難しい場合は、順番に試してもよいかと思われる。
  • 注意点は甘草による偽アルドステロン症。
  • 詳細は推奨ベスト20の「小児のイライラ×抑肝散」を参照。
☆女性のイライラ×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散には柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン安定作用、血液循環改善作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • すなわち、加味逍遥散は主に女性に適した漢方薬で、イライラ、不安、抑うつ、不眠、のぼせなどの精神症状、自律神経症状に対応する。また抑肝散と同様に気力や体力を補う配合にもなっている。
  • 抑肝散と異なる点は、①女性ホルモン安定作用があるため20代〜70代の女性が主な対象者②不安、抑うつなど陰性症状にもよい(ただし陽性症状が主体)③のぼせを抑える作用がある。
  • 加味逍遥散で効果不十分なイライラには抑肝散を併用あるいは変更する(併用の際は重なる生薬があるため1日2回ずつが望ましい)。
  • イライラと抑うつが混在している場合もあるが、イライラ>抑うつには加味逍遥散(24)抑うつ>イライラには加味帰脾湯(137)でよい。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆男性のイライラ×黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)☆
  • 黄連解毒湯は黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の4種類の生薬で構成されている。
  • 黄連、黄芩、黄柏、山梔子には鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、清熱作用、のぼせ(赤ら顔)を抑える作用などがある。上記漢方薬のように補気作用の生薬は配合されていないため、比較的体力のあるタイプに使用される。
  • よって、黄連解毒湯は赤ら顔で比較的体力のある暑がりな人のイライラに第一選択となる。男性に比較的多い印象。イライラ以外にも、不安、不眠、のぼせにも対応できる(主に陽性症状)。
  • 注意点は、黄芩による肝障害、間質性肺炎などがある。味は苦いが、製薬会社によってはカプセルや錠剤もある。
事例
41歳女性。以前から月経前などでイライラしやすかったが、数ヶ月前から月経に関係なくイライラが続いている。最近では不眠やめまいも認めるようになった。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「不眠やめまいは良くなりました。イライラはまだ半分ぐらいあります」
処方②:加味逍遥散1回1包+抑肝散1回1包 1日2回 朝夕食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。イライラはあまりしなくなりました」

文献
1) Matsuda, Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.

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のぼせ

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、すぐに顔がのぼせて困ります。婦人科では治療法がないと言われました。」

ポイント
・のぼせは漢方医学的に気逆きぎゃくと呼ばれる病態で治療は降気薬が主体となる。
・女性には加味逍遥散(24)が第一選択。男性には黄連解毒湯(15)が第一選択。
・のぼせの漢方治療でその他の気逆症状(動悸など)も改善する可能性がある。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:女性→加味逍遥散(24) 男性→黄連解毒湯(15)
  • 2nd-line:女性→加味逍遥散(24)+白虎加人参湯(34) 男性→黄連解毒湯(15)+白虎加人参湯(34)
概論
  • のぼせは漢方医学的に気逆きぎゃく(気の上衝)と呼ばれる病態で、ホットフラッシュに代表されるが、男性でものぼせを自覚することがある。のぼせの漢方薬の選択において特に基礎疾患を問わない
  • のぼせの漢方治療は降気薬が主体で、清熱薬を併用する場合もある。

    ①降気薬
    降気薬は気を降ろす働きがあり、気逆の治療薬である。降気作用の生薬には黄連、桂皮、桂皮+甘草(この組み合わせは 桂皮のみより強力)、牡丹皮、山梔子などがあり、これらが含有された降気薬は多くあるが、本稿では加味逍遥散(24)、黄連解毒湯(15)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)、黄連湯(120)を紹介する。主な働きとして交感神経抑制作用、末梢循環改善作用、女性ホルモン調節作用などを有する。ホットフラッシュや月経周期によるのぼせなどの女性ホルモン関連症状であれば、女性ホルモン調節作用の加味逍遥散(25)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)を中心に組み立てる。

  • 気逆の病態は気が上向きのベクトルであり、のぼせ以外にも、動悸、イライラ、頭痛、めまい、不安、不眠などの血管運動神経症状、自律神経症状、精神症状も含まれる。病態が共通しているため、同じ漢方薬で改善する可能性がある。

    ②清熱薬
    清熱薬はのぼせ、ほてりなどの熱を冷ます働きがある。清熱作用の生薬には石膏、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、薄荷、牡丹皮などがあり、これらが含有された清熱薬は多くあるが、本稿では白虎加人参湯(34)、黄連解毒湯(15)、加味逍遥散(24)、女神散(67)を紹介する。

  • ①と②で重なる漢方薬があるように、両者を持ち合わせる漢方薬も比較的多い。降気薬の単剤で効果不十分な場合には降気薬+降気薬、降気薬+清熱薬のように併用する。
西洋薬との位置づけ
  • のぼせの西洋治療は更年期障害に対するホルモン補充療法以外には少なく、西洋薬よりも漢方薬の方が治療選択肢は多い
  • 西洋薬との併用も可能。
各論
☆女性ののぼせ①×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の 10種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える(降気)作用、牡丹皮、山梔子、薄荷の清熱作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン調節作用、血液循環改善作用、柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。
  • よって、加味逍遥散は降気作用+清熱作用+女性ホルモン調節作用(+自律神経安定作用)を有するため、年齢を問わず女性ののぼせに対して第一選択となる。
  • また、女性ホルモンが減少する時期(更年期の時期よりも幅広い)、月経周期に伴うのぼせ、さらには自律神経症状や精神症状を伴う場合には、特に優先して使用される1)2)
  • 男性ののぼせにも加味逍遥散を稀に使用することがある。個人的には女性的に愁訴が多い場合に使用している。
  • 効果不十分な場合、女性ホルモン調節作用や血液循環改善作用の強化には桂枝茯苓丸(25)、清熱作用の強化には白虎加人参湯(34)or黄連解毒湯(15)などを併用する。また加味逍遥散よりも降気作用、清熱作用に優れている女神散(67)への変更あるいは併用もよい。
  • 注意点は、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆女性ののぼせ②×桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)☆
  • 桂枝茯苓丸は、桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、桃仁(とうにん)、牡丹皮(ぼたんぴ)、芍薬(しゃくやく)の5種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、牡丹皮、桂皮ののぼせを抑える(降気)作用、牡丹皮の清熱作用、桃仁、牡丹皮の女性ホルモン調節作用、血液循環改善作用、芍薬の鎮痙鎮痛作用、茯苓の利水作用がある。
  • よって、桂枝茯苓丸は降気作用+清熱作用+女性ホルモン調節作用(+鎮痙鎮痛作用)を有するため、年齢を問わず女性ののぼせに対して使用される。
  • “女性ののぼせ”の治療薬としては、基本的に加味逍遥散と同系統であり、適応も似ている2)
  • 加味逍遥散との鑑別は、冷え性や自律神経症状・精神症状の有無で判断する。加味逍遥散は暑がり〜寒がりまで幅広く使用でき、自律神経症状・精神症状にも効果を示すが、桂枝茯苓丸は冷え性に適さないことが多く(暑がりタイプ用)、自律神経症状・精神症状にも対応しない。桂枝茯苓丸には芍薬が含まれるため、加味逍遥散よりも鎮痛作用が期待できるため、月経痛などが強い場合は桂枝茯苓丸を優先して使用する場合もある。
  • しかし個人的には、例え暑がりで自律神経症状・精神症状がなくても、“女性ののぼせ”には加味逍遥散を第一選択として使用することが多い。
  • エキス製剤には桂枝茯苓丸(25)と桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)がある。ツムラ社の桂枝茯苓丸(25)よりも、桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)や他社の桂枝茯苓丸の方が桂枝茯苓丸自体の量が多いため、より高い効果が期待できる。
  • 注意点としては特記すべき事項なし。
☆男性ののぼせ×黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)☆
  • 黄連解毒湯は、黄連(おうれん)、黄芩(おうごん)、黄柏(おうばく)、山梔子(さんしし)の4種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、黄連、山梔子ののぼせを抑える(降気)作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、抗不安作用、抗うつ作用、黄連、黄芩、黄柏、山梔子の清熱作用がある。
  • よって、黄連解毒湯は降気作用+清熱作用(+自律神経安定作用)を有するため、のぼせに幅広く使用される3)4)
  • 黄連解毒湯の適応者の典型例として、暑がり、赤ら顔、イライラしやすいなどの特徴がある。分布としては中年男性に多い印象だが、適応者であれば年齢や性別を問わずのぼせに対して使用できる。
  • ちなみに飲酒による顔面紅潮(赤みは変わなくてものぼせ感は減る印象)にも効果があり、飲酒前に愛用する人も多い。
  • 冷え性(特に胃腸の冷え)や胃腸症状(胃もたれ、下痢など)がある場合には黄連湯(120)を選択する。
  • 効果不十分な場合は、黄連解毒湯+四物湯(71)である温清飲(57)への変更、あるいは清熱作用の強化に白虎加人参湯(34)を併用する。
  • 注意点は、味が苦い(製薬会社によってはカプセル製剤もある)、黄芩による肝障害・間質性肺炎、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)。
☆のぼせ×白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)(34)☆
  • 白虎加人参湯は、石膏(せっこう)、粳米(こうべい)、知母(ちも)、人参(にんじん)、甘草(かんぞう)の4種類の生薬で構成されている。
  • 薬能としては、石膏、知母の清熱作用、粳米、知母、人参、甘草の滋潤作用(潤す)がある。
  • よって、白虎加人参湯は清熱作用(+滋潤作用)が主体であるため、のぼせに対しては降気薬に併用(追加)することが多い。
  • 白虎加人参湯の適応者の典型例として、暑がり、汗かき、口渇(冷水を好む、多飲、多尿)などの特徴があるが、これらが揃わなくても単純に冷却のために使用することもある。
  • 更年期障害などで“上半身は暑く発汗も多い”一方で、“手足は冷える”という病態も少なくない。治療困難な場合もあるが、個人的には加味逍遥散をベースに、上半身の冷却を主要目標とするなら白虎加人参湯、手足の冷え(末梢循環障害)も考慮するなら桂枝茯苓丸(加薏苡仁)を併用する。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症。
事例
43歳女性。1年前からのぼせがあり、少し温かいところに行くと顔のほてりや発汗を認めるようになった。婦人科を受診したがホルモン補充療法の適応なく経過観察となっている。また最近、動悸、不眠、頭痛なども毎日自覚するようになり、特に月経前に増悪する。冷え性はない。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「顔ののぼせは半分程度になりました。動悸や頭痛はほとんどなくなりました。夜も比較的眠れるようになりました。」
処方②:加味逍遥散1回1包+白虎加人参湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「のぼせはほとんど良くなりました。月経前の動悸や頭痛などもありませんでした。」

文献
1)Hidaka T, et al.:Kami-shoyo-san, Kampo(Japanese traditional medicine), is effective for climacteric syndrome, especially in
hormone-replacement-therapy-resistant patients who strongly complain of psychological symptoms. J Obstet Gynaecol Res, 39(1):223-228, 2013.
2)Yasui T, et al.: Effects of Japanese traditional medicines on circulating cytokine levels in women with hot flashes. Menopause, 18(1): 85-92, 2011.
3)Arakawa K, et al.:Improvement of accessory symptoms of hypertension by TSUMURA Orengedokuto Extract, a four herbal drugs containing Kampo-Medicine Granules for ethical use:a double-blind, placebo-controlled study. Phytomedicine, 13:1-10, 2006.
4)伊藤栄一, 他:脳梗塞に対するツムラ黄連解毒湯の臨床効果. Geriatric Medicine, 29:303-313, 1991.

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頭痛

ポイント
・頭痛の漢方薬は疾患名よりも誘発因子によって処方選択することが多い。
・医療者が頭痛の誘発因子をうまく聞き出すことが大事。
・慢性頭痛には複数の漢方薬が必要となることが多い。

 
とりあえず処方したい場合
  • 低気圧時に増悪する→五苓散(17)(頻度)
  • 女性の緊張型頭痛→加味逍遥散(24)(頻度)
  • 月経周期で増悪する→当帰芍薬散(23)(頻度)
  • 嘔吐を伴う頭痛→呉茱萸湯(31)(頻度)
  • 起床時の頭痛→釣藤散(47)(頻度)
  • その他→川芎茶調散(124)(頻度)
概論
  • 主に急性期よりも、慢性期、再発性の頭痛に漢方薬が使用されることが多い。もちろん器質的疾患の精査は必要。
  • 疾患名よりも漢方病態で漢方薬を選択する。
  • 漢方病態は“どのような状況で悪化するか”という誘発因子で把握できることが多い。
  • 例えば、“片頭痛だからこの漢方薬”と決まっているわけではなく、同じ片頭痛でも“○○で悪化する”という誘発因子で漢方薬の選択が変わる。一般に片頭痛の誘発因子として、ストレス、精神的緊張、疲れ、睡眠、月経周期、天候の変化、温度差、頻回の旅行、アルコールなどがあるが1)、各々で漢方薬の対応が可能である。
  • 医療者が頭痛の誘発因子をうまく聞き出すことが重要
  • 頭痛の漢方薬において、①水毒と②瘀血の漢方病態を知っておくと理解しやすい。
    水毒(すいどく):水分代謝異常を指し、脳浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。水毒の治療薬には利水作用があり、利水剤(りすいざい)と呼ばれる。
    瘀血(おけつ):血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経周期に増悪する頭痛、月経痛、月経不順などの月経随伴症状、末梢循環障害などが含まれる。瘀血の治療薬には駆瘀血作用があり、駆瘀血剤(くおけつざい)と呼ばれる。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも使用できる漢方薬はあるが、特に慢性期・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う。
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 慢性頭痛の場合、漢方薬で予防や体質改善を行い、発作時は西洋薬(鎮痛薬)を使用することが多い。よって、漢方薬を服用しながら鎮痛薬が減っていくイメージ。
  • 漢方薬の対象疾患として、基本的に一次性頭痛には幅広く対応できる。二次性頭痛に対しても、例えば、脳浮腫を改善する漢方薬(例:五苓散)などを用いる場合もある。
各論
☆低気圧時の頭痛×五苓散(ごれいさん)(17)☆
  • 「低気圧時の頭痛」は、例えば“雨降り前・曇天・台風”などの時に出現あるいは増悪するタイプの頭痛を指す。緊張型頭痛、片頭痛などの慢性頭痛に混在していることも少なくない
  • 灰本らは、慢性頭痛の疫学研究で移動性低血圧と関連がある頭痛に五苓散が有効であったことを報告している2)
  • 「低気圧時の頭痛」は上記の水毒という漢方病態にあたり、治療薬は利水剤である。五苓散は代表的な利水剤の1
  • 五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがある3)。脳にはAQP4が多く存在しているため、五苓散は脳浮腫を取ることを得意としており、脳外科領域では脳浮腫や硬膜下血腫などに頻用されている4)
  • 「低気圧時の頭痛」は微小な脳浮腫が関係しているとも言われている。
  • 頓用使用の場合、発作時よりも発作前の投与の方が効果的。また量依存性のため、効果が不十分な場合は量を増やすことがコツ。1回1〜2包ずつ服用し、30〜60分で効果が不十分な場合は更に追加してもよい。
  • 頭痛の程度や頻度が多い場合は定期使用の方がよい。その場合でも、低気圧時は1日3〜6包と多めに服用し、それ以外は1日2〜3包と強弱をつけた方がよい場合もある
  • 五苓散を服用後でも「低気圧時の頭痛」が残存している場合、個人的には女性であれば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)、男性であれば苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)を合わせることが多い。「低気圧時」ではない頭痛が残っている場合は利水剤以外の漢方薬(例:加味逍遥散など)を合わせる。
  • 副作用に特記事項なく、五苓散を多く服用しても脱水や電解質異常をきたすことはない。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「低気圧時の頭痛×五苓散」を参照。
☆女性の緊張型頭痛×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散には自律神経安定作用、精神安定作用、鎮静作用やのぼせを抑える作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー5)とも称され、女性の肩こりや緊張型頭痛に頻用される。また、駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用6)などもあり、月経周期の頭痛や更年期障害にも使用される。
  • 加味逍遥散は上記の作用により、緊張性頭痛や月経周期の頭痛だけでなくさまざまな症状を改善させる可能性がある。自律神経症状として“イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュ”、精神症状として“抑うつ、不眠”、瘀血・女性ホルモン関連症状として“月経痛、月経不順、月経周期の精神不安定・ざ瘡、更年期障害”などがある。
  • すなわち、加味逍遥散は頭痛だけを治す薬剤ではなく、心身のバランスを整えながら頭痛も治すイメージ。
  • 男性の緊張型頭痛に関しても自律神経安定作用の漢方薬を用いることが多い。暑がりタイプには柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)、寒がりタイプには柴胡桂枝乾姜湯(さいこけいしかんきょうとう)(11)などがある。
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)に注意が必要。眠気や下痢が起きる場合もある。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆月経周期の頭痛×当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)☆
  • 「月経周期の頭痛」とは月経時や排卵時など月経周期に出現あるいは増悪するタイプの頭痛を指す。
  • 「月経周期の頭痛」は瘀血が関係しているため、駆瘀血剤が治療薬となる。
  • 当帰芍薬散は代表的な駆瘀血剤の1
  • 当帰芍薬散は駆瘀血作用利水作用があり、少し体を温める方向性の薬剤である。すなわち、冷え性月経周期や低気圧時の頭痛に使用できる。
  • 「月経周期の頭痛」にはその他の駆瘀血剤も鑑別にあがる。緊張性頭痛、イライラ、不眠などがある場合は加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)、手足末端の冷え、しもやけなどが強い場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38) を併用あるいは変更する。暑がりの場合は桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)あるいは桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)を選択する。
  • 副作用としては、当帰、川芎による胃もたれが稀にある。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「色白女性の月経痛×当帰芍薬散」を参照。
☆嘔吐を伴う頭痛×呉茱萸湯(ごしゅゆとう)(31)☆
  • 呉茱萸湯は胃を温めて頭痛を治す薬剤である。
  • よって、嘔吐を伴う頭痛、胃弱、冷え性などを参考に選択する。
  • 呉茱萸湯は片頭痛の代表とされているが、個人的には片頭痛にも上記の漢方薬で改善することが多いため、呉茱萸湯の使用頻度は少ない。
  • 速効性があるため頓用使用も可
  • 難点は苦いこと。
☆起床時の頭痛×釣藤散(ちょうとうさん)(47)☆
  • 釣藤散には鎮静・鎮痙作用、自律神経安定作用、健胃作用(六君子湯のほとんどを含有)などがある。
  • 一般に脳動脈硬化を伴う高齢者頭痛、めまい、耳鳴り、イライラ、抑うつ、不眠、食欲不振などに使用される。
  • 理由は不明だが、起床時あるいは早朝時の頭痛によく効く7)
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆その他の頭痛×川芎茶調散(せんきゅうちゃちょうさん)(124)☆
  • 川芎茶調散は単純な頭痛薬であり、体質改善効果はない
  • 一般には、風邪に伴う頭痛薬として位置付けられている。
  • 個人的には使用頻度は少ないが、上記の漢方薬で改善に乏しい場合、薬物乱用頭痛に対して鎮痛薬の代わりに頓用で使用する場合がある。
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
事例
36歳女性。以前より月経前や曇天時に頭痛を認めていた。半年前から頭痛が増悪し、数ヶ月前から毎日頭痛を認めている。毎日の頭痛の中で、月経前や曇天時にはさらに頭痛が増悪する。肩こり、不眠あり。冷え性ではない。
処方①:加味逍遥散11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「頭痛は半分以下に減った。肩こりも少し良い。眠れるようになった。天気の悪い日に頭が痛い」
処方②:加味逍遥散1回1包+五苓散11 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「この2週間で頭痛は1回だけで、さらに軽かった」

文献
1)日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン. 医学書院, 65, 2006.
2)灰本元, 他:慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察. フィト, 1(3):8-15, 1999.
3)田代眞一:Prog. Med, 14(6):1774-1791, 1994.
4)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6:150-163, 2000
5)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
6)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
7)木村容子,他:釣藤散が有効な頭痛-多変量解析による検討-. 日東医誌, 59(5): 707-713, 2008.

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めまい

《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前からめまいを繰り返しており、検査でも異常なく困っています」

ポイント
・めまいの漢方薬は疾患名よりも症状によって処方選択することが多い。
・めまいの漢方病態は主に“水毒”と“気鬱”の2つ。
・難治性のめまいには複数の漢方薬が必要となることが多い。

 
とりあえず処方したい場合
①急性期
1st-line:苓桂朮甘湯(39)(頻度)
2nd-line:五苓散(17)(頻度±苓桂朮甘湯(39)
②慢性期
  • 頭や体の向きで増悪する→苓桂朮甘湯(39)(頻度)
  • フワフワ、クラっとする→真武湯(30)(頻度)
  • 心因性、自律神経異常(女性)→加味逍遥散(24)(頻度)
  • 心因性、自律神経異常(男性)→柴胡加竜骨牡蛎湯(12)(頻度)
  • その他→半夏白朮天麻湯(37)(頻度)
概論
  • 急性期のめまいにも漢方薬は使用できるが、慢性期、再発性の方が漢方薬の得意分野である。もちろん器質的疾患の精査は必要。
  • 回転性、非回転性、基礎疾患などよりも症状を中心とした漢方病態で漢方薬を選択することが多い。
  • めまいの原因は主に①水毒と②気鬱の2つ。この2つの漢方病態を知っておくと理解しやすい。
    水毒(すいどく):水分代謝異常を指し、脳浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。例えば、メニエール病の原因が内リンパ水腫(・・)と言われているように、めまいの原因で最も多いのは水毒である。水毒の治療薬は利水剤(りすいざい)と呼ばれ、利水作用をもつ。今回、説明する漢方薬の中では、苓桂朮甘湯(39)、真武湯(30)、五苓散(17)、半夏白朮天麻湯(37)が利水剤である。
    気鬱(きうつ):気の巡りが悪い状態を指し、抑うつ、ストレス性、自律神経異常などが含まれる。気鬱の治療薬には柴胡剤(さいこざい)順気剤(じゅんきざい)などがあり、抗ストレス作用、抗うつ作用、自律神経調節作用をもつ。今回、説明する漢方薬の中では、加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、釣藤散(47)が気鬱の治療薬である。
西洋薬との位置づけ
  • 急性期でも使用できる漢方薬はあるが、特に慢性期・再発性の場合には西洋薬よりも漢方薬の方が得意としている分野だと思う。
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 慢性期、再発性のめまいに対する漢方薬は症状の改善だけでなく、予防や体質改善も兼ねるのが利点。
各論
☆頭位性・起立性めまい×苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)☆
  • 頭位性めまいとは、頭の向きで悪化するタイプのめまいを示す。良性発作性頭位めまい症なども含むが、類似症状(例:横を向くとめまい感がある)にも使用できる。
  • 起立性めまいとは、起立時に悪化するタイプのめまいを示す。起立性低血圧や起立性調節障害なども含むが、類似症状(例:血圧低下のない立ちくらみ程度)にも使用できる。苓桂朮甘湯の起立性低血圧に対する機序としては、血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されている1)
  • 苓桂朮甘湯は利水作用を持つ茯苓、朮が含まれているため、水毒の関与しためまいに効果を示す。その中でも頭位性・起立性めまいに有効性が高い
  • 効果不十分な場合は利水作用を強めるために、五苓散(ごれいさん)(17)を併用する。あるいは下記の気鬱の漢方薬を併用する。
  • 急性期の場合は12包や1日3回以上など多く服用する方が効果的。
  • 副作用としては、偽アルドステロン症に注意が必要。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「頭位性・起立性めまい×苓桂朮甘湯」を参照。
☆浮動性・動揺性めまい×真武湯(しんぶとう)(30)☆
  • 浮動性めまいとは、フワフワする雲の上を歩く感じと表現されるようなめまいを示す。
  • 動揺性めまいとは、クラっとするフラっとするようなめまいを示す。
  • これらのめまいについては、昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」として提示している2)。その中には浮動性・動揺性めまい以外に、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる。眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある。」などが記載されており参考になる。
  • このタイプのめまいは比較的高齢者に分布が多いため、フレイルや加齢の影響と判断されることもあるが、真武湯が効く可逆性のめまいであることも少なくない。
  • 真武湯は利水作用を持つ茯苓、朮が含まれているため、水毒の関与しためまいに効果を示す。その中でも浮動性・動揺性めまいに有効性が高い
  • 真武湯には、生姜、附子という温熱作用の生薬が含まれている。よって、冷え性の人に適合しやすい。冷え性でない場合は、五苓散(ごれいさん)(17)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)などの利水剤を選択する。
  • 効果不十分な場合は下記の気鬱の漢方薬を併用する。
  • 副作用としては、附子が含まれているので教科書的には附子中毒に注意が必要だが、エキス製剤であればリスクは少ないと思われる。
☆気鬱のめまい×柴胡剤(さいこざい)☆
  • 慢性、難治性のめまい気鬱が関与していることがある。
  • 利水剤で効果不十分な場合は気鬱の関与を検討する。
  • 気鬱とは抑うつ、ストレス性、自律神経異常などが含まれる。
  • 気鬱の治療薬には柴胡剤や順気剤などがあり、個人的には女性では加味逍遥散(24)男性では柴胡加竜骨牡蛎湯(12)高齢者では釣藤散(47)を使用することが多い。
  • 副作用としては、加味逍遥散では甘草による偽アルドステロン症、下痢、眠気、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)、柴胡加竜骨牡蛎湯では黄芩による肝障害、間質性肺炎、釣藤散では甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆その他のめまい×半夏白朮天麻湯(はんげびゃくじゅつてんまとう)(37)☆
  • 半夏白朮天麻湯は一般にめまいの漢方薬として有名であるが、個人的には上記の漢方薬で改善することが多いため、使用頻度は少ない。
  • よって、上記の漢方薬で効果不十分な場合に使用している
  • 半夏白朮天麻湯には朮、茯苓、沢瀉の利水作用以外に、天麻の抗めまい作用がある。また、六君子湯をベースに麦芽なども含まれているため健胃・補気作用にも優れている。すなわち、胃腸虚弱者のめまいに適合しやすい。
  • 副作用としては特記事項なし。
事例
53歳女性。数ヶ月前からめまいが持続している。めまいはフワフワする感じで、特に歩いているときが悪い。また曇りの日も調子が悪い。睡眠は浅く、中途覚醒2〜3回。イライラしやすい。冷え性。
処方①:真武湯11包 1日3回 毎食後 28日分
28日後:「めまいは半分程度に減った。まだ睡眠は悪い。」
処方②:真武湯1回1包+加味逍遥散11 1日3回 毎食後 28日分
56日後:「めまいはほとんど良くなった。よく眠れるようになり夜中に1回は起きるがまたすぐに眠れる。イライラも減った。」

文献
1)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993

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不眠

《こんな時困りませんか?》
患者「最近、眠れなくて困っています。イライラや動悸もあります。」

ポイント
・不眠の漢方薬を主要な生薬で分類し、イメージすることが大切。
・年齢、性別、症状などによって、漢方薬の選択パターンがある。
・不眠以外にイライラ、興奮、動悸、不安、抑うつなどにも効果が期待できる。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→抑肝散(54)
  • 成人女性→加味逍遥散(24)
  • 成人男性→柴胡加竜骨牡蛎湯(12)
  • 高齢者→酸棗仁湯(103)
  • うつ→加味帰脾湯(137)
概論
  • 本稿では不眠に使用する漢方薬を主要な生薬で分類する。
  • 以下のように一つの漢方薬に複数の催眠作用の生薬が含まれていることも多い。
  • 不眠の漢方薬には催眠作用以外に、自律神経安定作用、鎮静作用、抗不安作用、抗うつ作用などを有していることが多いため、イライラ、興奮、動悸、不安、抑うつなどにも効果が期待できる。
    柴胡(さいこ)系:柴胡(さいこ)には自律神経安定作用、抗うつ作用、抗ストレス作用1)などがある。イメージとしては「脳にグッと作用する系」で西洋薬に例えるなら催眠作用の強い抗うつ薬(トラゾドンなど)に近いか。
    例:加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、柴胡桂枝乾姜湯(11)、抑肝散(54)、加味帰脾湯(137)、竹筎温胆湯(91)。
    竜骨(りゅうこつ)牡蛎系(ぼれい):竜骨(りゅうこつ)・牡蛎(ぼれい)には自律神経安定作用、精神安定作用、抗不安作用などがある2)。漢方医学的には、悪夢、腹部大動脈の拍動が目立つ(おそらく交感神経優位の状態を表す)、動悸、不安、驚きやすいなどを参考に選択することが多い。イメージとしては「自律神経調節系」で、西洋薬ではベンゾジアゼピン(抗不安薬)に近いか。
    例:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、柴胡桂枝乾姜湯(11)。
    黄連(おうれん)系:黄連(おうれん)には自律神経安定作用(主に交感神経抑制)、鎮静作用3)がある。漢方医学的には赤ら顔、イライラ、興奮などを参考に選択することが多い。イメージとしては「興奮を冷ます系」で、西洋薬ではチアプリドに近いか。
    例:黄連解毒湯(15)、竹筎温胆湯(91)。
    酸棗仁(さんそうにん)系:酸棗仁(さんそうにん)には催眠作用4)抗不安作用5)補血作用(体力をつける、潤す)などがある。漢方医学的には体力の低下した虚弱者、乾燥・脱水傾向の人などに用いる。イメージとしては「睡眠ゾーンまで優しく持ち上げてくれる系」で、西洋で例えるならば(脱水できつくて眠れない場合の)点滴や栄養補助食品に近いか。
    例:酸棗仁湯(103)、加味帰脾湯(137)。
    蘇葉(そよう)系:蘇葉(そよう)には抗うつ作用6)などがある。イメージとしては「モヤモヤを取り除く系」で、“紫蘇の香り”のようにアロマテラピーに近いか。
    例:香蘇散(70)、半夏厚朴湯(16)。
     
西洋薬との位置づけ
  • 軽度の不眠には漢方薬のみで改善する場合もあるため、西洋薬の副作用の観点からもまずは漢方薬を優先して試みてよいと思われる。
  • 中等度以上の不眠には漢方薬のみでは不十分な場合もあるが、漢方薬を併用する方が「ぐっすり眠れる」「悪夢が減る」など“睡眠の質”を改善する可能性はある。
  • 西洋薬を減量していく過程において、漢方薬の併用は有用だと思われる。
各論
☆小児・認知症の不眠×抑肝散(よくかんさん)(54)☆
《生薬構成》
  • 抑肝散は柴胡(さいこ)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の 7種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」にあたる。「柴胡系」の中でも抑肝散の特徴は“柴胡+釣藤鈎”であり、より鎮静作用が強い。
《処方解説》
  • 抑肝散には柴胡、釣藤鈎の鎮静作用、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、朮、茯苓、甘草、当帰、川芎の補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。西洋薬に例えるなら“トラゾドン少量+チアプリド少量+栄養補助食品”のイメージ。
  • すなわち抑肝散は、体力を補いながら鎮静する漢方薬であり、やや体力の低下した人の“怒り、イライラ、興奮”などを伴う不眠に第一選択となる。
  • 抑肝散の使用目標について、漢方の大家である浅田宗伯が「怒気は無しやと問うべし。若し怒気あらばこの方効なしということなし(怒りはないか問うべき。もし怒りがあれば抑肝散が効かないことはない」7)と言っているように、ポイントは“”である。抑肝散の名称は“肝を抑える”とあるが“疳の虫を抑える”と置き換えると理解しやすい。抑肝散は本来、小児の不眠、夜泣き、ひきつけなどに対して作られた漢方薬であるが、近年では認知症の「陽性症状」にも有効性を示すことから高齢者にも頻用されるようになった8)9)。小児と比較すると高齢者の方が有効率は低い印象。
《対象者》
  • 基本的に老若男女に使用できるが、分布としては小児、高齢者(認知症の陽性症状)が多い
《使い方》
  • 抑肝散は比較的速効性も期待できるため、眠前の頓用でもよい。
  • 定期服用の場合も“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • 小児の不眠には甘麦大棗湯(72)も使用する。抑肝散が“怒”に対して、甘麦大棗湯は“泣”である。よく小児には“怒”と“泣”が混在するため、併用することも多い。その際は飲みやすい甘麦大棗湯から処方するのがコツ。また、起立性調節障害には苓桂朮甘湯(39)+補中益気湯(41)or加味帰脾湯(137)パニック障害には苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)などがあるが、併存する不眠にも良い場合がある。
  • 中高生ぐらいになると、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)や加味帰脾湯(137)などの使用頻度が増えてくる。第一選択は柴胡加竜骨牡蛎湯(12)で、効果不十分例、抑うつ、倦怠感(特に午前中)などを認める場合は加味帰脾湯(137)を選択する。
  • 認知症の「陽性症状」を伴う不眠には「黄連系」の黄連解毒湯(15)もある。黄連解毒湯も鎮静作用は強いが、抑肝散が“虚弱者で顔色普通〜青白い”に対して、黄連解毒湯は“体力があり赤ら顔”と適応者が異なる。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症。偽アルドステロン症は、特に高齢者(その中でも女性)にリスクが高いため注意が必要。
☆成人女性の不眠×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
《生薬構成》
  • 加味逍遥散は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の 10種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」にあたる。「柴胡系」の中でも加味逍遥散の特徴は、自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用)、女性ホルモン安定作用である。
《処方解説》
  • 加味逍遥散には柴胡、山梔子、薄荷の自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用、過緊張を緩める)、抗不安作用、抗うつ作用、牡丹皮、山梔子ののぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮の女性ホルモン安定作用、血液循環改善作用、朮、茯苓、甘草、当帰、芍薬には補気・補血作用(気力・体力を補う)がある。西洋薬に例えるなら、“トラゾドン少量+エチゾラム少量+低用量ピル(+β遮断薬少量)”のイメージ。
  • すなわち、加味逍遥散は主に成人女性に適した漢方薬で、不眠、イライラ、不安、抑うつ、のぼせ、動悸、めまいなどの精神症状、自律神経症状に対応するため、成人女性の不眠には第一選択となる。また抑肝散よりは少ないが気力や体力を補う生薬も配合されている。
  • 抑加味逍遥散の特徴は自律神経安定作用(主に交感神経抑制作用、過緊張を緩める)、女性ホルモン安定作用であるため、特に月経周期や更年期世代女性ホルモンが関与する(揺れ動く)時期の不眠には有効性が高い。
  • 上記の理由で、不眠以外に、イライラ、不安、抑うつ、のぼせ(ホットフラッシュを含む)、発汗、動悸、めまい、頭痛(緊張型、月経周期)などにも効果が期待できる。
《対象者》
  • 典型的には“更年期世代の女性”であるが、個人的には20代〜70代の女性の不眠に幅広く用いている。すなわち成人女性の不眠に第一選択となる。
《使い方》
  • 速効性に乏しいため、頓用で用いることは少ないが、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
[加味逍遥散からの変更]
  • 華奢な体格、“控えめで、気を使いすぎる、断れない”性格で仕事から帰宅後にぐったりするタイプなどには柴胡桂枝乾姜湯(11)へ変更する。
[加味逍遥散からの変更あるいは併用]
  • イライラが強い場合は抑肝散(54)へ変更あるいは併用する。
  • イライラよりも抑うつが強い場合は加味帰脾湯(137)へ変更あるいは併用する。
  • 咽喉頭異常感症など“喉から胸部の閉塞症状”を伴う場合は「紫蘇系」の半夏厚朴湯(16)を併用する。
  • 悪夢を見る、動悸が強い場合などには「竜骨・牡蛎系」の桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
《注意点》
  • まれに日中も眠くなる場合がある。その際は眠前のみにする。
  • その他、下痢、甘草による偽アルドステロン症、山梔子腸間膜静脈硬化症(長期服用例)などがある。
  • 詳細は推奨ベスト20の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆成人男性の不眠×柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)☆
《生薬構成》
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡(さいこ)黄芩(おうごん)半夏(はんげ)竜骨(りゅうこつ)牡蛎(ぼれい)桂皮(けいひ)茯苓(ぶくりょう)人参(にんじん)生姜(しょうきょう)大棗(たいそう) の 10種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」「竜骨・牡蛎系」にあたる。柴胡、竜骨、牡蛎は自律神経安定作用、精神安定作用をもつ重要な生薬であるが、この3生薬が含まれている漢方薬は柴胡加竜骨牡蛎湯のみである。
《処方解説》
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯の中でも柴胡、竜骨、牡蛎、黄芩、半夏、茯苓には自律神経安定作用、精神安定作用、鎮静作用2)などがあり、交感神経緊張の抑制作用10)抗うつ作用11)が示されている。一見、相反する作用にみえるが、実臨床でも同様の効果を実感するため、自律神経を調節してくれるイメージと思われる。
  • 「竜骨・牡蛎系」であるため、特に悪夢、動悸、不安などを伴う不眠によい。また、腹部大動脈の拍動が目立つ、驚きやすいなどの症候も参考になる。
  • 西洋薬に例えるなら、“トラゾドン少量+ベンゾジアゼピン少量+β遮断薬”のイメージ。
《対象者》
  • 成人男性の不眠に第一選択となる。成人女性にも使用できるが分布としては男性に多い印象。典型的には“体格や体力が中等度以上”と言われている。
《使い方》
  • 速効性に乏しいため、頓用で用いることは少ないが、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • 華奢な体格、“控えめで、気を使いすぎる、断れない”性格で仕事から帰宅後にぐったりするタイプなどには柴胡桂枝乾姜湯(11)へ変更する。
  • イライラが強い場合赤ら顔には「黄連系」の黄連解毒湯(15)赤ら顔以外には抑肝散(54)へ変更する。
《注意点》
  • 黄芩による肝障害、間質性肺炎。
☆高齢者の不眠×酸棗仁湯(さんそうにんとう)(103)☆
《生薬構成》
  • 酸棗仁湯は酸棗仁(さんそうにん)、知母(ちも)、茯苓(ぶくりょう)、川芎(せんきゅう)、甘草(かんぞう)の5種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「酸棗仁系」にあたる。酸棗仁湯は、名称通り主薬が酸棗仁であり、漢方エキス製剤の中では最も酸棗仁が多く含有されている漢方薬である。
《処方解説》
  • 酸棗仁には催眠作用、抗不安作用、補血作用(体力をつける、潤す)がある4)5)。酸棗仁以外の生薬は補助的に作用しているため、これらが方剤全体の作用と捉えてよい。西洋薬に例えるなら、“ベルソムラ®少量+点滴(or経口栄養補助食品)”で、睡眠ゾーンまで優しく持ち上げてくれるイメージ。
  • 一般に不眠に対する酸棗仁湯の効果は示されているが12)、特に体力の低下、乾燥や脱水傾向(脳や身体のエネルギー不足による相対的な交感神経亢進状態)があるような虚弱者、高齢者の不眠に適合しやすい。「寝るにも体力が必要」であり、「きついのに眠れない」という訴えがあればさらに有効性が高い印象。
  • 酸棗仁湯について、大塚敬節は「心身疲労して,ことに心気疲れて眠ることのできないものに用いる。慢性病のある人,虚弱な人,高齢者などで,夜間眼が冴えて眠れないというものによい」13)、山本巌は「適応する病態は、軽度の栄養不良状態により脳の抑制過程が減弱し、これにともなって興奮性の増大や自律神経系の興奮が発生したものと考えられる」4)と解説している。
  • また、酸棗仁湯は不眠だけでなく、過眠にもよいとも言われている。
《対象者》
  • 薬効からは、体力の低下、乾燥や脱水傾向(脳や身体のエネルギー不足による相対的な交感神経亢進状態)があるような人の不眠に適合しやすいが、分布としては高齢者に多い。他の漢方薬と比較しても、優しく無難な薬剤のため、高齢者でも気軽に使用できる。
《使い方》
  • 酸棗仁湯は比較的速効性も期待できるため、眠前の頓用でもよい。
  • それでも効果不十分な場合は、1日2〜3包(例:朝1包、眠前2包)へ増量する。
  • 定期服用の場合もなるべく眠前の服用をお勧めする。
《鑑別》
  • もう少し体力を補いたい場合は補中益気湯(41)14)や十全大補湯(48)を併用する。
  • イライラがある場合は抑肝散(54)へ変更あるいは併用する。
  • 抑うつがある場合は加味帰脾湯(137)へ変更あるいは併用する。
  • それ以外では、「柴胡系」「黄連系」の竹茹温胆湯(91)へ変更あるいは併用する。竹茹温胆湯は一般に感染症後の不眠に適応があるが、特に特徴のない不眠にも使用できる。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症。偽アルドステロン症は、特に高齢者(その中でも女性)にリスクが高いため注意が必要。
☆うつの不眠×加味帰脾湯(かみきひとう)(137)☆
《生薬構成》
  • 加味帰脾湯は柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、黄耆(おうぎ)、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、当帰(とうき)、酸棗仁(さんそうにん)、遠志(おんじ)、竜眼肉(りゅうがんにく)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の14種類の生薬で構成されている。
《分類》
  • 上記の分類では「柴胡系」「酸棗仁系」にあたる。漢方エキス製剤で柴胡と酸棗仁が含まれている漢方薬は加味帰脾湯のみである。
《処方解説》
  • 加味帰脾湯は名称の如く、帰脾湯(65)に柴胡と山梔子が加味された漢方薬であり、帰脾湯よりも精神・自律神経症状に対する作用が強い(イライラにも対応)。加味帰脾湯には柴胡、酸棗仁、遠志、竜眼肉、山梔子、木香の精神安定作用、抗うつ作用、自律神経安定作用、抗不安作用、鎮静作用などがあり、気力、体力を補う補中益気湯(から升麻と陳皮を除いたもの)も含まれている。西洋薬に例えるなら“抗うつ薬少量+ベンゾジアゼピン少量+栄養補助食品”のイメージ(ベンゾジアゼピン受容体が関与した抗不安作用15)も示されている)。
  • よって、加味帰脾湯はうつ傾向、不安、イライラ、倦怠感、焦燥感などを伴う不眠に使用する16)17)。特に、うつの不眠には第一選択となる。うつでは、気分の落ち込みだけでなく、不安、イライラ、倦怠感、焦燥感なども伴うことも多く、加味帰脾湯はこれらにも対応できる薬剤である。倦怠感は午後よりも午前に強く認めるのが特徴。
《対象者》
  • うつがなくても使用できるが、うつがあれば老若男女問わず、優先して使用される。
《使い方》
  • 軽症であれば眠前の頓用でもよいが、心身の状態を整える薬剤でもあるため、基本的には定期服用をお勧めする。その際も、“朝・眠前”“朝・夕・眠前”など、なるべく眠前の服用がよい。
《鑑別》
  • 咽喉頭異常感症など、喉から胸部の閉塞症状を伴う場合は「蘇葉系」の半夏厚朴湯(16)を併用する。
  • 感情失禁を伴う場合は甘麦大棗湯(72)を併用する。
  • 抑うつよりもイライラが強い場合、女性では加味逍遥散(24)、男性では黄連解毒湯(15)へ変更あるいは併用する。
  • 悪夢や動悸が目立つ場合は「竜骨・牡蛎系」の桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用する。
  • それ以外腹部膨満を伴う場合は「蘇葉系」の香蘇散(70)を併用する。
《注意点》
  • 甘草による偽アルドステロン症、山梔子による腸間膜静脈硬化症(長期服用例)などがある。
事例
48歳女性。数ヶ月前より不眠があり、寝つきが悪く、中途覚醒3〜4回で熟睡感がない。気分の落ち込みはなく、イライラが強い。喉がつまった感じ、動悸、顔面のほてりなども認める。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「だいぶ眠れるようになりました。まだ途中で2回ぐらい起きます。喉がつまった感じが辛いです。イライラやほてりは減ってきました。」
処方②:加味逍遥散1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。ぐっすり眠れています。喉のつまり、イライラ、動悸も落ち着きました。」
以後、経過良好。

文献:
1)渡辺大士,他:オレキシン分泌の制御を介した加味逍遥散の抗ストレス作用. 昭和学士会誌, 77(2):146-155, 2017.
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 388, 1982.
3)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 258, 1982.
4)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 384, 1982.
5)筒井末春:酸棗仁湯②基礎と臨床. 日病薬誌, 20(36): 87-88, 2000.
6)Tsuji, M. et al.:Pharmacological characterization and mechanisms of the novel antidepressive- and/or anxiolytic-like substances identified from Perillae Herba. 日本神経精神薬理学雑誌, 28(4):159-167, 2008.
7)浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣, 近世漢方医学書集成96(大塚敬節,矢数道明編). 名著出版, 110, 1982.
8)Matsuda Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.
9)Shinno H, et al:Effect of yokukansan, a traditional herbal prescription, on sleep disturbances in patients with Alzheimer’s disease. J.Alzheimers Dis. Parkinsonism, 6:1-5, 2016.
10)岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49, 766-774, 1999.
11)金子善彦,他:抗うつ状態に対する柴胡加竜骨牡蛎湯の効果. 臨床と研究, 57(10):3377-3383, 1980.
12)Cheng-long Xie, et al:Efficacy and safety of Suanzaoren decoction for primary insomnia:a systematic review of randomized controlled trials. BMC Complementary and Alternative Medicine, 13(18):2013.
13)大塚敬節:症例による漢方治療の実際5版. 南山堂,67, 2000.
14)木村容子,他:補中益気湯で不眠が改善した7症例. 日東医誌, 66(3):228-235, 2015.
15)栗原久,他:マウスの改良型高架式十時迷路テストによる漢方製剤の抗不安効果. 神経精神薬理, 18:179-189, 1996.
16)斎藤文男,他:神経症およびうつ病に対する加味帰脾湯の効果. Prog.Med., 13(7):1456-1464, 1993.
17)大原健士郎,他:不眠症に対する加味帰脾湯(TJ-137)の効果. 臨床と研究, 89:3285-3300, 1992.
 

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倦怠感

《こんな時困りませんか?》
患者「疲れがなかなか取れません。検査では異常がありませんでした。」

ポイント
・倦怠感に対する漢方薬の有効性は高くないが、他に方法がない場合には考慮する。
・倦怠感には補気作用の四君子湯が含まれた漢方薬を使用することが多い。
・倦怠感+αの特徴で漢方薬を選択する。

とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:補中益気湯(41)、2nd-line:十全大補湯(48)
概論
  • 倦怠感に対する漢方治療は四君子湯(75)が基本となることが多い。
  • しくんしとう四君子湯(75)は人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)(生姜、大棗)の主に4種類の生薬で構成されており、補気作用(気力を補う)を有する。
  • 実際は四君子湯(75)を使用する機会は少なく、四君子湯(75)が含まれた漢方薬を使用することが多い。
西洋薬との位置づけ
  • 倦怠感に対する漢方薬の有効性は高くないが、他に方法がない場合には考慮する。
  • がん、心不全、うつ病など基礎疾患が関与する倦怠感にはさらに有効性が低くなるが西洋薬と併用してもよい
各論
☆倦怠感×補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)☆
  • 補中益気湯は「中(消化機能)を補い気を」という名称の漢方薬であり、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、柴胡(さいこ)、当帰(とうき)、升麻(しょうま)、陳皮(ちんぴ)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 人参、朮、甘草(四君子湯-茯苓)、黄耆、当帰には補気(血)作用があり、倦怠感に対応する。
  • 柴胡には抗炎症作用があり、慢性炎症性疾患、感染後の倦怠感などに対応する。
  • 升麻には升堤(しょうてい)作用があり、弛緩した筋トーヌスを引き締める働きがある。補中益気湯の使用目標として、目や声に力が入らない、手足がだるいといった弛緩症状もある。同様の概念で、胃下垂、子宮脱、弛緩性便秘にも対応する(そのような体質者に適合しやすい)といわれている。
  • 陳皮、生姜、大棗には健胃作用があり、食欲不振、胃が弱い人に対応する。
  • 黄耆には止汗作用もあり、寝汗などに対応する。
  • 補中益気湯は免疫系賦活作用1)2)3)があり、感染予防などに第一選択となる。
  • また、化学療法や放射線療法による副作用軽減(倦怠感、食欲不振)にも用いる4)5)
  • よって、補中益気湯は気力や免疫力を高め、食欲不振にも対応する漢方薬であり、胃が弱い人にも安心して使用できる。治療対象者(証)、味、副作用などにおいて無難な漢方薬であり、倦怠感にとりあえず処方できる。また医王湯(医薬の王様のようによく効く)という別名もある。
  • 六君子湯(43)も食欲不振、倦怠感に使用するが、補中益気湯は倦怠感>食欲不振六君子湯は倦怠感<食欲不振というイメージ。
  • 清暑益気湯(136)は補中益気湯に類似した漢方薬で、黄柏(おうばく)の清熱作用、五味子(ごみし)の止汗作用、麦門冬(ばくもんどう)の滋潤作用(潤す)が含まれている。よって、暑くて汗をかいて脱水傾向になるような病態、すなわち夏バテや熱中症(Ⅰ度)の倦怠感に適合しやすい。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症がある。
☆倦怠感×十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)(48)☆
  • 十全大補湯は「大きく補い全快させる」という名称の漢方薬であり、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、地黄(じおう)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、桂皮(けいひ)の10種類の生薬で構成されている。
  • 人参、朮、茯苓、甘草(四君子湯)、黄耆には補気作用があり、倦怠感に対応する。
  • 補中益気湯とは異なり、十全大補湯には地黄、当帰、芍薬、川芎で構成される四物湯(71)が含まれており補血作用がある。けつとは、血液だけでなく栄養や潤いなども含む概念であり、けっきょ血虚(血が不足した病態)に対応する。血虚とは臓器や細胞の末端まで栄養や潤いが行き届いていない状態であり、貧血、皮膚乾燥、爪の異常、脱毛、こむら返りなどが該当する。簡単に表現すれば、十全大補湯は四物湯が含まれている分、気力だけでなく体力も補うイメージであり、補中益気湯よりも補う作用が強いとされている。
  • 桂皮には温熱作用があり、冷えに対応する。
  • 黄耆には止汗作用もあり、寝汗などに対応する。
  • 十全大補湯には免疫賦活作用6)抗腫瘍作用7)8)9)化学療法による副作用軽減10)(倦怠感、食欲不振)などの報告があり、がん患者に頻用される。
  • 十全大補湯には、女性に頻用する当帰芍薬散(23)が含まれているため、個人的には十全大補湯を女性に使用することが多い。女性の方が月経関連などで貧血(血虚)傾向であることが多く、家事や介護などで体力的な消耗も多いと想像する。
  • よって、十全大補湯は気(気力)だけでなく血(体力、栄養、潤い)も補うため、補中益気湯よりも作用が強く、血虚になりやすい女性、がん患者、冷え性などの倦怠感に使用される。一方、胃もたれに注意すべき生薬(地黄、当帰など)が含まれるため、胃が弱い人には①食後に内服②1日1~2包からの開始などの対策が必要である。
  • 人参養栄湯(108)は十全大補湯に類似した漢方薬で、五味子(ごみし)、陳皮(ちんぴ)、遠志(おんじ)が含まれている。五味子は小青竜湯(19)にも含まれ、鎮咳去痰作用がある。陳皮は六君子湯(43)にも含まれ、食欲増進作用、去痰作用がある。遠志は加味帰脾湯(137)にも含まれ精神安定作用、認知機能改善作用がある。よって、人参養栄湯は十全大補湯よりも呼吸器疾患患者、高齢者などに使用される。
  • 注意点は、地黄や当帰による胃もたれ、甘草による偽アルドステロン症がある。
☆午前中の倦怠感×加味帰脾湯(かみきひとう)(137)☆
  • 加味帰脾湯(137)は帰脾湯(65)に柴胡、山梔子が加味された漢方薬であり、柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、人参(にんじん)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、黄耆(おうぎ)、当帰(とうき)、遠志(おんじ)、酸棗仁(さんそうにん)、竜眼肉(りゅうがんにく)、木香(もっこう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の14種類の生薬で構成されている。
  • 加味帰脾湯には補中益気湯(から陳皮、升麻を除いたもの)に精神安定作用の酸棗仁、遠志、竜眼肉、鎮静作用の山梔子、抗うつ作用、健胃作用の木香が含まれている。
  • よって加味帰脾湯は一般に抑うつ、不眠、倦怠感などに使用される。
  • 午後よりも午前の方が悪い倦怠感(通常は日中の活動によって午後の方が疲れやすい)には抑うつが関与している可能性が高く、加味帰脾湯が第一選択となる。
  • また、仕事中はあまり感じないが帰宅後にぐったりする「帰宅後の倦怠感」には柴胡桂枝乾姜湯(11)がよいと言われている。柴胡桂枝乾姜湯は補気作用ではなく精神安定作用、抗ストレス作用をもつ漢方薬だが、「気を使いすぎる人」に適合しやすい。「帰宅後の倦怠感」の本質は体力不足ではなく、仕事中の気疲れであり、その過緊張を緩和してくれるのが柴胡桂枝乾姜湯である。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症、山梔子による腸間膜静脈硬化症(長期服用例)がある。
☆冷え性の倦怠感×茯苓四逆湯(ぶくりょうしぎゃくとう)☆
  • 茯苓四逆湯は人参(にんじん)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)、乾姜(かんきょう)、附子(ぶし)の5種類の生薬で構成されている。エキス製剤では人参湯(32)+真武湯(30)で代用できる。
  • 茯苓四逆湯には、四君子湯(から朮を除いたもの)に温熱作用の乾姜、附子が含まれている。
  • よって、茯苓四逆湯は体を温めて気力をつける漢方薬である。
  • 茯苓四逆湯の適応となる倦怠感は、①自他覚的に冷えが強い(例:夏でも厚着、手足が非常に冷たい)②倦怠感が強い(例:1日中、横になりたい)ことが特徴である。
  • 注意点は甘草による偽アルドステロン症がある。
事例
70歳代男性。慢性心不全、虚血性心筋症(EF28%)、慢性腎臓病などで近隣病院より紹介。数ヶ月前より倦怠感、食欲不振を認めている。心不全は比較的安定しており、その他の異常所見も認めなかった。冷え性ではない。抑うつなし。
処方:補中益気湯1回1包 1日3回 毎食後 28日分
1ヶ月後:「倦怠感も食欲も5割ぐらいに良くなった」
2ヶ月後:「疲れはほとんどない。食欲も戻りました」

文献:
1)池田善明,他:白血球減少症マウスでの補中益気湯の感染防御効果. 和漢医薬学誌, 3:372, 1986.
2)大野修嗣:補中益気湯のNatural-Killer細胞活性に及ぼす影響. アレルギー, 37:107, 1988.
3)杉山幸比古,他:COPDに対する漢方製剤・補中益気湯の効果. 日本胸部臨床, 56:105-109, 1997.
4)阿部憲司,他:癌術後化学療法時の副作用に対する補中益気湯の効果. Prog. Med, 9:2916-2922, 1989.
5)細川康,他:十全大補湯および補中益気湯による放射線障害の防護. 和漢医薬学誌, 2:260, 1985.
6)木岡清英,他:ヒト末梢血単核細胞のインターロイキン1β産生能および抗体産生に及ぼす十全大補湯の影響. 和漢医薬学誌, 4:332, 1987.
7)原中瑠璃子,他:十全大補湯,桂皮の抗腫瘍作用に関する研究. 和漢医薬学誌, 4:49, 1987.
8)樋口清博,他:十全大補湯による肝発癌抑制効果の検討. 肝胆膵, 4(3):341-346, 2002.
9)安達勇:Randomized studyを用いた進行乳癌患者に対する十全大補湯の併用効果の検討. 和漢医薬学誌, 4:338, 1987.
10)黒田胤臣,他:十全大補湯による抗癌剤副作用防止効果および臨床免疫学的検討. Biotherapy, 3:789-795, 1989.

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動悸

《こんな時困りませんか?》
患者「検査では大きな異常がないと言われたけど、時々動悸がして困ります。」

ポイント
・動悸の漢方治療は自律神経関与の有無でアプローチが異なる。
・動悸に使用する漢方薬は大きく補剤と気剤に分かれる。
・動悸の多くは心身共に治していくことが肝要である。

とりあえず処方したい場合

女性

  • 1st-line:加味逍遥散(24)±半夏厚朴湯(16)、2nd-line:炙甘草湯(64)

男性

  • 1st-line:柴胡加竜骨牡蛎湯(12)±半夏厚朴湯(16)、2nd-line:炙甘草湯(64)
概論
  • 動悸の漢方治療は、自律神経関与の有無でアプローチが異なる。自律神経の関与が強い場合は自律神経調節作用の漢方薬を優先的に使用する。自律神経の関与が分かりづらい場合は、例えば、不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの随伴症状が参考になる。動悸の背景にはさまざまな病態が含まれていることも多いため、漢方治療によって動悸だけでなく心身共に治していくことが肝要である。
  • 動悸に使用する漢方薬は大きくほざい補剤きざい気剤に分かれる。
  • 補剤は「気」「血」「水」などを補う漢方薬を示す。「気」は気力や元気などを示し、「血」とは血液だけでなく、栄養分、潤い、精神活動なども含む。「水」は水分とほぼ同様。東洋医学独特の概念であり想像しづらいが、動悸の原因の1つに「気・血・水」の不足(疲労、栄養不足、脱水傾向など)があると捉え、治療としてはこれらを補う補剤を使用する。動悸に使用する補剤として、炙甘草湯(64)、人参養栄湯(108)、当帰芍薬散(23)、加味帰脾湯(138)、小建中湯(99)などがある。
  • 気剤は自律神経調節作用、精神安定作用、抗ストレス作用などを有する漢方薬であり、加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、半夏厚朴湯(16)、苓桂甘棗湯、加味帰脾湯(137)、黄連解毒湯(15)などがある。
  • 西洋薬に例えると、β遮断薬が加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、黄連解毒湯(15)抗不整脈薬が炙甘草湯(64)ベンゾジアゼピン系が加味逍遥散(24)、半夏厚朴湯(16)、桂枝加竜骨牡蛎湯(26)、苓桂甘棗湯、黄連解毒湯(15)抗うつ薬が加味逍遥散(24)、柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、半夏厚朴湯(16)、加味帰脾湯(138)、低用量ピルが加味逍遥散(24)、当帰芍薬散(23)、そして点滴や栄養剤が炙甘草湯(64)、人参養栄湯(108)、加味帰脾湯(138)であろうか。
  • 動悸に対する漢方薬の選択は不整脈の有無や疾患名よりも患者の心身を含めた全身状態で判断する
  • 複数の病態が絡んでいる場合があり、2剤を組み合わせることも少なくない。
西洋薬との位置づけ
  • 基本的には西洋薬との併用は可能であり、お互いの長所を活かすことが大事
  • 補剤(元気をつけるなど)や気剤(自律神経調節作用など)は漢方薬の得意分野である。副作用の観点から、ベンゾジアゼピンなどよりは漢方薬を優先的に使用してよいと思う。
各論
☆女性の動悸×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)☆
  • 加味逍遥散は、柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散は大きく3つの病態に対応する。
きぎゃく気逆:気が上向きのベクトルである病態を指し、イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュなどの主に自律神経症状が含まれる。
きうつ気鬱:“うつ”と類似しており、抑うつ、不眠などの主に精神症状が含まれる。
柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称され、肩こりや緊張型頭痛にも頻用される
おけつ瘀血:血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経痛、月経不順、月経周期の頭痛・精神不安定・ざ瘡などの月経随伴症状や更年期障害といった女性ホルモン関連症状が含まれる。当帰、牡丹皮に駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用がある。
  • すなわち、加味逍遥散は気剤の一つであり、主に自律神経関与の動悸に使用される。個人的には女性の動悸には加味逍遥散が第一選択薬である。特に女性ホルモンが揺らぐ時期(更年期よりも幅広い年代)や月経周期(月経前など)に伴う動悸などには有効性が高い印象。
  • また、上記のように加味逍遥散は動悸だけでなく不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状も治す可能性があることも利点である。
  • 効果不十分例では、①不安、喉から胸部の閉塞症状(胸痛など)を伴う場合は半夏厚朴湯(16)を併用②不安、動悸が強い場合は桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を併用③疲労、倦怠感などを伴う場合は炙甘草湯(64)を併用する。
  • 副作用としては、下痢、眠気、甘草による偽アルドステロン症、腸間膜静脈硬化症(長期服用例)などに注意が必要。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「女性のイライラ×加味逍遥散」を参照。
☆男性の動悸×柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)☆
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯は、柴胡(さいこ)、黄芩(おうごん)、半夏(はんげ)、桂皮(けいひ)、茯苓(ぶくりょう)、竜骨(りゅうこつ)、牡蛎(ぼれい)、人参(にんじん)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の10種類の漢方薬で構成されている。
  • 柴胡、黄芩、半夏、茯苓、竜骨、牡蛎には自律神経安定作用、精神安定作用がある。その中でも特に竜骨、牡蛎は動悸を抑える作用がある。
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯は気剤の一つであり、動悸だけでなく不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状も治す可能性がある
  • 柴胡加竜骨牡蛎湯の対象者は“冷え性でない”“体格中等度以上”であるため、“冷え性”や“虚弱者”には桂枝加竜骨牡蛎湯(26)を選択する。
  • 効果不十分例では、①不安、喉から胸部の閉塞症状(胸痛など)を伴う場合は半夏厚朴湯(16)を併用②赤ら顔でイライラなど精神不安定な場合は黄連解毒湯(15)の併用あるいは変更③疲労、倦怠感などを伴う場合は炙甘草湯(64)を併用する。
  • 副作用としては、黄芩による肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)。
☆喉から胸部の閉塞症状を伴う動悸×半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)☆
  • 半夏厚朴湯は、半夏(はんげ)、茯苓(ぶくりょう)、厚朴(こうぼく)、蘇葉(そよう)、生姜(しょうきょう)の5種類の生薬で構成されている。
  • 半夏、茯苓、厚朴、蘇葉に抗うつ作用、抗不安作用があるため、抑うつや不安などに使用されている。
  • また、半夏厚朴湯が得意としている適応症状は、「喉から胸部の閉塞症状」である。例えば、「喉がつまる」「胸がしめつけられる」「息苦しい」「息が大きく吸えない」などと患者は表現する。
  • すなわち、半夏厚朴湯は気剤の一つであり、不安や「喉から胸部の閉塞症状」を伴う動悸に使用する。
  • 効果不十分例では、女性には加味逍遥散(24)、男性には柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、抑うつが強い場合には加味帰脾湯(138)などの柴胡剤を併用する。
☆発作性の動悸×苓桂甘棗湯(りょうけいかんそうとう)☆
  • 苓桂甘棗湯は茯苓、桂皮、甘草、大棗の4種類の生薬で構成されている。エキス製剤にはないため、苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)で代用する。
  • 茯苓、桂皮+甘草に抗不安作用、精神安定作用、動悸を抑える作用などがある。
  • 苓桂甘棗湯は突然に発症する動悸(発作性上室性頻拍、発作性心房細動など)やパニック発作などに使用する。
  • 効果不十分例では桂枝加竜骨牡蛎湯(26)±苓桂朮甘湯(39)へ変更する。
  • 副作用としては、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
☆不整脈を伴う動悸×炙甘草湯(しゃかんぞうとう)(64)☆
  • 炙甘草湯は炙甘草(しゃかんぞう)、地黄(じおう)、麦門冬(ばくもんどう)、桂皮(けいひ)、麻子仁(ましにん)、阿膠(あきょう)、人参(にんじん)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)の9種類の生薬で構成されている。
  • 地黄、麦門冬、麻子仁、阿膠、人参には「血」や「水」を補う作用(血液や栄養分を補う、水分で潤す)があり、甘草、人参には「気」を補う作用(元気をつける)がある。また、桂皮+甘草には動悸を抑える作用がある。
  • 動悸の原因として、「気・血・水」の不足(心身ともに疲れたイメージ)の場合があり、これらを補う炙甘草湯(64)が使用される。
  • よって、炙甘草湯は一般的に疲労、倦怠感、乾燥傾向を伴う動悸に使用される。イメージとしては元気ハツラツよりも疲れている人に適合しやすい。また、自律神経関与に乏しい不整脈には炙甘草湯が第一選択薬と思われる。
  • 効果不十分例では、①倦怠感が強い場合は人参養栄湯(108)②女性、浮腫傾向、月経周期で悪化する場合は当帰芍薬散(23)③胃腸虚弱で消化器症状を伴う場合は小建中湯(99)④抑うつが強い場合は加味帰脾湯(138)へ変更する。
  • 副作用としては、胃もたれや偽アルドステロン症に注意が必要。
事例
40歳女性。数ヶ月前から週2,3回程度の動悸を認めていたが最近は毎日認める。また、その頃から仕事のストレスが増え、喉から胸にかけて苦しい感じがあり、不安や不眠も伴う。心電図で上室性期外収縮を認める以外は異常所見なし。
処方①:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「動悸は半分程度に減った。以前より眠れるようになったけど、胸の苦しさはまだある。」
処方②:加味逍遥散1回1包+半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。動悸も胸の苦しさもほとんど良くなりました。」

文献:
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.

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胸痛

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喉のつまり・胸痛・呼吸困難

《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前から喉のつまった感じが取れません。検査でも異常がありませんでした」

ポイント
・喉のつまり、胸痛、呼吸困難がストレス関連症状であれば半夏厚朴湯が適合しやすい。
・半夏厚朴湯は「喉から胸部の閉塞症状」に幅広く使用できる。
・半夏厚朴湯を主軸に応用も覚える。

とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:半夏厚朴湯(16)
  • 2nd-line:女性→半夏厚朴湯(16)+加味逍遥散(24)、男性→半夏厚朴湯(16)+柴胡加竜骨牡蛎湯(12)、うつ→加味帰脾湯(137)
概論
  • 喉のつまり、胸痛、呼吸困難の症状において、器質的な疾患が除外された場合、ストレス性、心因性などが鑑別にあがる。
  • 特に「喉のつまり」に対して咽喉頭異常感症ヒステリー球という名称がある。
  • これらは漢方医学的に気鬱きうつ(抑うつに近い)と呼ばれる病態が多く、いずれも半夏厚朴湯(16)が第一選択薬となる。
西洋薬との位置づけ
  • 西洋医学であれば、主に抗不安薬、抗うつ薬などが治療薬となるが、副作用のことを考慮すると半夏厚朴湯を優先的に使用してよいと思う。
  • 背景にある精神疾患が軽症であれば、半夏厚朴湯などの漢方薬だけでも改善が期待できるが、重症度によっては西洋薬も必要になる。その場合でも西洋薬と併用する価値はあると思われる。
各論
☆喉のつまり・胸痛・呼吸困難×半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)☆
  • 半夏厚朴湯は抗うつ作用、抗不安作用があるため、抑うつや不安などに使用されている。
  • 半夏厚朴湯が得意としている適応症状は、「喉から胸部の閉塞症状」である。例えば、「喉がつまる」「胸がしめつけられる」「息苦しい」「息が大きく吸えない」などと患者は表現する。「喉が痛い」「胸がチクチクする」などの閉塞症状でない場合には有効性が下がる印象。
  • ちなみに「胃の閉塞症状(胃がつまった感じ、すぐに満腹になる、げっぷ、嘔気など)」には茯苓飲(ぶくりょういん)(69)が適応となる。よく「喉から胸部の閉塞症状」と併存していることが多いため、その場合は茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤である茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)(116)を使用する。
  • 半夏厚朴湯が有効でも症状が残存している場合精神症状が重い場合には、柴胡剤という自律神経調節作用、抗ストレス作用を有するタイプの漢方薬を併用すると強化される。詳細は他書に譲るが、個人的には女性であれば加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)、男性であれば柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)、うつの場合は加味帰脾湯(かみきひとう)(137)を選択することが多い。
  • また半夏厚朴湯自体が効果不十分な場合は香蘇散(こうそさん)(70)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)も鑑別にあがるが、個人的には使用頻度は少ない。
事例
48歳女性。数ヶ月前、仕事が忙しくなった頃から喉のつまった感じがあり、近隣病院で精査したが特に異常所見は認めなかった。不眠もあり、寝つきが悪く、中途覚醒2回。イライラもしやすい。
処方①:半夏厚朴湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「喉のつまった感じは1/3程度に減った。睡眠は変化がない」
処方②:半夏厚朴湯1回1包+加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。喉のつまりは気になりません。イライラも減り、よく眠れるようになりました」

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副鼻腔炎

《こんな時困りませんか?》
患者「副鼻腔炎を繰り返して、その度に抗生物質を飲まないといけないので困っています。」

ポイント
・漢方薬が得意な分野は、慢性・再発性副鼻腔炎の症状緩和や増悪予防。
・漢方薬を導入することでQOLの改善、抗菌薬の減少が期待できる。
・難治性の副鼻腔炎には複数の漢方薬が必要となることが多い。

 
とりあえず処方したい場合
  • 小児→葛根湯加川芎辛夷(2)(頻度)
  • 大人→1st-line:辛夷清肺湯(104)(頻度)、2nd-line:辛夷清肺湯(104)+小柴胡湯加桔梗石膏(109)(頻度)
  • 副鼻腔炎+水様性鼻汁→辛夷清肺湯(104)+小青竜湯(19)(頻度)
  • 後鼻漏:粘液性→辛夷清肺湯(104)(頻度)、漿液性→半夏厚朴湯(16)(頻度)
概論
  • 副鼻腔炎に対する漢方薬は、ウイルス性・細菌性・アレルギー性・好酸球性急性〜慢性・再発性軽症〜重症白色〜黄色(膿性)と幅広く使用できる。
  • 病態に合わせて、複数の漢方薬が必要となることも少なくない。
西洋薬との位置づけ
  • 漢方薬はどの段階の副鼻腔炎にも使用できるが、予防〜軽症の副鼻腔炎に最も効果を発揮すると思う。
  • 中等症以上からは必要に応じて抗菌薬などの西洋薬の併用が望ましい場合が多い。
  • 漢方薬が得意な分野は、慢性・再発性副鼻腔炎症状緩和増悪予防
  • 漢方薬を導入することでQOLの改善抗菌薬の減少が期待できる。
各論
☆小児の副鼻腔炎×葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)(2)☆
  • 葛根湯加川芎辛夷は葛根湯(かっこんとう)(1)をベースに鎮痛作用の川芎、鼻閉改善作用の辛夷が加わった漢方薬である。葛根湯にも排膿作用があり副鼻腔炎に用いられるが、葛根湯加川芎辛夷はさらに副鼻腔炎に良い構成となっている。
  • 小児の副鼻腔炎には葛根湯加川芎辛夷が第一選択である。効果不十分な場合は、抗炎症作用の強い辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)(104)を使用するが苦いのが難点。葛根湯加川芎辛夷もやや飲みづらい場合があるため、飲めない場合は葛根湯でもよい。
  • 鼻汁主体の急性上気道炎や鼻炎から副鼻腔炎に移行しやすい場合は、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)±五虎湯(ごことう)(95)でコントロールしておくとよい場合がある。どちらも必要な場合は、朝に小青竜湯±五虎湯夕に葛根湯加川芎辛夷という方法もある。詳細は「推奨ベスト20」の「水様性鼻汁の風邪×小青竜湯」を参照。
  • 副作用は甘草による偽アルドステロン症、麻黄による動悸、胃もたれなどがあるが、小児では頻度が少ない。
☆大人の副鼻腔炎×辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)(104)☆
  • 辛夷清肺湯は、石膏、黄芩、山梔子、知母、升麻による抗炎症作用、辛夷による鼻閉改善作用、知母、百合、麦門冬による滋潤作用(潤す)、百合、麦門冬、枇杷葉による鎮咳去痰作用などがある(無理矢理に西洋医学で例えると抗菌薬+ステロイド点鼻薬+鼻洗浄+カルボシステインか)。
  • すなわち、辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤であるため、黄色鼻汁、鼻閉、喀痰などを呈する副鼻腔炎、慢性鼻炎、鼻茸などの治療薬として有用性が高い1)2)
  • 副鼻腔炎が慢性あるいは再発性の場合は継続的に使用する場合が多いが、鼻症状の安定、増悪予防に良く、抗菌薬を減らせることも少なくない。
  • 辛夷清肺湯のみで効果不十分な場合は更に抗炎症作用を高める目的で、小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)や桔梗石膏(ききょうせっこう)(N324)を、排膿作用を高める目的で排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)(122)を併用する。
  • 咽頭痛が併存する場合には小柴胡湯加桔梗石膏や桔梗石膏を併用する。
  • 後鼻漏に関しては、ドロっとした粘液性には辛夷清肺湯サラサラした漿液性には小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)(21) の有効性が高い3)。小半夏加茯苓湯が含まれている半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)でも代用可。鼻汁主体の急性上気道炎や鼻炎が関与している場合には小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)も鑑別にあがる。
  • 注意事項としては、味がやや苦い
  • 副作用としては、黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「粘液性の後鼻漏×辛夷清肺湯」を参照。
事例
45歳女性。以前から数ヶ月おきに副鼻腔炎を発症し、その度に抗菌薬を飲まないと改善しない状況。鼻閉、黄色の鼻汁、ドロっとした粘液性の後鼻漏、咽頭痛を認める。
処方①:辛夷清肺湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「半分程度に良くなったが、まだ溜まっているみたい。後鼻漏は良くなった。喉はまだ痛い」
処方②:辛夷清肺湯1回1包+小柴胡湯加桔梗石膏1回1包 1日3回 毎食後 14日分
28日後:「だいぶ良いです。鼻も喉もすっきりしました」
3ヶ月後:「ずっと落ち着いていて調子良いです」

文献
1)加藤昌志,他:鼻茸を伴う副鼻腔炎の辛夷清肺湯治療. 耳鼻臨床, 87(4): 561-568, 1994.
2)桜田隆司,他:慢性副鼻腔炎に対する漢方製剤の治療成績. 耳鼻臨床, 85(8): 1341-1346, 1992.
3)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011

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浮腫

《こんな時困りませんか?》
患者「足がむくんで歩きづらいです。検査では異常なく加齢性と言われました」

ポイント
・浮腫の部位、炎症や冷えの有無、年齢を参考に漢方薬を選択する。
・治療は主に利水作用の漢方薬(利水剤)を使用する。
・利水剤は利尿剤と異なる働きがあり、微小な脳浮腫に最も効果的である。

 
とりあえず処方したい場合
  • 1st-line:五苓散(17)、2nd-line:牛車腎気丸(107)(高齢者の下腿浮腫)
概論
  • 浮腫に対する漢方薬は浮腫の部位、炎症や冷えの有無、年齢を参考に選択する。例えば、蕁麻疹、蜂窩織炎、関節炎(水腫)、鼻炎(鼻閉)などは体表面の浮腫と炎症で共通であるため、疾患名が異なっても同じ漢方薬を使用することがある。
  • 浮腫には、主に利水作用の漢方薬(利水剤)を使用する。()剤は西洋薬の利尿()剤とは異なる働きがあり、お互いの利点を活かすことが重要である。
  • 例えば、利水剤の代表である五苓散(17)はアクアポリン(AQP)という水輸送チャネルを介して働くことがわかっている1)。また、五苓散(おそらくその他の利水剤も)は浮腫状態では利尿作用、脱水では抗利尿作用として働くことが示されており2)水分バランス(分布の不均衡)を丁度よい状態に調節してくれる薬剤となる。すなわち、利水剤は利尿剤よりも効果は劣るが、多く服用しても基本的に脱水にはならず、腎機能も悪化させない。また、ナトリウムやカリウムなどの電解質に与える影響もほとんどない3)
西洋薬との位置づけ
  • 基本的には西洋薬での治療が難しい場合に漢方薬の位置づけがある。
  • 例えば、西洋薬で取り切れない浮腫、利尿剤の適応外の浮腫、腎不全などで利尿剤の増量が難しい場合の浮腫などに利水剤の出番がある。やはり基礎疾患がある方が、利水剤の効果を発揮しづらい。利尿剤との併用も可能。
  • 利水剤は下腿浮腫などの多量な浮腫よりも、脳浮腫などの微小な浮腫を除去する方が得意だと思う。
     
各論
☆浮腫×五苓散(ごれいさん)(17)☆
  • 五苓散は沢瀉(たくしゃ)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、猪苓(ちょれい)、桂皮(けいひ)の5種類の生薬で構成されている。そのうち4つが利水作用の生薬であり、利水剤の代表といえる。
  • 五苓散はどのタイプの浮腫にも使用できるが、実臨床での個人的な感触としては脳浮腫(それも微小な浮腫)を最も得意としていると思う。それは、五苓散がAQP4に作用しやすく、そのAQP4が比較的脳に多く分布していることからも裏付けされる4)。よって、脳神経外科の分野でも五苓散は頻用されているが5)、特に低気圧時の頭痛、二日酔いの頭痛などに対する有効性が高いと感じている。
  • また、小児には五苓散が適合しやすく、小児の浮腫には五苓散が第一選択となる。
  • 心不全の関与した浮腫にも五苓散を使用するが効果は乏しい。低心機能の心不全には木防已湯(36)の方がよい場合がある。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されている6)7)
  • 古典的には、五苓散の適応徴候として「口渇、自汗(汗ばむ傾向)、尿不利(飲水量の割に尿量が少ない)」がある。これらすべてが揃うことは稀であり、参考程度に留めてよいと思われる。しかし、この3徴候が揃うと有効率は高く、二日酔いや急性腸炎などで時折みられる。
  • 女性(特に若年〜中年)の浮腫には当帰芍薬散(23)も適合しやすい。当帰芍薬散は五苓散にも含まれる沢瀉、朮、茯苓以外に、当帰、芍薬、川芎が含まれており、利水作用、末梢循環改善作用、温熱作用などを有する。よって、当帰芍薬散は冷え性で血行が悪く、むくみやすい女性に頻用される。利水作用を増強させるために五苓散と併用することも多い
  • 使用頻度は少ないが、便秘を伴う浮腫には九味檳榔湯(くみびんろうとう)(コタローN311)もある。九味檳榔湯は利水作用に加えて瀉下作用がある。
  • 注意点は特記すべき事項なし。
☆高齢者の下腿浮腫×牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)☆
  • 牛車腎気丸は地黄(じおう)、山茱萸(さんしゅゆ)、山薬(さんやく)、沢瀉(たくしゃ)、茯苓(ぶくりょう)、牡丹皮(ぼたんぴ)、桂皮(けいひ)、附子(ぶし)、牛膝(ごしつ)、車前子(しゃぜんし)の10種類の生薬で構成されている。
  • 牛車腎気丸は八味地黄丸(7)に牛膝、車前子が加わった漢方薬である。八味地黄丸は加齢に伴う諸症状(認知機能低下、腰痛、下肢しびれ、下腿浮腫、下肢の冷え、サルコペニアなど)に適応があり、さらに牛車腎気丸は八味地黄丸よりも下腿浮腫により効果的と言われている。
  • 牛車腎気丸の薬能としては沢瀉、茯苓などによる利水作用以外にも、滋養強壮作用、温熱作用、末梢循環改善作用などがあり、高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。温熱作用もあるため、冷え性に適しやすい。
  • 効果不十分例には、五苓散(17)、防已黄耆湯(20)、当帰芍薬散(23)へ変更または併用する。
  • 注意点としては、地黄による胃もたれがある。
☆体表面の炎症性浮腫×越婢加朮湯(えっぴかじゅつとう)(28)☆
  • 越婢加朮湯は麻黄(まおう)、朮(じゅつ)、石膏(せっこう)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)の6種類の漢方薬で構成されている。
  • 麻黄、朮には利水作用(主に体表面)、石膏、麻黄には抗炎症作用がある。
  • よって、越婢加朮湯は体表面の炎症性浮腫に第一選択となる。例えば、蕁麻疹、蜂窩織炎、関節炎(水腫)、鼻炎(鼻閉)などがある。
  • 体表面の浮腫で炎症が軽度以下の場合上肢(手指関節炎など)では桂枝加朮附湯(18)、桂枝加苓朮附湯(オースギSG-18R)、葛根加朮附湯(三和SG-141)下肢(下腿浮腫など)では牛車腎気丸(107)、防已黄耆湯(20)などがある。温熱作用があるものが多く、冷え性や冷えると悪化する疼痛やしびれにも適合しやすい。
  • 注意点は、甘草による偽アルドステロン症、麻黄による胃もたれ、尿閉、口渇などがある。
事例

82歳女性。以前から下腿浮腫を認めており、歩きづらく困っている。検査では異常所見がなく加齢性と言われた。利尿剤を試したが腎機能が悪化したため中止となっている。下肢の冷えやしびれも認めている。

処方:牛車腎気丸11包 1日2回 毎食後 14日分
14日後:「足のむくみはだいぶよいです。体重が58.4kgから57.2kgへ減りました」
28日後:「だいぶ良いです。体重も56.1kgになりました。下肢の冷えやしびれはまだ変わりません」
 

文献
1)Isohama Y.:Aquaporin modification:A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan.J Pharm Soc Jpn, 126: 70-73, 2006.
2)大西憲明, 他:モデルマウスを用いた漢方方剤の利水作用の検証. 和漢医薬学雑誌, 17:131-136, 2000.
3)原中瑠璃子, 他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯) 第Ⅰ報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. 和漢医薬学雑誌, 14: 105-106, 1981.
4)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6: 159-163, 2000.
5)宮上光祐, 他:慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性. Neurol Surg.37: 765-770, 2009.
6)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4: 335-41, 2007.
7)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3): 688-89, 1985.

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こむら返り

《こんな時困りませんか?》
患者「毎晩、足がつって困ります。芍薬甘草湯も効きません。」

ポイント
・こむら返りに、頓用では芍薬甘草湯、定期服用では疎経活血湯がお勧め。
・時間依存性と量依存性があり、発作の手前で多く服用する方が効果的。
・芍薬甘草湯は偽アルドステロン症、疎経活血湯は苦いことに注意が必要。

 
とりあえず処方したい場合
  • 頻度が少ない→芍薬甘草湯(68)1~2包 頓用
  • 頻度が多い→疎経活血湯(53)2包1× 就寝前
概論
  • こむら返りに対する芍薬甘草湯(68)は有名だが甘草の量が多く、長期服用の際には偽アルドステロン症のリスクに注意が必要。
  • 疎経活血湯のこむら返りへの使用は一般的ではないが、裏技的に効く
  • 疎経活血湯は、芍薬甘草湯と比較して甘草の量が少なく有効性に優れているが、苦いのが難点
西洋薬との位置づけ
  • こむら返りの原因除去も大切だが、同時に治療薬も提案すべき。
  • こむら返りに対する治療は漢方薬がfirst choice。頓用では芍薬甘草湯定期服用では疎経活血湯がお勧め。
各論
☆頻度の少ないこむら返り×芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)(68)☆
  • 芍薬甘草湯は芍薬と甘草の2つの生薬で構成されており、鎮痙作用、鎮痛作用がある。
  • 漢方薬の性質として、生薬の数が少ないほど速効性がある。よって、芍薬甘草湯は非常に速効性がある。
  • 芍薬甘草湯は横紋筋と平滑筋に鎮痙作用、鎮痛作用として働くため、こむら返り以外にも吃逆、熱痙攣、腹痛、腰痛、尿路結石の疼痛などの主に急性期に使用される。
  • 速効性があるため、発作時に服用してもよいが、発作前(例えばゴルフの前)や発作が起きそうなタイミングで服用する方が効果的。効果の持続時間は短い印象。
  • 量依存性もあるため、1包よりも2包の方が効果的。急性期は一時的に多く服用した方がよい。
  • 芍薬甘草湯は甘草6g/日と量が多いため、長期服用の場合は偽アルドステロン症に注意が必要。
  • 偽アルドステロン症は年齢層や性別、甘草の量によって発生頻度が異なる(0.1〜3.3%)1)2)高齢女性が最も多く、小児や若年者ではほとんど報告がない。甘草2.5g/日以上が偽アルドステロン症のリスクといわれているが、芍薬甘草湯は1包で甘草2gである。また、高齢女性では甘草2.5g/日以下でも発症することが少なくない。偽アルドステロン症は高血圧、低カリウム血症、浮腫の3徴候を呈するが、そのうち1つしか認めないこともある。また薬剤を中止しても数ヶ月持続することもあるため、注意が必要である。
  • こむら返りぐらいで余計な治療や入院をさせてはいけない
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「たまに起こるこむら返り×芍薬甘草湯」を参照。
☆頻度の多いこむら返り×疎経活血湯(そけいかっけつとう)(53)☆
  • 頻度の多いこむら返りには、甘草の量が少ない疎経活血湯を使用する。
  • 疎経活血湯は一般的に腰痛、膝関節痛、下肢しびれなど、主に下半身の整形外科的な疼痛、しびれに用いる漢方薬であり、こむら返りへの使用はあまり知られていない。
  • 筆者が飯塚病院に勤務していた時、田原部長が「芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏功したこむら返りの4例」3)を報告したのをきっかけに、こむら返りに疎経活血湯を頻用するようになった。
  • その後、筆者が「1週間に1回以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」の繰り返すこむら返りについてretrospectiveに検討し「再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討4)を報告。結果は、1ヶ月後までに23/33例(69.6%)が消失32/33例(96.9%)が半分未満へ改善し、12/33例(36.3%)が服薬直後から消失していた。これはこむら返りに対する芍薬甘草湯の報告5)6)よりも優れており、実際、芍薬甘草湯に効果不十分な例にもしっかりと効果を示していた
  • では、なぜ疎経活血湯がこむら返りに効くのか?疎経活血湯には17種類の生薬が含まれているが、芍薬と甘草以外にも威霊仙(いれいせん)、羌活(きょうかつ)、防風(ぼうふう)、白芷(びゃくし)などの鎮痙作用、鎮痛作用の生薬が多数含まれている。また、漢方医学的には血虚(けっきょ)、瘀血(おけつ)、水毒(すいどく)、冷えなどに幅広く対応している漢方薬である。そもそもこむら返りの病態は漢方医学的には1つでないことが多く、幅広く対応できる疎経活血湯が合いやすいと考えている。
  • 筆者の検討4)では、疎経活血湯のこむら返りに対する効果において、時間依存性用量依存性を認めていた。すなわち、明け方に起こるこむら返りには「夕よりも眠前」、「1包よりも2包」の方が効果的であった。
  • 明け方に繰り返すこむら返りには「眠前2包」が最も有効性が高く、処方例も最も多かった。その後の経過次第では、こむら返りの頻度や程度に応じて、眠前0〜2包で調節可。
  • 服薬のタイミングはこむら返りが発症する時間帯に合わせた方がよい。例えば、「午前中と明け方に起こるこむら返り」の場合、「朝1包、眠前2包」となる。
  • 疎経活血湯を服用している時にこむら返りを認めた場合は、芍薬甘草湯の頓用で対応する。効果の持続時間は芍薬甘草湯よりも疎経活血湯の方が長い印象。
  • 注意事項としては味が苦い。そのため、疎経活血湯を処方する際に「こむら返りに良く効く漢方薬がありますが、苦いです。飲めますか?頑張って飲んで下さいね」と一言添えるとよい。
  • 甘草1g/日で量は少ないが、偽アルドステロン症に注意。
  • 詳細は「推奨ベスト20」の「繰り返すこむら返り×疎経活血湯」を参照。
事例

83歳女性。以前から腰痛、左下肢しびれを認め、脊柱菅狭窄症、坐骨神経痛と診断されている。こむら返りを時折認めていたが、1ヶ月前からほぼ毎日認めるようになった。こむら返りは明け方に多い。こむら返りの原因となる薬剤や検査異常はなかった。

処方①:疎経活血湯1回2包 1日1回 眠前 14日分
14日後:「この2週間でこむら返りは1回だけだった。」
処方②:疎経活血湯1回2包 1日1回 眠前 14日分、芍薬甘草湯1回2包 頓用 足がつった時 10回分
28日後:「1回だけ足がつりそうになったけど芍薬甘草湯を飲むとすぐに良くなった。腰痛やしびれもあるので疎経活血湯はしばらく飲んでみます。」

文献
1)株式会社ツムラ:ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)の副作用発現頻度調査. 2016
2)萬谷直樹,他:甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査. 日本東洋医学雑誌, 66:197-202, 2015
3)田原英一,他:芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例. 日東医誌, 62(5):660-663, 2011
4)土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
5)熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬,15:499-523, 1999
6)三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49(5):865-869, 1999

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こどもの疾患

準備中

推奨ベスト20(医療者用)

小児の腹痛×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)

《こんな時困りませんか?》
患者「学校に行こうとした時に腹痛があり、何度もトイレに行くので困ります」

ポイント
・効果不十分な場合は、直前の服用、追加、増量を検討する。
・腹痛だけでなく、腹満、便秘、下痢や虚弱児の体質改善にも使用できる。
・服薬アドヒアランス向上には、親の意気込みが大事。

 
総論
  • 基礎疾患に便秘、急性腸炎、過敏性腸症候群などがあっても使用できる。
  • 対象患者の分布としては小学生以下が多い
西洋薬との位置づけ
  • 一般的にまずは便秘に対してのアプローチが多いかもしれないが、小建中湯は便秘にも効く1)
  • 小児の腹痛に対して、緊急性疾患を除外すれば小建中湯を優先的に勧めてよいと思う。
  • あとは児が飲めるかだけ。
漢方薬解説
  • 小建中湯は桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、膠飴(こうい)の6つの生薬で構成されている。桂皮(シナモン)や生姜などが含まれており、基本的には腸管を温める漢方薬である。
  • また、小建中湯は桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)+膠飴である。桂枝加芍薬湯は腸蠕動を調節する(鎮痙鎮痛作用など)働きがあり、腹痛以外にも腹満、便秘、下痢にも使用できる。また、膠飴には健胃作用、補気作用、滋養作用などがあるが、桂枝加芍薬湯に膠飴が加わることで、大人から小児に適した薬剤へと変化する。
  • すなわち、小建中湯は腸管を温めて腸蠕動を調節する働きがあり小児の腹部症状に幅広く使用される。
  • また小建中湯は腸内環境を整えるため、虚弱、少食、易疲労、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹)、慢性頭痛、夜尿症、気管支喘息などのさまざまな病態に使用され、さらには体質改善効果も期待できる薬剤である2)
使い方のポイント
  • 速効性もあるため、発作時の頓用でも使用できる。
  • 症状が出現するタイミング(例:通学前など)がわかれば、その直前に服用する方が効果的
  • 膠飴が入っているため、小建中湯の常用量は115g(6)と多いが、体重換算で分包しやすいメリットもある。
  • 教科書的には0.1〜0.2mg/kg/日(1日15gタイプだと0.2mg〜0.4mg/kg/日)などと記載されているが、児に合わせて飲めそうな量で設定してよい。
  • 漢方薬の量は厳密でなくてよいこと、分包の手間などを考慮して、例えば3歳児の親に「1日1包朝食後で処方しておくけど、朝と夕に目分量で半分ずつ分けて飲ませてね」というやり方もアリだと思う。
  • 児の服薬アドヒアランス向上には親の役割が大きい親に「この漢方薬を飲ませたい」と思ってもらうかが重要。そのためには上記のような説明をしっかりと行う必要がある。
  • 飲み方にも特に制限はない。小建中湯は比較的飲みやすいタイプではあるが、味や顆粒が苦手など、児によって問題点が異なるため、個々で対応していくことが大切。“飲ませる意気込み”をもった親であれば児に合わせていろいろな手段を考え、飲ませてくれる。
  • 例えば、りんごジュース、蜂蜜、チョコレート飲料、ココアなどと混ぜる、ご褒美に飴をあげるなど、家庭によってやり方はさまざまである。
  • 効果不十分な場合①直前に服用する追加する(服用後10分後に評価可能)③増量する(特に上限なし)④冷えがあれば大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)を併用する。
副作用・注意事項
  • 甘草含有であるが、小児では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 児が飲めるかどうか、服薬アドヒアランスが一番の問題点。
事例
7歳男児。毎朝排便はあるが、学校に行こうとした時に腹痛があり、何度もトイレに駆け込んでいる。朝以外にも、食べ過ぎたときなどに時折腹痛はある。
処方:小建中湯11×起床時 14日間

14日後:母親より「りんごジュースに溶かして蜂蜜と混ぜて飲ませた。その日から腹痛は和らぎ、3日後からは腹痛が無くなった。食べすぎたときにも1包飲ませるとすぐに良くなった。子供もこの漢方薬を飲むと腹痛が改善することを認識しているため、毎朝欠かさず飲んでいる」とのこと。

文献
1)日本小児栄養消化器肝臓学会,日本小児消化管機能研究会:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 61-63, 2013.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003

低気圧時の頭痛×五苓散(ごれいさん)(17)

【こんな時困りませんか?】
患者「天気が悪い時に頭痛があって、痛み止めも効かなくて困っています。」

ポイント
・慢性頭痛に「低気圧時の頭痛」が混在していることが多い。
・医療者が「低気圧時の頭痛」を聞き出すことが大事。
・量依存性があるため、方向性が定まれば増量や併用で有効率が高くなる。

 
総論
  • 「低気圧時の頭痛」は、例えば“雨降り前・曇天・台風”などの時に出現あるいは増悪するタイプの頭痛を指す。緊張型頭痛、片頭痛などの慢性頭痛に混在していることも少なくない。
  • 灰本らは、慢性頭痛の疫学研究で移動性低血圧と関連がある頭痛に五苓散が有効であったことを報告している1)
  • 頭痛の患者に「曇天などの低気圧時に悪化するか?」を質問することが大事。
西洋薬との位置づけ
  • 「低気圧時の頭痛」があれば、まずは五苓散を第一選択薬として提案してよいと思われる。
  • 少なくとも西洋薬との併用は可能
  • 慢性頭痛には複数の漢方薬が必要となることが多い。
  • 患者次第ではあるが、「低気圧時の頭痛」を認めていても、頻度や程度が低く、発作時は少量の鎮痛薬で改善するのであれば、あえて五苓散でなく鎮痛薬でもよいかもしれない。
漢方薬解説
  • 低気圧時の頭痛」は漢方では水毒(水分代謝異常,水はけが悪い)という病態にあたり、水毒の治療薬(利水剤)が適応となる。五苓散は代表的な利水剤の1つ。古くから五苓散の使用目標は「口渇、自汗、尿不利(汗ばむ傾向があり、喉が渇きやすく、飲水量の割に尿量が少ない)」と言われているが、このような典型例はごく一部と思われる。
  • 日本は湿気が多いため、水毒体質の患者が多いとも言われている。
  • 五苓散は名前の通り、5つの生薬で構成されているが、そのうち4つが利水作用のある生薬が含まれている(代表的な利水剤といわれる所以)。
  • 五苓散には水輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがあることが報告されている2)
  • 五苓散は、浮腫状態では利尿作用、脱水状態では抗利尿作用を発揮し、多く服用しても脱水にはならない3)
  • 既存の利尿薬と比較して血中電解質濃度に与える影響は少ない4)
  • 脳にはAQP4が多く存在しているため、五苓散は脳浮腫を取ることを得意としており、脳外科領域では脳浮腫や硬膜下血腫などに頻用されている5)
  • 「低気圧時の頭痛」は微小な脳浮腫が関係しているとも言われている。
使い方のポイント
  • 慢性頭痛患者に五苓散の適応のある人は少なくないが(特に若い女性)、漫然と処方するよりも、「低気圧時の頭痛の存在」と「五苓散投与後の改善」を患者と医療者で確認することが大事。その作業はひと手間かかるが、結果的に服薬アドヒアランスを上げることに繋がる。
  • 頓用使用の場合、発作時よりも発作前の投与の方が効果的。また量依存性のため、効果が不十分な場合は量を増やすことがコツ。1回1〜2包ずつ服用し、30〜60分で効果が不十分な場合は更に追加してもよい。
  • 頭痛の程度や頻度が多い場合は定期使用の方がよい。その場合でも、低気圧時は1日3〜6包と多めに服用し、それ以外は1日2〜3包と強弱をつける方がよい場合もある。
  • 五苓散1日3包でも「低気圧時の頭痛」が残っている場合は、他の利水剤を合わせる。個人的には女性であれば当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)、男性であれば苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)を合わせることが多い。「低気圧時」ではない頭痛が残っている場合は利水剤以外の漢方薬(例:加味逍遥散など)を合わせる
  • 慢性的に「低気圧時の頭痛」を認める人は水毒体質であることが多い。水毒体質とは「水はけが悪い、水分代謝が悪い、水分を溜め込みやすい体質」などと表現される。頭痛以外にも「低気圧時に悪化するめまい・倦怠感・関節痛」「むくみやすい」「めまいを起こしやすい」なども水毒症状であり、利水剤が適応となる。五苓散などの利水剤でこれらの水毒症状がすべて改善する可能性があるため、余裕があれば頭痛以外の水毒症状についても問診しておくとよい。
  • いつまで五苓散を飲み続けるのか?」に対しては、「水毒体質が改善するまで」である。個人差はあるが、年単位が多い。また、健康のために大量の飲水を心がけている場合は水毒体質に合わない(場合によっては増悪の原因になっている)可能性があるため、控えた方がよい。
副作用・注意事項
  • 特になし
事例
38歳女性。20歳代の頃から頭痛を繰り返している。片頭痛と診断され、トリプタン製剤などを服用している。数ヶ月前より頭痛が週2〜3回へ増悪しトリプタン製剤も効かなくなってきたため当院へ来院。頭痛は曇天や雨天で悪化する。
処方①:五苓散11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「頭痛はこの2週間で2回だけで、痛み止めを飲むほどでもなかった」
処方②:五苓散1回1包+当帰芍薬散11 1日3回 毎食後 14日分 
28日後:「頭痛は全くなかった」

文献
1)灰本元, 他:慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察. フィト, 1(3):8-15, 1999
2)Isohama:Y. J. Pharm. Soc. Jpn, 126:70-73, 2006
3)田代眞一:Prog. Med, 14(6):1774-1791, 1994
4)原中瑠璃子ほか:和漢医薬誌, 14:105-106, 1981
5)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6:150-163, 2000

たまに起こるこむら返り×芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)(68)

【こんな時困りませんか?】
患者「夜中に時々足がつって困っています。どうにかなりませんか?」

ポイント
・芍薬甘草湯は飲みやすく、有効性や速効性に優れているが、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
・基本的には頓用使用を勧める。
・量依存性があり1包よりも2包の方が有効率は高くなる。

 
総論
  • 芍薬甘草湯は飲みやすく、有効性や速効性に優れているが、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
  • こむら返りは通常腓腹筋に多いが、患者が「足がつる」と言う場合に腓腹筋以外の筋痙攣のことがある。腓腹筋以外の筋痙攣には漢方薬はやや効きづらい印象だが、それは漢方薬が合わないのではなく、発症部位が悪いから仕方がないと思っておく。
西洋薬との位置づけ
  • こむら返りの原因除去も大切だが、同時に治療薬も提案すべき。
  • こむら返りに対する治療薬は芍薬甘草湯がfirst choice。有効率に関して、論文では消失19~66%、改善・半分以下69%~100%と報告に幅があるが1)2)、個人的には下記の方法でもっと有効性は高くなると思う。
漢方薬解説
  • 芍薬甘草湯は名前の通り、芍薬と甘草の2つの生薬で構成されている。
  • 漢方薬の基本として、「生薬の数が少ないほどキレが良い」という原則がある。
  • よって、芍薬甘草湯はキレッキレで、分単位で効果発現がある。その一方で持続時間は短い印象(数時間程度か)
  • 薬能としては、「平滑筋・骨格筋への鎮痙・鎮痛作用」である。
  • 花輪は「骨格筋・平滑筋を問わず神経-筋遮断作用をもち、骨格筋に対しては筋弛緩ないし抗痙攣的に作用、平滑筋に対しては鎮痙的に作用する」と記載している3)
  • 甘草による偽アルドステロン症は年齢層や性別、甘草の量によって発生頻度が異なる(0.1~3.3%)4)5)高齢女性が最も多く、小児や若年者ではほとんど報告がない。甘草2.5g/日以上が偽アルドステロン症のリスクといわれているが、芍薬甘草湯は1包で甘草2gである。また、高齢女性では甘草2.5g/日以下でも発症することが少なくない。偽アルドステロン症は高血圧、低カリウム血症、浮腫の3徴候を呈するが、そのうち1つしか認めないこともある。また薬剤を中止しても数ヶ月持続することもあるため、注意が必要である。
使い方のポイント
  • 効果発現が分単位と速いこと、甘草による副作用の懸念から、基本的には頓用使用が推奨される
  • 実際の処方としては、①芍薬甘草湯1包1× 頓用 足がつった時 10回分②芍薬甘草湯3包3×食間(足がつった時) 7日分など。
  • 明け方にこむら返りを繰り返す場合は「芍薬甘草湯1包1×眠前 30日分」などもアリだが、高齢女性では1日1包でも長期服用すれば偽アルドステロン症のリスクがあるため、疎経活血湯など他の薬剤を推奨する(次章の「繰り返すこむら返りに疎経活血湯」を参照)。
  • 可能なら「つった時」よりも「つりそうな感じ」の時に服用するのがベスト
  • こむら返りは、夜間や明け方に多いため、枕元に芍薬甘草湯と水を置いておくとよい。
  • 頓用の場合は1回1~2包が良い。量依存性があり1包よりも2包の方が有効率は高い。救急外来勤務の時、熱痙攣で全身がつっている患者には1回に3包飲ませていた(この場合でも分単位で効く)。
  • 例えば、ゴルフやマラソンの前に予防的に服用することも大変有用である。
  • 平滑筋、骨格筋の有痛性痙攣に有効であるため、こむら返り以外にも、吃逆、熱痙攣、腹痛、腰痛などに使用してもよい。
副作用・注意事項
  • とにかく偽アルドステロン症が怖い。高齢女性には特に要注意。こむら返りぐらいで余計な治療や入院をさせてはいけない
事例
65歳男性。最近、週に1、2回の頻度で明け方に足がつるので困っている。ゴルフの最中にもよく足がつるとのこと。
処方①:芍薬甘草湯1包1× 頓用 足がつった時 10回分

14日後:「足がつりそうな時に芍薬甘草湯を2包飲むとすぐに良くなった。ゴルフの前にも2包飲んだら足がつらなかった」

文献
1) 熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 15:499-523, 1999
2) 三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49:865-869, 1999
3) 花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 392, 2003
4) 株式会社ツムラ:ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)の副作用発現頻度調査. 2016
5) 萬谷直樹,他:甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査. 日本東洋医学雑誌, 66:197-202, 2015

繰り返すこむら返り×疎経活血湯(そけいかっけつとう)(53)

《こんな時困りませんか?》
患者「1ヶ月前から毎晩足がつるので困っています。何かよく効く薬はありませんか?」

ポイント
・こむら返りには、頓用では芍薬甘草湯、定期服用では疎経活血湯がお勧め
・時間依存性と量依存性があり、明け方のこむら返りには「眠前2包」が最も有効
・味が苦いため処方時に説明が必要

 
総論
  • 疎経活血湯のこむら返りへの使用は一般的ではないが、裏技的に効く。
  • 芍薬甘草湯と比較して甘草の量が少なく有効性に優れているが、苦いのが難点
西洋薬との位置づけ
  • こむら返りの原因除去も大切だが、同時に治療薬も提案すべき。
  • こむら返りに対する治療は漢方薬がfirst choice。頓用では芍薬甘草湯、定期服用では疎経活血湯がお勧め。
漢方薬解説
  • 疎経活血湯は一般的に腰痛、膝関節痛、下肢しびれなど、主に下半身の整形外科的な疼痛、しびれに用いる漢方薬である。
  • 疎経活血湯にも少量の芍薬(2.5g/日)と甘草(1g/日)が入っているが、こむら返りへの使用は一般的には知られていない(添付文書上も適応外)。
  • 筆者が飯塚病院に勤務していた時、田原部長が「芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏功したこむら返りの4例」1)を報告したのをきっかけに、こむら返りに疎経活血湯を頻用するようになった。
  • その後、筆者が「1週間に1回以上の頻度」かつ「2週間以上の持続」の繰り返すこむら返りについてretrospectiveに検討し「再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討2)を報告。結果は、1ヶ月後までに23/33例(69.6%)が消失、32/33例(96.9%)が半分未満へ改善し、12/33例(36.3%)が服薬直後から消失していた。これはこむら返りに対する芍薬甘草湯の報告3)4)よりも優れており、実際、芍薬甘草湯に効果不十分な例にもしっかりと効果を示していた
  • さらに疎経活血湯は甘草1g/日と少なく、芍薬甘草湯と比較しても安全性に優れている。
  • 難点は苦いこと
  • では、なぜ疎経活血湯がこむら返りに効くのか?疎経活血湯には17種類の生薬が含まれているが、芍薬と甘草以外にも威霊仙(いれいせん)、羌活(きょうかつ)、防風(ぼうふう)、白芷(びゃくし)などの鎮痙鎮痛作用の生薬が含まれている。また、漢方医学的には血虚(けっきょ)、瘀血(おけつ)、水毒(すいどく)、冷えなどに幅広く対応している漢方薬である。そもそもこむら返りの病態は漢方医学的には1つでないことが多く、幅広く対応できる疎経活血湯が合いやすいと考えている。
使い方のポイント
  • 筆者の検討2)では、芍薬甘草湯と同様に疎経活血湯においても、時間依存性と用量依存性を認めていた。すなわち、明け方に起こるこむら返りには「夕よりも眠前」、「1包よりも2包」の方が効果的であった。
  • 明け方に繰り返すこむら返りには「眠前2包」が最も有効性が高く、処方例も最も多かった。その後の経過次第では、こむら返りの頻度や程度に応じて、眠前0〜2包で調節可。
  • 服薬のタイミングはこむら返りが発症する時間帯に合わせた方がよい。例えば、「午前中と明け方に起こるこむら返り」の場合、「朝1包、眠前2包」となる。
  • また本来、疎経活血湯は腰痛、膝関節痛、下肢しびれなどに適応があるため、これらの症状がある場合は(実際併存していることが多い)、こむら返りが治まっても、服薬の継続をお勧めすることも少なくない。ただし効果はこむら返りほど高くない印象。
副作用・注意事項
  • 味は苦い。そのため、疎経活血湯を処方する際に「こむら返りに良く効く漢方薬はあります。苦いけど飲めますか?頑張って飲んで下さいね」と一言添えるとよい。
  • 甘草1g/日で量は少ないが、偽アルドステロン症に注意。
事例
83歳女性。主訴はこむら返り,腰痛,左下肢しびれ。
以前から腰痛,左下肢しびれを認め,脊柱菅狭窄症,坐骨神経痛と診断されている。こむら返りを時折認めていたが,1ヶ月前からほぼ毎日認める。こむら返りは明け方に多い。こむら返りの原因となる薬剤なく,諸検査も異常なし。
処方:疎経活血湯1回2包 1日1回 眠前 14日分
14日後:「この2週間でこむら返りは1回だけで軽かった。腰痛やしびれもあるのでしばらく飲んでみます」

文献
1) 田原英一,他:芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例. 日東医誌, 62(5):660-663, 2011
2) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
3) 熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬,15:499-523, 1999
4) 三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49(5):865-869, 1999

高齢者の難治性便秘×麻子仁丸(ましにんがん)(126)

《こんな時困りませんか?》
患者「数種類の下剤を飲んでいるけど便が出にくいです。」

ポイント
・高齢者の難治性便秘に適合しやすい
・瀉下作用に加えて潤腸作用や腸管蠕動促進作用なども有する
・甘草やマグネシウムが含まれていないので使いやすい

 
総論
  • 便秘のタイプ(痙攣性便秘や弛緩性便秘など)はあまり気にしなくてよいと思われる。
  • 漢方界では兎糞状のコロコロ便に適合しやすいと言われている。
西洋薬との位置づけ
  • 麻子仁丸はいわゆる比較的強い下剤に分類されるため、難治性の便秘に用いられることが多い(軽症の便秘には1日0.5包など少量で調節することも可能)。
  • 麻子仁丸を使用することで数種類の下剤を減らせるイメージ。
  • 1,2種類の下剤(西洋薬)で良好な排便が得られているのであれば敢えて麻子仁丸を勧めなくてもよいかも。
  • マグネシウムは含有していないため、腎不全患者には使いやすい。
  • 麻子仁丸は高齢者の便秘に適合しやすく、「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」1)にも掲載されている。
漢方薬解説
  • 麻子仁丸は麻子仁(ましにん)、大黄(だいおう)、枳実(きじつ)、杏仁(きょうにん)、厚朴(こうぼく)、芍薬(しゃくやく)の6生薬で構成されている。
  • 大黄の薬効成分はセンノシドで瀉下作用がある(麻子仁丸の大黄は4g/日と比較的量が多い)。
  • 麻子仁、杏仁は油性成分で、潤腸作用がある(腸内を潤して滑りを良くする)。
  • 枳実には腸管蠕動促進作用、芍薬や厚朴には鎮痙作用があり、腸蠕動に対して調節的に働くと言われている。また大黄による腹痛を和らげてくれる。
  • これらが総合的に作用する影響か、患者は「スッキリ便が出る」と快便に喜ぶことも少なくない。
  • 個人的には「麻子仁丸は高齢者の総合便秘薬」と思っている。
  • 大黄を含有しているが、通常の大腸刺激性下剤と比較して耐性ができにくい2)3)とも言われている(さまざまな作用の生薬も入っているから?)。
  • 高齢者の便秘に使用する漢方薬として、潤腸湯(じゅんちょうとう)(51)もある。麻子仁丸に似ている漢方薬だが、名称の通り、より潤腸作用が強いのが利点である一方、甘草(偽アルドステロン症)、黄芩(肝障害)、地黄(胃もたれ)など副作用に注意する生薬が含まれているのが難点であるため、個人的には麻子仁丸の方がお勧め。
使い方のポイント
  • どの漢方薬でも共通だが、初めて処方する時は「漢方薬は飲めますか?」と確認する方がお互いにとって負担が少ない。
  • 通常、麻子仁丸を勧めるタイミングは、「数種類の下剤を飲んでいるが便が出づらく困っている時」がお勧め。その方が服薬コンプライアンスは上がるし、喜ばれることが多い。
  • 慣れないうちは1日1〜2包から開始して増量していく方がよい。麻子仁丸がスムーズに飲めるのであれば、1日3包まで増量して、西洋薬を減らしていくのもよい。
  • もちろん高齢者でなくても使うことはある。特にパーキンソン病患者の便秘にも適合しやすい。
副作用・注意事項
  • 大黄による大腸メラノーシス
  • 甘草やマグネシウムは含有されていない
事例
85歳女性。施設に入所してから便が出にくい。酸化マグネシウム990mg/日、センノシド24mg/日、ピコスルファートナトリウムを服用中だが、排便なく4日目に坐薬を使用している。本人は「とにかく便が出なくて気持ちが悪い」と訴えている。
処方:麻子仁丸1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「便が毎日すっきり出てとても気持ちが良い」と喜ばれた。
最終的には麻子仁丸1日2包のみで毎日排便を認めるようになった。

文献
1) 日本老年医学会, 日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班編集:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. メディカルビュー社, 139-151, 2015
2) 杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A. 中外医学社, 59, 2014
3) 岩崎鋼:高齢者のための漢方診療. 丸善出版, 58, 2017

喉のつまり×半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)

《こんな時困りませんか?》
患者「検査では異常がないけど、喉のつまった感じがなかなか取れません。」

ポイント
・喉のつまり感がストレス関連症状であれば半夏厚朴湯が適合しやすい。
・喉だけでなく「喉から胸部の閉塞症状」に幅広く使用できる。
・その他の応用も覚えておくと何かと便利。

 
総論
  • 「喉のつまり」に対する鑑別疾患としては、精神疾患、後鼻漏、咽喉頭炎、食道や咽喉頭の悪性腫瘍、逆流性食道炎、甲状腺疾患、食道カンジダなどがある。
  • その中で、半夏厚朴湯が治療対象となる疾患は主に精神疾患である。特に検査で器質的な異常がない「喉のつまり」に対して咽喉頭異常感症やヒステリー球という名称がある。機序としては上部食道括約筋の緊張、収縮による圧迫感といわれている1)
  • 咽喉頭異常感症はストレス関連症状であることが多く、半夏厚朴湯が適合しやすい。有効率は8割程度と報告されているものもある2)。本稿ではこれを主なテーマとする。
西洋薬との位置づけ
  • 西洋医学であれば、主に抗不安薬、抗うつ薬などが治療薬となるが、副作用のことを考慮すると半夏厚朴湯を優先的に使用してよいと思う
  • 背景にある精神疾患が軽症であれば、半夏厚朴湯などの漢方薬だけでも改善が期待できるが、重症度によっては西洋薬も必要になる。その場合でも西洋薬と併用する価値はあると思われる
漢方薬解説
  • 半夏厚朴湯は半夏(はんげ)、厚朴(こうぼく)、蘇葉(そよう)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)の5つの生薬で構成されている。
  • 半夏、厚朴、蘇葉、茯苓に抗うつ作用、抗不安作用があるため、抑うつや不安などに使用されている。
  • 半夏厚朴湯が得意としている適応症状は、実は喉だけでなく「喉から胸部の閉塞症状」である。例えば、「喉がつまる」「胸がしめつけられる」「息苦しい」「息が大きく吸えない」などと患者は表現する。「喉が痛い」「胸がチクチクする」などの閉塞症状でない場合には有効性が下がる印象。
  • ちなみに「胃の閉塞症状(胃がつまった感じ、すぐに満腹になる、げっぷ、嘔気など)」には茯苓飲(ぶくりょういん)(69)が適応となる。よく「喉から胸部の閉塞症状」と併存していることが多いため、その場合は茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤である茯苓飲合半夏厚朴湯(ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう)(116)を使用する。
  • 半夏厚朴湯には抗うつ作用などがあるため、うつや不眠なども改善される可能性はある。
  • 「喉のつまり」はストレス社会に多い症状であるが、約2000年前の金匱要略(中国)には「咽中炙臠(喉に炙った肉がつまった感じ)」、明治時代の勿誤薬室方函口訣(日本)には「梅核気(梅の種が喉につまった感じ)」と半夏厚朴湯の適応症状が記載されており、その当時から同様の症状があったと思うと感慨深い。
  • 半夏厚朴湯が適応になりやすい性格は神経質や几帳面で用意周到、例えば外来などで伝えたいことをメモに書いてくる人に該当者が多いと言われている3)4)。この現象はおそらく背景に、伝え忘れるかもしれないという不安感や相手に時間を取らせないように気を使う性格なども関与していると思っている。
  • また、半夏、厚朴、茯苓、生姜には鎮咳作用、去痰作用があるため、喀痰や湿性咳嗽にも適応がある。すなわち、気管支炎のみでも使用されるが、例えば「痰が喉につまっている(感じ)」を自覚する場合に、実際、痰があってもなくても(気のせいでも)半夏厚朴湯の処方でよいため便利。
  • もう一つ、サラサラした漿液性の後鼻漏5)(有効性高い)や悪阻(有効性低い)には小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)(21)を使用するが、半夏厚朴湯の中に小半夏加茯苓湯が入っているため代用可能。
使い方のポイント
  • 「喉のつまり」あるいは、上記の「喉から胸部の閉塞症状」があり、ストレス関連症状が疑われる場合は、とりあえず半夏厚朴湯を試してよいと思われる
  • 効果発現は2〜4週間以内で認めることが多いため、4週間後でも全く変わらない場合は次の手を考える。
  • 半夏厚朴湯が有効でも症状が残存している場合や、精神症状が重い場合には柴胡剤(さいこざい)という種類の漢方薬を併用すると強化される。詳細は他書に譲るが、個人的には女性であれば加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)、男性であれば柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)、うつが強い場合は加味帰脾湯(かみきひとう)(137)を選択することが多い。
  • あまりにも慣れてくると、「喉のつまり」→「半夏厚朴湯」というような条件反射に陥ることがあるため、器質的疾患の見落としにはくれぐれも気をつける必要がある。
副作用・注意事項
  • 特記事項なし
事例
50歳男性。3ヶ月前に仕事が忙しくなった頃から、毎日喉のつまる感じを自覚するようになった。主に仕事中に多く感じる。耳鼻科などの検査では異常がなかった。気分の落ち込みや不眠などはない。
処方:半夏厚朴湯11包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「まだ仕事は忙しいが、喉のつまりは3割程度になった。症状がない日も多くなった」28日後:「少し怪しい感じはあったが、ほとんど症状はなかった」

文献
1)杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A. 中外医学社, 32, 2014
2)田中栄一ら:産婦人科疾患に合併した咽喉頭異常感症の診断・治療について. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 18:77-81, 2001
3)大塚敬節:症候による漢方治療の実際 第5版. 南山堂, 190, 2000
4)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 407, 2003
5)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011

ストレスで悪化する過敏性腸症候群×四逆散(しぎゃくさん)(35)

《こんな時困りませんか?》
患者「以前から、学校に行くと腹痛と下痢があって困っています。」

ポイント
・ストレス性の過敏性腸症候群には四逆散が適合しやすい。
・四逆散の適応者は手汗をかきやすい過緊張タイプの中高生に最も多い。
・特に中高生には服薬アドヒアランス向上のための工夫が必要。

 
総論
  • 過敏性腸症候群(IBS)にはさまざまな原因が考えられているが、本稿ではストレス性のIBSをテーマとする
  • IBSには便秘型や下痢型などがあるが、四逆散はどのタイプにも使用できる
西洋薬との位置づけ
  • 個人的に、IBSは漢方の得意分野の一つと思っている。
  • ストレス性のIBSには、西洋薬よりも四逆散の方が有効率は高いと感じているが併用でも可。
  • 少なくとも若い世代にベンゾジアゼピンなどを処方する前に、一度は試してもらいたい
  • 対象患者の分布としては中高生が最も多いため、漢方薬を飲めるかが分岐点となる。四逆散はそこまで苦くはないが飲めたら一安心。
漢方薬解説
  • 四逆散は柴胡(さいこ)、芍薬(しゃくやく)、枳実(きじつ)、甘草(かんぞう)の4つの生薬で構成されている。柴胡は自律神経調節作用・抗ストレス作用、枳実は腸管蠕動調節作用、芍薬と甘草は鎮痙作用・鎮痛作用があるため、ストレス性のIBSに適した構成となっている。
  • 西洋薬で例えるなら、セディール®+グランダキシン®+ポリフル®+ブスコパン®のイメージか。もちろん西洋薬のような副作用の懸念は少ないので中高生でも使用できる。
  • 対象は中高生が最も多いが、大人でもストレスで悪化するタイプであれば有効性は高い小学生以下の場合はストレス性でも小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)でよい場合が多い(小児の腹痛×小建中湯の項を参照)。
  • 適応者は、手汗をかきやすい過緊張タイプ(交感神経亢進タイプ)に多いと言われている。その中でも過緊張が腹部症状に出やすい人が最適である。
  • 四逆散適応者の腹部所見(図1)は、腹直筋の異常緊張や肋骨弓下の異常緊張(漢方では胸脇苦満きょうきょうくまんという名称がある)が特徴1)とされている。どんなに筋肉質な人でも臥位で力を入れなければ腹部は軟らかいのが通常であるため、自身の意思とは無関係に体(特に腹部)が緊張している状態と推察する。この腹部所見は健常の中高生にもよくみられるため(成長過程の変化?)、主に大人で参考になる。大人の場合、この腹部所見をもとにストレス性のIBSを患者から聞き出すことも少なくない。
  • また、腹部を少し触っただけでも異常にくすぐったがる人も適応者のことが多い。

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使い方のポイント
  • 通常、中高生であれば1日2回、大人であれば1日2〜3回の定期服用が多いが、比較的速効性もあるため、発症の時間帯に合わせて飲むこともコツ。例えば、発症が朝学校に行く時のみであれば、朝1〜2包で良い場合がある。
  • 飲まない薬は効かないため、とにかく継続して飲んでもらうことに力を注ぐ(特に中高生はすぐに飲まなくなる傾向にある)。
  • 大切なことは、まず患者の体質に合った漢方薬で有効性が高いことを説明し飲む気にさせること。飲みづらければジュースでもオブラートでも使用可。
  • 発症の直前に飲ませると、薬剤の早期効果だけでなく、プラセボ効果も期待できそうな気がする
  • 効果発現は通常2週間以内で確認できることが多い
  • よって、初回のフォローは2週間前後、その後は1ヶ月毎に行い、脱落しないよう毎回意識付けを行う。特に中高生は改善していることを認識していないことも多いため、服薬の前後で症状がどのように変化したのかをしっかりと覚えておいてもらうよう事前に伝えておく。
  • いつまで服薬を継続する必要があるか?については個人差があるが、年単位で中止できることが多い。四逆散による体質改善効果なのか、成長に伴うものなのかは不明だが、おそらく両者とも可能性があると思う。
  • 医師が服薬の減量・中止の指示をしなくても、調子が良くなれば患者自身で勝手に飲まなくなることも少なくない。基本的には減量しても再発しなければ中止可能となる
  • 四逆散で効果不十分な場合は、例えば冷たい飲食物で腹部症状が悪化するような“寒冷刺激で悪化するIBS”が隠れていないかを確認する。寒冷刺激で悪化するIBSには大建中湯が適合しやすいが(次項参照)、ストレス性のIBSと併存していることもあり、四逆散+大建中湯という処方の組み合わせも少なくない
副作用・注意事項
  • 甘草含有であるが、特に中高生では偽アルドステロン症のリスクはかなり低いと思われる。
  • 四逆散には枳実(ナツミカンの未熟果実)が入っているため、柑橘系が苦手な人には注意が必要かも。
事例
中学3年生の男子。1年前より、学校に行くと毎日腹痛と下痢を自覚するため困っているとのこと。発症の時間帯は午前と午後どちらにも認める。自宅では症状がない。学校では昼休みにも漢方薬を飲めるとのこと。
処方:四逆散1回1包 1日2回 朝昼食後 14日分

2週間後:「この1週間は腹痛と下痢が1回だけだった」
1ヶ月後:「腹痛も下痢もなかった。きちんと飲めている。」

文献
1)藤平健,小倉重成:漢方概論. 創元社, 497, 1979

寒冷刺激で悪化する過敏性腸症候群×大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)

《こんな時困りませんか?》
患者「以前から、腹痛と下痢を繰り返しています。過敏性腸症候群のお薬を飲んでいるけど良くなりません」

ポイント
・大建中湯は本来、便秘よりも下痢、腹痛、腹満に有効性が高い。
・大建中湯の適応者には「腸管の冷え」が必須。
・「腸管の冷え」の存在は、①寒冷刺激で腹部症状が悪化する②腹部を温めると症状が緩和する、などで判断する。

 
総論
  • 機能性消化管疾患診療ガイドラインでは、過敏性腸症候群(IBS)を「腹痛あるいは腹部不快感とそれに関連する便通異常が慢性もしくは再発性に持続する状態」と定義しているが、誘発因子として寒冷刺激は記載されていない1)
  • しかし臨床上は寒冷刺激で悪化するIBSは存在する。本稿ではこの「寒冷刺激性のIBS」をテーマとする。
  • 寒冷刺激とは、冷たい飲食物の摂取や冷気などを指す。すなわち、冷たい飲み物や冷房などで腹痛や下痢を繰り返すIBSが本稿の対象となる。
  • IBSのタイプでは下痢型が多い
  • 対象患者は小児から高齢者まで幅広いが、分布としては10代〜40代に多い印象。
西洋薬との位置づけ
  • 個人的に、IBSは漢方の得意分野の一つと思っている。
  • IBSの中でも、寒冷刺激で悪化するタイプには大建中湯が最適である。大建中湯には腸管を温める作用があるが、冷えて悪化するのであれば、温めて治すことが正攻法だと思う。
  • 西洋医学では温める治療はほとんどなく、おそらく寒冷刺激を避ける指導ぐらいであろう。しかし、生活習慣の改善を試みても症状が残存する場合があり、薬剤としてアプローチできることも知っておく必要がある
  • 特に若い人では、冷たい飲食物で悪化することが分かっていても摂取している場合が少なくない(気づいていない場合もある)。特に暑い時期は冷たい飲食物を摂取したくなるため、夏に悪化するIBSの中にこの病態が隠れていることもある
漢方薬解説
  • 大建中湯は乾姜(かんきょう)、山椒(さんしょう)、人参(にんじん)、膠飴(こうい)の4つの生薬で構成されている。名前の由来として「大きくちゅう(お腹)を建て直す」という意味があり、主に腹部症状に使用する漢方薬である。
  • そのうち乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)と山椒(うなぎに使用する)が主要な生薬で、「腸管を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和させる働き」がある2)
  • 「腸蠕動の正常化」とあるが、大建中湯には腸管運動亢進作用3)を認める一方で、腸管運動亢進モデルには腸管運動抑制作用4)をもたらす働きがあり、調節的に作用する。
  • すなわち、腸管が冷えて腸蠕動異常(下痢、腹痛、腹満、便秘)を認める病態であれば下痢でも便秘でも大建中湯の適応となる
  • 大建中湯は一般に腸閉塞5)や便秘に用いられることが多いが、以上の理由より下痢にも使用できる。便秘型IBSに対する大建中湯の有効性を示唆する報告6)もあるが、個人的に大建中湯は便秘よりも下痢、腹痛、腹満に有効性が高いと思っている。
使い方のポイント
  • 大建中湯の適応者には「腸管の冷え」が必須。理論的に「腸管の冷え」がなければ効果は乏しい。
  • よって「腸管の冷え」の存在をさまざまな手段で見つけていく必要がある。①冷たい飲食物の摂取や冷気などの寒冷刺激で腹部症状が悪化する腹部を温めると症状が緩和する、の2つは特に特異度が高い印象。ちなみに腹巻きや腹部にカイロを使用している人は②に該当する。また、③自覚的な腹部の冷感(お腹が冷える)腹部、特に臍周囲の他覚的な冷感(触って冷たい)を認める場合や⑤便臭(特に水様性下痢)が軽度冷え症の人にも「腸管の冷え」すなわち大建中湯の適応者が多いと言われている7)8)9)10)
  • 大建中湯は膠飴が入っている影響で15g(6包)/日と量が多い。患者のアドヒアランスに合わせて5g〜7.5g/日から開始してもよいが、効果不十分な場合は常用量の15g/日まで増量することをお勧めする。大建中湯はお湯に溶けやすいため、量を多く感じる人には生姜湯のイメージで溶かして飲んでもらうのもよい(温かいもので服用する方が効果的)
  • なぜか「味覚(特に生姜に対して)」と「腸管の冷え」が関係する9)10)。すなわち、「大建中湯が飲みやすい(生姜辛くない)→腸管の冷えがありそう(大建中湯が効きそう)」、「飲みづらい(生姜辛い)→腸管の冷えがなさそう(効かないかも)」という解釈になる。注意すべき点は、「漢方自体が飲みづらい」ではなく「生姜辛くて飲みづらい」である。
  • 比較的速効性があるため、頓用使用でも可。また冷たい飲食物を摂取する直前に服薬する方法も有効
  • もちろん、冷たい飲食物の摂取や冷気を避ける、腹巻きや腹部のカイロなどの方法も併用した方がよい。果物、生野菜、酢の物、甘い物(チョコレートなど)も胃腸を冷やすため注意が必要11)
  • 効果判定は、頓用の場合は30分後、定期使用の場合は2週間後で可
  • 効果不十分な場合は、①服薬アドヒアランスの低下増悪因子の残存などが原因となっていることがあるため、確認し再指導する。さらに効果を高めるためには、桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)の併用がお勧め。特に、下痢よりも腹痛や腹満を緩和する効果が高い。2剤を常用量で合わせると1回3包と多くなるため、服薬アドヒアランスを考え大建中湯を1回1包に減量する場合もある。また、当帰湯(とうきとう)(102)が大建中湯+桂枝加芍薬湯に近いため、当帰湯で代用してもよい。
副作用・注意事項
  • 副作用の特記事項はない。
  • 人によっては乾姜や山椒が辛いと感じる場合がある。
事例
21歳男性。以前から腹痛と下痢を繰り返していたが、7月頃から特に悪化しており、毎日3,4回/日の腹痛と下痢を認めている。他院で諸検査を行ったが異常なく、過敏性腸症候群の薬剤も効果なし。特にストレスも感じていない。冷たい飲食物で悪化するかを問うと「そうかもしれない」とのこと。診察上、臍周囲に他覚的な冷感を認める。
処方:大建中湯1回2包 1日3回 毎食後 14日分
(冷たい飲食物の摂取を控えるよう指導)

14日後:「腹痛や下痢はほとんどなかったが、昨日冷たいビールを飲んだら悪化した」
28日後:「調子よい」

文献
1)日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2014−過敏性腸症候群(IBS). 南江堂, 2, 2014.
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 79, 1982.
3)Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
4)Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
5)Ishizuka M, et al:Perioperative administration of traditional Japanese herbal medicine daikenchuto relieves postoperative ileus in patients undergoing surgery for gastrointestinal cancer: a systematic review and meta-analysis. Anticancer Res, 37:5967-5974, 2017.
6)武田宏司,他:消化器内科領域における漢方. 日本東洋心身医学研究2010, 25:37-41, 2010.
7)三潴忠道:はじめての漢方診療十五話.医学書院, 214, 2005.
8)犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
9)土倉潤一郎:Gノート 本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬. 羊土社, 4(6):1044-1055, 2017.
10)土倉潤一郎:Gノート おなかに漢方!. 羊土社, 6(1):58-64, 2019.
11)小倉重成:無病息災の食べ方. 緑書房, 1987.

小児の便秘×小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)

《こんな時困りませんか?》
患者「3歳の子供がいつも便秘でお尻が痛いと泣いて困っています。」

ポイント
・小建中湯には腸蠕動を調節する働きがあり、自然な排便が期待できる。
・便秘だけでなく、腹痛、腹満、下痢や虚弱児の体質改善にも使用できる。
・服薬アドヒアランス向上には、親の意気込みが大事。

 
総論
  • 小児慢性機能性便秘症診療ガイドラインでは漢方薬について、「刺激性下剤による便意低下を回避したい患児、家族ないし本人が漢方治療を望む場合に用いる」と言及し、小建中湯以外に、桂枝加芍薬湯、大建中湯、大黄製剤(桂枝加芍薬大黄湯、潤腸湯、大黄甘草湯、調胃承気湯)などを挙げている1)
  • その中でも小建中湯は最も適応者が多く、体質改善効果も期待できることから、小児の漢方便秘薬としては第一選択薬と思われる。大黄(センノシド)製剤の使用はできる限り控えた方がよい。
西洋薬との位置づけ
  • 小児の便秘に対する小建中湯は“自然な排便が期待できる”“下痢になりにくい”“過敏性腸症候群にも対応できる”“副作用が少ない”“体質改善効果も期待できる”などが利点である。忙しい小児科外来では難しいかもしれないが、個人的には小児の便秘薬として優先的に勧めてよいかと思う。
  • あとは児が飲めるかだけ。
漢方薬解説
  • 小建中湯は桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、大棗(たいそう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)、膠飴(こうい)の6つの生薬で構成されている。桂皮(シナモン)や生姜などが含まれており、基本的には腸管を温める漢方薬である(温熱作用は小建中湯より大建中湯の方が強い)。
  • また、小建中湯は桂枝加芍薬湯(けいしかしゃくやくとう)(60)+膠飴である。桂枝加芍薬湯は腸蠕動を調節する(特に筋緊張を緩める)働きがあり、便秘以外にも腹痛、腹満、下痢にも使用できる。また、膠飴は健胃作用、補気作用、滋養作用などの働きがあるが、桂枝加芍薬湯に膠飴が加わることで、大人から小児に適した薬剤へと変化する。
  • 小建中湯は、小児の便秘、腹痛、腹満、下痢などの腹部症状以外にも、虚弱、少食、易疲労、皮膚疾患(アトピー性皮膚炎や慢性蕁麻疹)、慢性頭痛、夜尿症、気管支喘息などのさまざまな病態に使用され、さらには体質改善効果も期待できる薬剤である2)。これは単に便秘を改善するだけの効果ではないと思う。桂枝加芍薬湯にはそのような効果が指摘されていないため膠飴が重要な役割を担っていると思われるが、膠飴の薬能だけでも説明しづらい。おそらく慢性疾患をもつ患児は消化管に異常があることが多く、その病態に小建中湯という絶妙な配合薬が適合しやすいのだろう
  • よって個人的には「小児の慢性的な体調不良はとりあえず小建中湯で消化機能や腸内環境を整えると改善する可能性がある」と思っている。上田は、「落語の葛根湯医(何にでも葛根湯を使う医師)が有名であるが、小児の診療においては小建中湯医がいてもおかしくはない」3)と言及しており合点がいく。
  • また小建中湯が適合しやすい児の特徴として、緊張した腹直筋(薄い)、くすぐったがり、手足が温かく湿潤などもある3)
使い方のポイント
  • 便秘時の頓用使用でもよいが、可能なら定期使用にて毎日の排便習慣の獲得をお勧めする。便秘でない日に服薬しても、理論的には下痢になることはない
  • 小建中湯は便秘、腹痛、腹満、下痢に対応するため、過敏性腸症候群にも有効性が高い
  • 膠飴が入っているため、小建中湯の常用量は1日15g(6包)と多い。教科書的には0.1〜0.2mg/kg/日(1日15gタイプだと0.2mg〜0.4mg/kg/日)などと記載されているが、児に合わせて飲めそうな量で設定してよい。
  • 漢方薬の量は厳密でなくてよいこと、分包の手間などを考慮して、例えば3歳児の親に「1日1包朝食後で処方しておくけど、朝と夕に目分量で1包を半分ずつ分けて飲ませてね」というやり方もアリだと思う。
  • 通常量で便が出にくい場合はさらに量を増やすことをお勧めする。副作用の点からは特に用量の上限はない。あとは児が飲めるかだけ。
  • 児の服薬アドヒアランス向上には親の役割が大きい親に「この漢方薬を飲ませたい」と思ってもらうかが重要。そのためには上記のような説明をしっかりと行う必要がある。
  • 飲み方にも特に制限はない。小建中湯は比較的飲みやすいタイプではあるが、味や顆粒が苦手など、児によって問題点が異なるため、個々で対応していくことが大切。“飲ませる意気込み”をもった親であれば児に合わせていろいろな手段を考え、飲ませてくれる。
  • 例えば、りんごジュース、蜂蜜、チョコレート飲料、ココアなどと混ぜる、ご褒美に飴をあげるなど、家庭によってやり方はさまざまである。
  • 小建中湯で効果不十分な場合の鑑別処方として、特に冷えが強い場合や腹部手術後には大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)難治性の場合には桂枝加芍薬大黄湯(けいしかしゃくやくだいおうとう)(134)などがある。
  • また、小建中湯に黄耆(おうぎ)という生薬が加わった黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)(98)もある。黄耆は皮膚疾患、虚弱、寝汗などの治療に用いるため、そのような病態には黄耆建中湯を優先的に選択してもよい。
  • 建中湯(おなかを建て直す)シリーズには、桂枝加芍薬湯に当帰(とうき)が加わった当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)(123)もある。当帰建中湯には膠飴が含まれないので小建中湯の方意はないが、(胃腸)虚弱者の月経関連症状(月経困難、月経不順)などに用いる。
副作用・注意事項
  • 甘草による偽アルドステロン症の可能性があるが、小児に関してはあまり気にしなくてよい。
  • 服薬アドヒアランスが一番の問題点。
事例
3歳男児。いつも便秘で排便時に肛門が痛いと泣いている。食が細い。時々、腹痛も認める。
処方:小建中湯1回1包 1日1回 夕食後 14日分
(朝夕に0.5包ずつ内服しても可)

14日後:「りんごジュースに混ぜて飲んでいる。毎日便がスムーズに出るようになった。腹痛もなくなった。」
28日後:「排便は順調。漢方薬も毎日飲めている。以前より食べる量が増えてきた。」

文献
1)日本小児栄養消化器肝臓学会,日本小児消化管機能研究会:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 61-63, 2013.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
3)上田晃三:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂, 98(7):1022-1026, 2016.

頭位性・起立性めまい×苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)

《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前から朝起き上がったときにめまいを繰り返して困っています」

ポイント
・疾患名に限らず、頭位性・起立性めまいの症状があれば幅広く使用できる。
・水毒体質を意識すると診療の幅が広がる。
・効果不十分な場合は他の漢方薬を組み合わせると効果的。

 
総論
  • 頭位性めまいとは、頭の向きで悪化するタイプのめまいを示す。良性発作性頭位めまい症なども含むが、類似症状(例:横を向くとめまい感がある)にも使用できる
  • 起立性めまいとは、起立時に悪化するタイプのめまいを示す。起立性低血圧や起立性調節障害なども含むが、類似症状(例:血圧低下のない立ちくらみ程度)にも使用できる
西洋薬との位置づけ
  • 西洋医学にもそれぞれの病態に対して治療法はあるが、個人的には漢方薬の方が有効性は高いと感じている。
  • 少なくとも西洋医学でのアプローチで効果不十分な場合は、漢方薬を試す価値があると思う
  • 特に水毒体質(後述)の患者にはこのタイプの漢方薬が適合しやすいため強く勧めている。
漢方薬解説
  • 苓桂朮甘湯は茯苓(ぶくりょう)、桂皮(けいひ)、朮(じゅつ)、甘草(かんぞう)の4つで構成されており、漢方薬の名称も構成生薬を組み合わせて名付けられている。
  • 茯苓と朮は水分代謝調節作用(利水作用)があり、漢方の水毒(すいどく)という病態を治す働きがある
  • 水毒とは水の代謝異常、分布異常のことで、体内の水分が正常な位置から移動(偏在)している病態を広く指す。すなわち、溢水や脱水、脳浮腫なども水毒であり、メニエール病が内リンパ水腫と関わっているように、めまいも水毒が関連している場合が多い
  • 利水作用を持つ漢方薬は多くあるが、なぜか頭位性・起立性めまいには苓桂朮甘湯が最も有効性が高い。
  • 残りの生薬である桂皮と甘草の組み合わせは、上向きのベクトル(動悸、のぼせなど)を降ろす働きがあり、漢方の気逆(きぎゃく)という病態を治す。血管運動神経系にも関わるため、おそらくこのあたりに、苓桂朮甘湯が頭位性・起立性めまいに効く理由があるのだろう。
  • ちなみに、苓桂朮甘湯の起立性低血圧に対する機序としては、血管壁に直接作用して末梢血管抵抗を増加させることが示されている1)。多系統萎縮症など器質的疾患がある場合は、効果が限定的な場合もあるが試す価値はある。
  • また、茯苓、朮、甘草には補気作用(気力を補う)もある。→これは後述する起立性調節障害の治療に繋がる。
  • 最後に、水毒体質(水はけが悪い人)についても覚えておいた方が良い。二日酔いなど水毒状態が一時的なこともあるが、体質として長年、水毒症状を繰り返している場合も少なくない水毒体質の徴候としては「曇天などの低気圧時に頭痛やめまいが悪化する、むくみやすい、めまいや車酔いをしやすい、飲水量の割に尿量が少ない、飲水後に胃の中でチャポチャポと音がする、舌が腫れぼったく歯型がついている」などがある。寺澤の水滞(水毒)スコアも参考になる2)
  • 水毒体質者は、めまい以外にも上記のように多彩な水毒症状で困っていることがあるが、利水作用の漢方薬でそれらも改善する可能性がある。そして長期服用することで、再発予防だけでなく、体質改善にも繋がる。
使い方のポイント
  • まずは水毒体質などを考慮せずに、“頭位性・起立性のめまい”というだけで苓桂朮甘湯を処方しても比較的有効性は高いと思われる。
  • 効果不十分な場合は利水作用を強めるために、五苓散(ごれいさん)(17)を加える。月経関連症状を伴っていれば、それらもカバーする当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)でも良い。
  • 急性期の場合は1回2包や1日3回以上など多く服用する方が効果的
  • 苓桂朮甘湯を多く服用しても脱水になることはなく、短期間であれば偽アルドステロン症のリスクも低い。
  • 水毒体質者の場合、めまい以外の水毒症状(低気圧時の頭痛など)も改善する可能性があるため、事前に確認しておきフォローするとよい。もし水毒症状が残存している場合は、上記の「効果不十分な場合」の対応でさらに改善が期待できる。
  • 学童期〜思春期に多い起立性調節障害にも第一選択薬としてお勧めする。朝が起きられない(不登校を含む)、立ちくらみや車酔いをしやすい、朝礼などで気分が悪くなる、などの子供は水毒体質者であることが多い。すなわち、(普段も調子が悪いが)特に曇天などの低気圧時に体調が悪い、飲水量の割に尿量が少ない(子供に多いがよく聞くと1日2,3回のこともある)などを伴っている可能性がある。このタイプの子供は怠け者や精神疾患患者と捉えられがちだが、苓桂朮甘湯で改善する姿を見ると、本人の生活習慣、親の育て方、低血圧などが原因ではなく、単純に水毒体質(+虚弱体質)が関与していただけと感じることも少なくない。本人としては頑張りたくても体がいうことを聞かないので困っているのである。水毒体質による体調不良から精神的なバランスを崩して本格的な精神疾患に陥る前に、漢方に出会えたらと切に願う。
  • ちなみに、特に子供は漢方薬の反応が良く、苓桂朮甘湯を服用後、2週間以内に何かしらの症状が改善することが多い。尿回数が少ない人は1,2回増える。
  • 水毒症状が残存している場合は五苓散の追加で良いが、食欲不振や倦怠感が残存している場合は補中益気湯の追加が良い。朝食を食べないから体調が悪いのではなく、体調が悪いから朝食を食べられない場合も多い。
  • 製薬会社によっては、苓桂朮甘湯、五苓散、当帰芍薬散、補中益気湯には錠剤もある(1回量は多い)ので細粒が苦手な子供にも提案しやすい。
副作用・注意事項
  • 長期服用の場合は偽アルドステロン症に注意が必要。
  • 若い人、特に子供の偽アルドステロン症は起きにくい。
事例
53歳女性。3ヶ月前から回転性めまいを自覚。めまいは朝に悪く、起き上がった時、昼間は顔の向きを急に変えた時に発症する。雨降り前にも悪化する。
処方:苓桂朮甘湯1回1包 1日3回 毎食後 7日分
7日後:「めまいがだいぶ良くなった(3/10)。朝起きた時、寝返りなどでも大丈夫」
21日後:「めまいはない。調子が良い」

文献
1)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
2)寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学 第2版. 医学書院, 57, 1998

浮動性・動揺性めまい×真武湯(しんぶとう)(30)

《こんな時困りませんか?》
患者「フワフワしためまいが続いていて、検査でも異常がなく困っています。」

ポイント
・器質的疾患の有無に限らず、浮動性・動揺性めまいに真武湯を試す価値アリ。
・真武湯は温める漢方薬のため、体が冷えていると適合しやすい。
・冷えがない場合は五苓散や苓桂朮甘湯、効果不十分な場合は柴胡剤なども検討する。

 
総論
  • 浮動性めまいとは、フワフワする雲の上を歩く感じと表現されるようなめまいを示す。
  • 動揺性めまいとは、クラっとするフラっとするようなめまいを示す。
  • このタイプのめまいは比較的高齢者に分布が多いため、フレイルや加齢の影響と判断されることもあるが、真武湯が効く可逆性のめまいであることも少なくない
  • 器質的疾患やフレイルなどが原因の場合は有効性が低い可能性があるが試す価値はある。
西洋薬との位置づけ
  • 器質的疾患の有無に限らず、浮動性・動揺性めまいに対しては、通常薬剤でのアプローチというより、リハビリテーションあるいは経過観察となることが多い。
  • 一方で、特に器質的疾患がない場合には、真武湯をはじめとする漢方薬の有効性は比較的高いため、一度は試して頂きたい。少なくとも困っている患者に薬剤としてアプローチできることは大きい。
漢方薬解説
  • 真武湯は茯苓(ぶくりょう)、朮(じゅつ)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、附子(ぶし)の5つの生薬で構成されている。
  • 茯苓と朮は水分代謝調節作用(利水作用)があり、漢方の水毒(すいどく)という病態を治す働きがある
  • 水毒とは水の代謝異常、分布異常のことで、体内の水分が正常な位置から移動(偏在)している病態を広く指す。すなわち、溢水や脱水、脳浮腫なども水毒であり、メニエール病が内リンパ水腫と関わっているように、めまいも水毒が関連している場合が多い
  • 利水作用を持つ漢方薬は多くあるが、なぜか浮動性・動揺性めまいには真武湯が最も有効性が高い
  • めまいに使用する他の漢方薬との大きな違いは、真武湯には生姜、附子という温熱作用の生薬が含まれていることである。
  • つまり、真武湯は体を温めながら水の巡りを良くする漢方薬である。おそらく、この絶妙なバランス(配合)が冷えやすい高齢者の浮動性・動揺性めまいに適合しやすいのだろう。
  • 真武湯のめまいについては、昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」を提示している1)。その中には浮動性・動揺性めまい以外に、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる。眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある。」などが記載されており参考になる。
使い方のポイント
  • 前述したように真武湯は体を温める漢方薬である。よって、真武湯を投与する際に、冷えの存在を確認した方がよい
  • 冷え症ですか?」「体は冷えやすいですか?」などの問診や、手足の触診などを参考に、冷えの存在が確認できれば真武湯の使用を考慮する。
  • 浮動性・動揺性めまいを自覚する患者は意外と冷えていることが多く、自然と真武湯の割合が多くなる
  • 冷えがない場合は、五苓散(ごれいさん)(17)や苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)などの漢方薬を選択する。
  • 上記の利水作用の漢方薬で効果不十分な例には柴胡剤が有効な場合がある。柴胡剤は自律神経調節作用、抗ストレス作用などがあり、多数の漢方薬が存在するが、個人的には女性に加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)男性に柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)高齢者に釣藤散(ちょうとうさん)(47)(柴胡剤ではないが)を選択することが多い。
  • 真武湯は体を温めて水の巡りを良くする漢方薬であるため、めまいだけでなく、冷え症、浮腫、水様性下痢、しびれ(冷えで悪化し温めると軽減するタイプ)、倦怠感などにも効果が期待できる
副作用・注意事項
  • 附子が含まれているので教科書的には附子中毒に注意が必要だが、エキス製剤であればリスクは少ないと思われる。
事例
72歳女性。1年前からめまいを自覚。めまいは主に歩いているときにフワフワする。時々、クラっとすることもある。頻度は週2〜3回程度。頭部MRIなどの検査では異常なく、脳外科で加療したが改善なし。手足を触ると冷たく、夏でも厚着をするほどの冷え症とのこと。
処方:真武湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分

2週間後:「この2週間にめまいは1度だけだった」
4週間後:「めまいはなく、調子よい」

文献
1)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993

軽い風邪のひき始め×葛根湯(かっこんとう)(1)

《こんな時困りませんか?》
患者「よく風邪をひいて困ります。すぐに良くなる薬はありませんか?」

ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・葛根湯は比較的使いやすいが、ゴールデンタイムは短い。
・葛根湯を効かせるコツとして、服用方法の工夫、養生の仕方などがある。

 
総論
  • 軽い風邪とは、症状が軽い風邪(ウイルス性上気道炎)を指す。
  • ひき始めとは、わずかでも風邪症状が出現した瞬間〜2日間ぐらいを指す。葛根湯のゴールデンタイムは短い。
  • 治療対象の症状は、寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉、頭痛、後頚部の凝りなどがあり、いずれも症状が軽度
  • 一方、治療対象外の症状は、悪寒・戦慄、高熱(39度以上など)、関節痛、咽頭痛、鼻汁などが中等度以上、咳嗽、喀痰などがあり、これらには他の漢方薬を優先的に使用する。
  • また体格や体質も考慮する必要があり、葛根湯の対象者は比較的体力のある子供〜成人であり、高齢者、極端な冷え症、虚弱者は対象外であることが多い(例外的に葛根湯が合う人もいる)。
西洋薬との位置づけ
  • 細菌性感染症やインフルエンザなどの一部のウイルス感染症が除外できれば風邪の診断に至るが、西洋医学での風邪治療は基本的に症状を緩和する対症療法のみである。すなわちウイルス自体は自己免疫力で減らすしかない。
  • 一方で、葛根湯を代表とする漢方薬には症状緩和だけでなく、例えば体を温め、自己免疫力を高めてウイルスを排除させる働きもある1)2)。また、葛根湯だけでなく、麻黄や桂皮などの生薬にも、抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などが認められている1)2)3)4)
  • 風邪に対する漢方治療は速効性があるため、時間単位で風邪を積極的に治しにいくことができる。西洋では対症療法が主体のため守るイメージだが、漢方は攻めるイメージ
  • 一昔前までは感染症による死亡が多かったため、感染症に対する漢方薬が数多く用意されている(現在のエキス製剤だけで30種類以上あり更にこれらを組み合わせる)。ちなみに、漢方のバイブルである傷寒雑病論(約1800年前)の約半分は感染症について記述されている。
  • よって、少なくとも風邪の治療薬は西洋よりも漢方の方が圧倒的に数が多く、個人的に風邪の治療専門医は漢方医ではないかと思っている(予防や診断などは感染症専門医と思うが)。
  • ちなみに、自己免疫力が高く、総合感冒薬などの対症療法で風邪が治る人にとっては、漢方薬は必須ではない。
漢方薬解説
  • 葛根湯は葛根(かっこん)、麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、芍薬(しゃくやく)、生姜(しょうきょう)、大棗(たいそう)、甘草(かんぞう)の7つの生薬で構成されている。
  • 麻黄+桂皮」の組み合わせは温熱産生を高めて発汗させる作用がある。すなわち、風邪をひくと、病原体を殺すために脳が体温調節のセットポイントを上げて発熱させようとするが、「麻黄+桂皮」はその過程を補助し、より速くセットポイントまで到達するように温熱産生を高めてくれる(その結果、病原体やサイトカインの増殖をより速く抑える)。そして、セットポイントに到達すると目的は達成され、発汗する(おそらく体を冷まそうとする)。
  • よって葛根湯を開始するタイミングは病原体が入ったらなるべく早い方がよい。そして、セットポイントを越える、すなわち発汗した状態では基本的に役目を終える
  • また主役の葛根には、発汗解熱作用、後頚部の凝りを緩めるなどの働きがある。葛根は葛根湯の代表であるが、薬効としては麻黄と桂皮が主体と思われる。
  • そして意外に重要なのが芍薬である。芍薬は芍薬甘草湯のように筋肉を緩める働きがあるが、止汗作用(汗を止める働き)もある。
  • 葛根湯全体の働きとしては、温熱産生を高めて発汗させる方向性だが、芍薬が安全弁となり汗が出過ぎることを防いでいる。アクセルを踏みながら、少しブレーキも踏んでいるのである。ちなみに芍薬が入っていない麻黄湯(まおうとう)(27)は葛根湯よりも発汗させる力が強い一方で、発汗しすぎないように注意が必要となる。
  • よって、葛根湯は比較的使いやすい漢方薬であり、個人的に「とりあえず葛根湯」はアリだと思う
使い方のポイント
  • 風邪の治療全般に該当することだが、風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。その多くに葛根湯が使用される。
  • 教科書的な葛根湯の使い方は「まだ発汗していない風邪のひき始めに服用し、発汗すれば中止する」といわれている。しかし、葛根湯を服用後、発汗しない場合や、発汗ではなく利尿の場合もある発汗は目指すべき徴候の1つだが、風邪症状が改善すればこだわらなくてもよいと思う
  • 用法用量は「1日3回食間」であるが、このペースでは遅いことが多い。葛根湯の対象者(比較的体力のある子供〜成人)であれば、少なくとも初日は多少詰めて服用した方がよい。より効果的な服用方法として、「初回は2包を服用する」「1回服用して症状の改善がなければ1時間あけてさらに追加する」「初日は1日3〜6包服用してもよい」「発汗後も症状が残っていればもう少し継続する」などがある。
  • また、葛根湯の温熱・発汗作用をより効率的にひきだすために、「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体を温める環境にする(服装、室温など)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」「布団にくるまって寝る(少しでも仮眠をとる)」などを併用すると更に効果的。
  • 葛根湯は風邪以外にも、肩こり、緊張性頭痛、副鼻腔炎、乳腺炎、蕁麻疹などにも使用できる。慢性疾患の場合は通常の服用方法でよい。
副作用・注意事項
  • エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。
  • 甘草が含まれているため、偽アルドステロン症に注意が必要。短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
事例
40歳男性。以前からよく風邪をひいている。風邪のパターンは少し寒気があり、頭痛がおきる。長引くとその他の症状も出てくる。諸検査では異常所見なし。体格中等度。冷え症はない。
処方:葛根湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
*口頭で、「初回は2包服用、1時間後に症状が残っていれば、1包ずつ追加する。なるべく発汗させる方法をとる。」なども伝えた。

1週間後:「この前、風邪をひいたときに葛根湯を飲んだらすぐに良くなりました。残りは手元に置いています。」
4週間後:「葛根湯があるのでとても助かっています」

文献
1)松田秀秋,他:漢方方剤の薬理活性研究(第3報) 葛根湯の免疫応答に及ぼす影響. 和漢医薬雑誌, 7:35-45, 1990.
2)村岡健一,他:葛根湯製剤の作用機序の薬理学的検討-イヌによる体温上昇と免疫能活性について-. J. Trad. Med, 20:30-37, 2003.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.

冷え性の軽い風邪×麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)

《こんな時困りませんか?》
患者「すぐに風邪をひきやすく治りにくいので困っています。」

ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・麻黄附子細辛湯は冷え性で鼻汁や咽頭痛(イガイガ)を認める軽い風邪に最適。
・体を温める風邪薬は西洋薬に無いため重宝されやすい。

 
総論
  • 冷え性とは、自他覚的に冷えがある人を指す。典型的には手足末端のみの冷えではなく、体全体の冷えがある場合、例えば、冷房が苦手、長風呂できる、厚着を好むなども参考になる。また、普段は冷えを感じていなくても、風邪をひくと体が冷え続けるタイプも該当する。
  • 軽い風邪とは、症状が軽い風邪(ウイルス性上気道炎)を指す。
  • 治療対象の症状は、寒気、咽頭痛、鼻汁、鼻閉などがあり、いずれも症状が軽度
  • 一方、治療対象外の症状は、悪寒・戦慄、高熱、咽頭痛、鼻汁などが中等度以上、咳嗽、喀痰などがあり、これらには他の漢方薬を優先的に使用する。
  • 分布としては高齢者や虚弱者に多い
西洋薬との位置づけ
  • 細菌性感染症やインフルエンザなどの一部のウイルス感染症が除外できれば風邪の診断に至るが、西洋医学での風邪治療は基本的に症状を緩和する対症療法のみである。すなわちウイルス自体は自己免疫力で減らすしかない。
  • 一方で、麻黄附子細辛湯を代表とする漢方薬には症状緩和だけでなく、例えば体を温め、自己免疫力を高めてウイルスを排除させる働きもある1)
  • よって、対症療法で改善しづらい人には漢方薬での治療をお勧めする
  • 特に冷え性や虚弱者は、風邪をひきやすい、治りにくい、総合感冒薬が合わないなどの傾向があり、体を温める麻黄附子細辛湯を重宝する人も少なくない
漢方薬解説
  • 麻黄附子細辛湯は名称の如く、麻黄(まおう)、附子(ぶし)、細辛(さいしん)の3つの生薬で構成されている。生薬数が少ないため、キレは良い
  • 麻黄附子細辛湯の特徴は、附子と細辛の温熱作用の生薬が含まれていることである。葛根湯は温熱・発汗作用であり、例えるなら、辛いカレーを食べて一時的に体を温め発汗させ、治すイメージ麻黄附子細辛湯は温かい鍋を食べて、体の芯から持続的に体を温め、治すイメージ
  • また附子と細辛には鎮痛作用があり咽頭痛にも効果を示す。なぜか分からないが、麻黄附子細辛湯が適合する咽頭痛は「痛い」よりも「イガイガする」と表現する場合が多い。ちなみに「痛い」であれば、喉の炎症が強い可能性があり、桔梗湯(ききょうとう)(138)を単独あるいは併用する場合もある。
  • 麻黄附子細辛湯、その中でも麻黄には抗炎症作用抗ウイルス作用などが認められている2)3)。主成分がエフェドリンのため、鼻汁や鼻閉にも効果を示す。
  • 例えば、葛根湯のように“これから発熱する前の悪寒”なのか、麻黄附子細辛湯のように“今後も持続する冷え”なのかを迷う場合がある。その際は、これまでの風邪のパターンを確認する。個々によって風邪症状の経過がパターン化されていることが多く、参考になる。最終的には実際に服用して比較するのもよい。
使い方のポイント
  • 風邪の治療全般に該当することだが、風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。
  • 麻黄附子細辛湯は、葛根湯のように発汗を目標に多めに服用することはしない。初日は1日4回程度服用してもよいが、基本は1回1包、1日3回でよい。
  • 麻黄附子細辛湯の温熱作用をより効率的にひきだすために、「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体を温める環境にする(服装、室温など)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」などを併用すると更に効果的。
  • 麻黄附子細辛湯は風邪のひき始めだけでなく、風邪が治るまで長期的に服用してもよい
  • 麻黄附子細辛湯(特に細辛)が飲みづらい場合は製薬会社によってはカプセル製剤も選択できる。
  • 鼻汁が強い場合は小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)咳が強い場合は麦門冬湯(ばくもんどうとう)(29)や桂枝加厚朴杏仁湯(けいしかこうぼくきょうにんとう)(TY-28)咽頭痛が強い場合は桔梗湯喀痰がある場合は半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)などを合わせてもよい。
副作用・注意事項
  • エフェドリンが主成分の麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要。胃もたれしやすい人には桂枝湯(けいしとう)(45)あるいは桂枝加厚朴杏仁湯(咳もカバーする)とよい。
  • 附子中毒はエキス製剤であればあまり心配しなくてもよいと思われる。冷え性であれば更にリスクは少ない。
事例
82歳女性。よく風邪をひくが、治りにくい。もともと冷え性で冷房は苦手。風邪をひくと更に体が冷え、鼻汁や咽頭痛(イガイガする)を認める。長引くと咳も出るようになる。熱は出ない。総合感冒薬を飲むと体がきつくなる。
処方:麻黄附子細辛湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分

1週間後:「あの漢方薬は良かった。飲んだらすぐに良くなった。」
4週間後:「あれを飲むとすぐに良くなるので助かります。また処方してください。」

文献
1)東奈津美ら,他:マウス一次免疫応答における麻黄附子細辛湯構成生薬の果たす役割. 和漢医薬学雑誌, 18:89-94, 2001.
2)Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.

水様性鼻汁の風邪×小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)

《こんな時困りませんか?》
患者「子供がよく風邪をこじらして鼻水や咳が出るので困っています。」

ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・「水様性鼻汁があればとりあえず小青竜湯」は、あながち間違っていない。
・小青竜湯単独で効果不十分な場合は他剤との併用がお勧め。

 
総論
  • 水様性鼻汁の風邪とは、透明でサラサラの鼻汁が主体のウイルス性上気道炎を指す。
  • 治療対象の症状は、水様性鼻汁がメインであるが、軽度であれば、寒気、鼻閉、咳嗽、喀痰(白色・水様性)、喘鳴などもカバーする。
  • 一方、治療対象外の症状は、高熱、咽頭痛、鼻汁(黄色)、喀痰(黄色)、咳嗽や鼻閉などが中等度以上であり、これらには他の漢方薬を優先的に使用あるいは併用する。
  • 対象者の分布としては小児〜高齢者と幅広いが、最も効果的なのは小児と思う。
西洋薬との位置づけ
  • 細菌性感染症やインフルエンザなどの一部のウイルス感染症が除外できれば風邪の診断に至るが、西洋医学での風邪治療は基本的に症状を緩和する対症療法のみである。すなわちウイルス自体は自己免疫力で減らすしかない。
  • 一方で、小青竜湯を代表とする漢方薬には症状緩和だけでなく、例えば体を温め、自己免疫力を高めてウイルスを排除させる働きもある1)
  • よって、対症療法で改善しづらい人には漢方薬での治療をお勧めする
  • 特に鼻汁の風邪症状に対しては総合感冒薬や抗ヒスタミン薬が用いられることがあるが、有効性だけでなく眠気などの副作用においても小青竜湯の方が優れている可能性がある2)
漢方薬解説
  • 小青竜湯は、麻黄(まおう)、桂皮(けいひ)、乾姜(かんきょう)、半夏(はんげ)、五味子(ごみし)、細辛(さいしん)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)の8つの生薬で構成されている。
  • 小青竜湯には葛根湯などと同じように麻黄と桂皮が含有されているため温熱発汗作用がありウイルスを減少させる働きがあるが、実際には方剤全体のバランスから発汗させることは少ない。また、麻黄や桂皮の生薬自体にも抗炎症作用抗ウイルス作用マクロファージ貪食能増殖作用などが認められている3)4)
  • 乾姜(生姜を蒸して乾燥させたもの)や細辛には温熱作用がある。よって、冷え性や「冷えると鼻汁が出る」タイプにもよい。冷えと水様性鼻汁は密接な関係があると言われ、例えば、北極とハワイでは北極の方が鼻汁が出やすいイメージであろう。アレルギー性鼻炎の人も漢方医学的には冷えていることが多く、小青竜湯を頻用する。ちなみに温める力は麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)の方がさらに強い
  • 麻黄、半夏、細辛には利水作用があり、水様性鼻汁や水様性喀痰などを減らす作用がある
  • 半夏、五味子、細辛には鎮咳・去痰作用がある。
  • 五味子、細辛には抗ヒスタミン作用があり、小青竜湯がアレルギー性鼻炎に有効な報告もある5)
  • よって、小青竜湯は温める方向性の薬剤であり、水様性鼻汁を主体とした風邪に適合しやすい。また、症状としては水様性鼻汁だけでなく軽度であれば咳嗽や水様性喀痰病態としては風邪だけでなく冷えやアレルギーの関与にも対応できる。
使い方のポイント
  • 風邪の治療全般に該当することだが、風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。
  • 水様性鼻汁があればとりあえず小青竜湯」は、あながち間違っていない。鼻汁の原因が判断しづらくても、風邪、冷え、アレルギーの関与を全てカバーするからである
  • ただ、本格的なアレルギー性鼻炎には不十分なことがあり、抗ヒスタミン薬を優先的あるいは併用する場合が多い。小青竜湯の利点は、眠気の副作用が少ないことである。麻黄(エフェドリン)が含まれているため、むしろ覚醒の方向性の薬剤である。よって例えば、朝や昼に小青竜湯夕や寝る前に抗ヒスタミン薬などの組み合わせもよいかもしれない。
  • 小青竜湯は、葛根湯のように発汗を目標に多めに服用することはしないが、初回に2包の服用や、初日に1日4回程度の服用などは試みてもよい。
  • 小青竜湯の温熱作用をより効率的にひきだすために、「熱いお湯で服用する(可能なら溶かす)」「体を温める環境にする(服装、室温など)」「体が温まる食事を摂る(スープなど)」などを併用すると更に効果的。
  • 小青竜湯は風邪のひき始めだけでなく、風邪が治るまで長期的に服用してもよい
  • 小青竜湯が飲みづらい(酸っぱい)場合は製薬会社によっては錠剤も選択できる。小児の場合、飲みやすくなる方法として「りんごジュース、蜂蜜、服薬ゼリーなどと混ぜる」があるが、あとは児の好みに合わせる。
  • ツムラ社の小青竜湯は1日9gのタイプであり、小児は0.1〜0.2mg/kg/日より少し多めでもよい。
  • 小青竜湯単独で効果不十分な場合は下記を参考に他剤との併用をお勧めする。個人的には効果を優先して初めから併用することも少なくない。鼻汁が改善しない場合は、冷え性であれば麻黄附子細辛湯(まおうぶしさいしんとう)(127)を併用あるいは変更冷え性でなければ五虎湯(ごことう)(95)を併用中等度以上の鼻閉や黄色鼻汁を伴う場合は辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)(104)を併用あるいは変更咳嗽を伴う場合は五虎湯を併用咽頭痛を伴う場合は桔梗湯(ききょうとう)(138)や小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)を併用
  • 麻黄の副作用が気になる場合は小青竜湯から麻黄を除いた苓甘姜味辛夏仁湯(りょうかんきょうみしんげにんとう)(119)を使用。
副作用・注意事項
  • 味は酸っぱい
  • エフェドリンが主成分である麻黄が含まれているため、胃もたれ、口渇、尿閉、動悸などに注意が必要(特に多めに服用する場合)。
  • 甘草が含まれているため、偽アルドステロン症に注意が必要。短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
事例
7歳女児。よく風邪をひき、こじらしている。アレルギー性鼻炎もあり標準的加療はされているが、水様性鼻汁が毎朝でている。風邪のパターンとしては、初めに水様性鼻汁の増悪があり、その後、咳嗽や副鼻腔炎を認めるようになる。冷え性ではない。
処方:小青竜湯1回1包 1日2回 朝夕食間 14日分

2週間後:「小青竜湯を飲んでから鼻水が出なくなった」
2ヶ月後:「先日、少し風邪ぎみだったが悪化せず、すぐに良くなった」
以後、経過良好。

文献
1)Nagai T. et al.:In vivo ant-influenza virus activity of Kampo (Japanese herbal) medicine ‘Sho-Seiryu-To’ and its mode of action. Int J Immunopharmacol, 16 : 605-613, 1994.
2)宮本昭正,他:TJ-19 ツムラ小青竜湯の気管支炎に対するPlacebo対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 17 : 1189-1214, 2001.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
5)馬場駿吉,他:耳鼻咽喉科疾患とEBM-アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の薬効評価を中心に-. Prog Med, 22(9), 2123-2126, 2002.

咽頭痛の風邪×桔梗湯(ききょうとう)(138)

《こんな時困りませんか?》
患者「風邪をひくと喉が痛くなり熱が出るので困っています」

ポイント
・桔梗湯は咽頭痛に対して気軽に使用できる。
・効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」。
・西洋薬で例えると「トローチ+トラネキサム酸」?

 
総論
  • 咽頭痛の風邪とは、咽頭炎や扁桃炎など咽頭痛が主体のウイルス性上気道炎を指す。
  • 桔梗湯の抗炎症作用や鎮痛作用を期待して、A群溶連菌性咽頭炎などの細菌性疾患にも使用できる
  • 対象者の分布としては小児〜高齢者と幅広い
西洋薬との位置づけ
  • 桔梗湯は主に咽喉頭部へ局所的に作用する対症療法の薬剤である。すなわち、葛根湯などのように体全体に働きかけ自己免疫力を高めてウイルスを減らすような作用は乏しい。
  • よって、西洋薬のトローチやトラネキサム酸などと同じ立ち位置であり、これらの薬剤と併用あるいは優先的に使用する。
  • 個人的にはトローチやトラネキサム酸よりも速効性、有効性に優れていると感じている難点は顆粒であることで、漢方薬が飲めそうであれば優先的にお勧めしている。
漢方薬解説
  • 桔梗湯は、桔梗(ききょう)と甘草(かんぞう)の2つの生薬で構成されている。漢方薬は生薬の数が少ないほどキレが良いため、桔梗湯は速効性に優れている
  • 桔梗と甘草には抗炎症作用、鎮痛作用がある1)2)3)。桔梗には排膿作用、鎮咳去痰作用などもある。
  • 桔梗湯はうがい薬として使用してもよい(粘膜から直接吸収される可能性がある)。
使い方のポイント
  • 風邪の治療全般に該当することだが、風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。「あれ?風邪をひいたかも」という時期に治療を開始し、その日に治すことがコツ
  • 数日経過して症状が悪化した場合、多彩な風邪症状が出現した場合には負け戦であり、漢方薬を駆使しても治すのに時間がかかる。
  • よって患者が外来に来院する頃はすでにゴールデンタイムを過ぎていることが多く、理想は手元に漢方薬を常備しておき、風邪のひき始めに治療を開始することである。
  • 桔梗湯の使用については、漢方医学的な証(適応)の判断がシンプルで、咽頭痛に対して気軽に選択できる
  • 効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」である。もちろん、服用のみでも効果はあるが、うがいを併用する方が喉へ直接的に作用するため速効性がある。飲めない場合は「うがいのみ」でも可
  • 西洋薬で例えると、トローチ+トラネキサム酸だろうか。
  • 桔梗湯は甘くて飲みやすい。また速効性もあるため、漢方が苦手な人でも桔梗湯を気に入ることが多い
  • 桔梗湯は風邪だけでなく、“嗄声(声がれ)”“喫煙による咽頭痛”“頸部リンパ節炎”“頭頸部癌の放射線治療による粘膜炎3)”など咽喉頭部に炎症がありそうな病態に幅広く使用できる
  • 他の漢方薬と併用も可能。例えば、鼻汁と咽頭痛の風邪に対して、小青竜湯(しょうせいりゅうとう)(19)と桔梗湯を併用してもよい。その場合、桔梗湯のキレを活かすために、小青竜湯とは30〜60分程度ずらし単独で服用した方が効果的。
  • 類似処方として、小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)がある。本剤には桔梗湯も含有されているが、小柴胡湯や石膏が加わり、抗炎症作用により優れる。抗炎症作用は喉を中心に体全体にも作用するため、桔梗湯のような対症療法のみならず風邪自体を治す働きがある。桔梗湯よりも速効性にやや劣る(それでも時間単位で効く)が、急性期〜慢性期あるいは再発性の咽頭炎・扁桃炎などに継続的に服用することも多い。味はやや苦く、うがいは基本的にしない(しづらい)。無理矢理に西洋薬で例えるなら、桔梗湯はトローチ+トラネキサム、小柴胡湯加桔梗石膏はトラネキサム酸+ステロイドか
副作用・注意事項
  • 味は甘い。
  • 甘草3g/日と比較的量が多いため、偽アルドステロン症に注意が必要。短期間の服用であればあまり気にしなくてよい。
事例
32歳女性。今朝から咽頭痛を認める。これまでも時々風邪をひいているが、パターンとしては喉が痛くなり、数日後から発熱するため、抗生剤を頻用している。トラネキサム酸も効かない。咽頭発赤あり。扁桃腺腫大なし、白苔なし。
処方:桔梗湯1回1包 1日3回 食間 7日分
(お湯で溶かしうがいして内服)
1週間後:「桔梗湯を飲んだ直後から喉の痛みが和らぎ、発熱せずに良くなった」
2ヶ月後:「この前、また喉が痛かったが、桔梗湯を飲むとすぐに良くなった。また処方してください。」
以後、経過良好。

文献
1)高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
2)Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
3)Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pham Bull, 18:559-62, 1995.
4)田中ふみ,他:桔梗湯により放射線照射による食道炎・喉頭炎,口内炎の痛みを緩和できた2症例. 日本ペインクリニック学会誌, 24(2):341-344, 2017.

粘液性の後鼻漏×辛夷清肺湯(しんいせいはいとう)(104)

《こんな時困りませんか?》
患者「副鼻腔炎の治療をしてもドロっとした後鼻漏が残っています」

ポイント
・辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤。
・黄色鼻汁や鼻閉などを伴う副鼻腔炎や慢性鼻炎に頻用される。
・その中でも特にドロっとした粘液性の後鼻漏に対して有効性が高い。

 
総論
  • 粘液性の後鼻漏とは、ドロっとした後鼻漏を指す。サラサラした漿液性の後鼻漏は他剤を優先する(後述)。
  • 辛夷清肺湯は、ウイルス性〜細菌性急性〜慢性や再発性軽症〜重症白色〜黄色(膿性)と幅広く使用できる。
  • 基礎疾患は問わない
西洋薬との位置づけ
  • 後鼻漏は副鼻腔炎、慢性鼻炎、アレルギー性鼻炎などが原因となることが多いが、標準的治療にて改善が乏しい場合、繰り返す場合には漢方薬も選択肢の一つに挙がる。
  • 辛夷清肺湯は抗炎症作用などがあるため、抗菌薬が適応の場合でも併用する価値があると思うが、特に抗菌薬が適応外の場合には第一選択となりうる。
  • すなわち、どのような病態でも粘液性の後鼻漏があれば辛夷清肺湯を使用してよい
漢方薬解説
  • 辛夷清肺湯は、辛夷(しんい)、石膏(せっこう)、黄芩(おうごん)、山梔子(さんしし)、知母(ちも)、百合(びゃくごう)、麦門冬(ばくもんどう)、枇杷葉(びわよう)、升麻(しょうま)の9つの生薬で構成されている。
  • 石膏、黄芩、山梔子、知母、升麻には抗炎症作用、辛夷には鼻閉改善作用、知母、百合、麦門冬には滋潤作用(潤す)、百合、麦門冬、枇杷葉には鎮咳去痰作用などがある(無理矢理に西洋医学で例えると抗菌薬+ステロイド点鼻薬+鼻洗浄+カルボシステインか)。
  • すなわち、辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤であるため、副鼻腔炎などに頻用されている。その中でも特に抗菌薬適応外の粘液性の後鼻漏に対して有効性が高い
使い方のポイント
  • 上記のように、さまざまな病態において粘液性の後鼻漏があれば辛夷清肺湯を使用してよい
  • また、抗炎症作用、鼻閉改善作用、鎮咳去痰作用があるため、後鼻漏だけでなく黄色鼻汁、鼻閉、喀痰などを呈する副鼻腔炎、慢性鼻炎、鼻茸などの治療薬としても有用性が高い1)2)
  • しかし「抗菌薬の適応」については見逃さないように注意する。
  • 慢性あるいは再発性の場合は継続的に使用する場合が多いが、副鼻腔炎の再発、急性増悪の頻度も(抗菌薬の使用も)減る印象
  • 辛夷清肺湯のみで効果不十分な場合は更に抗炎症作用を高める目的で、小柴胡湯加桔梗石膏(しょうさいことうかききょうせっこう)(109)や桔梗石膏(ききょうせっこう)(N324)を、排膿作用を高める目的で排膿散及湯(はいのうさんきゅうとう)(122)を併用する。
  • 小児に対しては葛根湯加川芎辛夷(かっこんとうかせんきゅうしんい)(2)を優先的に使用することが多い(飲みづらければ葛根湯でも可)。
  • 咽頭痛が併存する場合には小柴胡湯加桔梗石膏や桔梗石膏を併用する。
  • サラサラした漿液性の後鼻漏には小半夏加茯苓湯(しょうはんげかぶくりょうとう)(21) の有効性が高い3)。小半夏加茯苓湯が含まれている半夏厚朴湯(はんげこうぼくとう)(16)でも代用可。
副作用・注意事項
  • 味はやや苦い
  • 黄芩が含まれているため、肝障害や間質性肺炎に注意が必要(特に肝障害)
事例
43歳女性。これまで2、3ヶ月に1回の頻度で副鼻腔炎を繰り返しており、その度に抗菌薬を服用している。抗菌薬を服用後もドロっとした後鼻漏は持続している。
処方:辛夷清肺湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
2週間後:「後鼻漏は良くなりました。すっきりしました!」
4ヶ月後:「あれから副鼻腔炎が悪くならずに調子良いです」
6ヶ月後:「辛夷清肺湯を止めてみたらまた後鼻漏も副鼻腔炎も悪化したため、また処方してください」

文献
1)加藤昌志,他:鼻茸を伴う副鼻腔炎の辛夷清肺湯治療. 耳鼻臨床, 87(4): 561-568, 1994.
2)桜田隆司,他:慢性副鼻腔炎に対する漢方製剤の治療成績. 耳鼻臨床, 85(8): 1341-1346, 1992.
3)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011

色白女性の月経痛×当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)

《こんな時困りませんか?》
患者「生理痛が辛いのですが病院では異常なしと言われました。ピルは怖いので他の方法はありませんか?」

ポイント
・当帰芍薬散の適応者は、瘀血、水毒、冷えのある色白女性に多い。
・当帰芍薬散で効果不十分な場合には他剤を合わせることが多い。
・当帰芍薬散は月経痛だけでなく、月経周期の頭痛や浮腫などにも頻用される。

 
総論
  • 当帰芍薬散の適応者の典型例は、大正ロマンの代表画家である竹久夢二の美人画のような色白の美人女性といわれ、昔から「当芍とうしゃく美人」とも称されている。もちろんこれらは参考になるが、限定すべきでない(美人でなくてもよい)。
  • また、細身の女性が多いと言われているが、個人的には体型よりも肌の質感(表現が難しいが瑞々みずみずしさや多少の皮下脂肪でプヨプヨした感じ)を重要視している。
  • 月経痛への使用は特に基礎疾患の有無を問わない。
西洋薬との位置づけ
  • 月経痛の治療薬として、一般にはNSAIDsや低用量ピルなどがあるが、漢方薬も選択肢の一つとなる。薬剤の利点や難点を考慮して選択されると思うが、漢方薬には1つの薬剤で月経痛以外の症状も軽減する可能性があること(後述)、当帰芍薬散に関しては副作用が比較的少ないことなどは利点となる。
  • 少なくとも漢方薬と西洋薬との併用は可能
  • 確かに子宮内膜症や子宮筋腫などの基礎疾患の有無で漢方薬の反応に差があるが試す価値はあると思う。
  • 患者の性格や考え方を重要視しながら、基礎疾患や薬剤の反応をみて、患者と一緒に治療方針を検討していくことが大切。
漢方薬解説
  • 当帰芍薬散は、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、沢瀉(たくしゃ)の 6つの生薬で構成されている。
  • 当帰芍薬散は大きく3つの病態に対応する。
    瘀血おけつ:血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経痛、月経不順、月経周期の頭痛などの月経随伴症状が含まれる。当帰、川芎に駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用1)がある。
    水毒すいどく:水分代謝異常を指し、浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。また舌の腫大(浮腫)水分摂取後に胃でチャポチャポと音がするなども徴候の一つとされている。朮、茯苓、沢瀉に利水作用があり、これらの症状に対応する。
    冷え:特に手足の末端を中心とした冷え性タイプを指す。当帰、芍薬に温熱作用がある。また、駆瘀血作用も加わり血行不良を改善して体を温める働きがある。
  • また補足として、当帰、芍薬、川芎には補血作用があり貧血2)や乾燥肌にも対応し、芍薬、川芎には鎮痙・鎮痛作用があるため、月経痛や頭痛にも対応している。
  • すなわち、当帰芍薬散は色白で(貧血も含む)冷えや浮腫があり、月経痛などの月経随伴症状のある女性に適応となりやすい
使い方のポイント
  • 上記の理由にて、当帰芍薬散は瘀血、水毒、冷えのある女性の月経痛に第一選択として用いられる3)。分布として、なぜか色白の人に適応者が多い
  • 効果発現としては、早い場合で服用数日後の月経痛が和らぐこともある。数ヶ月間、経過しても月経痛が改善しない場合は他剤の併用あるいは変更を検討する(器質的疾患の精査は必要)。個人的には当帰芍薬散の典型例であれば変更せずに他剤を併用することが多い
  • その他の漢方薬の鑑別は、イライラ、肩こり、緊張性頭痛、不眠などがある場合は加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)、手足末端の冷え、しもやけなどが強い場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)、より虚弱・華奢な場合や胃腸症状がある場合には当帰建中湯(とうきけんちゅうとう)(123)、上部消化器症状(胃痛や胸焼け)を伴う場合は安中散(あんちゅうさん)(5)、手湿疹や乾燥が強い場合は温経湯(うんけいとう)(106)、これらの特徴がない場合は桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)あるいは桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)、疼痛時の頓用として使用する芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)(68)などがある。
  • また、冷えがなく暑がりの人には当帰芍薬散よりも桂枝茯苓丸や加味逍遥散の方が適合しやすい。
  • 当帰芍薬散は月経痛だけでなく、①瘀血では月経不順、不妊、月経周期の頭痛②水毒では浮腫、低気圧時の頭痛、めまい③冷えではしもやけ、レイノー徴候などにも有効な場合があるため、例え月経痛が改善しなくてもその他の利点で継続することも少なくない。
副作用・注意事項
  • 当帰、川芎による胃もたれが稀にある。
  • 当帰、川芎はセリ科の植物であるため、セロリが苦手な人には飲みづらい可能性がある。
  • 妊娠した場合、漢方薬の服用については賛否両論あるが、当帰芍薬散に関しては切迫早産、子宮の張り、浮腫などに効果があるため継続してもよいと思われる(悪阻で服用できないことも多いが)。
事例
23歳女性。色白で体型は痩せ型。以前から月経痛が強く、月経時の数日間はNSAIDsを1日3回服用しているがあまり効果がない。下肢はむくみやすく、月経前と曇天時に頭痛を認めている。手足の先が冷えやすい。婦人科を受診したが特に異常所見はなく、ピルを勧められたがその他の方法を希望され当院へ受診された。
処方:当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
2週間後:「足のむくみが少し減りました。雨降り前の頭痛もなかったです」
1ヶ月後:「生理痛は軽くて痛み止めは1回だけ飲みました。頭痛もなかったです」
2ヶ月後:「生理痛はあまりなく痛み止めも飲んでいません。頭痛もなく調子良いです」
以後、経過良好。

文献
1)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
2)Akase T, et al.:Efficacy of Tokishakuyakusan on the anemia in the iron-deficient pregnant rats. Biol Pharm Bull, 30:1523-1528, 2007.
3)Kotani N, et al.:Analgesic effect of a herbal medicine for treatment of primary dysmenorrhea - a double-blind study. The American Journal of Cinese Medicine, 25:205-12, 1997.

女性のイライラ×加味逍遥散(かみしょうようさん)(24)

《こんな時困りませんか?》
患者「更年期のせいか、イライラしやすくなり頭痛や不眠にも困っています。」

ポイント
・加味逍遥散は特に女性ホルモンの揺らぎによるイライラに有効性が高い。
・イライラ以外に、自律神経症状、精神症状、月経随伴症状などにも対応する。
・加味逍遥散で効果不十分なイライラには抑肝散を併用する。

 
総論
  • 女性のイライラに対して原因を問わず使用できるが、特に月経前症候群(月経前不快気分障害)や更年期障害などの女性ホルモンの揺らぎによるイライラには有効性が高い
  • 主な対象年齢は2070が中心。
  • 男性のイライラにも使用することはあるが、他剤を優先することが多い(後述)。
西洋薬との位置づけ
  • 例えば、月経前症候群のイライラに対する治療薬としては、一般には低用量ピル、抗不安薬、抗うつ薬などがあるが、漢方薬も選択肢の一つとなる。薬剤の利点や難点を考慮して選択されると思うが、漢方薬には1つの薬剤でイライラ以外の症状も軽減する可能性があること(後述)、加味逍遥散に関しては副作用が比較的少ないことなどは利点となる。
  • 少なくとも漢方薬と西洋薬との併用は可能
  • うつ病など中等度以上の精神疾患がある場合は西洋薬との併用が望ましいことが多い。
漢方薬解説
  • 加味逍遥散は、柴胡(さいこ)、山梔子(さんしし)、薄荷(はっか)、牡丹皮(ぼたんぴ)、当帰(とうき)、芍薬(しゃくやく)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、生姜(しょうきょう)、甘草(かんぞう)の 10種類の生薬で構成されている。
  • 加味逍遥散は大きく3つの病態に対応する。
  • 気逆きぎゃく:気が上向きのベクトルである病態を指し、イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュなどの主に自律神経症状が含まれる。
  • 気鬱きうつ:“うつ”と類似しており、抑うつ、不眠などの主に精神症状が含まれる。
    柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称され、肩こりや緊張型頭痛にも頻用される
  • 瘀血おけつ:血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経痛、月経不順、月経周期の頭痛・精神不安定・ざ瘡などの月経随伴症状や更年期障害といった女性ホルモン関連症状が含まれる。当帰、牡丹皮に駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用2)がある。
  • また、当帰、芍薬、朮、茯苓、甘草は気血(気力・体力)を補う作用があり、サポート役として働いている。イライラしてエネルギーを消耗すると疲れやすくなり、また疲れるとイライラしやすくなるため、このような構成になっていると想像する。
  • 加味逍遥散の最大の特徴は瘀血と気の異常(気逆・気鬱)を同時に治療できることである。瘀血や気の異常にそれぞれ対応する漢方薬は多く存在するが、1剤で網羅できる漢方薬は少ない。すなわち、月経前症候群(月経前不快気分障害)や更年期障害などの女性ホルモンに関連する自律神経症状、精神症状が加味逍遥散の最も得意とする分野である。
  • ちなみに、加味逍遥散は逍遥散という漢方薬に牡丹皮と山梔子が加味されたもの。逍遥は「目的もなくブラブラと歩くこと」という意味で、坪内逍遥が有名。この漢方薬が女性の不定愁訴に使用される所以である。
  • また、少し余談であるが、加味逍遥散が適応になりやすい性格や特徴もあるといわれている。筆者はこれを加味逍遥散気質と呼んでいる。加味逍遥散気質には、他罰的(何か問題があると自分以外のせいにする)、自己中心的(待ち時間にクレームをつけるが自身の診療時間は気にせず話す)、遠慮がない(「この薬は効かなかった」など医療者がムッとするようなことを平気で言う)、余裕がなくリラックスできない(常に過緊張状態)、ストレスをうまく処理できず外に発散する、几帳面・神経質で自他に厳しいなどの傾向がある3)4)。離婚歴があることも少なくない。これらの気質がさまざまな愁訴を惹き起こしている可能性がある。もちろん、そのような気質がないと加味逍遥散が適合しないわけではないが、1つの参考になる(加味逍遥散気質については文献3,4に詳しく記載している)。
使い方のポイント
  • 特に女性ホルモンの揺らぎによるイライラに有効性が高いが、原因を問わず女性のイライラに使用できる
  • 加味逍遥散の服用方法は基本的に頓用よりも定期使用。頓用の場合は抑肝散(よくかんさん)(54)の方がよい。
  • 月経前症候群に対して、月経前のみ加味逍遥散を服用する方法もあるが、効果不十分な場合が多く、定期的に服用することをお勧めする。
  • 加味逍遥散で効果不十分なイライラには抑肝散を併用する(変更でも可)
  • 一般に加味逍遥散は女性の不定愁訴に用いると言われているが、すべての症状を治療できるわけではない。①気逆:イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュ②気鬱:抑うつ、不眠、肩こり、緊張性頭痛③瘀血:月経痛、月経不順、月経周期の頭痛・精神不安定・ざ瘡、更年期障害などが主な守備範囲であり5)6)、これらの病態以外には他剤を選択する必要がある。例えば、低気圧時の頭痛、むくみなどの水毒といわれる病態には効果が乏しく、五苓散などの利水薬を用いる。実際、加味逍遥散でさまざまな症状が落ち着く経過をみていると、不定愁訴ではなく多愁訴なだけだと感じる。
  • 加味逍遥散が適合しやすい年齢は20〜70代が中心で、10代以下のイライラには抑肝散80代以上のイライラには抑肝散や釣藤散(ちょうとうさん)(47)を使用することが多い。
  • イライラ+うつであれば、加味帰脾湯(かみきひとう)(137)も鑑別に挙がる。イライラ>うつだと加味逍遥散、イライラ<うつだと加味帰脾湯。加味逍遥散と併用する場合は重なる生薬の関係で帰脾湯(きひとう)(65)の方が望ましい。
  • 男性のイライラには、黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)、柴胡加竜骨牡蛎湯(さいこかりゅうこつぼれいとう)(12)、抑肝散などを優先することが多い。
副作用・注意事項
  • 下痢:これは山梔子の影響と言われている。しかし、山梔子の入った漢方薬が同程度に下痢を起こすわけではないので、個人的には加味逍遥散の緊張を緩める作用も関係していると思っている。投与量を減らすことで軽減できる。
  • 眠気:これも上記と同様の理由だろうか。
  • 甘草による偽アルドステロン症
  • 腸間膜静脈硬化症(長期服用例)
事例
48歳女性。最近、イライラすることが多くなり、頭痛や不眠も認めるようになった。半年前から月経がない。頭痛は週の半分以上の頻度で肩こりを伴う。睡眠は浅く、中途覚醒を3、4回認める。抑うつ気分や興味の喪失などはない。
処方:加味逍遥散11包 1日3回 朝夕食後・寝る前 14日分
14日後:「イライラはだいぶよいです。頭痛もこの1週間は1回のみ。夜も途中で目が覚めなくなりました」
1ヶ月後:「調子はよいです。イライラも頭痛もあまり気になりません」

文献
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
2)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
3)土倉潤一郎,他:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂, 98(7): 1104-1110, 2016.
4)土倉潤一郎,他:飯塚病院 月曜カンファレンス 臨床経験報告会より『最近の治験・知見・事件!?⑩』. 漢方の臨床, 60(12):1998-2008, 2013.
5)喜多敏明,他:不定愁訴に対する加味逍遥散の作用. 日本東洋医学雑誌, 48(2): 217-224, 1997.
6)川口恵子,他:月経前症候群に対する加味逍遥散を中心とした漢方療法. 日本東洋医学雑誌, 56(1): 109-114, 2005.

小児のイライラ×抑肝散(よくかんさん)(54)

《こんな時困りませんか?》
患者「試行錯誤していますが、子供の癇癪が治まらないので疲弊してきました」

ポイント
・小児のイライラに対して、成長過程や発達障害など原因を問わず使用できる。
・抑肝散には鎮静作用・自律神経安定作用に加え、気力や体力を補う作用もある。
・イライラ以外に、夜泣き、チック、不眠、眼瞼痙攣などにも頻用される。

 
総論
  • 小児のイライラに対して、成長過程や発達障害など原因を問わず使用できる
  • 抑肝散は全年齢層のイライラに使用できるが、小児が最も有効性が高いと感じる
西洋薬との位置づけ
  • 自閉スペクトラム症や注意欠如多動症などの発達障害における西洋薬はいくつかあるが、漢方薬も十分選択肢の一つ(場合によっては優先的に使用)となり得る
  • 基礎疾患のない小児のイライラ、幼児の夜泣きなど西洋医学には治療薬がない分野にも使用できる。これらは成長過程の1つかもしれないが、個人的には漢方薬をうまく利用して親子ともに少しでも笑顔で過ごした方がよいのではないかと思っている
  • あとは児が飲めるかだけ。
漢方薬解説
  • 抑肝散は、柴胡(さいこ)、釣藤鈎(ちょうとうこう)、当帰(とうき)、川芎(せんきゅう)、朮(じゅつ)、茯苓(ぶくりょう)、甘草(かんぞう)の 7種類の生薬で構成されている。
  • 柴胡、釣藤鈎には鎮静作用、自律神経安定作用があり、イライラ、興奮、多動、不眠などに対応する。脳が興奮しオーバーヒートしている状態を整えてくれるイメージ。
  • 当帰、川芎、朮、茯苓、甘草は気血(気力・体力)を補う作用があり、サポート役として働いている。イライラしてエネルギーを消耗すると疲れやすくなり、また疲れるとイライラしやすくなるため、このような構成になっていると想像する。
  • すなわち抑肝散は、「イライラ・興奮」+「気力・体力低下」に対応し、小児、高齢者、虚弱体質などの体力が低下しやすい人のイライラに頻用される
  • 抑肝散は「肝を抑える」とあるが、東洋医学では肝の異常によりイライラが起こりやすくなるといわれている。「疳の虫を抑える」と解釈するとイメージしやすい。
  • 昔から小児のイライラや夜泣きに樋屋奇応丸が有名であるが、構成生薬は異なるものの、使うイメージは同様である。
  • 漢方の大家の言葉に「怒気は無しやと問うべし。若し怒気あらばこの方効なしということなし(抑肝散は怒りを目標に使用する) (浅田宗伯)」1)「本方は小児のひきつけに用いられた。肝気が亢ぶって神経過敏となり、怒りやすく、いらいらして性急となり、興奮して眠れないという、神経の興奮を鎮静させる働きがある。(矢数道明)」2)などがあり参考になる。
使い方のポイント
  • 抑肝散は小児のイライラに原因を問わず使用できる。ただ、発達障害などが基礎疾患にあると有効率は下がる。
  • 比較的速効性があるため、一時的なイライラには頓用でも可繰り返す場合は定期服用する
  • 効果判定は1〜2週間で可能。
  • 効果不十分な場合は、①抑肝散の量を増やす他剤への変更や併用を検討する。
  • 小児のイライラの鑑別処方としては、大柴胡湯(だいさいことう)(8)黄連解毒湯(おうれんげどくとう)(15)などがある。いずれも苦いが製薬会社によっては錠剤やカプセルが用意されている。大柴胡湯には下剤が入っているので便秘がない場合は大柴胡湯去大黄(だいさいことうきょだいおう)(コタロー社,N319)を選択する。特に自閉症には抑肝散+大柴胡湯(去大黄)でないと効かない場合がある。
  • (シクシクではなく)ワーッと泣く場合やパニック障害には甘麦大棗湯(かんばくたいそうとう)(72)を優先的に使用あるいは併用する。
  • 食欲不振を伴う場合は抑肝散加陳皮半夏(よくかんさんかちんぴはんげ)(83)を用いる。抑肝散加陳皮半夏は抑肝散+六君子湯に近い。
  • 抑肝散は小児のイライラ以外に、夜泣き、チック、不眠、眼瞼痙攣などにも頻用される。また、高齢者であるが近年では認知症の周辺症状(特にイライラ、興奮などの陽性症状)にも頻用される3)
  • 教科書的には0.1〜0.2mg/kg/日などと記載されているが、児に合わせて飲めそうな量で設定してよい。
  • 漢方薬の量は厳密でなくてよいこと、分包の手間などを考慮して、例えば3歳児の親に「1日1包朝食後で処方しておくけど、朝と夕に目分量で半分ずつ分けて飲ませてね」というやり方もアリだと思う。
  • 児の服薬アドヒアランス向上には親の役割が大きい親に「この漢方薬を飲ませたい」と思ってもらうかが重要
  • 飲み方にも特に制限はない。味や顆粒が苦手など、児によって問題点が異なるため、個々で対応していくことが大切。“飲ませる意気込み”をもった親であれば児に合わせていろいろな手段を考え、飲ませてくれる。
  • 例えば、りんごジュース、蜂蜜、チョコレート飲料、ココアなどと混ぜる、ご褒美に飴をあげるなど、家庭によってやり方はさまざまである。
  • 味が苦手な場合は、抑肝散より飲みやすい甘麦大棗湯から始める方法もある
  • ちなみに、抑肝散の原典「保嬰撮要(1556年)」には「子母同じく服す」とあり、昔から抑肝散は母子同服(親も一緒に服用する)が良いとされている。児のイライラによって親もイライラして、悪循環になるからだろうか。
副作用・注意事項
  • 甘草による偽アルドステロン症の可能性があるが、小児に関してはあまり気にしなくてよい。
  • 服薬アドヒアランスが一番の問題点。
事例
5歳男児。以前からよく癇癪を起こすため、両親がいろいろと対策を考え、試行錯誤していた。しかし、最近は特に激しく、親も疲弊し気持ちに余裕がなくなっている。小児科では、発達障害の可能性は低いと言われている。
処方:抑肝散11包 1日1回 朝食後 14日分
(朝夕に0.5包ずつ内服しても可)
14日後:「りんごジュースと蜂蜜に混ぜて飲んでいます。以前より良いですが、まだ癇癪はあります。」
処方:抑肝散11包 1日2回 朝夕食後 14日分
14日後:「癇癪はほとんどなくなりました。私(親)も楽になりました。でも漢方薬を飲み忘れるとまた癇癪を起こすので継続します」

文献
1)浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣, 近世漢方医学書集成96(大塚敬節,矢数道明編). 名著出版, 110, 1982.
2)矢数道明:臨床応用 漢方処方解説 増補改訂版. 創元社, 599, 1981.
3)Matsuda, Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.

しもやけ×当帰四逆加呉茱萸生姜湯(とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう)(38)

《こんな時困りませんか?》
患者「皮膚科で治療しても毎年しもやけができるので困ります」

ポイント
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯は「血流障害+冷え+疼痛+浮腫」に対応できる。
・しもやけは寒冷による血流障害であり、疼痛や浮腫も伴うため適合しやすい。
・末端冷え性、末梢循環障害(レイノー等)、冷えタイプの疼痛にも頻用される。

 
総論
  • 一般的なしもやけ(凍瘡)だけでなく、膠原病が関与した凍瘡様皮疹などにも使用できる。
  • しもやけの症状には紅斑、浮腫、疼痛、痒みなどがあるが、いずれにも対応できる。
西洋薬との位置づけ
  • しもやけに対する西洋薬はあるが、漢方薬を優先的にあるいは併用で使用できる。
  • 個人的には西洋薬よりも漢方薬の方が有効性に優れている印象
漢方薬解説
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、当帰(とうき)、桂皮(けいひ)、細辛(さいしん)、木通(もくつう)、芍薬(しゃくやく)、甘草(かんぞう)、大棗(たいそう)、呉茱萸(ごしゅゆ)、生姜(しょうきょう)の 9種類の生薬で構成されている。
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯の名前は長いが、当帰四逆湯に呉茱萸と生姜が加わったものという意味が含まれている。
  • 当帰には末梢循環改善作用があり、血流障害などに対応する1)
  • 当帰、桂皮、細辛、呉茱萸、生姜には温熱作用があり、冷えに対応する1)2)
  • 細辛、芍薬、甘草、呉茱萸には鎮痛作用があり、疼痛に対応する。
  • 木通には利水作用(抗浮腫作用)があり、浮腫に対応する。
  • すなわち当帰四逆加呉茱萸生姜湯は、主に「血流障害+冷え+疼痛+浮腫」に対応できる漢方薬である。
  • しもやけは寒冷による血流障害であり、疼痛や浮腫も伴うため適合しやすい
  • しもやけ以外では同様の理由で、末端冷え性1)2)、末梢循環障害(レイノー症候群3)、閉塞性動脈硬化症4))、冷えタイプの疼痛(月経痛、頭痛、腰痛、腹痛)などにも頻用される。
使い方のポイント
  • 当帰四逆加呉茱萸生姜湯は原因を問わず、しもやけに使用できる。ただ、膠原病などの基礎疾患があると有効率は下がる。
  • 服薬期間に関しては、しもやけを発症した時のみでも効果は見込めるが、難治性の場合はシーズン前からの開始、あるいは体質改善目的に一年中服用することもある。
  • しもやけの症状はいくつかあるが、冷えや紅斑よりも疼痛の方が改善しやすい印象。例えば、「赤くはなるがこれ以上悪くならない」という患者も少なくない。
  • 効果不十分な場合は下記薬剤を併用する。血流障害が強い場合には桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(けいしぶくりょうがんかよくいにん)(125)。血流障害+浮腫がある場合は当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)(23)。冷えが強い場合は真武湯(しんぶとう)(30)。高齢者、下肢の冷えなどが強い場合は牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)
  • しもやけは基本的に冷え性タイプにみられるが、まれに暑がりでも認めることがある。その場合は当帰四逆加呉茱萸生姜湯ではなく、桂枝茯苓丸(25)or桂枝茯苓丸加薏苡仁(125)を用いる。
副作用・注意事項
  • 甘草による偽アルドステロン症に注意。
  • 稀だが胃もたれにも注意。
  • 味は苦い。
事例
78歳女性。皮膚科で内服薬と軟膏を処方されているが、毎年、手足にしもやけができる。今年の冬も手足の先に紅斑、浮腫、疼痛を認めている。
処方:当帰四逆加呉茱萸生姜湯11包 1日3回 食後 14日分
14日後:「痛みは良くなりました」
1ヶ月後:「まだ手足は冷たいですが、赤みや浮腫も取れました」

文献
1)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
2)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
3)金内日出男:レイノー病と慢性動脈閉塞症,膠原病におけるレイノー現象の臨床症状とサーモグラフィーを用いた皮膚温との比較-当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効評価. 公立豊岡病院紀要, 11:69-76, 1999.
4)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.

土倉監修 「高齢者心不全の7症候に対する11処方」 資材

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高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」解説

概論
高齢社会に伴い高齢者の心不全が増加している。心不全を管理するためには単に心臓の治療だけでなく、全身を診る必要がある。また高齢者においては加齢に伴い病態が複雑になるため、さまざまなアプローチが必要となる。
高齢者心不全に漢方の出番はあるのか?
漢方には得意、不得意分野があるが、心不全自体の治療よりも、心不全患者の体調管理、QOLの改善を得意としている。ここに漢方の出番があると思われる。例えば、“めまい、倦怠感、下腿浮腫”などでADLが低下しリハビリテーションができなくなる、あるいは、“慢性下痢、便秘、食欲不振”などで腎機能や栄養状態が悪化しているとする。そのような状態を漢方薬で改善できれば、その結果、リハビリテーションが可能となり、栄養状態も回復する可能性がある。このように、間接的ではあるが漢方薬が心不全患者の生命予後の改善に貢献できるのではないかと思っている
高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」解説
この度、私が監修しツムラ社より高齢心不全患者の「7症候に対する11処方」を作成させて頂いた。これは製薬会社のプロモーション資材であるため、添付文書以上の文言で表現できないという縛りがあった。今回、十分に伝えきれなかった部分に対して補足をさせて頂く。ちなみに下記の症候は、基本的に標準的治療で効果が乏しい場合、精査で異常が認められない場合に漢方薬を使用することを想定している。
《便秘》
高齢者の便秘に対しては麻子仁丸(ましにんがん)(126)がお勧めである。麻子仁丸は比較的強い下剤であるため、一般的な下剤を2、3剤服用しても便が出にくい場合に追加することが多い。麻子仁丸には、大黄(センノシド類似成分)による瀉下作用(便を出す)、麻子仁・杏仁による潤腸作用(腸の中を潤して滑りを良くする)、枳実による腸管蠕動促進作用、厚朴・芍薬による鎮痙・鎮痛作用(腹満の改善。大黄による腹痛を減らす)などがある。麻子仁丸は高齢者の難治性便秘に第一選択薬となる。その他、兎糞状(コロコロした)の便にも頻用される。比較的味も飲みやすく、甘草や芒硝(マグネシウム類似成分)が含まれていないため、偽アルドステロン症のリスクは無く、腎不全の患者にも使用しやすい。
《その他の下部消化器症状》
これは主に「慢性下痢」についての解説である。本文の「体が冷えやすい」は「腸管の冷え」を意味する。治療のアプローチとしては、「腸管の冷え」の有無で分類する。「腸管の冷え」を伴う慢性下痢には腸管を温める漢方薬を用いると改善が早い。「腸管の冷え」は①冷たい飲食物を摂取して腹部症状が悪化する腹部を温めると軽減する冷え性の3つのうち1つでも該当すれば「腸管の冷え」があると捉える。
腸管の冷え」があり、「腹痛、腹満」を伴う場合には大建中湯(だいけんちゅうとう)(100)、「食欲不振」を伴う場合には人参湯(にんじんとう)(32)それ以外であれば真武湯(しんぶとう)(30)を選択する。大建中湯は一般に腸閉塞や便秘に使用されるが、効能としては「腸管を温め、腸蠕動を正常化する」働きがあり、下痢、腹痛、腹満にも大変有用である。
腸管の冷え」がない場合は五苓散(ごれいさん)(17)を選択する。
《上部消化器症状》
これは主に「食欲不振」についての解説である。冷え性の場合は、体を温める作用の人参湯(32)冷え性が軽度あるいは無しの場合は六君子湯(りっくんしとう)(43)を選択する。六君子湯が適合しやすい患者の徴候の1つに「舌の腫大(浮腫)」があるため、食欲不振の患者では舌を診ることをお勧めする。
《倦怠感》
倦怠感に対しては第一選択薬として補中益気湯(ほちゅうえっきとう)(41)第二選択薬として十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)(48)でよいと思われる。補中益気湯には胃の調子を整える作用があるため、食欲不振や胃が弱い人にも使用できる。十全大補湯は地黄という胃もたれに注意すべき生薬が含まれているが、その分、補中益気湯よりも効果が強い人参養栄湯(にんじんようえいとう)(108)は十全大補湯に五味子、遠志、陳皮が加わった処方であり、十全大補湯を使用するような人で主に呼吸器症状を伴う場合に選択する。
《めまい》
頭位性(頭の向きで悪化する)めまい、起立性(坐位や起立時に悪化する)めまいには苓桂朮甘湯(りょうけいじゅつかんとう)(39)を選択する。効果不十分な場合は五苓散(17)を追加する。浮動性(フワフワする)、動揺性(クラっとする)めまいには真武湯(30)を選択する。真武湯は温める漢方薬のために暑がりの人には適合しにくい。それ以外のめまいには五苓散(17)を選択する。
《下腿浮腫》
高齢者の下腿浮腫には牛車腎気丸(ごしゃじんきがん)(107)が第一選択薬である。牛車腎気丸は温める漢方薬であるため、冷え性に適合しやすい。また、牛車腎気丸は下腿浮腫だけでなく、フレイル、腰痛、下肢しびれなどの加齢に伴う諸症状にも適応がある。第二選択薬としては五苓散(17)がある。
《心不全》
心不全自体の治療に用いる漢方薬として木防已湯(もくぼういとう)(36)がある。木防已湯はラットで大動脈や肺動脈の血管拡張作用心収縮力増強作用などが認められており、主に左室収縮能の低下した心不全に使用される。
【効果判定・副作用】
上記の漢方薬はすべて2週間程度で効果判定が可能。少なくとも4週間で効果不十分な場合は変更あるいは併用を考慮する。
副作用は主に甘草による偽アルドステロン症があげられる。特に甘草の量が多い漢方薬高齢女性にはリスクが増えるため、長期服用の際は注意が必要である。

漢方スクエア連載「高齢心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」

総論

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便秘

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慢性下痢

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食欲不振

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倦怠感

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めまい

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下腿浮腫

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こむら返り

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風邪のひき始め

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漢方薬のハードルを下げるコツ

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Gノート おなかに漢方!  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

消化器疾患の術後

Ⅰ.Point

  • ①六君子湯のレスポンダーは「舌」で判断する。
  • ②大建中湯のレスポンダーは「腸管の冷え」で判断する。
  • ③次の一手として、茯苓飲や桂枝加芍薬湯も役に立つ。
 

Ⅱ. Keyword

六君子湯、大建中湯、消化器疾患術後

Ⅲ. はじめに

消化器疾患の術後に使用する漢方薬の代表として、上部消化管には六君子湯、下部消化管には大建中湯があります。しかし、全ての肺炎にセフトリアキソンを選択するわけでないのと同様に、漢方薬にも使い分けがあります。本編では、六君子湯や大建中湯のレスポンダーの特徴や、これらの漢方薬で効果不十分な場合の次の一手についてご紹介いたします。

Ⅳ.本文

1.消化器疾患術後の漢方レビュー
  • 1)六君子湯
    • ①薬理・作用
      • 六君子湯には食欲増進ホルモンであるグレリンの分泌促進作用がある1)
      • 胃適応性弛緩の改善2)胃排出能促進3)なども報告されている。
    • ②エビデンス
      • グレリンは、幽門側胃切除術で術前の約40%、胃全摘術で約10%程度に減少する4)
      • 六君子湯は胃切除後患者のグレリンを増加し、機能障害を改善させる5)
      • 六君子湯は幽門輪保存胃切除術後の胃の停滞症状を改善させる6)
  • 2)大建中湯
    • ①薬理・作用
      • 腸管運動亢進作用:セロトニン3型・4型受容体を介するアセチルコリン遊離促進7)、モチリン分泌促進8)などの機序で腸管運動亢進作用がみられた(ちなみに腸管運動過亢進モデルには運動抑制作用9)として働く)。
      • 抗炎症作用:TNBS誘発炎症モデルマウスにおいて、結腸蛋白中炎症性サイトカイン(TNF-α、IFN-γ)の産生が抑制された10)
    • ②エビデンス
      • 消化器癌で手術した患者1134名のメタアナリシスで、大建中湯を術前に投与した患者群は、非投与患者群と比較して術後イレウスの発生が有意に軽減された11)
      • 大腸癌術後癒着性イレウスに対する大建中湯投与が非投与群と比較してロングチューブ減圧治療の期間短縮ならびに医療費抑制を有意に示した12)
2.こんな症例によく効きます!

エビデンスに従って、消化器疾患術後に六君子湯や大建中湯を使用しても有効性を得られない場合もあります。効率よくレスポンダーを見つけるためには漢方医学的な作用機序や適応を理解する必要があります。

  • 1)六君子湯のレスポンダーは「舌」で判断する
    • ①生薬構成とその作用

      君子湯=君子湯(人参・朮・茯苓・甘草)+陳湯(陳皮・半夏)です。四君子湯は健胃作用+補気作用、すなわち「胃腸の働きを高めて元気をつける」作用があります。また、“陳皮・半夏”は「胃の水毒(胃内停水)」をさばく作用があります。四君子湯は補中益気湯や十全大補湯にも含まれているため、六君子湯の特徴は「胃の水毒」になります。「胃の水毒」は西洋医学的には胃下垂などと表現されることがありますが、漢方医学的な概念で理解しづらく正確な病態は解明されておりません。しかし、結果的に「胃の水毒」をさばく作用の陳皮・半夏によって胃の働きが改善することから、個人的には「胃の水毒」とは「胃壁の浮腫などによって胃の働きが低下している状態」と推測しております。

    • ②「胃の水毒」を見極める方法

      実は「胃の水毒」は体質的にもっている人が多く、「水を飲むと胃がチャポチャポする」といった現象として自覚できます。また、胃と舌が繋がっていることから、「胃の水毒」は「舌の浮腫」として反映していると言われており、「舌の腫大・歯痕(舌がむくんで歯型がつく)」(写真1)を確認することが「胃の水毒」を見極める方法となります。
       すなわち、もともと体質として「胃の水毒」をもっている人が食欲不振などの胃の不調を生じた場合に六君子湯が有効となることが多いわけですが、その見極めには忙しい外来でも1秒で確認できる舌診がポイントとなります。

★ ここが漢方治療ポイント:胃症状+舌の腫大・歯痕→六君子湯

症例1:60歳代男性
主訴:食欲不振
現病歴:2ヶ月前に胃癌に対して幽門側胃切除術を施行。その後から食欲不振が持続しており、当院を受診された。上部消化管内視鏡検査を含めた諸検査では特に異常なし。
漢方医学的初見:舌に腫大・歯痕を認める。明らかな冷えなし。早期飽満感、咽喉頭異常感、抑うつ症状などはない。
処方:六君子湯(43) 1回2.5g,1日3回(毎食前)
経過:
2週間後「食事が半分程度、食べられるようになってきました。」
4週間後「ほとんど食欲は戻りました。」と経過良好であった。

「舌の腫大・歯痕をみたら→六君子湯!!」

  • 2)大建中湯のレスポンダーは「腸管の冷え」で判断する
    • ①生薬構成とその作用

      大建中湯は乾姜、山椒、人参、膠飴の4つの生薬で構成されております。その中でも乾姜と山椒が特に重要で、「胃腸を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和させる」といった働きがあります。よって大建中湯には①腸管を温める②腸蠕動を正常化するといった2つの特徴があります。②については腸蠕動の亢進や低下のいずれにおいても正常化させ7)8)9)、かつ腹痛や腹満の改善を得意としています。つまり、大建中湯の適応病態は「腸管の冷えが原因で腸蠕動に異常を認めている状態」となります。そして、腹痛や腹満を主体とする腸閉塞に最適ですが、「腸管の冷え」が関与した便秘や下痢、過敏性腸症候群などにも使用します。

  • 「腸管の冷え」を見極める方法

    大建中湯は腸管を温める漢方薬ですので、腸管が冷えていないと効果を発揮できません。よって「腸管の冷え」を見極めることが重要となります。「腸管の冷え」を示唆する所見としては、①(冷房や冷たい飲食物で)お腹が冷えると腹部症状が悪化する②(腹巻き・カイロ・温かい飲食物で)お腹を温めると腹部症状が改善する③腹診で臍周囲が冷たい④大建中湯が飲みやすいなどがあり、これらを問診や診察で判断致します。④に関しては、大建中湯に含まれる乾姜が、(生姜)辛く感じる→「腸管の冷えがない」、辛くない→「腸管の冷えがある」といった傾向にあります。これを応用して、「腸閉塞予防に大建中湯をいつまで継続するべきか?」について迷われる場合にはぜひ大建中湯の味も参考にしましょう。味が辛い場合には「腸管の冷え」がない可能性があり、大建中湯の中止を検討してもよいかもしれません。

★ ここが漢方治療ポイント:大建中湯の適応である「腸管の冷え」を探ることが大事!!

症例2:70歳代女性
主訴:腹痛、腹満
現病歴:10年前に大腸癌の手術を行ってから腸閉塞を2回発症している。2週間前から腹痛、腹満を自覚するようになり、当院へ受診された。下剤を使用し、排便は毎日認めている。診察上、右下腹部を中心に圧痛を認めたが、採血やレントゲン等では明らかな異常所見は認めなかった。
漢方医学的所見:冷え症で温かい飲み物を好む。腹痛時はカイロでお腹を温めると和らぐ。腹部全体に冷感を認める。
処方:大建中湯(100) 1回5g,1日3回(毎食間)
経過:
1週間後「大建中湯を飲んでからすぐに腹痛やお腹の張りは良くなった。味も甘い。」
以後、大建中湯は継続し経過良好。

「腸管の冷えをみたら→大建中湯!!」

  • 3)次の一手
    • ①上部消化器疾患術後

      <茯苓飲(69)>
       上部消化器疾患術後の食欲不振、特に早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップ、嘔気、胸焼けなどの症状に茯苓飲をよく用います。茯苓飲は陳皮・枳実・生姜・人参・朮・茯苓の生薬で構成され、六君子湯と重なる生薬が多い漢方薬です(図2)。茯苓飲のみに含まれる生薬が枳実であり、胃や食道の蠕動運動亢進作用があります。茯苓飲には胃切除後早期吻合部症状に対して1週間以内の症状消失が85.7%で、非投与群と比較して有意に短縮したという報告もあります13)

      <茯苓飲合半夏厚朴湯(116)>
       茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤で茯苓飲合半夏厚朴湯という漢方薬があり、術後に随伴するさまざまな症状を改善した報告もあります14)。半夏厚朴湯は喉や胸の閉塞感(つまった感じ)を代表とする抑うつ症状に使用します。よって茯苓飲の適応となる人で、より精神的な関与がある場合には茯苓飲合半夏厚朴湯を選択します。実は、茯苓飲合半夏厚朴湯には六君子湯のほとんどが含まれているため(図2)、個人的には「六君子湯+スルピリド」といったイメージで幅広く使用しております。

      <人参湯(32)>
       人参湯には大建中湯と同様に乾姜(胃腸を温める生薬)が含まれております。大建中湯が下部消化器疾患に使用されるのに対して、人参湯は上下部消化器疾患に使用されます。どちらかといえば下部よりも上部消化器疾患を得意としておりますので、胃腸が冷えている人の食欲不振などに第一選択となります。

      <釣藤散(47)>
       釣藤散にも六君子湯の多くが含まれており、さらに釣藤鈎や菊花といった脳血流障害を改善させ興奮を調節する生薬があります(図3)。よって、主に高齢者の食欲不振に使用します。体を冷ます作用があるため、冷え症にはあまり適しません。

      <抑肝散加陳皮半夏(83)>
       抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬で、抑肝散+六君子湯のイメージでよいかと思います(図3)。よって、術後せん妄などで興奮やイライラがあり食欲不振を認める場合に第一選択となります。釣藤散よりも鎮静作用が強いです。

    • ②下部消化器疾患術後

      <桂枝加芍薬湯(60)>
       桂枝加芍薬湯には横紋筋や平滑筋の異常痙攣を和らげる芍薬が含まれており、腹痛や腹満を主体とした腹部症状(腸閉塞や過敏性腸症候群など)に使用します。開腹術後の消化管機能異常に伴う不定愁訴に86.7%の改善があったとの報告もあります15)。大建中湯との違いは①腸管を温める作用は少ない②芍薬で腹痛や腹満を和らげるなどが挙げられます。よって、腸閉塞に対しての使用は①「腸管の冷え」の関与が少ない場合の第一選択②大建中湯で効果不十分な場合に追加あるいは変更するとなります。大建中湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせは非常に相性がよく、昭和の名医である大塚敬節が考案し、中建中湯(桂枝加芍薬湯は小建中湯と似ており大建中湯+小建中湯の意味)と名付けられました。現代でも頻用される組み合わせです。

Ⅴ.おわりに

今回、術後の腹部症状について述べましたが、その他にも術後にはせん妄、感染症、倦怠感、フレイルなどさまざまな症状があると思います。これらに対しても適応となる漢方薬がありますので、ぜひ他書を参考にして頂きたいと思います。

Ⅵ.文献

  • 1) Takeda, H., et al.:Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism. Gastroenterology, 134:2004-2013, 2008.
  • 2) Hayakawa, T., et al.:Liu-Jun-Zi-Tang, a kampo medicine, promotes adaptive relaxation in isolated guinea pig stomachs. Drugs Exp Clin Res, 25(5):211, 1999.
  • 3) 原澤茂:TJ-43ツムラ六君子湯の胃排出能に及ぼす効果と臨床治療効果についての検討. 消化器科, 12:215-222, 1990.
  • 4) Takachi, K. et al.:Postoperative ghrelin levels and delayed recovery from body weight loss after distal or total gastrectomy. J Surg Res, 130:1-7, 2006.
  • 5) Takiguchi, S. et al.:Effect of rikkunshito, a Japanese herbal medicine, on gastrointestinal symptoms and ghrelin levels in gastric cancer patients after gastrectomy. Gastric Cancer, 16:167-174, 2013.
  • 6) Takahashi T, et al.:Effect of Rikkunshito, a Chinese herbal medicine, on stasis in patients after pylorus-preserving gastrectomy. World J Surg, 33:296-302, 2009.
  • 7) Satoh K. et al:Mechanisms for Contractile Effect of Dai-Kenchu-To in Isolated Guinea Pig Ileum. Dig Dis Sci, 46(2):250-256, 2001.
  • 8) Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
  • 9) Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
  • 10) Kono T, et al.:Anti-colitis and –adhesion effects of daikenchuto via endogenous adrenomedullin enhancement in Crohn’s disease mouse model. J Crohn’s Colitis, 4(2):161-170, 2010.
  • 11) Ishizuka M, et al:Perioperative administration of traditional Japanese herbal medicine daikenchuto relieves postoperative ileus in patients undergoing surgery for gastrointestinal cancer: a systematic review and meta-analysis. Anticancer Res, 37:5967-5974, 2017.
  • 12) Yasunaga H, et al.:Effect of the Japanese herbal kampo medicine dai-kenchu-to on postoperative adhesive small bowel obstruction requiring long-tube decompression:a propensity score analysis. Evid Based Complement Altemat Med Epub , 2011 Mar 3:2011.
  • 13) 服部和伸ら:胃切除術後早期吻合部狭窄に対する茯苓飲の効果. 日消外会誌, 28(4):966-970, 1995.
  • 14) 小川恵子ら:茯苓飲合半夏厚朴湯の術後栄養管理に対する効果. 日本静脈経腸栄養学会雑誌, 32:1514-1517, 2017.
  • 15) 阿部憲司:開腹術後の消化管機能異常に伴う不定愁訴に対する桂枝加芍薬湯の治療効果. Progress in Medicine, 11(5):1355-1361, 1991.
 

Ⅶ.プロフィール

名前:土倉潤一郎 Dokura Junichiro
所属:土倉内科循環器クリニック 院長
専門:循環器内科 漢方
平成30年1月より開業しました。飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務していた経験を活かし、西洋医学と漢方医学のバランスを意識して日々診療をしております。標準治療で治らない症状に対して次の一手(漢方)を提案できることは患者だけでなく医療者にとっても救いとなります。

図表タイトル
図1:舌の腫大・歯痕所見
図2:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯)
図3:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(釣藤散、抑肝散加陳皮半夏)

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内科医のための不定愁訴対応  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

MUSと漢方治療

ポイント

  • ・漢方薬は診断名がなくても症状からアプローチできる薬剤
  • ・漢方にも得意・不得意がある
  • ・副作用に注意する

MUSと漢方

MUSと漢方は非常に相性が良いと思われる。それは、漢方は診断名がなくても症状からアプローチができるからだ。どんな症状に対しても軽減する可能性のある治療薬を提供できることは、患者だけでなく医療者にとっても救いとなる。また、標準的な治療で改善しない患者が難治性、治療適応外と言われ、藁にもすがる思いで漢方外来へ来院されるが、漢方医学的な視点で見ると容易に治療ポイントがみつかり速やかに改善する場合もある。真正面の治療法が西洋医学以外に存在する可能性を医療者は知っておく必要がある。よって、医師がよく言葉にする「治療法はありません」というのは「現在の西洋医学では治療法がありません」というのが適切だと思われる。他国と異なり、日本では西洋医が漢方薬を処方できる資格があるのだから、ぜひ活用して頂きたい。

知っておいて損はない漢方病態

“漢方薬が効きやすいフレーズ”ベスト4
  • 1. 低気圧時(曇天・台風など)に悪化する →下記の「水毒」へ
     例:曇天時に悪化する頭痛、めまい、関節痛
  • 2. 冷えると悪化する(温めると緩和する) →下記の「冷え」へ
     例:冷たい飲食物で悪化する腹痛、下痢
  • 3. 月経周期や閉経で悪化する →下記の「瘀血」へ
     例:月経前のにきび、閉経後の不眠
  • 4. ストレスで悪化する →下記の「気鬱」「柴胡剤」へ
     例:緊張時の腹痛、下痢

患者の困っている症状が上記のいずれかに該当すると漢方医は安堵する。これらは漢方薬が得意とする症状であり、アプローチしやすいからだ。大事なことはこれらを問診で聞き出すことである。もし上記に該当しない場合でも、漢方医学的な見方をすればそのほとんどで異常所見があり治療の切り口を見いだせる。絡まった糸を少しずつ解いていくように、取れる症状からアプローチしていけば、不定愁訴と言われた症状も徐々に収束していくことも少なくない。不定愁訴ではなく、多愁訴なのだと感じる。
 下記の漢方薬の理解のために、次の漢方病態解説を参考にして頂きたい。簡略化のため、本稿と関連のある内容のみに割愛している。

〈表1〉
漢方病態解説
冷え
(陰証)
冷え症で冷房が苦手、厚着を好む人などに見られる。ある症状が冷えると悪化する、温めると緩和する場合も含まれる。手足末端のみが冷える場合は瘀血(末梢循環障害)のこともあるため注意が必要。
治療:温める作用がある温熱剤(例:大建中湯、真武湯など)
水毒すいどく
(水滞)
体液の偏在した病態を指し、溢水や脱水も含まれる。症状としては胸腹水や下腿浮腫だけでなく、頭痛(微小な脳浮腫)、めまい(内リンパ水腫)、関節痛(関節液)などもある。特に低気圧時に症状が悪化する場合は水毒関連である可能性が高い。寺澤の水滞(水毒)スコア1)も参考にされたい。
治療:体液の偏在を元に戻す作用がある利水剤(例:五苓散、苓桂朮甘湯など)
瘀血おけつ いわゆる「ドロドロ血」、末梢循環障害、動脈硬化などが含まれる。月経周期や閉経で悪化する症状(にきび、頭痛、腹痛、不眠など)も瘀血である。寺澤の瘀血スコア2)も参考にされたい。
治療:ドロドロ血をサラサラにする(血漿粘度低下)作用がある駆瘀血剤(例:当帰芍薬散、加味逍遥散など)
気虚ききょ 元気、やる気などの“気”の不足、エネルギー不足を指す。症状として、倦怠感、気力がない、食欲不振などがある。寺澤の気虚スコア3)も参考にされたい。
治療:気を補う作用がある補気剤(補中益気湯、十全大補湯など)
気鬱きうつ “気”の鬱滞を指す。症状として、抑うつ、不眠、閉塞症状(喉のつまり感)、腹部膨満などがある。寺澤の気鬱スコア4)も参考にされたい。
治療:気を巡らす作用がある順気剤(半夏厚朴湯、香蘇散など)
気逆きぎゃく “気”の逆上を指す。症状として、のぼせ、動悸などがある。寺澤の気逆スコア5)も参考にされたい。
治療:気を降ろす作用がある降気剤(加味逍遥散、黄連解毒湯など)
腎虚じんきょ 腎気(生命エネルギー)の減少を指す。加齢に伴う諸症が該当し、認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイルなどが含まれる。
治療:腎気を補う(アンチエイジング)作用がある補腎剤(八味地黄丸、牛車腎気丸など)
〈その他〉
柴胡剤さいこざい
柴胡(狭義では柴胡+黄芩)という生薬が含まれている方剤を指す。柴胡は偶然にもpsychoと同じだが、抗ストレス作用、自律神経調節作用、抗炎症作用などがある。本項に関しては、イライラ、抑うつ、不眠、自律神経失調などのストレスや自律神経異常が関連した症状に頻用される。
例:柴胡加竜骨牡蛎湯(腹診にて腹壁の緊張が強いタイプ)、柴胡桂枝乾姜湯(腹壁の緊張が弱いタイプ)、四逆散(胃腸症状が主体)、加味逍遥散(女性が多い)など

 

診断名がなくても症状からアプローチできる漢方治療

次は症状別に解説する。漢方にも得意・不得意があるため、初学者は漢方の得意分野から学ぶことを推奨する。よって、今回は一般的で平坦な内容でなく、“漢方の得意分野”を中心に、より実践的な内容を意識して個人的な見解も多く含めた。また、推奨度を☆印で示したため参考にして頂きたい。

頭痛

☆☆☆五苓散ごれいさん(17):低気圧時(曇天・台風など)に悪化する頭痛には第一選択となる。速効性や用量依存性もあるため、増悪時には2包服用するなどの方法も有用。それでも低気圧時の頭痛が残存する場合、男性は☆☆苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう(39)、女性は☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23)を追加してもよい。
漢方解説:低気圧で悪化するタイプは水毒(表1)であるため、利水剤の漢方薬を中心に使用する。五苓散には利水作用の生薬が最も多く含まれている。

☆☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性の頭痛で、肩こり(緊張性頭痛を含む)、ストレス、自律神経異常、月経周期などが関連している場合は第一選択となる。男性であれば、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(12)なども候補に挙がる。個人的には女性の慢性頭痛に対して、五苓散+加味逍遥散を選択する場合が多い。
漢方解説:加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡剤(表1)という方剤で、抗ストレス作用、自律神経調節作用(主に交感神経の過緊張を和らげる)などがある。緊張性頭痛以外にも上記症状の改善が期待できるため、多愁訴の患者に適合しやすい。

☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23):女性の頭痛で、月経周期や低気圧時に増悪する場合に選択する。上記の漢方薬と合わせることもある。
漢方解説:当帰芍薬散には月経周期の諸症状を改善する生薬(駆瘀血作用)と五苓散の3/4程度(利水作用)が半分ずつ入っている。

☆☆呉茱萸湯ごしゅゆとう(31):片頭痛に代表されるような“吐くほどの頭痛”に第一選択とされている。ただ、曇天時や月経周期と関連している場合は上記漢方薬を優先する。難点は苦い。
漢方解説:呉茱萸湯は胃を温めて頭痛を治す働きがある。よって、胃が冷えている人が対象となるため、“冷え症”“心窩部が冷たい”“胃が弱い”なども参考にする。

☆☆釣藤散ちょうとうさん(47):早朝時・起床時の頭痛に第一選択となる。機序は不明だが、効果を示す例は少なくない。

☆☆葛根湯かっこんとう(1):筋緊張を緩める働きがあるが、体質改善効果はないため、イメージとしてはエペリゾンに近い(対症療法)。速効性があるため、頓用でも使用可。

めまい・ふらつき・立ちくらみ

☆☆☆苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう(39):頭や体の向き(頭位性、起立性)で悪化するめまいに第一選択となる。良性発作性頭位めまい症や起立性低血圧の診断に至らなくても効果を示す。効果不十分例には☆☆五苓散(17)を合わせる。すべての年齢層に効果を示すが、特に思春期で有効率が高く、起立性調節障害にも大変有用である。

☆☆☆真武湯しんぶとう(30):ふわふわする、クラっとする、歩いてフラーっとするなどの動揺性のめまい、ふらつきに第一選択となる。温める漢方薬のため、暑がりには適さない。暑がりの場合は☆☆五苓散(17)を使用する。

☆☆五苓散ごれいさん(17):上記以外のめまいに使用する。一般に五苓散が頻用される回転性めまいでも、頭位性や起立性の場合は苓桂朮甘湯(39)を優先する。 漢方解説:メニエル病が内リンパ水腫と関連しているように、めまいは水毒(表1)が関係していることが多い。よって、水毒体質の患者や低気圧時に発症しやすい。上記の苓桂朮甘湯、真武湯、五苓散はすべて水毒の治療薬である利水剤に分類される。

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):慢性的なめまいや再発例で、ストレスや自律神経異常が関与している場合には柴胡剤(表1)を使用する。上記の利水剤と合わせることが多い。

赤ら顔・のぼせ

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性では第一選択となる。更年期でなくても使用できる。効果不十分例には☆桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん(25)を合わせる。

黄連解毒湯おうれんげどくとう(15):男性では第一選択となる。体を冷ます作用があるため、寒がりの人は対象外。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:赤ら顔、のぼせは気逆(表1)という病態である。気を降ろす作用があるため、下記の「イライラ(頭に血が上る)」の治療薬と重なることが多い。

イライラ

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):壮年〜中年女性のイライラには第一選択となる。月経周期で悪化する場合にも有効。軽度の抑うつもカバーする。効果不十分例には☆☆☆抑肝散よくかんさん(54)を合わせる。

☆☆☆抑肝散よくかんさん(54):小児、高齢者のイライラには第一選択となるが、老若男女で使用できる。小児の場合は、母子同服といって母親も一緒に飲んだ方がよいとされている。

黄連解毒湯おうれんげどくとう(15):中年男性や元気な高齢者で、赤ら顔や舌苔が黄色の場合に用いることが多い。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:上記方剤に含まれている柴胡、山梔子、釣藤鈎、黄連といった生薬に鎮静作用があり、イライラを抑える。交感神経を緩める働きがあるため、不眠などにも用いる。

鼻汁・鼻閉・後鼻漏

☆☆☆辛夷清肺湯しんいせいはいとう(104):抗炎症作用があり、黄色鼻汁や鼻閉に第一選択となる。急性副鼻腔炎にも使用するが、慢性的に繰り返す副鼻腔炎の予防に大変有用である。効果不十分例には、☆☆小柴胡湯加桔梗石膏しょうさいことうかききょうせっこう(109)を合わせる。いずれも黄芩の副作用に注意(表2)。
後鼻漏は粘稠性のタイプには辛夷清肺湯、漿液性のタイプには☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16)を用いる。

☆☆葛根湯加川芎辛夷かっこんとうかせんきゅうしんい(2):小児の白色〜黄色鼻汁、鼻閉に第一選択となる。飲みづらい場合は☆葛根湯かっこんとう(1)でも可。

☆☆小青竜湯(19):水様性鼻汁に第一選択となる。小青竜湯には抗ヒスタミン作用、鎮咳去痰作用、温熱作用があるため、アレルギー性、風邪、冷え(冷えると鼻汁が出るタイプ)のいずれが関与していても使用できる。効果不十分な場合、寒がりには☆☆麻黄附子細辛湯まおうぶしさいしんとう(127)、暑がりには☆☆越婢加朮湯えっぴかじゅつとう(28)や☆☆五虎湯ごことう(95)などを合わせる。鼻汁、咳などの風邪を繰り返す小児には普段から小青竜湯+五虎湯を服用させると有用である。いずれも麻黄の副作用に注意(表2)。

呼吸困難・喉のつまり感

☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16):器質的異常がない呼吸困難には第一選択となる。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用があるが、うつ病を治すというよりも、喉〜胸部の閉塞症状を改善させることを得意とする。すなわち、喉のつまり感(咽喉頭異常感症含む)、息苦しい、胸がしめつけられる、深呼吸がしづらいなどの症状に大変有用である。問診上はうつが判断つかない場合でも効果を示す場合がある。効果不十分例には、柴胡剤(表1)を合わせる。柴胡剤としては、☆☆加味逍遥散(女性が多い)、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯(男性が多い)、☆☆小柴胡湯しょうさいことう(9)(抗炎症作用あり。半夏厚朴湯+小柴胡湯=☆☆柴朴湯さいぼくとう(96)という合剤あり)などがある。 漢方解説:半夏厚朴湯には気鬱(表1)に対する順気作用と鎮咳去痰作用の大きく2つの働きがある。よって、喉のつまり感や湿性咳嗽に第一選択となる。例えば、「喉に痰がひっかかった感じがする」といった患者に対して、“気のせい”でも“喀痰”でも半夏厚朴湯1剤で対応できる。効果不十分例には☆☆麦門冬湯ばくもんどうとう(29)で潤すとよい場合がある。

胸痛

☆☆☆半夏厚朴湯はんげこうぼくとう(16):基本的には呼吸困難と同様の理由で、半夏厚朴湯が第一選択となる。

当帰湯とうきとう(102):温める漢方薬であるため冷え症患者が対象となる。腹部膨満にも良い。

動悸

☆☆炙甘草湯しゃかんぞうとう(64):例えば期外収縮などの不整脈に伴い動悸症状を認めるが、標準的治療後でも症状や不整脈が残存している場合に第一選択となる。不整脈自体は変わらなくても、動悸症状が軽減することも少なくない。甘草が多いため副作用に注意。

☆☆加味逍遥散かみしょうようさん(24):女性で自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。

☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(12):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が強い人に使用する。黄芩の副作用に注意(表2)。

☆☆桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとう(26):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が弱い人に使用する。神経過敏、恐怖感が強い、驚きやすいなどが特徴的。
漢方解説:効果不十分な場合は上記漢方薬を組み合わせるが、加味逍遥散と柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯は類似方剤のため通常合わせない。

食欲不振

☆☆☆六君子湯りっくんしとう(43):“舌のむくみ”(図1)がある場合に第一選択となる。“舌のむくみ”は舌が全体的に腫れぼったい感じ、歯型がつくなどで見極める。
漢方解説:六君子湯は“胃の水毒”をさばいて食欲不振を改善させる働きがある。“胃の水毒”の明確な病態は解明されていないが、胃と舌が繋がっていることから、“舌のむくみ”が“胃の水毒”を反映し、六君子湯の適応者の所見とされている。

☆☆☆茯苓飲ぶくりょういん(69):抑うつやストレスで食欲不振がある場合に第一選択となる。茯苓飲の適応者として、早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップが特徴的。早期飽満感は胃の閉塞症状と言えるが、喉〜胸部の閉塞症状も合併しやすく、その場合は前述の半夏厚朴湯(16)を合わせるとより効果的。
漢方解説:茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤である☆☆☆茯苓飲合半夏厚朴湯ぶくりょういんごうはんげこうぼくとう(116)もある。この方剤には六君子湯が含まれており幅広く使用できるため、個人的には頻用している。

☆☆人参湯にんじんとう(32):冷え症、胃腸の冷えがある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。
漢方解説:乾姜という生姜を蒸して乾燥させた生薬が含まれており、胃腸を温めて機能改善させる働きがある。

腹痛・腹部膨満

☆☆☆四逆散しぎゃくさん(35):柴胡剤(表1)の1つであり、過敏性腸症候群に代表されるような、ストレスや自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。腹部膨満が強い場合は☆☆香蘇散こうそさん(70)を合わせる。

☆☆☆大建中湯だいけんちゅうとう(100):“腸管の冷え”(表1)がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”は冷え症、冷たい飲食物で悪化する、腹巻きや入浴で温めると緩和する、自他覚的な腹部の冷感(お腹が冷える、冷たい)などで判断する。症状が残存する場合は桂枝加芍薬湯(60)を合わせる。

☆☆☆小建中湯(99):小児に第一選択となる。甘くて飲みやすい。速効性もあるため頓用使用も可。

☆☆桂枝加芍薬湯けいしかしゃくやくとう(60):上記以外の場合に使用する。
漢方解説:比較的年齢によって判別できる傾向がある。小学生までは小建中湯、中高生は四逆散、それ以降は四逆散か大建中湯、あるいはその混合タイプが多い。いずれも腸管蠕動運動の過緊張や痙攣を緩ませる働きがあるため、腹痛や腹部膨満に有用である。

慢性下痢

☆☆☆大建中湯だいけんちゅうとう(100):“腸管の冷え”+腹痛・腹部膨満がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”については上記参照。

☆☆人参湯にんじんとう(32):“腸管の冷え”+上腹部症状(食欲不振など)がある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。

☆☆真武湯しんぶとう(30):“腸管の冷え”+上記以外の場合に第一選択となる。 漢方解説:“腸管の冷え”(表1)が関与した下痢(陰証の下痢)は意外と多く、実は慢性期だけでなく、急性腸炎(水様性・小腸性)や、急性腸炎が長引いた場合にも認めることが少なくない。いずれも上記の温熱剤が奏効しやすい。また、陰証の下痢は急性腸炎でも便臭が軽度なことが多い。

☆☆半夏瀉心湯はんげしゃしんとう(14):上腹部症状もカバーする。腹鳴(お腹ゴロゴロ)が典型的。黄芩の副作用に注意(表2)。
漢方解説:半夏瀉心湯には温める生薬と冷ます生薬(抗炎症作用)が含まれており、幅広く使用できる。

倦怠感

☆☆補中益気湯ほちゅうえっきとう(41):胃弱、食欲不振、感染症後、食後の眠気などを参考に選択する。極端な寒がりには注意する。

☆☆十全大補湯じゅうぜんたいほとう(48):胃が丈夫、疲労感が強い、がん患者などを参考に選択する。極端な暑がりには注意する。

☆☆加味帰脾湯かみきひとう(137):うつが関与した、特に午前中に倦怠感が強い場合に選択する。不眠やイライラにも有用。

☆☆清暑益気湯せいしょえっきとう(136):冷ます作用もあり、夏バテが関与した場合に選択する。

☆☆真武湯しんぶとう(30):全身の冷えが比較的強い場合に選択する。効果不十分な場合は☆☆人参湯にんじんとう(32)も合わせる。

☆☆黄耆建中湯おうぎけんちゅうとう(98):小児の倦怠感(疲れやすい)に第一選択となる。小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)でも代用可能。10歳代は☆☆補中益気湯ほちゅうえっきとう(41)も有用。
漢方解説:倦怠感のほとんどは気虚(表1)が関与しているため、いずれも補気作用の生薬が含まれている。

浮腫

☆☆五苓散ごれいさん(17):第一選択薬。女性の効果不十分例には☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23)を合わせる。

防已黄耆湯ぼういおうぎとう(20):第二選択薬。五苓散と合わせてもよい。膝関節痛・水腫にも使用される。
漢方解説:浮腫は水毒症状であり、利水剤を使用する。用量に依存することが多いため、効果不十分例は組み合わせると良い。

こむら返り

☆☆☆芍薬甘草湯しゃくやくかんぞうとう(68):速効性があること、甘草の量が多く偽アルドステロン症のリスクが高いことから、基本的には頓用使用。繰り返す場合は疎経活血湯を定期服用する。

☆☆☆疎経活血湯そけいかっけつとう(53):繰り返すこむら返りに第一選択となる。時間依存、用量依存があるため、明け方のこむら返りには、「眠前2包」が最も効果的6)。難点はやや苦いこと。

しもやけ・末端冷え症

☆☆☆当帰四逆加呉茱萸生姜湯とうきしぎゃくかごしゅゆしょうきょうとう(38):末梢循環障害が関与した冷えに第一選択となる。難点は苦い。効果不十分例には、高齢者は☆☆牛車腎気丸ごしゃじんきがん(107)、体全体の冷えもある人は☆☆真武湯しんぶとう(30)、体全体の冷えがない人は☆☆桂枝茯苓丸けいしぶくりょうがん(25)を合わせる。

☆☆当帰芍薬散とうきしゃくやくさん(23):当帰四逆加呉茱萸生姜湯が苦くて飲めない場合に選択する。効果不十分例への対応は上記と同様。
漢方解説:しもやけも末端冷え症も末梢循環障害(瘀血)が関与しているため、治療薬も駆瘀血剤が主体となる(表1)。

加齢症状

八味地黄丸はちみじおうがん(7):表1の「腎虚」にあるように、漢方では加齢現象に対する薬剤があり、その代表が八味地黄丸である。加齢に伴う諸症状(認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイル)に用いるが、個人的には症状軽減効果よりも進行予防効果の方が大きいと感じる(加齢に伴う諸症状に困った患者に処方提案できる)。地黄の副作用に注意(表2)。

牛車腎気丸ごしゃじんきがん(107):構成生薬は八味地黄丸+2つの生薬(牛膝ごしつ車前子しゃぜんし)であり、八味地黄丸よりも血流障害や浮腫を改善させる効果が増す。地黄の副作用に注意(表2)。

 

服薬方法のコツ

漢方薬は「味」「顆粒」「1日3回」「食前」などとハードルが高い。これを上回る利点がないと患者は服用しづらい。服薬方法のコツを3つ述べる。

  • 好みを聞く
    患者には漢方に対する好みがある。例えば「漢方薬は飲めますか?」「西洋薬と漢方薬はどちらがよいですか?」などの質問で、どちらでもよい場合は勧めてみるが、苦手な人には無理強いしない方がよい。
  • 柔軟さが必要
    漢方薬は通常「1日3回食前または食間」であるが、服薬アドヒアランスが低下する場合は、「1日2回」「食後」といった柔軟さも必要。飲まない薬は効かないため、なるべく患者個人の特性に合わせて調節する。
  • 意識付け
    西洋薬に比べて、漢方薬は「飲まなくてもよい」「長く飲まないと効かない」といったイメージが多い中、さらには上記のようなハードルがある。服薬を継続するためには患者が困っている症状が改善する可能性について具体的に説明することが大事
下記に筆者が普段説明している内容(例)を記す。

「この漢方薬は胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので良いかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です。」

 

副作用

特に重要な副作用を挙げる(甘草以外は色に注意と覚える)。漢方薬を処方する時は、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的に下記の副作用をチェックする必要がある。

〈表2〉

・甘草:偽アルドステロン症。特に甘草の量が多い場合や高齢女性でリスクが高い。高血圧、低カリウム血症、浮腫の全てが出現するわけではない。甘草を中止後も1,2ヶ月以上遷延する場合がある。
・黄芩(おうごん):肝障害、間質性肺炎。漢方薬による薬剤性肝障害の9割以上が黄芩である。
・地黄:胃もたれ
・麻黄:胃もたれ、動悸、尿閉、口渇など

 

最後に症例を示す。

症例38歳女性
主訴:動悸、不眠、息苦しさ、頭痛、めまい、顔のほてり、月経痛、月経前のイライラ
現病歴:1年前から特に誘因なく、動悸(脈不整なし)、息苦しさ(安静時)、不眠(中途覚醒1,2回で浅い)、めまい(ふわふわ感)などを自覚するようになった。2ヶ月前から増悪し、内科や耳鼻科を受診したが明らかな異常所見は認めなかった。心療内科でベンゾジアゼピンを処方されたがめまいが悪化したため、中断となった。また、数年前から雨降り前の頭痛、顔のほてり、月経痛、月経前のイライラも認め、困っているとのこと。
バイタルサイン、身体所見、諸検査に明らかな異常所見なし。
その他:やや暑がりだが手足の先が冷える。食欲良好。便秘なし。めまいは低気圧で悪化しない。
処方:加味逍遥散(24) 3包3×朝夕食後・眠前 14日分
   (不眠があるため眠前にも服用)
経過:
2週間後「動悸、めまい、顔のほてり、息苦しさは良くなった。中途覚醒が1回に減り、ぐっすりと眠れるようになった。雨降り前の頭痛は変わらない。」
処方:加味逍遥散(24) 3包3×朝夕食後・眠前 28日分
   五苓散(17) 3包3×朝夕食後・眠前 28日分
4週間後「だいぶ調子が良くなった。頭痛もなくなった。朝まで1回も起きない。月経痛やイライラもあまりなかった」

解説:加味逍遥散は非常に多様性のある漢方薬であり、いわゆる不定愁訴の女性に第一選択となる。自律神経調節作用、抗ストレス作用、抗うつ作用、降気作用、駆瘀血作用などがあり、漢方病態としては、気鬱・柴胡剤(不眠、めまい、息苦しさ、イライラ)、気逆(動悸、顔のほてり)、瘀血(月経痛、月経前のイライラ)に対応できる(表1)。しかし、利水作用は含まれていないため、水毒症状(雨降り前の頭痛)に対しては、五苓散が必要である。
本症例のように多愁訴も漢方医学的視点で診ると病態・治療が単純な場合もあると感じる。

 

参考文献
  • 1) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:57.
  • 2) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:47.
  • 3) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:17.
  • 4) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:23.
  • 5) 寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学第2版. 医学書院. 2008:32.
  • 6) 土倉潤一郎, ほか:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討.
      日本東洋医学雑誌. 2017; 68:40-46.
有用な資料
  • ・齊藤裕之, ほか:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂. 2016; 98(7): 954-1115.
  • ・吉永亮, ほか:Gノート メジャー漢方薬. 羊土社. 2017; 4(6): 8-187.
  • ・吉永亮, ほか:Gノート おなかに漢方. 羊土社. 2019; 6(1): 6-96.
  • ・柴田龍宏,ほか:実践・心不全緩和ケア. 日経メディカル. 2018, 87-92.

循環器における漢方診療  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

現代医学では西洋医学が基本であり、漢方は「西洋医学では手の届きにくい症状や疾患に使用する」ことが多いのではないかと思います。「循環器における漢方診療」の特徴は、「親和性が低い」と「多剤」です。よって、循環器領域で漢方を活かすためには、「見極めが必要」「服用方法にコツが必要」という2つのポイントが重要になると考えています。

【循環器×漢方】には見極めが必要

「西洋医学では治りにくい」症状や疾患のなかには、「漢方でも治りにくい」ものがあるため注意が必要です。大事なことは、「西洋医学では治りにくい」かつ「漢方で治りやすい」分野を見極め、漢方を活かすことです。

心臓神経症

胸部症状を有する患者で致死的な疾患がない場合に、「命にかかわる異常はないので安心してください」という助言だけでなく、きちんと症状緩和を行うことも大切です。そのような場面において、心臓神経症に対する半夏厚朴湯はんげこうぼくとうは大変有用です。心臓神経症の治療薬にはベンゾジアゼピンなどもありますが、副作用を考慮すると漢方薬が第一選択となり得ます。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用がありますが、うつ病を改善するというよりは、「喉〜胸部の閉塞症状を取り除く」ことを得意としています。すなわち、喉のつまり(咽喉頭異常感症)、胸が締めつけられる、息苦しい、深呼吸がしづらいなどの症状に用いられます。半夏厚朴湯で効果が不十分な場合は、柴胡剤さいこざいを合わせると効果が増強します。柴胡剤にはいくつかの種類がありますが、筆者は女性なら加味逍遥散かみしょうようさん、男性なら柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとうをよく使用します。

症例1:50歳代男性
主訴:胸部圧迫感
現病歴:3ヵ月前より仕事が忙しくなり、胸の圧迫感を自覚するようになった。主に仕事中に出現し、労作では悪化なし。ニトログリセリン舌下錠では改善なし。身体所見に異常なし。X線、心電図など諸検査に異常所見なし。
処方:半夏厚朴湯 7.5g/1日3回×食前(食後でも可)14日分
経過:
2週間後:胸部圧迫感は10分の3程度に改善した。症状がない日も多い。
4週間後:少し怪しい感じはあったが、ほとんど症状はない。
その後:仕事の負荷によっては軽度の胸部圧迫感を自覚するため、半夏厚朴湯 1回2.5g/1日2回で継続加療している。

 

起立性低血圧

起立性低血圧に対する漢方薬は、苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとうが第一選択となります。低血圧は変わらなくても自覚症状が改善することがあり、また、低血圧はなくても起立性のふらつき(いわゆる「立ちくらみ」)にも有効率は高いです。効果が不十分な例には補中益気湯ほちゅうえっきとう五苓散ごれいさんを合わせる場合もあります。

不整脈

漢方薬で期外収縮などの不整脈自体を減らすこともありますが、不整脈は不変でも、動悸などの自覚症状を減らす場合も少なくありません1)。第一選択としては炙甘草湯しゃかんぞうとうがありますが、自律神経(とくに交感神経)が関与している場合や脈不整のない動悸の場合は、加味逍遥散かみしょうようさん(女性に多い)、柴胡加竜骨牡蛎湯さいこかりゅうこつぼれいとう(男性に多い)、桂枝加竜骨牡蛎湯けいしかりゅうこつぼれいとう(恐怖感が強い人に多い)なども鑑別に挙がり、単独あるいは併用で使用します

心不全

漢方薬と心不全に関してエビデンスレベルの高い報告はありませんが、一部の症例では効果を示す場合もあるようです。そのなかでも比較的多くの報告がある漢方薬は、木防已湯もくぼういとうと五苓散です。
木防已湯には、血管平滑筋や血管内皮へ作用し、ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや、心収縮力増大作用が示されており2,3)、低心機能で肺うっ血がある場合によいとされています。五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリンを介した働きがあり、サードスペースに移行した水分貯留が多い場合によいとされています4)

心不全の周辺症状(食欲不振・慢性下痢・めまい)

漢方薬は、心不全自体よりも心不全に伴う周辺症状に活かされやすいです。また、漢方医学的な概念である陰(冷え)・陽・気・血・水などの視点でみると、心不全患者には主に「水毒」と「冷え」という2つの病態がみられやすいです5)
「水毒」とは、漢方用語で「体液の偏在した状態」を指します。溢水や脱水も含まれますが、心不全患者が水毒傾向となることは想像に難くないと思います。
「冷え」については、心不全患者は低灌流、循環障害、β遮断薬、加齢などで冷えていることが少なくありません。西洋薬には温める薬剤はありませんが、漢方薬には多く存在します。冷えで悪化した病態には、温める漢方薬(温熱薬)を用います。
これらを踏まえて、食欲不振、慢性下痢、めまいについて解説します。

食欲不振
  • 水毒
    六君子湯りっくんしとうは、「胃の水毒」をさばくことで食欲不振を改善させる働きがあります。舌と胃がつながっていることから、「舌のむくみ」(図)のある人に適応する人が多いと言われています。
  • 冷え
    冷え症の人の食欲不振には人参湯にんじんとうが第一選択となります。乾姜かんきょうという生姜を蒸して乾燥させた生薬などが含まれており、胃腸を温めて消化機能を改善させる働きがあります。また、腹診で心窩部に冷感を認める場合はさらに有効率が高くなると言われています。

図 舌のむくみ
むくみがある舌では、全体的に舌の腫れた感じがあり、歯型(矢印)がつく場合もある。

慢性下痢
  • 冷え
    とくに高齢、低心機能、腎不全患者などに慢性下痢が合併した場合は、重症化につながる可能性があります。そのため早期改善が望まれますが、治療に難渋することも少なくありません。実は心不全患者の慢性下痢には冷えが関与していることが比較的多く、温熱薬が奏効しやすいです。冷えが関与した下痢は、「体(あるいは腹部)が冷える」「冷たい飲食物の摂取で悪化する」「便臭が軽度」などを参考にして判断します。数ある温熱薬のなかでも、腹痛や腹満を認める場合は大建中湯だいけんちゅうとう、食欲不振を認める場合は人参湯にんじんとう、倦怠感を認める場合は真武湯しんぶとうを選択します。
  • 水毒
    冷えがない場合は、五苓散を用います。とくに水様性の下痢は水毒の範疇になります。
めまい
  • 水毒
    メニエール病が内耳リンパ水腫と関連しているように、めまいは水毒が関係していることが多いです。頭の向きで悪化する頭位性(良性発作性頭位めまい症を含む)や、起き上がる・立ち上がるなどで悪化する起立性のタイプには苓桂朮甘湯りょうけいじゅつかんとう、ふわふわする・クラッとするなどの動揺性のタイプには真武湯を用います。真武湯は温熱薬のため冷え症患者が対象になりますが、暑がりの場合は五苓散や半夏白朮天麻湯はんげびゃくじゅつてんまとうを用います
 

【循環器×漢方】には服用方法にコツが必要

循環器疾患の患者は、すでに多くの薬剤を服用していることが多いです。そのため、さらに漢方薬を追加するにはいくつかのコツが必要となります。

好みを知る

漢方薬の多くは顆粒であり、独特の味があります。また西洋薬に比べて効かないといったイメージを持つ人もいますので、導入時には必ず漢方薬が飲めそうな人かどうかの判別が必要です。例えば「漢方薬は飲めますか?」「西洋薬と漢方薬はどちらがよいですか?」などの質問をしてみましょう。どちらでもよさそうな場合にはぜひ漢方薬を勧めてみてください。極端に否定的な人に無理強いは禁物です。このような場合は、苦痛症状に困って患者側から漢方薬を希望するまで待ちましょう

柔軟さ

漢方薬は、通常「1日3回、食前または食間」に服用しますが、服薬アドヒアランスが低下する場合は、「1日2回」「食後」といった柔軟さも必要になります。飲まない薬は効きませんので、なるべく患者個人の特性に合わせて調節しましょう。

意識付け

 西洋薬に比べて漢方薬は、「飲まなくてもよい」「長く飲まないと効かない」といったイメージが多いなか、さらに上述のようなハードルがあります。患者は基本的に、それらを上回るメリットがないと服用を継続しません。そのためには、患者が困っている症状が改善する可能性について具体的に説明することが大事です。
下記は、普段筆者が説明しているものの一例です。参考にしてみてください。
「この漢方薬は、胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので、よいかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも、1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です」

副作用について

とくに注意すべき副作用は、甘草による偽アルドステロン症と黄芩おうごんによる肝障害です。すべての漢方薬に甘草や黄芩が含まれているわけではありませんので、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的にチェックする必要があります。

SUMMARY
漢方薬は、西洋薬以外で唯一の医療保険が使える薬剤になります。患者が困っている症状が西洋薬で治りにくい場合には、漢方薬という選択肢も考慮していただければと思います。

引用・参考文献
  • 1)北村順.“不整脈・動悸”.循環器医が知っておくべき漢方薬.東京,文光堂,2013,37-8.
  • 2)Nishida, S. et al. Vascular phamacology of Mokuboito(mu-fang-yi-tang)and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. Evid Based Complement Alternat Med. 4(3), 2007, 335-41.
  • 3)広瀬智道ほか.木防已湯、炙甘草湯、当帰湯の心臓に及ぼす作用について.和漢医薬学会誌.2(3),1985,688-9.
  • 4)江崎裕敬ほか.重症難治性心不全患者における木防已湯の有用性.日本東洋医学雑誌.67(2),2016,169-77.
  • 5)柴田龍宏ほか.“心不全に伴う症状緩和に漢方を生かすには”.実践・心不全緩和ケア.東京,日経メディカル,2018,87-92.

⼼不全に伴う症状の緩和に有⽤

⼼不全緩和ケアに漢⽅を⽣かすには  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

私は⻄洋医学(主に循環器内科)と漢⽅医学を、ほぼ同じ期間、学んできました。そこで感じたことは、「どちらの医学も必要であり、お互いの利点を活かすことが患者の利益になる」です。例えば、冷え性、かぜ、胃腸疾患、⽉経関連疾患、気候の変化で悪化する頭痛、めまいなどは、漢⽅薬の使⽤頻度が多い分野と思います。⼀⽅で、循環器内科の分野においては、⻄洋薬が第⼀選択となることが多いですが、それでも取りきれない症状には漢⽅薬を使⽤します。

⼼不全の予後改善効果の⾯では確⽴したものがありませんが、“⼼不全に伴う症状の緩和”には幾つか漢⽅薬も有⽤と思われます。標準的治療を⾏っているにもかかわらず、患者が困っている場合にはぜひ漢⽅薬を検討してみてください。新たな治療選択肢があることは患者だけでなく医療者にとっても救いになりますし、効果を認めた際には共に喜ぶことができます。

今回は総論を中⼼に記述させていただき、⼼不全患者に伴う代表的な苦痛症状1)2)への具体的な漢⽅処⽅に関しては、ポイントを絞って、3症候について提⽰いたします。難しい漢⽅理論などにつきましては、他書を参考にしていただきたいと思います。

漢⽅の視点から⾒た⼼不全患者の特徴

漢⽅には陰(冷え)・陽・気・⾎・⽔といったように漢⽅独⾃の視点(病態把握)があります。⼼不全患者にはどの病態も絡んでいることがありますが、その中でも特徴は“⽔毒”“冷え”と思います。そして、病態とは異なりますが、⼼不全と漢⽅で密接な関係にあるのが“多剤”です。

(1)⽔毒について

⽔毒とは“体液の偏在”を表します。溢⽔や脱⽔、またはそれらが混在する場合も含まれます。例えば、急性腸炎(下痢と⾎管内脱⽔)、低アルブミン⾎症を伴う浮腫、⼆⽇酔いなどが典型的です(⼆⽇酔いは脳浮腫による頭痛や嘔気、むくみなどがある⼀⽅で、⾎管内は脱⽔で⼝渇がある状態)。

また、⽔毒の治療薬を利⽔薬といいます。利⽔薬には体液の偏在を是正し正常に戻そうとする働きがあります。フロセミドほど利尿効果が強くありませんが、⼤量に服⽤しても脱⽔になることはなく、電解質にも影響しない便利な薬です3)4)。利⽔薬の代表である五苓散(ごれいさん)には⽔輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがある5)といわれており、様々な⽔毒症状に使⽤します。

〈⽔毒症状〉
浮腫胸⽔ 腹⽔ めまい(内リンパ⽔腫) 曇天などの低気圧時に悪化する諸症状(頭痛、倦怠感、関節痛など) ⽔様性下痢 ⽔様性⿐汁 脳浮腫 ⼆⽇酔いなど
利⽔薬(例︓五苓散)の適応

(2)冷えについて

特に経過の⻑い⼼不全患者は低灌流、循環不全、β遮断薬、加齢などの影響で体が冷えやすい傾向にあります。⼼不全患者が慢性的に困っている症状には冷えが要因となっていることも多く、温める漢⽅薬(温熱薬)で奏効することも少なくありません。例えば、⼼不全患者の⾷欲不振、慢性下痢、倦怠感など、温熱薬の適応は多いようです。

〈冷えが関与する症状〉
冷え性の⼈が有する諸症状 ⾝体の冷感 気温の低下(季節や冷房)・冷たい飲⾷物の摂取などで冷えると悪化するまたは⾐類や⼊浴などで温めると改善する症状(腹痛、下痢、頭痛、しびれ、関節痛)
温熱薬(例︓真武湯[しんぶとう]や⼈参湯[にんじんとう])の適応

利⽔薬や温熱薬は⻄洋薬に同様のものがないことから、貴重な薬剤と思われます。

(3)多剤について

多剤を服⽤している⼼不全患者の場合、漢⽅薬を断念する例は多く、継続していただくためにちょっとした⼯夫が必要になります。漢⽅薬は味や形状が飲みづらいなどの難点もあるため、それを上回るだけの利点がないと患者も受け⼊れられませ3)4)5)ん。よって、「どのような薬なのか、効果が得られる可能性があるのか」についてしっかりと説明する必要があります。また、場合によっては「⾷前でなく⾷後の服⽤」「⽩湯に溶かして(または溶かさずに)他の錠剤と⼀緒に服⽤してもよい」などの柔軟さも必要になります。

説明の例︓この漢⽅薬はお腹を温めて下痢を改善させる漢⽅薬で、冷え性の⽅の下痢に良いといわれておりますが試してみますか︖2週間しっかり服⽤していただいても効果がない場合には中⽌します。通常は⾷前で処⽅しますが、⾷後で他のお薬と⼀緒に服⽤しても構いません。飲み⽅は、お湯で溶かしても、そのままでも飲みやすい⽅法で構いません。

では、次に⼼不全と代表的な付随症状に対する漢⽅治療について少し解説します。なお、以下の漢⽅薬は組み合わせて使⽤することも可能です。

⼼不全
  • ⽊防已湯(もくぼういとう)︓2000年前から⾮代償性⼼不全と思われる疾患に使⽤されてきた漢⽅薬。現代でも低灌流所⾒や右⼼不全などを有する治療抵抗性の重症⼼不全に有効であったとの報告が散⾒される6)7)。また、⽊防已湯は、ラットの実験で⾎管平滑筋や⾎管内⽪へ作⽤し、⼤動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調整的に働くことが⽰されており6)8)、前負荷や後負荷を軽減したい⼼不全に優先される。
  • 五苓散(ごれいさん)︓利⽔薬の代表的漢⽅薬で⼼不全にも頻⽤される9)10)。胸⽔や浮腫などのサードスペースへ移動した⽔分代謝不均衡がある場合に優先される。
⾷欲不振
  • 六君⼦湯(りっくんしとう)︓冷え性でない場合に使⽤する。胃の⽔毒をさばく漢⽅薬であり、⾆(胃とつながっている)がむくんで⻭型を認める⼈が典型的な適応とされている。
  • ⼈参湯(にんじんとう)︓冷え性の場合に使⽤する。⾃他覚的に⼼窩部が冷えている場合には優先的に使⽤する。
慢性下痢

以下の3剤とも、胃腸を温める漢⽅薬(温熱薬)。腸管が冷えているタイプの慢性下痢に使⽤する。冷えの下痢には“冷たい飲⾷物で悪化する”“便臭が軽度“などの傾向がある。

  • 真武湯(しんぶとう)︓利⽔薬でもあり第⼀選択となる。倦怠感にも良い。
  • ⼈参湯(にんじんとう)︓⾷欲不振などの上部消化器症状も認める場合に使⽤する。
  • ⼤建中湯(だいけんちゅうとう)︓腹痛や腹部膨満を伴う場合に使⽤する。⾃他覚的に臍周囲が冷えている場合には優先的に使⽤する。

最後に症例を提⽰します。

症例︓70歳代後半の男性
慢性⼼不全の急性増悪、虚⾎性⼼筋症、慢性腎臓病にて⼊院となった。標準的な治療で軽快し、退院後は外来でフォローすることに。⼼不全のコントロールは良好だったが、1カ⽉前から、徐々に⽔様性下痢を頻回(1⽇5〜6回以上)に認めた。整腸剤やロペラミドなどの⽌瀉薬は効果なく、感染や薬剤の関与も考えにくい状況だった。糖尿病性腎症により Cr 1.8mg/dL(eGFR 29.2mL/min/1.73m)で、⾼度の左室収縮能低下(EF20%)もあり、体液バランスの調節が難く、⻑期にわたる下痢は避けたい状況にあった。⾃然軽快の兆候はなく、漢⽅薬の処⽅を検討した。

細⾝で顔⾊は⻘⽩く、⾷欲不振倦怠感を認め、冷え性であった。また、冷たい飲⾷物で下痢が悪化するため控えているとのこと。

⼈参湯エキス1回1包を1⽇3回を処⽅

経過︓2週間後、「1カ⽉続いていた下痢が⼈参湯を飲み始めて数⽇後には⽌まり、⾷欲も出て、元気になった」と⾔われ、表情も明るくなっていた。家族も「以前はきついとしか⾔わなかったのが、ゴルフに⾏きたいと⾔うようになった」と喜んでいた。その後も経過良好であった。

Q1︓効果判定はいつ⾏いますか︖
A1︓基本的には2週間〜1カ⽉が多いです。1カ⽉間、しっかり服⽤していただいて全く効果が⾒られない場合には効果なしと判断しますが、「少し良いかも」といった程度でも変化があった場合には継続します。

Q2︓副作⽤について教えてください。
A2︓⽐較的頻度の⾼い副作⽤としては、⽢草による偽性アルドステロン症や⻩芩による肝障害などがあります。⽢草や⻩芩は全ての漢⽅薬に含まれるわけではありませんので、⽅剤ごとに構成⽣薬を調べてから、重点的に副作⽤チェックを⾏う必要があります。

Q3︓どのようにして冷えの有無を判断するのですか︖
A3︓「冷え性ですか︖」「冷えると悪化する、温めると改善する症状はありますか︖」。この2つの質問でいずれかを認めれば“冷えあり”で良いかと思います。他には「冷房が苦⼿」「熱い⾵呂で⻑湯できる」「温かい飲⾷物を好む」なども参考になります。

■参考⽂献

  • 1) Nordgren L, et al.: Symptoms experienced in the last six months of life in patients with end-stage heart failure. Eur J of Cardiovascular Nursing,2003;2(3):213-7.
  • 2) Hanratty B, et al.︓Doctors' perceptions of palliative care for heart failure: focus group study. BMJ, 2002;325(7364):581-5.
  • 3) ⽥代眞⼀︓漢⽅薬はなぜ効くか――現代薬理学からの解明――. ProgMed,1994;14:1774-91.
  • 4) 原中瑠璃⼦,他︓利尿剤の作⽤機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報︓成⻑,⽔分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について.和漢医薬学雑誌,1981;14:105-6.
  • 5) Isohama, Y. Aquaporin Modification: A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan. J. Pharm. Soc. Jpn.2006;126:70-3
  • 6) ⻄⽥清⼀郎,佐藤広泰.⽊防已湯の慢性⼼不全における新しい臨床応⽤の可能性について.漢⽅の最新治療,2009;18(4):297-303.
  • 7) 江崎裕敬,他.重症難治性⼼不全患者における⽊防已湯の有⽤性. ⽇東医誌,2016;67(2):169-77.
  • 8) Nishida S, Satoh H. Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yitang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM,2007;4:335-41.
  • 9) 薄⽊成⼀郎,⻄本隆.僧帽弁置換術後の難治性胸⽔に対して五苓散追加が有効であった⼀症例.⽇東医誌,2012;63:103-8.
  • 10) 松井⿓吉,他.低⾎圧症を伴う慢性⼼不全の⽔分管理に五苓散が有効であった⼀症例.⽇東医誌,2012;63:185-90.

medicina誌 2021年7月号 ジェネラリスト・漢方-とっておきの漢方活用術  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

循環器(動悸、浮腫)

POINT

  • 漢方薬は基礎疾患よりも症状、性別、年代などを参考に選択することが多い。
  • 西洋薬と漢方薬をバランスよく使い分ける、あるいは併用することが重要。
  • 効果不十分な場合には漢方薬を2剤併用する。

キーワード:動悸、浮腫、自律神経、利尿、利水

Ⅰ. 動悸と漢方

動悸に対する漢方治療は、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、西洋薬の適応外、副作用などを考慮して選択される。漢方薬は不整脈や基礎疾患の有無に関わらず使用できること、不眠、不安、イライラなどその他の自律神経症状も改善する可能性があること、ベンゾジアゼピンなどよりは有害事象が少ないことなどが利点だと思われる。動悸の背景にはさまざまな病態が含まれていることも多い。そのため、漢方治療によって動悸だけでなく心身共に治していくことが最終的には動悸の改善にも繋がりやすい。漢方薬と西洋薬との併用は可能であり、お互いの長所を活かすことが大事である。

Ⅰ-1. 女性の動悸には加味逍遥散(No.24)

a)解説
加味逍遥散は柴胡、山梔子、薄荷、牡丹皮、当帰、芍薬、朮、茯苓、生姜、甘草の10種類の生薬で構成されている。柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮には女性ホルモンを調節する作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称される。
加味逍遥散の特徴は自律神経と女性ホルモンを調節する働きであるため、女性の動悸には第一選択となる。また同様の理由で、月経周期に関連する動悸、更年期障害に伴う動悸などにも適合しやすい。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。

b)エビデンス
山崎の臨床研究では、76歳女性の動悸、のぼせに対して加味逍遥散を使用した結果、いずれも改善した症例を報告している2)

c)症例提示
35歳女性。主訴:動悸、月経前の頭痛、不眠。3、4ヶ月前より動悸(脈拍80〜90回/分の不整なし)を自覚するようになり、最近は毎日認める。仕事のストレスは増えている。不眠もあり、寝つき悪く、中途覚醒1回、熟睡感がない。月経前に頭痛も認める。イライラしやすい。
処方:加味逍遥散11包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は4-5/10へ減った。よく眠れるようになった。イライラもあまりない。」
28日後:「動悸はほとんどない。月経前の頭痛もあまりなかった。」

Ⅰ-2. 男性の動悸には柴胡加竜骨牡蛎湯(No.12)

a)解説
柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡、黄芩、半夏、桂皮、茯苓、竜骨、牡蛎、人参、生姜、大棗の10種類の漢方薬で構成されている。柴胡、黄芩、半夏、茯苓、竜骨、牡蛎には自律神経安定作用、精神安定作用がある。その中でも特に竜骨、牡蛎は動悸を抑える作用がある。典型的には“冷え性でない”“体格中等度以上”に適するため、男性の動悸には第一選択となりやすい。一方で、“冷え性”や“虚弱者”の場合には桂枝加竜骨牡蛎湯(No.26)柴胡桂枝乾姜湯(No.11)を選択する。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、動悸だけでなく不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。

b)エビデンス
柴胡加竜骨牡蛎湯には交感神経緊張の抑制作用3)、アドレナリン作動性神経系の代謝抑制作用4)などが示されている。

c)症例提示
53歳男性。主訴:動悸、不眠。5ヶ月前より動悸(不整あり)を自覚するようになった。この3日間は特に症状が強いため来院された。夜間、動悸で目が覚めて眠れないとのこと。心電図では3段脈を認めた。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯11包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は3/10へ減った。よく眠れるようになった。」
28日後:「動悸はほとんどない。調子良い。」

Ⅰ-3. あらゆる動悸に炙甘草湯(No.64)

a)解説
炙甘草湯は炙甘草、地黄、麦門冬、桂皮、麻子仁、阿膠、人参、生姜、大棗の9種類の生薬で構成されている。地黄、麦門冬、麻子仁、阿膠、人参には「血」や「水」を補う作用(血液や栄養分を補う、水分で潤す)があり、甘草、人参には「気」を補う作用(元気をつける)がある。また、「桂皮+甘草」の組み合わせには動悸を抑える作用がある。動悸の原因として、「気・血・水」の不足(心身ともに疲れたイメージ)の関与があると考えられており、これらを補う炙甘草湯が使用される。炙甘草湯は上記の漢方薬と異なり、自律神経が関与しない動悸にも使用できる。動悸に幅広く対応するため、とりあえず処方するには炙甘草湯がよい。

b)エビデンス
難治性不整脈5)やバセドウ病の動悸6)に対して炙甘草湯が有効であった症例報告がある。

c)症例提示
68歳男性。主訴:動悸。数週間前から動悸(脈拍140〜150回/分の不整あり)を自覚するようになった。特に数日前より悪化しており、1回30分程度持続する。ホルター心電図では心房頻拍、心室性期外収縮を認めた。元々の心拍数が60台であるため、ビソプロロール0.625mgから開始したが、1ヶ月後に動悸は増悪していた。
処方:炙甘草湯1回1包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は1-2/10へ減った。1回の動悸も10分ぐらいで治まる」
28日後:「動悸は少しあるが、あまり気にならない程度になった」

Ⅰ-4. 次の一手

・上記漢方薬とよく併用するのが半夏厚朴湯(No.16)である。半夏厚朴湯には抗うつ作用、抗不安作用があるが、特に喉〜胸部の閉塞症状(喉のつまり、胸痛等)や不安感などを目標に使用することが多い。動悸に対しても、特に上記の加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯のような自律神経調節作用の漢方薬と併用することが多い。
突然に発症する動悸(発作性上室性頻拍、発作性心房細動など)やパニック発作などには苓桂甘棗湯(苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)で代用)を用いる。

Ⅱ. 浮腫と漢方

浮腫に対する漢方治療についても、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、利尿剤の適応外(若い女性の浮腫)、副作用(利尿剤による腎機能や電解質の悪化)などを考慮して選択される。基本的には基礎疾患の有無を問わないことが多いが、基礎疾患がある方が有効率は低い。浮腫に対する漢方薬は、利水作用(水分代謝調節作用)を有する利水剤(水分代謝調節薬)を使用し、浮腫の部位、冷えの有無、年齢などを参考にして選択する。
例えば、利水剤の代表である五苓散(17)はアクアポリン(AQP)という水輸送チャネルを介して働くことがわかっている7)。また、五苓散(おそらくその他の利水剤も)は浮腫状態では利尿作用、脱水では抗利尿作用として働くことが示されており8)水分バランス(分布の不均衡)を丁度よい状態に調節してくれる薬剤となる。すなわち、利水剤は利尿剤よりも効果は劣るが、多く服用しても基本的に脱水にはならず、腎機能も悪化させない。また、ナトリウムやカリウムなどの電解質に与える影響もほとんどない9)

Ⅱ-1. あらゆる浮腫に五苓散(No.17)

a)解説
五苓散は沢瀉、朮、茯苓、猪苓、桂皮の5種類の生薬で構成されている。そのうち4つが利水作用の生薬であり、利水剤の代表といえる。五苓散はどのタイプの浮腫にも使用できるが、特に脳浮腫に対して効果を示しやすい。それは実臨床でも実感するが、五苓散が作用しやすいAQP4が比較的脳に多く分布していることからも説明できる10)。脳神経外科の分野でも五苓散は頻用されているが11)、特に低気圧時の頭痛、二日酔いの頭痛(微小な脳浮腫が関与するといわれている)などに有効性が高いと感じる。
五苓散は全年齢層に使用できるが、特に小児との親和性が高く、小児の浮腫には五苓散が第一選択となる。

b)エビデンス
心不全に対する五苓散の有効性を示した報告もある12)13)

c)症例提示
91歳女性。主訴:両下腿浮腫、顔面浮腫。ADL半介助にて施設入所中。食事は摂取できている。2型糖尿病、慢性腎臓病(Cr 1.7, eGFR 22)、著明な両下腿浮腫、顔面浮腫を認めており、歩行困難な状態であった。アゾセミド30mgを追加したところ、体重1kg減少したが、下腿浮腫は著変なく、腎機能の悪化を認めた。牛車腎気丸5g/日を追加したが効果不十分であった。
処方:五苓散1回1包 1日2回 毎食間 14日分
14日後:「浮腫は1/3程度減り、体重も2kg減った」
28日後:「浮腫は1/2程度残存しているが、だいぶ楽になった」
 

Ⅱ-2. 高齢者の下腿浮腫には牛車腎気丸(No.107)

a)解説
牛車腎気丸は、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子、牛膝、車前子の10種類の生薬で構成されている。牛車腎気丸には沢瀉、茯苓などによる利水作用以外にも、滋養強壮作用、温熱作用、末梢循環改善作用などがある。牛車腎気丸に類似する漢方薬に八味地黄丸(No.7)があるが、牛車腎気丸=八味地黄丸+牛膝、車前子であり、八味地黄丸より下腿浮腫に効果を示しやすい。また、下腿浮腫だけでなく、加齢に伴う諸症状(認知機能低下、腰痛、下肢しびれ、下肢の冷え、サルコペニアなど)にも適応があり、高齢者向けの漢方薬である。よって、牛車腎気丸は高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。また、基本的に体を温める漢方薬のため、冷え性に適合しやすい。

b)エビデンス
リンパ浮腫患者に対するランダム化比較試験14)。圧迫療法に加え牛車腎気丸エキス製剤を1ヶ月投与群(40名)、もしくは非投与群(40名)で比較した結果、上肢リンパ浮腫、下肢リンパ浮腫ともに牛車腎気丸は非投与群と比較して浮腫を有意に減少させた。

c)症例提示
87歳女性。主訴:下腿浮腫、下肢しびれ。ADL自立で外来通院中。慢性心不全(EF63%)、慢性腎臓病(Cr1.1mg/dl)、著明な下腿浮腫があり歩行しづらい状態。利尿剤を増量すると腎機能が悪化する。脊柱菅狭窄症で下肢しびれも認める。足が冷えやすい。
処方:牛車腎気丸1回1包 1日2回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減り、体重も2.2kg減った」
28日後:「浮腫はだいぶ良い。体重もさらに1kg減った。足のしびれは変わらない」
 

Ⅱ-3. 女性の浮腫には当帰芍薬散(No.23)

a)解説
当帰芍薬散は当帰、芍薬、川芎、朮、茯苓、沢瀉の6つの生薬で構成されている。茯苓、朮、沢瀉の利水作用、当帰、川芎の末梢循環改善作用、女性ホルモンを調節する作用、当帰、芍薬の温熱作用がある。すなわち、当帰芍薬散は(特に若年〜中年で冷え性の)女性の浮腫に第一選択となる。その中でも月経周期に伴う浮腫(月経前の浮腫)などに対応しやすい。

b)エビデンス
妊娠中の浮腫に当帰芍薬散が有効であった症例報告もある15)

c)症例提示
24歳女性。主訴:下腿浮腫、曇天時の頭痛。以前から仕事後に下腿浮腫や下肢のだるさを認めていたが、最近は翌朝にも浮腫が残存している。月経前には全体的にむくみやすくなる。曇天時の頭痛、月経痛を認める。手足が冷えやすい。
処方:当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減っている。曇天時の頭痛もなかった」
28日後:「浮腫の調子はだいぶ良い。月経痛もあまりなかった」
 

Ⅱ-4. 次の一手

・上下肢など体表面の浮腫に対応する漢方薬にも鑑別がある(上記の漢方薬も使用する)。蜂窩織炎など炎症性浮腫の場合、抗炎症作用も有する越婢加朮湯(No.28)を使用する。炎症が乏しい場合上肢には桂枝加朮附湯(No.18)、葛根加朮附湯(三和SG-141)下肢には牛車腎気丸(No.107)、防已黄耆湯(No.20)などを使用する。
・心不全には木防已湯(No.36)を使用することもある。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており16)17)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが下腿浮腫は少ない場合に使用することが多い。心不全で下腿浮腫がある場合には上記の五苓散や牛車腎気丸を使用することが多い。
・利水薬を併用することで効果が高まる可能性があるため、1剤で効果不十分な場合には2剤を併用する。

文献

  • 花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003
  • 山崎武俊:動悸/不整脈に対する漢方治療の有効性. 心臓 48(5):504-510, 2016
  • 岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49:766-774, 1999
  • 伊藤忠信,他:柴胡加竜骨牡蛎湯および柴胡桂枝乾姜湯の中枢神経系に及ぼす作用-マウス脳内モノアミン含量および代謝に及ぼす影響-. 日本東洋医学雑誌 47:593-601, 1997
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  • 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌 2(3):688-89, 1985

月刊薬事2022年2月臨時増刊号 救急/急性期・病棟での漢方製剤の使い方よく使う漢方製剤 真武湯  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

組成

茯苓4g、芍薬3g、朮3g、生姜1.5g、附子0.5g
コタロー・三和・JPSは附子1g、茯苓5g
コタローは生姜0.8g JPS・三和は生姜1g
ツムラ・JPSは蒼朮 コタロー・三和は白朮

エビデンス

真武湯のエビデンスは検索した限りでは見当たらないため、症例報告を提示する。

「真武湯が後期高齢者の心不全に有効であった2症例」1)
後期高齢者の心不全2症例に真武湯を投与した。
症例1:84歳男性。重症大動脈狭窄症を有する心不全で、入退院を繰り返していた。入院中に真武湯を追加してから胸水減少、心胸郭比の改善を認めた。
症例2:84歳男性。心不全と誤嚥性肺炎で入院。真武湯を追加してから、尿量増加し、肺うっ血と心胸郭比の改善を認めた。

適応となる病態

真武湯は茯苓、芍薬、朮、生姜、附子で構成され、主に「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」「補気作用(元気をつける)」を有する漢方薬である。よって、「冷え」「水分代謝・分布異常(水毒)」「気虚(気の不足)」といった病態に適応する。
よって、真武湯が適応とする症候はめまい、倦怠感、下痢、冷え、浮腫、心不全などがある。
1. めまい
例えば、メニエル病の原因が内リンパ腫といわれているように、めまいと「水分代謝・分布異常(水毒)」が関係することが多く、水分代謝調節作用を有する真武湯は鑑別処方の一つである。その中でも真武湯が得意としているめまいは、浮動性めまい(フワフワする)と動揺性めまい(クラっとする)である。
昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」2)を提示しており、その中には「歩いていてクラっとする」「雲の上を歩いているみたいで、なんとなく足元が心もとない、あるいは地にしっかり足がついていないような感じ(フワフワ)する」といった浮動性・動揺性めまいについて記載されており、それ以外にも、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる」「眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある」なども記載されている。
急性期の回転性めまいよりも、亜急性期以降のめまい感といったタイプで、安静時ではなく労作時に出現しやすい傾向がある。対象者は冷え症の高齢者に比較的多くみられる。急性期の回転性めまいや、頭位性めまい(頭の向きで悪化するタイプで良性発作性頭位めまい症なども含む)、起立性めまい(立ちくらみも含む)には苓桂朮甘湯を優先して使用される。
2. 倦怠感
真武湯には「温熱作用(温める)」「補気作用(元気をつける)」があるため、適応となる倦怠感は「体の冷えが強く、横になりたいほどのきつさがある」が典型的である。
真武湯で効果不十分な場合には人参湯を併用すると効果が高まる。冷えが強くない倦怠感には補中益気湯や十全大補湯、抑うつを伴う倦怠感には加味帰脾湯なども使用される。
3. 下痢
真武湯には「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、適応となる下痢は「冷えを伴う水様性下痢」である。「冷えを伴う下痢」とは、発熱や炎症がなく、体が冷える、冷たい飲食物で下痢が悪化する、便臭が軽度などを意味する。下痢は水様性で腹痛を伴わないことが多い。
「冷えを伴う下痢」において、腹痛を伴う場合は大建中湯、食欲不振を伴う場合は人参湯、軽度の炎症を伴う場合は半夏瀉心湯なども使用される。
4. 冷え
真武湯には「温熱作用(温める)」があるため、基本的に暑がりでなく冷え症に適合しやすい。冷え症の中でも、末梢循環障害を示唆するような手足末端のみの冷えよりも、体全体の冷え(厚着を好む、冷房が苦手、長風呂できる)が典型的である。
前者の末端冷え症には末梢循環改善作用のある当帰四逆加呉茱萸生姜湯や当帰芍薬散が使用される。真武湯と併用する場合も多い。
5. 浮腫
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、浮腫にも適応がある。水分代謝調節作用を有する漢方薬(利水薬)には基本的に「ちょうどよい状態にしてくれる」作用がある。例えば、利水薬の代表である五苓散の研究では「浮腫状態には利尿作用、脱水状態には抗利尿作用」をもたらすことも報告されている3)。また、西洋薬の利尿薬にみられるような電解質異常もきたしにくい4)。真武湯の抗浮腫作用は軽度で、典型的には冷え症の浮腫に使用される。
抗浮腫作用を強めるため、他剤と併用することもある。抗浮腫作用の比較的強い五苓散、高齢者の下腿浮腫に頻用される牛車腎気丸、女性の浮腫に頻用される当帰芍薬散などがある。
6. 心不全
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、心不全にも適応がある1)。また、心不全患者は低灌流、β遮断薬、加齢などの影響で冷え症が多く、「温熱作用」を有する真武湯の対象となりやすい。漢方薬の利水薬は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく、体内の水分バランスを調節する働きである。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりももっと落ち着いた代償期、心不全のステージ分類では「ステージC(末期を含むステージDではない)」などに使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけと思われる。
心不全に用いるその他の漢方薬としては、五苓散や木防已湯などがある。五苓散は抗浮腫作用に比較的優れているため、third spaceなどの体液貯留の調節に用いることが多い。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており5)6)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが浮腫は少ない場合に使用することが多い。

注意点

附子が含まれているため附子中毒に注意が必要だが、極端に暑がりな人に投与しなければリスクは少ないと思われる。附子中毒の症状は、口唇(口の周囲)や舌のしびれ、動悸、嘔気、ほてりなどがあるが、これらが服用直後ではなく、服用30分~2時間後あたりに発症することが特徴である。もし附子中毒を発症しても数時間後には代謝され落ちつく。不整脈などがでている場合や症状が強い場合は点滴や心電図モニターも必要になる。

症例

72歳女性。1年前からめまいを自覚。めまいは主に歩いているときにフワフワする。時々、クラっとすることもある。頻度は週2~3回程度。頭部MRIなどの検査では異常なく、脳外科で加療したが改善なし。手足を触ると冷たく、夏でも厚着をするほどの冷え症とのこと。BP124/65mmHg, HR 65, SpO2 98%。
処方:真武湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分

2週間後:「この2週間にめまいは1度だけでした。」
4週間後:「めまいはなく、調子良いです。」

文献
1)山本昇伯,他:日東医誌, 68(2):117-122, 2017
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993
3)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994
4)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981
5)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4(3):335-41, 2007
6)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3):688-89, 1985

月刊誌「薬局」2022年3月号 心不全薬物治療の道しるべ 「心不全患者のQOL改善に役立つ漢方」  より抜粋  執筆 土倉潤一郎

  • 漢方は心不全の治療よりも心不全患者のQOL改善の方が得意。
  • 高齢心不全患者では甘草による偽アルドステロン症に注意。
  • 漢方薬にはさまざまなハードルがあるため個別対応が必要。

心不全患者において、予後改善効果のある薬剤が大切なことは言うまでもないが、全身状態やQOLを改善する薬剤も大事である。また、漢方は心不全自体の治療よりも心不全患者のQOLを改善する役割を得意としている。例えば、“食欲不振が改善し栄養状態も回復する”“便秘が改善し(いきむことも減り)心負荷も軽減する”“ふらつきや倦怠感が改善しリハビリテーションもできるようになる”などで、QOLの改善だけでなく、間接的に予後の改善にも関わる可能性がある。
また、漢方薬にはさまざまな副作用があるが、特に心不全患者では甘草による偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)に注意が必要である。両者には密接な関係性があり、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪と紛らわしい”などがある。
今回、心不全患者のQOL改善に役立つ漢方について述べる。

【便秘】
  • 麻子仁丸(126):特に高齢者の便秘(難治性)に第一選択となる。比較的“強い下剤”のため、西洋薬を複数服用しても効果不十分な難治性の便秘に使用するとよい。これまで便秘に困っていた患者が「スッキリ出た」と快便に喜ぶことも少なくない。心不全患者は元々多剤を服用している場合が多いが、麻子仁丸を追加することで便秘薬(西洋薬)を数種類減薬できる可能性がある。また、甘草が含まれていないことも利点。
【食欲不振】
  • 六君子湯(43):「胃の水毒(後述)」が関与した食欲不振には六君子湯が第一選択となる。六君子湯は大きく四君子湯(75)+二陳湯(81)という2つの漢方薬に分かれる(4+2=6)。四君子湯は消化機能を高めて気を補い(元気をつける)、二陳湯は「胃の水毒」をさばく働きがある。六君子湯にはグレリンによる上部消化器症状の改善効果、病態生理なども解明されているが1)2)3)、漢方医学的な視点でみると、六君子湯は「胃の水毒」を改善して食欲不振を治す漢方薬といえる。「胃の水毒」は西洋医学的に説明しづらいが、心不全患者は浮腫傾向であるため、「胃の水毒」を有する可能性が高い。よって、心不全患者の食欲不振には六君子湯が適合しやすい
  • 茯苓飲合半夏厚朴湯(116):ストレスが関与した食欲不振には茯苓飲合半夏厚朴湯が第一選択となる。茯苓飲合半夏厚朴湯は茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤である。茯苓飲は四君子湯(−甘草)に順気作用(気の巡りをよくする、抗ストレス作用)の枳実などが含まれており、ストレス性の上部消化器症状に対応する。早期飽満感(食べるとすぐに胃が張る)、ゲップ、胸焼けなど、ストレスで胃の蠕動が低下した状態を改善する漢方薬である。また、半夏厚朴湯にも順気作用があり、咽喉頭異常感症(喉のつまり)、心臓神経症(胸のつまり)などの喉から胸の閉塞症状を和らげる働きがある。すなわち、茯苓飲合半夏厚朴湯は“喉から胃までの蠕動低下(気の滞り、詰まった感じ)を改善する漢方薬”であり、ストレス性の食欲不振に適合しやすい。また、生薬構成をみると六君子湯(−甘草・大棗)が含有されているため、“六君子湯+抗ストレス作用”のイメージで、西洋薬で例えるならスルピリドに近い。六君子湯と異なり、甘草が含まれていないのも利点
【倦怠感】
  • 補中益気湯(41):倦怠感に第一選択となる。食欲不振にも対応できる薬剤のため、胃が弱い患者にも使用できる。心不全ステージ分類のStageCよりもStageDの進行した状態の方が倦怠感は増加するが、一方で漢方薬の有効率は低下する傾向にある。
  • 十全大補湯(48):倦怠感に使用される漢方薬だが、補中益気湯との大きな相違点は四物湯(71)が含有されていること。四物湯によって、やや効果が高まる一方で、胃もたれなどに注意すべき生薬が含まれるため胃が弱い患者には注意が必要になる。心不全の進行に伴い、倦怠感に対する漢方薬の有効率が低下することは補中益気湯と同様。
【こむら返り】
  • 芍薬甘草湯(68):頻度の少ないこむら返りに第一選択となる。芍薬甘草湯は速効性がある一方で甘草の量が多いため、基本的に頓用で使用する。
  • 疎経活血湯(53):再発するこむら返りに第一選択となる。発作時には芍薬甘草湯を使用するが、繰り返す場合には疎経活血湯を定期服用して予防する。時間依存性、用量依存性があるため、明け方のこむら返りには夕よりも寝る前、1包よりも2包の方が効果が高い4)。よって、明け方のこむら返りには“寝る前2包”が推奨される。
【下腿浮腫】
  • 牛車腎気丸(107):高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。女性の浮腫には当帰芍薬散(23)、水太りの女性の下腿浮腫には防已黄耆湯(20)、それ以外の浮腫や全身の浮腫には五苓散(17)を優先して使用する。効果不十分な場合には、これらを併用する。

~心不全治療における漢方薬の位置づけ~
漢方薬の利水薬(水分代謝調節薬)は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく体内の水分バランスを調節する(水を引き込むよりも正常でない場所に行かないようにする)働きがある。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりも比較的落ち着いた代償期に使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけだと思われる。

  • 五苓散(17):オールラウンダーの利水薬。水分代謝調節作用に比較的優れているため、third spaceなどの体液貯留の調節に用いることが多い。よって、心不全だけでなく、下腿浮腫、低アルブミン血症などの全身浮腫などにも使用できる。その他の利水薬として、当帰芍薬散(23)、真武湯(30)、牛車腎気丸(107)などを使用あるいは併用することもある。
  • 木防已湯(36):ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くこと(≒血管拡張作用)心収縮力増大作用が示されており5)6)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが浮腫は少ない場合などに使用することが多い。
【漢方薬のハードルを下げる方法】

漢方薬には西洋薬と異なる特性がある。利点としてはこれまで記載したような西洋薬にはない、あるいは西洋薬を上回る効果を持つ側面があること、また、患者の治療選択肢が増えることなどがある。難点としては“飲みづらさ”であろう。漢方薬は西洋薬よりも健康食品に近い存在であり、好み服薬意識(低い)などが大きく関与する。どんなに良い漢方薬でも飲まない薬は効かないため、患者に合わせて漢方薬のハードルを下げる工夫が必要である。これは漢方薬を適切に選択することと同等に重要だと思われる。

《好み》
まず患者によって漢方薬への好み(苦手意識)が異なることを認識すべきである。よって漢方薬を初めて服用される場合には「漢方薬は飲めますか?」などの質問をする方が親切である。漢方薬に対してあまり良い返事がない場合には下記の方法を検討する。
《味》
漢方薬の味が苦手な場合もある。理想的にはインスタントコーヒーのように“白湯に溶かして香りも含めて服用する”ことが勧められているが、個人的には「オブラートやジュースなどどのような方法でもよいのでとにかく飲んで下さい」と伝えている。また錠剤やカプセルの製品(限定されるが)を選択することもある。
《細粒》
粉が苦手な場合は“お湯に溶かす”“錠剤やカプセルの製品を選択する”“オブラートを使用する”などの対応がある。
《服薬方法》
添付文書には「1日2~3回」「食前又は食間」に服用すると記載されているが、患者によっては「1日2回」「食後」「西洋薬と同時服用可」などの柔軟さが必要である。漢方薬の服用のタイミングに関しては、空腹時と食後で胃内pHに差があり、効果や副作用に影響を及ぼす可能性を指摘した研究もあるが、臨床的には治療上問題となるほどの差ではない7)という意見も多数ある。個人的には服薬アドヒアランスを重視して食後で処方することが多く、また服用のタイミングも個人に任せて「服用時間がずれても、服用間隔が短くてもよいので、1日分を1日の中で飲み切ることが大事です」と強調している。ただし、“不眠に対する漢方薬は寝る前“”食欲不振や食後の膨満感などには食前“”頓用で使用する場合には速効性を期待して空腹時“の方がよいと思われる。
《服薬意識》
一般に“飲まないといけない西洋薬”と“飲まなくてもよい漢方薬”の違いはあると感じる。漢方薬の服薬意識を高める方法としては“漢方薬を飲んでみよう”という期待値を高めることである。具体的には、“どのような効果をもつ漢方薬か”“どのような症状が改善する可能性があるか”“どれくらいで効果を認めるか”“次回の診察時に改善がなければ処方変更を検討する”などを説明する。例えば、個人的な説明内容としては「この漢方薬は○○の働きがあり、○○の症状が改善する可能性があります。2~4週間で症状が軽減する可能性がありますのでまた経過を教えてください。」などとお伝えしている。
《効果発現》
一般に漢方薬は長く飲まないと効かないというイメージをもつ人が多い。実際、そのような場合もあるが、慢性疾患を対象とした漢方薬でも2~4週間以内に効果を示すことが多い。漢方薬の効果に対して半信半疑の患者も、早期に効果を実感するとその後の服薬アドヒアランスが向上する。そのため、なるべく早期の成功体験を意識し、速効性や有効性の高い“症候×漢方薬“から開始することが大事である。漢方薬にも得意不得意があるため、これまで記載した内容(得意分野)を参考にして頂きたい。
《副作用》
なるべく副作用の少ない漢方薬を選択することも大事である。一度、副作用を経験すると他の漢方薬も拒むようになる場合がある。特に注意すべき副作用は、甘草による偽アルドステロン症、黄芩による肝障害、地黄や麻黄による胃もたれなどがある。もちろん、患者には予めそのような副作用の可能性を(あまり強調しすぎずに)説明しておくべきである。


文献
1) Takeda, H, et al:Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism. Gastroenterology, 134:2004-2013, 2008.
2) Arai M, et al:Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastoenterology, 59:62-66, 2012.
3) Tominaga K, et al:A randomized, placebo-controlled, double-blind clinical trial of Rikkunshito for patients with non-erosive reflux disease refractory to proton-pump inhibitor:the G-PRIDE study. J Gastroenterol, 49:1392-1405, 2014.
4) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017.
5) Nishida S, et al:Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007.
6) 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. Pharma Medica, 新春増刊号:193-200, 1986.
7) 稲木一元,他:臨床医のための漢方Q&A, 中外医学社, 202-203, 2014.

漢方初学者が簡単に成功体験できる方法(YouTube)

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