私は循環器内科が専門でありますが、飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務し、漢方専門外来を担当しておりました。 当院の特徴としては、
- 専門性の高い本格的な漢方治療だけでなく、必要に応じて西洋医学的な検査や治療もご提案できる
- 漢方治療としてエキス製剤(粉薬)だけでなく、効果の高い煎じ薬(生薬)も扱っている
他の病院へ通院している場合も、特に紹介状の必要はなく、当院での併診が可能です。
どんな症状でも東洋医学的なアプローチは可能ですので、お気軽にご相談ください。
私は循環器内科が専門でありますが、飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務し、漢方専門外来を担当しておりました。 当院の特徴としては、
他の病院へ通院している場合も、特に紹介状の必要はなく、当院での併診が可能です。
どんな症状でも東洋医学的なアプローチは可能ですので、お気軽にご相談ください。
東洋医学的な見方(診断)をすれば、ほとんどの方に何かしらの偏りが見られます。その偏りを参考に、困っている症状や疾患にアプローチしていくため、あらゆる病態に対応できます。
特に漢方が得意だと思われる分野は、風邪や感染性胃腸炎などのウイルス性疾患、胃腸疾患(食欲不振、過敏性腸症候群、下痢、腹痛、膨満感)、冷えが関連する症状、月経関連疾患(月経痛、月経に伴う頭痛・にきび・イライラ)、ストレス性疾患などがあります。
当院は、エキス製剤(粉薬)だけでなく、煎じ薬(生薬)も保険診療で扱っておりますので、患者さんそれぞれの病態に合ったオーダーメイド治療ができます。
漢方薬は植物や鉱物など自然なもので構成されており、より体に優しい治療ができます。よく世間では、「漢方は長く飲まないと効かない」というイメージがあるようですが、風邪などには30分以内、その他の疾患でも数日以内に効果が現れることも少なくありません。
漢方は西洋医学とは異なった視点でのアプローチですので、西洋薬で改善が乏しい例にも著効することや、一つの漢方薬でさまざまな症状が改善することもあります。もちろん西洋薬との併用も可能です。また、症状の緩和だけでなく、根本から治す体質改善の効果もあります。
私はこれまで西洋医学と東洋医学をほぼ同じ期間に学びました。そこで強く感じたことは、「人間にはどちらの医学も必要である」ということです。確かに日本の現代医学のなかで、東洋医学は必須ではありません。しかし、西洋医学では治療困難な分野でも、東洋医学で容易に治る場合が少なくありません。
医師は漢方薬を処方できる資格がありますが、実は漢方の教育はほとんどありませんし、漢方専門医であっても漢方に精通している医師はごく少数です。もし一般的な治療でも症状が残っている場合には、ぜひ一度、ご相談をして頂ければと思います。
当院へ来院し漢方診療を希望された場合、こちらの問診票に記入して頂きます。
予め、印刷して頂き、記入後持参して頂ければ待ち時間の短縮になります。
※こちらをクリックすると問診票がダウンロードできます。
~漢方薬を服用される患者様へ~
例:補中益気湯1日3回の28日分の場合
・エキス剤(粉薬)7,872円→3割負担2,361円、1割負担787円
・煎じ薬 (生薬)8,320円→3割負担2,496円、1割負担832円
*薬局に煎じて頂く場合(真空パック):手数料100円/日×28日分+送料が追加
《こんな時困りませんか?》
患者「よく風邪をひいて困ります。すぐに良くなる薬はありませんか?」
ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・効かせるコツとして、服用方法の工夫、養生の仕方などがある。
82歳女性。よく風邪をひくが、治りにくい。もともと冷え性で冷房は苦手。風邪をひくと更に体が冷え、鼻汁や咽頭痛(イガイガする)を認める。長引くと咳も出るようになる。熱は出ない。総合感冒薬を飲むと体がきつくなる。
処方①:麻黄附子細辛湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
7日後:「あの漢方薬は良かった。喉のイガイガはすぐに良くなったが、鼻水がまだ少し出る」
処方②:麻黄附子細辛湯1回1包+小青竜湯1回1包 1日3回 毎食間 7日分
14日後:「鼻水も喉も良くなりました」
文献:
1) ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
2) Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
3) 宮本昭正,他:TJ-19 ツムラ小青竜湯の気管支炎に対するPlacebo対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 17 : 1189-1214, 2001.
4) Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
5) 高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
6) Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
7) Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.
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《こんな時困りませんか?》
患者「1週間前から咽頭痛、咳、痰などの治療をしていますが、良くなりません」
ポイント
・風邪の漢方薬の利点は、抗炎症作用、温熱作用(温める)、滋潤作用(潤す)。
・処方選択に「患者の体質×症状のタイプ×症状の程度」を考慮する。
・この時期には症状が1つでないことも多く、複数の薬剤が必要な場合がある。
文献
1)高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
2)Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pharm Bull, 18:559-62, 1995.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
5)馬場駿吉,他:耳鼻咽喉科疾患とEBM-アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の薬効評価を中心に-. Prog Med, 22(9), 2123-2126, 2002.
6)宮田健,他:気管支炎病態動物における麦門冬湯とcodeineの鎮咳作用の比較. 日本胸部疾患学会雑誌, 27(10): 1157-1162, 1989.
7)Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
8)Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
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《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常がなく薬も飲んでいるけどまだ食欲がありません」
ポイント
・食欲不振の漢方薬は消化機能を高めて気力を補う四君子湯が基本となる。
・漢方薬の有効率は高くないが他に治療法がない場合には十分考慮すべき選択肢の1つになりうる。
・それぞれの漢方薬の特徴を理解し、患者のタイプによって使い分ける。
文献
1)Arai M, et al.: Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastroenterology, 59:62-66, 2012.
2)Suzuki H, et al.:Randomized clinical trial: rikkunshito in the treatment of functional dyspepsia-a multicenter, double-blind, randomaized, placebo-controlled study. Neurogastroenterol Motil, 26(7):950-61, 2014.
3)Kusunoki H, et al.:Efficacy of Rikkunshito, a Traditional Japanese Medicine(Kampo), in Treating Functional Dyspepsia. Intern Med, 49(20):2195-202, 2010.
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準備中
ポイント
・年齢、ストレス、冷えの有無で鑑別する。
・対象疾患は過敏性腸症候群など主に機能性疾患に幅広く対応できる。
・効果不十分な場合は他剤を併用する。
文献
1)三潴忠道:はじめての漢方診療十五話.医学書院, 214, 2005.
2)犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
3)土倉潤一郎:Gノート 本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬. 羊土社, 4(6):1044-1055, 2017.
4)土倉潤一郎:Gノート おなかに漢方!. 羊土社, 6(1):58-64, 2019.
5)日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2020 改訂第2版 過敏性腸症候群. 南江堂, 74-76, 2020.
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《こんな時困りませんか?》
患者「検査で異常なく、整腸剤や止痢薬を飲んでも下痢が続いています」
ポイント
・下痢の漢方治療は①炎症②腸管の冷え③水毒の観点から処方選択する。
・器質的疾患を除外された慢性下痢には「腸管の冷え」の関与が多い。
・「腸管の冷え」の関与した下痢には大建中湯などの温熱薬が奏功しやすい。
文献
1)犬塚央, 他:高齢者施設で多発した嘔吐下痢症に対する黄芩湯の使用経験. 日東医誌, 62(1):53-56, 2011.
2)坂田優,他:塩酸イリノテカン(CPT-11)の下痢に対する半夏瀉心湯(TJ-14)の臨床効果. 癌と化学療法, 21:1241-1244.
3)Ueno N, et al:TU-100(Daikenchuto) and ginjer ameliorate anti-CD3 antibody induced T cell-mediated murine enteritis: microbe-independent effects involving Akt and NF-κB suppression. PLos One, 9:e97456, 2014.
4)岡村信幸, 他:塩類下剤誘発下痢モデルマウスに対する五苓散の効果. 日東医誌, 60(5):493-501, 2009.
5)福富悌,他:小児の急性胃腸炎に伴う嘔吐に対する五苓散注腸の検討. 小児科臨床, 53:967-970, 2000.
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《こんな時困りませんか?》
患者「数種類の下剤を飲んでいるけど便が出なくて困っています」
ポイント
・便秘の漢方薬の利点は、腸蠕動を意識したアプローチができること。
・年齢層によって使用する漢方薬がある程度大別できる。
・場合によっては体質改善効果も期待できる。
文献
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 79, 1982.
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準備中
《こんな時困りませんか?》
患者「皮膚科で治療しても毎年しもやけができるので困ります」
ポイント
・しもやけの主病態は血流障害であり、末梢循環改善作用の漢方薬を使用する。
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38)が第一選択薬となる。
・効果不十分例には他剤を併用する。
文献
1)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
2)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
3)金内日出男:レイノー病と慢性動脈閉塞症,膠原病におけるレイノー現象の臨床症状とサーモグラフィーを用いた皮膚温との比較-当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効評価. 公立豊岡病院紀要, 11:69-76, 1999.
4)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.
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《こんな時困りませんか?》
患者「月経痛、不眠、月経前のイライラ、頭痛、むくみ、ニキビに困っています。」
ポイント
・月経や女性ホルモン関連の主病態は、漢方では瘀血(ドロドロ血)といわれている。
・病態が瘀血で共通ならば、1剤で複数の症状が改善する可能性がある。
・瘀血の治療薬にはさまざまな特徴があり、瘀血+αの病態に応じて使い分ける。
文献
1)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
3)Kotani N, et al.:Analgesic effect of a herbal medicine for treatment of primary dysmenorrhea - a double-blind study. The American Journal of Cinese Medicine, 25:205-12, 1997.
4)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
5)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
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《こんな時困りませんか?》
患者「最近、イライラしやすくなり、夫とよく喧嘩するようになりました。」
ポイント
・基礎疾患を問わず、イライラに対して漢方薬を使用できる。
・年齢や性別によって適合しやすい漢方薬が異なる。
・副作用の観点から向精神薬の前に漢方薬を試す価値はあると思う。
文献
1) Matsuda, Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.
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《こんな時困りませんか?》
患者「最近、すぐに顔がのぼせて困ります。婦人科では治療法がないと言われました。」
ポイント
・のぼせは漢方医学的に気逆きぎゃくと呼ばれる病態で治療は降気薬が主体となる。
・女性には加味逍遥散(24)が第一選択。男性には黄連解毒湯(15)が第一選択。
・のぼせの漢方治療でその他の気逆症状(動悸など)も改善する可能性がある。
①降気薬
降気薬は気を降ろす働きがあり、気逆の治療薬である。降気作用の生薬には黄連、桂皮、桂皮+甘草(この組み合わせは 桂皮のみより強力)、牡丹皮、山梔子などがあり、これらが含有された降気薬は多くあるが、本稿では加味逍遥散(24)、黄連解毒湯(15)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)、黄連湯(120)を紹介する。主な働きとして交感神経抑制作用、末梢循環改善作用、女性ホルモン調節作用などを有する。ホットフラッシュや月経周期によるのぼせなどの女性ホルモン関連症状であれば、女性ホルモン調節作用の加味逍遥散(25)、桂枝茯苓丸(25)、女神散(67)を中心に組み立てる。
②清熱薬
清熱薬はのぼせ、ほてりなどの熱を冷ます働きがある。清熱作用の生薬には石膏、黄連、黄芩、黄柏、山梔子、薄荷、牡丹皮などがあり、これらが含有された清熱薬は多くあるが、本稿では白虎加人参湯(34)、黄連解毒湯(15)、加味逍遥散(24)、女神散(67)を紹介する。
文献
1)Hidaka T, et al.:Kami-shoyo-san, Kampo(Japanese traditional medicine), is effective for climacteric syndrome, especially in
hormone-replacement-therapy-resistant patients who strongly complain of psychological symptoms. J Obstet Gynaecol Res, 39(1):223-228, 2013.
2)Yasui T, et al.: Effects of Japanese traditional medicines on circulating cytokine levels in women with hot flashes. Menopause, 18(1): 85-92, 2011.
3)Arakawa K, et al.:Improvement of accessory symptoms of hypertension by TSUMURA Orengedokuto Extract, a four herbal drugs containing Kampo-Medicine Granules for ethical use:a double-blind, placebo-controlled study. Phytomedicine, 13:1-10, 2006.
4)伊藤栄一, 他:脳梗塞に対するツムラ黄連解毒湯の臨床効果. Geriatric Medicine, 29:303-313, 1991.
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ポイント
・頭痛の漢方薬は疾患名よりも誘発因子によって処方選択することが多い。
・医療者が頭痛の誘発因子をうまく聞き出すことが大事。
・慢性頭痛には複数の漢方薬が必要となることが多い。
文献
1)日本頭痛学会:慢性頭痛の診療ガイドライン. 医学書院, 65, 2006.
2)灰本元, 他:慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察. フィト, 1(3):8-15, 1999.
3)田代眞一:Prog. Med, 14(6):1774-1791, 1994.
4)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6:150-163, 2000
5)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
6)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
7)木村容子,他:釣藤散が有効な頭痛-多変量解析による検討-. 日東医誌, 59(5): 707-713, 2008.
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《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前からめまいを繰り返しており、検査でも異常なく困っています」
ポイント
・めまいの漢方薬は疾患名よりも症状によって処方選択することが多い。
・めまいの漢方病態は主に“水毒”と“気鬱”の2つ。
・難治性のめまいには複数の漢方薬が必要となることが多い。
文献
1)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993
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《こんな時困りませんか?》
患者「最近、眠れなくて困っています。イライラや動悸もあります。」
ポイント
・不眠の漢方薬を主要な生薬で分類し、イメージすることが大切。
・年齢、性別、症状などによって、漢方薬の選択パターンがある。
・不眠以外にイライラ、興奮、動悸、不安、抑うつなどにも効果が期待できる。
文献:
1)渡辺大士,他:オレキシン分泌の制御を介した加味逍遥散の抗ストレス作用. 昭和学士会誌, 77(2):146-155, 2017.
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 388, 1982.
3)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 258, 1982.
4)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 384, 1982.
5)筒井末春:酸棗仁湯②基礎と臨床. 日病薬誌, 20(36): 87-88, 2000.
6)Tsuji, M. et al.:Pharmacological characterization and mechanisms of the novel antidepressive- and/or anxiolytic-like substances identified from Perillae Herba. 日本神経精神薬理学雑誌, 28(4):159-167, 2008.
7)浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣, 近世漢方医学書集成96(大塚敬節,矢数道明編). 名著出版, 110, 1982.
8)Matsuda Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.
9)Shinno H, et al:Effect of yokukansan, a traditional herbal prescription, on sleep disturbances in patients with Alzheimer’s disease. J.Alzheimers Dis. Parkinsonism, 6:1-5, 2016.
10)岡孝和:ストレス病と漢方. 日本東洋医学雑誌 49, 766-774, 1999.
11)金子善彦,他:抗うつ状態に対する柴胡加竜骨牡蛎湯の効果. 臨床と研究, 57(10):3377-3383, 1980.
12)Cheng-long Xie, et al:Efficacy and safety of Suanzaoren decoction for primary insomnia:a systematic review of randomized controlled trials. BMC Complementary and Alternative Medicine, 13(18):2013.
13)大塚敬節:症例による漢方治療の実際5版. 南山堂,67, 2000.
14)木村容子,他:補中益気湯で不眠が改善した7症例. 日東医誌, 66(3):228-235, 2015.
15)栗原久,他:マウスの改良型高架式十時迷路テストによる漢方製剤の抗不安効果. 神経精神薬理, 18:179-189, 1996.
16)斎藤文男,他:神経症およびうつ病に対する加味帰脾湯の効果. Prog.Med., 13(7):1456-1464, 1993.
17)大原健士郎,他:不眠症に対する加味帰脾湯(TJ-137)の効果. 臨床と研究, 89:3285-3300, 1992.
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《こんな時困りませんか?》
患者「疲れがなかなか取れません。検査では異常がありませんでした。」
ポイント
・倦怠感に対する漢方薬の有効性は高くないが、他に方法がない場合には考慮する。
・倦怠感には補気作用の四君子湯が含まれた漢方薬を使用することが多い。
・倦怠感+αの特徴で漢方薬を選択する。
文献:
1)池田善明,他:白血球減少症マウスでの補中益気湯の感染防御効果. 和漢医薬学誌, 3:372, 1986.
2)大野修嗣:補中益気湯のNatural-Killer細胞活性に及ぼす影響. アレルギー, 37:107, 1988.
3)杉山幸比古,他:COPDに対する漢方製剤・補中益気湯の効果. 日本胸部臨床, 56:105-109, 1997.
4)阿部憲司,他:癌術後化学療法時の副作用に対する補中益気湯の効果. Prog. Med, 9:2916-2922, 1989.
5)細川康,他:十全大補湯および補中益気湯による放射線障害の防護. 和漢医薬学誌, 2:260, 1985.
6)木岡清英,他:ヒト末梢血単核細胞のインターロイキン1β産生能および抗体産生に及ぼす十全大補湯の影響. 和漢医薬学誌, 4:332, 1987.
7)原中瑠璃子,他:十全大補湯,桂皮の抗腫瘍作用に関する研究. 和漢医薬学誌, 4:49, 1987.
8)樋口清博,他:十全大補湯による肝発癌抑制効果の検討. 肝胆膵, 4(3):341-346, 2002.
9)安達勇:Randomized studyを用いた進行乳癌患者に対する十全大補湯の併用効果の検討. 和漢医薬学誌, 4:338, 1987.
10)黒田胤臣,他:十全大補湯による抗癌剤副作用防止効果および臨床免疫学的検討. Biotherapy, 3:789-795, 1989.
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《こんな時困りませんか?》
患者「検査では大きな異常がないと言われたけど、時々動悸がして困ります。」
ポイント
・動悸の漢方治療は自律神経関与の有無でアプローチが異なる。
・動悸に使用する漢方薬は大きく補剤と気剤に分かれる。
・動悸の多くは心身共に治していくことが肝要である。
女性
男性
① | きぎゃく気逆:気が上向きのベクトルである病態を指し、イライラ、動悸、不安、めまい、のぼせ、ホットフラッシュなどの主に自律神経症状が含まれる。 |
② | きうつ気鬱:“うつ”と類似しており、抑うつ、不眠などの主に精神症状が含まれる。 柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称され、肩こりや緊張型頭痛にも頻用される。 |
③ | おけつ瘀血:血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経痛、月経不順、月経周期の頭痛・精神不安定・ざ瘡などの月経随伴症状や更年期障害といった女性ホルモン関連症状が含まれる。当帰、牡丹皮に駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用がある。 |
文献:
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
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準備中
《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前から喉のつまった感じが取れません。検査でも異常がありませんでした」
ポイント
・喉のつまり、胸痛、呼吸困難がストレス関連症状であれば半夏厚朴湯が適合しやすい。
・半夏厚朴湯は「喉から胸部の閉塞症状」に幅広く使用できる。
・半夏厚朴湯を主軸に応用も覚える。
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準備中
《こんな時困りませんか?》
患者「副鼻腔炎を繰り返して、その度に抗生物質を飲まないといけないので困っています。」
ポイント
・漢方薬が得意な分野は、慢性・再発性副鼻腔炎の症状緩和や増悪予防。
・漢方薬を導入することでQOLの改善、抗菌薬の減少が期待できる。
・難治性の副鼻腔炎には複数の漢方薬が必要となることが多い。
文献
1)加藤昌志,他:鼻茸を伴う副鼻腔炎の辛夷清肺湯治療. 耳鼻臨床, 87(4): 561-568, 1994.
2)桜田隆司,他:慢性副鼻腔炎に対する漢方製剤の治療成績. 耳鼻臨床, 85(8): 1341-1346, 1992.
3)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011
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《こんな時困りませんか?》
患者「足がむくんで歩きづらいです。検査では異常なく加齢性と言われました」
ポイント
・浮腫の部位、炎症や冷えの有無、年齢を参考に漢方薬を選択する。
・治療は主に利水作用の漢方薬(利水剤)を使用する。
・利水剤は利尿剤と異なる働きがあり、微小な脳浮腫に最も効果的である。
82歳女性。以前から下腿浮腫を認めており、歩きづらく困っている。検査では異常所見がなく加齢性と言われた。利尿剤を試したが腎機能が悪化したため中止となっている。下肢の冷えやしびれも認めている。
処方:牛車腎気丸1回1包 1日2回 毎食後 14日分
14日後:「足のむくみはだいぶよいです。体重が58.4kgから57.2kgへ減りました」
28日後:「だいぶ良いです。体重も56.1kgになりました。下肢の冷えやしびれはまだ変わりません」
文献
1)Isohama Y.:Aquaporin modification:A new molecular mechanism to concern pharmacological effects of goreisan.J Pharm Soc Jpn, 126: 70-73, 2006.
2)大西憲明, 他:モデルマウスを用いた漢方方剤の利水作用の検証. 和漢医薬学雑誌, 17:131-136, 2000.
3)原中瑠璃子, 他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯) 第Ⅰ報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. 和漢医薬学雑誌, 14: 105-106, 1981.
4)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6: 159-163, 2000.
5)宮上光祐, 他:慢性硬膜下血腫に対する五苓散の有用性. Neurol Surg.37: 765-770, 2009.
6)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4: 335-41, 2007.
7)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3): 688-89, 1985.
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《こんな時困りませんか?》
患者「毎晩、足がつって困ります。芍薬甘草湯も効きません。」
ポイント
・こむら返りに、頓用では芍薬甘草湯、定期服用では疎経活血湯がお勧め。
・時間依存性と量依存性があり、発作の手前で多く服用する方が効果的。
・芍薬甘草湯は偽アルドステロン症、疎経活血湯は苦いことに注意が必要。
83歳女性。以前から腰痛、左下肢しびれを認め、脊柱菅狭窄症、坐骨神経痛と診断されている。こむら返りを時折認めていたが、1ヶ月前からほぼ毎日認めるようになった。こむら返りは明け方に多い。こむら返りの原因となる薬剤や検査異常はなかった。
処方①:疎経活血湯1回2包 1日1回 眠前 14日分
14日後:「この2週間でこむら返りは1回だけだった。」
処方②:疎経活血湯1回2包 1日1回 眠前 14日分、芍薬甘草湯1回2包 頓用 足がつった時 10回分
28日後:「1回だけ足がつりそうになったけど芍薬甘草湯を飲むとすぐに良くなった。腰痛やしびれもあるので疎経活血湯はしばらく飲んでみます。」
文献
1)株式会社ツムラ:ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)の副作用発現頻度調査. 2016
2)萬谷直樹,他:甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査. 日本東洋医学雑誌, 66:197-202, 2015
3)田原英一,他:芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例. 日東医誌, 62(5):660-663, 2011
4)土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
5)熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬,15:499-523, 1999
6)三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49(5):865-869, 1999
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準備中
《こんな時困りませんか?》
患者「学校に行こうとした時に腹痛があり、何度もトイレに行くので困ります」
ポイント
・効果不十分な場合は、直前の服用、追加、増量を検討する。
・腹痛だけでなく、腹満、便秘、下痢や虚弱児の体質改善にも使用できる。
・服薬アドヒアランス向上には、親の意気込みが大事。
文献
1)日本小児栄養消化器肝臓学会,日本小児消化管機能研究会:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 61-63, 2013.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
【こんな時困りませんか?】
患者「天気が悪い時に頭痛があって、痛み止めも効かなくて困っています。」
ポイント
・慢性頭痛に「低気圧時の頭痛」が混在していることが多い。
・医療者が「低気圧時の頭痛」を聞き出すことが大事。
・量依存性があるため、方向性が定まれば増量や併用で有効率が高くなる。
文献
1)灰本元, 他:慢性頭痛の臨床疫学研究と移動性低気圧に関する考察. フィト, 1(3):8-15, 1999
2)Isohama:Y. J. Pharm. Soc. Jpn, 126:70-73, 2006
3)田代眞一:Prog. Med, 14(6):1774-1791, 1994
4)原中瑠璃子ほか:和漢医薬誌, 14:105-106, 1981
5)Manley GT, et al:Aquaporin-4 deletion in mice reduces brain edema after acute water intoxication and ischemic stroke. Nat Med, 6:150-163, 2000
【こんな時困りませんか?】
患者「夜中に時々足がつって困っています。どうにかなりませんか?」
ポイント
・芍薬甘草湯は飲みやすく、有効性や速効性に優れているが、甘草による偽アルドステロン症に注意が必要。
・基本的には頓用使用を勧める。
・量依存性があり1包よりも2包の方が有効率は高くなる。
文献
1) 熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 15:499-523, 1999
2) 三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49:865-869, 1999
3) 花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 392, 2003
4) 株式会社ツムラ:ツムラ芍薬甘草湯エキス顆粒(医療用)の副作用発現頻度調査. 2016
5) 萬谷直樹,他:甘草の使用量と偽アルドステロン症の頻度に関する文献的調査. 日本東洋医学雑誌, 66:197-202, 2015
《こんな時困りませんか?》
患者「1ヶ月前から毎晩足がつるので困っています。何かよく効く薬はありませんか?」
ポイント
・こむら返りには、頓用では芍薬甘草湯、定期服用では疎経活血湯がお勧め
・時間依存性と量依存性があり、明け方のこむら返りには「眠前2包」が最も有効
・味が苦いため処方時に説明が必要
文献
1) 田原英一,他:芍薬甘草湯が無効で疎経活血湯が奏効したこむら返りの4例. 日東医誌, 62(5):660-663, 2011
2) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017
3) 熊田卓,他:TJ-68ツムラ芍薬甘草湯の筋痙攣(肝硬変に伴うもの)に対するプラセボ対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬,15:499-523, 1999
4) 三浦義孝:糖尿病性神経障害による有痛性筋痙攣(こむらがえり)に対する芍薬甘草湯の効果. 日東医誌, 49(5):865-869, 1999
《こんな時困りませんか?》
患者「数種類の下剤を飲んでいるけど便が出にくいです。」
ポイント
・高齢者の難治性便秘に適合しやすい
・瀉下作用に加えて潤腸作用や腸管蠕動促進作用なども有する
・甘草やマグネシウムが含まれていないので使いやすい
文献
1) 日本老年医学会, 日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班編集:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015. メディカルビュー社, 139-151, 2015
2) 杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A. 中外医学社, 59, 2014
3) 岩崎鋼:高齢者のための漢方診療. 丸善出版, 58, 2017
《こんな時困りませんか?》
患者「検査では異常がないけど、喉のつまった感じがなかなか取れません。」
ポイント
・喉のつまり感がストレス関連症状であれば半夏厚朴湯が適合しやすい。
・喉だけでなく「喉から胸部の閉塞症状」に幅広く使用できる。
・その他の応用も覚えておくと何かと便利。
文献
1)杵渕彰:臨床医のための漢方Q&A. 中外医学社, 32, 2014
2)田中栄一ら:産婦人科疾患に合併した咽喉頭異常感症の診断・治療について. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 18:77-81, 2001
3)大塚敬節:症候による漢方治療の実際 第5版. 南山堂, 190, 2000
4)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 407, 2003
5)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011
《こんな時困りませんか?》
患者「以前から、学校に行くと腹痛と下痢があって困っています。」
ポイント
・ストレス性の過敏性腸症候群には四逆散が適合しやすい。
・四逆散の適応者は手汗をかきやすい過緊張タイプの中高生に最も多い。
・特に中高生には服薬アドヒアランス向上のための工夫が必要。
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文献
1)藤平健,小倉重成:漢方概論. 創元社, 497, 1979
《こんな時困りませんか?》
患者「以前から、腹痛と下痢を繰り返しています。過敏性腸症候群のお薬を飲んでいるけど良くなりません」
ポイント
・大建中湯は本来、便秘よりも下痢、腹痛、腹満に有効性が高い。
・大建中湯の適応者には「腸管の冷え」が必須。
・「腸管の冷え」の存在は、①寒冷刺激で腹部症状が悪化する②腹部を温めると症状が緩和する、などで判断する。
文献
1)日本消化器病学会:機能性消化管疾患診療ガイドライン2014−過敏性腸症候群(IBS). 南江堂, 2, 2014.
2)山本巌,他:中医処方解説. 医歯薬出版, 79, 1982.
3)Satoh Y. et al:Daikenchuto Raises Plasma Levels of Motilin in Cancer Patients with Morphine-Induced Constipation. J Trad Med, 27:115, 2010.
4)Satoh K, et al:Dai-kenchu-to enhances accelerated small intestinal movement. Biol Pharm Bull, 24(10):1122, 2001.
5)Ishizuka M, et al:Perioperative administration of traditional Japanese herbal medicine daikenchuto relieves postoperative ileus in patients undergoing surgery for gastrointestinal cancer: a systematic review and meta-analysis. Anticancer Res, 37:5967-5974, 2017.
6)武田宏司,他:消化器内科領域における漢方. 日本東洋心身医学研究2010, 25:37-41, 2010.
7)三潴忠道:はじめての漢方診療十五話.医学書院, 214, 2005.
8)犬塚央,他:大建中湯の腹証における「腹中寒」の意義. 日東医誌, 59(5):715-719, 2008.
9)土倉潤一郎:Gノート 本当はもっと効く!もっと使える!メジャー漢方薬. 羊土社, 4(6):1044-1055, 2017.
10)土倉潤一郎:Gノート おなかに漢方!. 羊土社, 6(1):58-64, 2019.
11)小倉重成:無病息災の食べ方. 緑書房, 1987.
《こんな時困りませんか?》
患者「3歳の子供がいつも便秘でお尻が痛いと泣いて困っています。」
ポイント
・小建中湯には腸蠕動を調節する働きがあり、自然な排便が期待できる。
・便秘だけでなく、腹痛、腹満、下痢や虚弱児の体質改善にも使用できる。
・服薬アドヒアランス向上には、親の意気込みが大事。
文献
1)日本小児栄養消化器肝臓学会,日本小児消化管機能研究会:小児慢性機能性便秘症診療ガイドライン. 診断と治療社, 61-63, 2013.
2)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 401, 2003
3)上田晃三:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂, 98(7):1022-1026, 2016.
《こんな時困りませんか?》
患者「数ヶ月前から朝起き上がったときにめまいを繰り返して困っています」
ポイント
・疾患名に限らず、頭位性・起立性めまいの症状があれば幅広く使用できる。
・水毒体質を意識すると診療の幅が広がる。
・効果不十分な場合は他の漢方薬を組み合わせると効果的。
文献
1)塩谷雄二,他:苓桂朮甘湯の作用機序に関する研究. 日東医誌, 44(3): 427-436, 1994
2)寺澤捷年:症例から学ぶ和漢診療学 第2版. 医学書院, 57, 1998
《こんな時困りませんか?》
患者「フワフワしためまいが続いていて、検査でも異常がなく困っています。」
ポイント
・器質的疾患の有無に限らず、浮動性・動揺性めまいに真武湯を試す価値アリ。
・真武湯は温める漢方薬のため、体が冷えていると適合しやすい。
・冷えがない場合は五苓散や苓桂朮甘湯、効果不十分な場合は柴胡剤なども検討する。
文献
1)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993
《こんな時困りませんか?》
患者「よく風邪をひいて困ります。すぐに良くなる薬はありませんか?」
ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・葛根湯は比較的使いやすいが、ゴールデンタイムは短い。
・葛根湯を効かせるコツとして、服用方法の工夫、養生の仕方などがある。
文献
1)松田秀秋,他:漢方方剤の薬理活性研究(第3報) 葛根湯の免疫応答に及ぼす影響. 和漢医薬雑誌, 7:35-45, 1990.
2)村岡健一,他:葛根湯製剤の作用機序の薬理学的検討-イヌによる体温上昇と免疫能活性について-. J. Trad. Med, 20:30-37, 2003.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
《こんな時困りませんか?》
患者「すぐに風邪をひきやすく治りにくいので困っています。」
ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・麻黄附子細辛湯は冷え性で鼻汁や咽頭痛(イガイガ)を認める軽い風邪に最適。
・体を温める風邪薬は西洋薬に無いため重宝されやすい。
文献
1)東奈津美ら,他:マウス一次免疫応答における麻黄附子細辛湯構成生薬の果たす役割. 和漢医薬学雑誌, 18:89-94, 2001.
2)Ikeda, Y. et al.:Anti-inflammatory effects of mao-bushi-saishin-to in mice and rats. Am.J.Chin.Med.,26(2):171, 1998.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
《こんな時困りませんか?》
患者「子供がよく風邪をこじらして鼻水や咳が出るので困っています。」
ポイント
・風邪はひき始めに仕留めることが最も大事。
・「水様性鼻汁があればとりあえず小青竜湯」は、あながち間違っていない。
・小青竜湯単独で効果不十分な場合は他剤との併用がお勧め。
文献
1)Nagai T. et al.:In vivo ant-influenza virus activity of Kampo (Japanese herbal) medicine ‘Sho-Seiryu-To’ and its mode of action. Int J Immunopharmacol, 16 : 605-613, 1994.
2)宮本昭正,他:TJ-19 ツムラ小青竜湯の気管支炎に対するPlacebo対照二重盲検群間比較試験. 臨床医薬, 17 : 1189-1214, 2001.
3)ヒキノヒロシ,他:和漢薬の品質に関する研究第2報-麻黄-. 日東医誌, 31(3):167-170, 1980.
4)Hayashi K.et al.:Inhibitory effect of Cinnamaldehyde, derived from Cinnamomi cortex, on the growth of influenza A/PR/8 virus in vitro and in vivo. Antiviral Res.74(1):1, 2007.
5)馬場駿吉,他:耳鼻咽喉科疾患とEBM-アレルギー性鼻炎に対する小青竜湯の薬効評価を中心に-. Prog Med, 22(9), 2123-2126, 2002.
《こんな時困りませんか?》
患者「風邪をひくと喉が痛くなり熱が出るので困っています」
ポイント
・桔梗湯は咽頭痛に対して気軽に使用できる。
・効かせるコツは「お湯に溶かした桔梗湯でうがいした後にそのまま飲む」。
・西洋薬で例えると「トローチ+トラネキサム酸」?
文献
1)高木敬次郎,他:桔梗の薬理学的研究(第2報)粗Platycodinの抗炎症作用,摘出臓器におよぼす作用およびその他の薬理作用. 薬学雑誌, 92(8): 961-968, 1972.
2)Messier C,et al.:Licorice and its potential beneficial effects in common oro-dental diseases. Oral Dis, 18:32-9, 2012.
3)Ozaki Y.:Studies on antiinflammatory effect of japanese oriental medicines (kampo medicines) used to treat inflammatory diseases. Biol Pham Bull, 18:559-62, 1995.
4)田中ふみ,他:桔梗湯により放射線照射による食道炎・喉頭炎,口内炎の痛みを緩和できた2症例. 日本ペインクリニック学会誌, 24(2):341-344, 2017.
《こんな時困りませんか?》
患者「副鼻腔炎の治療をしてもドロっとした後鼻漏が残っています」
ポイント
・辛夷清肺湯は主に上気道の炎症を抑え、鼻閉を改善し、潤しながら鎮咳去痰作用をもたらす薬剤。
・黄色鼻汁や鼻閉などを伴う副鼻腔炎や慢性鼻炎に頻用される。
・その中でも特にドロっとした粘液性の後鼻漏に対して有効性が高い。
文献
1)加藤昌志,他:鼻茸を伴う副鼻腔炎の辛夷清肺湯治療. 耳鼻臨床, 87(4): 561-568, 1994.
2)桜田隆司,他:慢性副鼻腔炎に対する漢方製剤の治療成績. 耳鼻臨床, 85(8): 1341-1346, 1992.
3)田原英一,他:後鼻漏における小半夏加茯苓湯の有効性. 日東医誌, 62(6):718-721, 2011
《こんな時困りませんか?》
患者「生理痛が辛いのですが病院では異常なしと言われました。ピルは怖いので他の方法はありませんか?」
ポイント
・当帰芍薬散の適応者は、瘀血、水毒、冷えのある色白女性に多い。
・当帰芍薬散で効果不十分な場合には他剤を合わせることが多い。
・当帰芍薬散は月経痛だけでなく、月経周期の頭痛や浮腫などにも頻用される。
① | 瘀血おけつ:血の巡りが悪いドロドロ血や血行不良を指し、月経痛、月経不順、月経周期の頭痛などの月経随伴症状が含まれる。当帰、川芎に駆瘀血作用、女性ホルモンを整える作用1)がある。 |
② | 水毒すいどく:水分代謝異常を指し、浮腫、低気圧時の頭痛、めまいなどが含まれる。また舌の腫大(浮腫)や水分摂取後に胃でチャポチャポと音がするなども徴候の一つとされている。朮、茯苓、沢瀉に利水作用があり、これらの症状に対応する。 |
③ | 冷え:特に手足の末端を中心とした冷え性タイプを指す。当帰、芍薬に温熱作用がある。また、駆瘀血作用も加わり血行不良を改善して体を温める働きがある。 |
文献
1)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
2)Akase T, et al.:Efficacy of Tokishakuyakusan on the anemia in the iron-deficient pregnant rats. Biol Pharm Bull, 30:1523-1528, 2007.
3)Kotani N, et al.:Analgesic effect of a herbal medicine for treatment of primary dysmenorrhea - a double-blind study. The American Journal of Cinese Medicine, 25:205-12, 1997.
《こんな時困りませんか?》
患者「更年期のせいか、イライラしやすくなり頭痛や不眠にも困っています。」
ポイント
・加味逍遥散は特に女性ホルモンの揺らぎによるイライラに有効性が高い。
・イライラ以外に、自律神経症状、精神症状、月経随伴症状などにも対応する。
・加味逍遥散で効果不十分なイライラには抑肝散を併用する。
文献
1)花輪壽彦:漢方診療のレッスン増補版. 金原出版, 18, 2003.
2)高松潔:更年期障害に対する漢方療法の有用性の検討-三大漢方婦人薬の無作為投与による効果の比較. 産婦人科漢方研究のあゆみ, 23:35-42, 2006.
3)土倉潤一郎,他:治療 手強いコモンディジーズ. 南山堂, 98(7): 1104-1110, 2016.
4)土倉潤一郎,他:飯塚病院 月曜カンファレンス 臨床経験報告会より『最近の治験・知見・事件!?⑩』. 漢方の臨床, 60(12):1998-2008, 2013.
5)喜多敏明,他:不定愁訴に対する加味逍遥散の作用. 日本東洋医学雑誌, 48(2): 217-224, 1997.
6)川口恵子,他:月経前症候群に対する加味逍遥散を中心とした漢方療法. 日本東洋医学雑誌, 56(1): 109-114, 2005.
《こんな時困りませんか?》
患者「試行錯誤していますが、子供の癇癪が治まらないので疲弊してきました」
ポイント
・小児のイライラに対して、成長過程や発達障害など原因を問わず使用できる。
・抑肝散には鎮静作用・自律神経安定作用に加え、気力や体力を補う作用もある。
・イライラ以外に、夜泣き、チック、不眠、眼瞼痙攣などにも頻用される。
文献
1)浅田宗伯:勿誤薬室方函口訣, 近世漢方医学書集成96(大塚敬節,矢数道明編). 名著出版, 110, 1982.
2)矢数道明:臨床応用 漢方処方解説 増補改訂版. 創元社, 599, 1981.
3)Matsuda, Y, et al:Yokukansan in the treatment of behavioral and psychological symptoms of dementia: a systematic review and meta-analysis of randomized controlled trials. Hum Psychopharmacol.28(1):80-6, 2013.
《こんな時困りませんか?》
患者「皮膚科で治療しても毎年しもやけができるので困ります」
ポイント
・当帰四逆加呉茱萸生姜湯は「血流障害+冷え+疼痛+浮腫」に対応できる。
・しもやけは寒冷による血流障害であり、疼痛や浮腫も伴うため適合しやすい。
・末端冷え性、末梢循環障害(レイノー等)、冷えタイプの疼痛にも頻用される。
文献
1)Nishida S, et al.:Effects of a traditional herbal medicine on peripheral blood flow in women experiencing peripheral coldness: a randomized controlled trial. BMC Complement Altern Med, 15:105, 2015.
2)Kanai S, et al.:Efficacy of Tokishigyakuka-goshuyu-syoukyo-to on peripheral circulation in autonomic disorders. Am J Chin Med, 25:69-78, 1997.
3)金内日出男:レイノー病と慢性動脈閉塞症,膠原病におけるレイノー現象の臨床症状とサーモグラフィーを用いた皮膚温との比較-当帰四逆加呉茱萸生姜湯の薬効評価. 公立豊岡病院紀要, 11:69-76, 1999.
4)城島久美子:当帰四逆加呉茱萸生姜湯の血管性間歇性跛行に対する臨床効果. 日東医誌, 62(4):529-536, 2011.
消化器疾患の術後
六君子湯、大建中湯、消化器疾患術後
消化器疾患の術後に使用する漢方薬の代表として、上部消化管には六君子湯、下部消化管には大建中湯があります。しかし、全ての肺炎にセフトリアキソンを選択するわけでないのと同様に、漢方薬にも使い分けがあります。本編では、六君子湯や大建中湯のレスポンダーの特徴や、これらの漢方薬で効果不十分な場合の次の一手についてご紹介いたします。
エビデンスに従って、消化器疾患術後に六君子湯や大建中湯を使用しても有効性を得られない場合もあります。効率よくレスポンダーを見つけるためには漢方医学的な作用機序や適応を理解する必要があります。
六君子湯=四君子湯(人参・朮・茯苓・甘草)+二陳湯(陳皮・半夏)です。四君子湯は健胃作用+補気作用、すなわち「胃腸の働きを高めて元気をつける」作用があります。また、“陳皮・半夏”は「胃の水毒(胃内停水)」をさばく作用があります。四君子湯は補中益気湯や十全大補湯にも含まれているため、六君子湯の特徴は「胃の水毒」になります。「胃の水毒」は西洋医学的には胃下垂などと表現されることがありますが、漢方医学的な概念で理解しづらく正確な病態は解明されておりません。しかし、結果的に「胃の水毒」をさばく作用の陳皮・半夏によって胃の働きが改善することから、個人的には「胃の水毒」とは「胃壁の浮腫などによって胃の働きが低下している状態」と推測しております。
実は「胃の水毒」は体質的にもっている人が多く、「水を飲むと胃がチャポチャポする」といった現象として自覚できます。また、胃と舌が繋がっていることから、「胃の水毒」は「舌の浮腫」として反映していると言われており、「舌の腫大・歯痕(舌がむくんで歯型がつく)」(写真1)を確認することが「胃の水毒」を見極める方法となります。
すなわち、もともと体質として「胃の水毒」をもっている人が食欲不振などの胃の不調を生じた場合に六君子湯が有効となることが多いわけですが、その見極めには忙しい外来でも1秒で確認できる舌診がポイントとなります。
★ ここが漢方治療ポイント:胃症状+舌の腫大・歯痕→六君子湯
症例1:60歳代男性
主訴:食欲不振
現病歴:2ヶ月前に胃癌に対して幽門側胃切除術を施行。その後から食欲不振が持続しており、当院を受診された。上部消化管内視鏡検査を含めた諸検査では特に異常なし。
漢方医学的初見:舌に腫大・歯痕を認める。明らかな冷えなし。早期飽満感、咽喉頭異常感、抑うつ症状などはない。
処方:六君子湯(43) 1回2.5g,1日3回(毎食前)
経過:
2週間後「食事が半分程度、食べられるようになってきました。」
4週間後「ほとんど食欲は戻りました。」と経過良好であった。
「舌の腫大・歯痕をみたら→六君子湯!!」
大建中湯は乾姜、山椒、人参、膠飴の4つの生薬で構成されております。その中でも乾姜と山椒が特に重要で、「胃腸を温めて腸蠕動の正常化を図り、腸管のspasmや腹痛を緩和させる」といった働きがあります。よって大建中湯には①腸管を温める②腸蠕動を正常化するといった2つの特徴があります。②については腸蠕動の亢進や低下のいずれにおいても正常化させ7)8)9)、かつ腹痛や腹満の改善を得意としています。つまり、大建中湯の適応病態は「腸管の冷えが原因で腸蠕動に異常を認めている状態」となります。そして、腹痛や腹満を主体とする腸閉塞に最適ですが、「腸管の冷え」が関与した便秘や下痢、過敏性腸症候群などにも使用します。
大建中湯は腸管を温める漢方薬ですので、腸管が冷えていないと効果を発揮できません。よって「腸管の冷え」を見極めることが重要となります。「腸管の冷え」を示唆する所見としては、①(冷房や冷たい飲食物で)お腹が冷えると腹部症状が悪化する②(腹巻き・カイロ・温かい飲食物で)お腹を温めると腹部症状が改善する③腹診で臍周囲が冷たい④大建中湯が飲みやすいなどがあり、これらを問診や診察で判断致します。④に関しては、大建中湯に含まれる乾姜が、(生姜)辛く感じる→「腸管の冷えがない」、辛くない→「腸管の冷えがある」といった傾向にあります。これを応用して、「腸閉塞予防に大建中湯をいつまで継続するべきか?」について迷われる場合にはぜひ大建中湯の味も参考にしましょう。味が辛い場合には「腸管の冷え」がない可能性があり、大建中湯の中止を検討してもよいかもしれません。
★ ここが漢方治療ポイント:大建中湯の適応である「腸管の冷え」を探ることが大事!!
症例2:70歳代女性
主訴:腹痛、腹満
現病歴:10年前に大腸癌の手術を行ってから腸閉塞を2回発症している。2週間前から腹痛、腹満を自覚するようになり、当院へ受診された。下剤を使用し、排便は毎日認めている。診察上、右下腹部を中心に圧痛を認めたが、採血やレントゲン等では明らかな異常所見は認めなかった。
漢方医学的所見:冷え症で温かい飲み物を好む。腹痛時はカイロでお腹を温めると和らぐ。腹部全体に冷感を認める。
処方:大建中湯(100) 1回5g,1日3回(毎食間)
経過:
1週間後「大建中湯を飲んでからすぐに腹痛やお腹の張りは良くなった。味も甘い。」
以後、大建中湯は継続し経過良好。
「腸管の冷えをみたら→大建中湯!!」
<茯苓飲(69)>
上部消化器疾患術後の食欲不振、特に早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップ、嘔気、胸焼けなどの症状に茯苓飲をよく用います。茯苓飲は陳皮・枳実・生姜・人参・朮・茯苓の生薬で構成され、六君子湯と重なる生薬が多い漢方薬です(図2)。茯苓飲のみに含まれる生薬が枳実であり、胃や食道の蠕動運動亢進作用があります。茯苓飲には胃切除後早期吻合部症状に対して1週間以内の症状消失が85.7%で、非投与群と比較して有意に短縮したという報告もあります13)。
<茯苓飲合半夏厚朴湯(116)>
茯苓飲(69)と半夏厚朴湯(16)の合剤で茯苓飲合半夏厚朴湯という漢方薬があり、術後に随伴するさまざまな症状を改善した報告もあります14)。半夏厚朴湯は喉や胸の閉塞感(つまった感じ)を代表とする抑うつ症状に使用します。よって茯苓飲の適応となる人で、より精神的な関与がある場合には茯苓飲合半夏厚朴湯を選択します。実は、茯苓飲合半夏厚朴湯には六君子湯のほとんどが含まれているため(図2)、個人的には「六君子湯+スルピリド」といったイメージで幅広く使用しております。
<人参湯(32)>
人参湯には大建中湯と同様に乾姜(胃腸を温める生薬)が含まれております。大建中湯が下部消化器疾患に使用されるのに対して、人参湯は上下部消化器疾患に使用されます。どちらかといえば下部よりも上部消化器疾患を得意としておりますので、胃腸が冷えている人の食欲不振などに第一選択となります。
<釣藤散(47)>
釣藤散にも六君子湯の多くが含まれており、さらに釣藤鈎や菊花といった脳血流障害を改善させ興奮を調節する生薬があります(図3)。よって、主に高齢者の食欲不振に使用します。体を冷ます作用があるため、冷え症にはあまり適しません。
<抑肝散加陳皮半夏(83)>
抑肝散加陳皮半夏は抑肝散に陳皮と半夏を加えた漢方薬で、抑肝散+六君子湯のイメージでよいかと思います(図3)。よって、術後せん妄などで興奮やイライラがあり食欲不振を認める場合に第一選択となります。釣藤散よりも鎮静作用が強いです。
<桂枝加芍薬湯(60)>
桂枝加芍薬湯には横紋筋や平滑筋の異常痙攣を和らげる芍薬が含まれており、腹痛や腹満を主体とした腹部症状(腸閉塞や過敏性腸症候群など)に使用します。開腹術後の消化管機能異常に伴う不定愁訴に86.7%の改善があったとの報告もあります15)。大建中湯との違いは①腸管を温める作用は少ない②芍薬で腹痛や腹満を和らげるなどが挙げられます。よって、腸閉塞に対しての使用は①「腸管の冷え」の関与が少ない場合の第一選択②大建中湯で効果不十分な場合に追加あるいは変更するとなります。大建中湯と桂枝加芍薬湯の組み合わせは非常に相性がよく、昭和の名医である大塚敬節が考案し、中建中湯(桂枝加芍薬湯は小建中湯と似ており大建中湯+小建中湯の意味)と名付けられました。現代でも頻用される組み合わせです。
今回、術後の腹部症状について述べましたが、その他にも術後にはせん妄、感染症、倦怠感、フレイルなどさまざまな症状があると思います。これらに対しても適応となる漢方薬がありますので、ぜひ他書を参考にして頂きたいと思います。
名前:土倉潤一郎 Dokura Junichiro
所属:土倉内科循環器クリニック 院長
専門:循環器内科 漢方
平成30年1月より開業しました。飯塚病院の漢方診療科に7年間勤務していた経験を活かし、西洋医学と漢方医学のバランスを意識して日々診療をしております。標準治療で治らない症状に対して次の一手(漢方)を提案できることは患者だけでなく医療者にとっても救いとなります。
図表タイトル
図1:舌の腫大・歯痕所見
図2:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(茯苓飲、茯苓飲合半夏厚朴湯)
図3:六君子湯に類似する漢方薬の構成生薬(釣藤散、抑肝散加陳皮半夏)
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MUSと漢方治療
MUSと漢方は非常に相性が良いと思われる。それは、漢方は診断名がなくても症状からアプローチができるからだ。どんな症状に対しても軽減する可能性のある治療薬を提供できることは、患者だけでなく医療者にとっても救いとなる。また、標準的な治療で改善しない患者が難治性、治療適応外と言われ、藁にもすがる思いで漢方外来へ来院されるが、漢方医学的な視点で見ると容易に治療ポイントがみつかり速やかに改善する場合もある。真正面の治療法が西洋医学以外に存在する可能性を医療者は知っておく必要がある。よって、医師がよく言葉にする「治療法はありません」というのは「現在の西洋医学では治療法がありません」というのが適切だと思われる。他国と異なり、日本では西洋医が漢方薬を処方できる資格があるのだから、ぜひ活用して頂きたい。
患者の困っている症状が上記のいずれかに該当すると漢方医は安堵する。これらは漢方薬が得意とする症状であり、アプローチしやすいからだ。大事なことはこれらを問診で聞き出すことである。もし上記に該当しない場合でも、漢方医学的な見方をすればそのほとんどで異常所見があり治療の切り口を見いだせる。絡まった糸を少しずつ解いていくように、取れる症状からアプローチしていけば、不定愁訴と言われた症状も徐々に収束していくことも少なくない。不定愁訴ではなく、多愁訴なのだと感じる。
下記の漢方薬の理解のために、次の漢方病態解説を参考にして頂きたい。簡略化のため、本稿と関連のある内容のみに割愛している。
漢方病態解説 | |
冷え (陰証) |
冷え症で冷房が苦手、厚着を好む人などに見られる。ある症状が冷えると悪化する、温めると緩和する場合も含まれる。手足末端のみが冷える場合は瘀血(末梢循環障害)のこともあるため注意が必要。 治療:温める作用がある温熱剤(例:大建中湯、真武湯など) |
水毒 (水滞) |
体液の偏在した病態を指し、溢水や脱水も含まれる。症状としては胸腹水や下腿浮腫だけでなく、頭痛(微小な脳浮腫)、めまい(内リンパ水腫)、関節痛(関節液)などもある。特に低気圧時に症状が悪化する場合は水毒関連である可能性が高い。寺澤の水滞(水毒)スコア1)も参考にされたい。 治療:体液の偏在を元に戻す作用がある利水剤(例:五苓散、苓桂朮甘湯など) |
瘀血 | いわゆる「ドロドロ血」、末梢循環障害、動脈硬化などが含まれる。月経周期や閉経で悪化する症状(にきび、頭痛、腹痛、不眠など)も瘀血である。寺澤の瘀血スコア2)も参考にされたい。 治療:ドロドロ血をサラサラにする(血漿粘度低下)作用がある駆瘀血剤(例:当帰芍薬散、加味逍遥散など) |
気虚 | 元気、やる気などの“気”の不足、エネルギー不足を指す。症状として、倦怠感、気力がない、食欲不振などがある。寺澤の気虚スコア3)も参考にされたい。 治療:気を補う作用がある補気剤(補中益気湯、十全大補湯など) |
気鬱 | “気”の鬱滞を指す。症状として、抑うつ、不眠、閉塞症状(喉のつまり感)、腹部膨満などがある。寺澤の気鬱スコア4)も参考にされたい。 治療:気を巡らす作用がある順気剤(半夏厚朴湯、香蘇散など) |
気逆 | “気”の逆上を指す。症状として、のぼせ、動悸などがある。寺澤の気逆スコア5)も参考にされたい。 治療:気を降ろす作用がある降気剤(加味逍遥散、黄連解毒湯など) |
腎虚 | 腎気(生命エネルギー)の減少を指す。加齢に伴う諸症が該当し、認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイルなどが含まれる。 治療:腎気を補う(アンチエイジング)作用がある補腎剤(八味地黄丸、牛車腎気丸など) |
〈その他〉 柴胡剤 |
柴胡(狭義では柴胡+黄芩)という生薬が含まれている方剤を指す。柴胡は偶然にもpsychoと同じだが、抗ストレス作用、自律神経調節作用、抗炎症作用などがある。本項に関しては、イライラ、抑うつ、不眠、自律神経失調などのストレスや自律神経異常が関連した症状に頻用される。 例:柴胡加竜骨牡蛎湯(腹診にて腹壁の緊張が強いタイプ)、柴胡桂枝乾姜湯(腹壁の緊張が弱いタイプ)、四逆散(胃腸症状が主体)、加味逍遥散(女性が多い)など |
次は症状別に解説する。漢方にも得意・不得意があるため、初学者は漢方の得意分野から学ぶことを推奨する。よって、今回は一般的で平坦な内容でなく、“漢方の得意分野”を中心に、より実践的な内容を意識して個人的な見解も多く含めた。また、推奨度を☆印で示したため参考にして頂きたい。
☆☆☆五苓散(17):低気圧時(曇天・台風など)に悪化する頭痛には第一選択となる。速効性や用量依存性もあるため、増悪時には2包服用するなどの方法も有用。それでも低気圧時の頭痛が残存する場合、男性は☆☆苓桂朮甘湯(39)、女性は☆☆当帰芍薬散(23)を追加してもよい。
漢方解説:低気圧で悪化するタイプは水毒(表1)であるため、利水剤の漢方薬を中心に使用する。五苓散には利水作用の生薬が最も多く含まれている。
☆☆☆加味逍遥散(24):女性の頭痛で、肩こり(緊張性頭痛を含む)、ストレス、自律神経異常、月経周期などが関連している場合は第一選択となる。男性であれば、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯(12)なども候補に挙がる。個人的には女性の慢性頭痛に対して、五苓散+加味逍遥散を選択する場合が多い。
漢方解説:加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡剤(表1)という方剤で、抗ストレス作用、自律神経調節作用(主に交感神経の過緊張を和らげる)などがある。緊張性頭痛以外にも上記症状の改善が期待できるため、多愁訴の患者に適合しやすい。
☆☆当帰芍薬散(23):女性の頭痛で、月経周期や低気圧時に増悪する場合に選択する。上記の漢方薬と合わせることもある。
漢方解説:当帰芍薬散には月経周期の諸症状を改善する生薬(駆瘀血作用)と五苓散の3/4程度(利水作用)が半分ずつ入っている。
☆☆呉茱萸湯(31):片頭痛に代表されるような“吐くほどの頭痛”に第一選択とされている。ただ、曇天時や月経周期と関連している場合は上記漢方薬を優先する。難点は苦い。
漢方解説:呉茱萸湯は胃を温めて頭痛を治す働きがある。よって、胃が冷えている人が対象となるため、“冷え症”“心窩部が冷たい”“胃が弱い”なども参考にする。
☆☆釣藤散(47):早朝時・起床時の頭痛に第一選択となる。機序は不明だが、効果を示す例は少なくない。
☆☆葛根湯(1):筋緊張を緩める働きがあるが、体質改善効果はないため、イメージとしてはエペリゾンに近い(対症療法)。速効性があるため、頓用でも使用可。
☆☆☆苓桂朮甘湯(39):頭や体の向き(頭位性、起立性)で悪化するめまいに第一選択となる。良性発作性頭位めまい症や起立性低血圧の診断に至らなくても効果を示す。効果不十分例には☆☆五苓散(17)を合わせる。すべての年齢層に効果を示すが、特に思春期で有効率が高く、起立性調節障害にも大変有用である。
☆☆☆真武湯(30):ふわふわする、クラっとする、歩いてフラーっとするなどの動揺性のめまい、ふらつきに第一選択となる。温める漢方薬のため、暑がりには適さない。暑がりの場合は☆☆五苓散(17)を使用する。
☆☆五苓散(17):上記以外のめまいに使用する。一般に五苓散が頻用される回転性めまいでも、頭位性や起立性の場合は苓桂朮甘湯(39)を優先する。 漢方解説:メニエル病が内リンパ水腫と関連しているように、めまいは水毒(表1)が関係していることが多い。よって、水毒体質の患者や低気圧時に発症しやすい。上記の苓桂朮甘湯、真武湯、五苓散はすべて水毒の治療薬である利水剤に分類される。
☆☆加味逍遥散(24):慢性的なめまいや再発例で、ストレスや自律神経異常が関与している場合には柴胡剤(表1)を使用する。上記の利水剤と合わせることが多い。
☆☆加味逍遥散(24):女性では第一選択となる。更年期でなくても使用できる。効果不十分例には☆桂枝茯苓丸(25)を合わせる。
☆黄連解毒湯(15):男性では第一選択となる。体を冷ます作用があるため、寒がりの人は対象外。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:赤ら顔、のぼせは気逆(表1)という病態である。気を降ろす作用があるため、下記の「イライラ(頭に血が上る)」の治療薬と重なることが多い。
☆☆加味逍遥散(24):壮年〜中年女性のイライラには第一選択となる。月経周期で悪化する場合にも有効。軽度の抑うつもカバーする。効果不十分例には☆☆☆抑肝散(54)を合わせる。
☆☆☆抑肝散(54):小児、高齢者のイライラには第一選択となるが、老若男女で使用できる。小児の場合は、母子同服といって母親も一緒に飲んだ方がよいとされている。
☆黄連解毒湯(15):中年男性や元気な高齢者で、赤ら顔や舌苔が黄色の場合に用いることが多い。難点は味が苦い。黄芩の副作用に注意(表2)。 漢方解説:上記方剤に含まれている柴胡、山梔子、釣藤鈎、黄連といった生薬に鎮静作用があり、イライラを抑える。交感神経を緩める働きがあるため、不眠などにも用いる。
☆☆☆辛夷清肺湯(104):抗炎症作用があり、黄色鼻汁や鼻閉に第一選択となる。急性副鼻腔炎にも使用するが、慢性的に繰り返す副鼻腔炎の予防に大変有用である。効果不十分例には、☆☆小柴胡湯加桔梗石膏(109)を合わせる。いずれも黄芩の副作用に注意(表2)。
後鼻漏は粘稠性のタイプには辛夷清肺湯、漿液性のタイプには☆☆☆半夏厚朴湯(16)を用いる。
☆☆葛根湯加川芎辛夷(2):小児の白色〜黄色鼻汁、鼻閉に第一選択となる。飲みづらい場合は☆葛根湯(1)でも可。
☆☆小青竜湯(19):水様性鼻汁に第一選択となる。小青竜湯には抗ヒスタミン作用、鎮咳去痰作用、温熱作用があるため、アレルギー性、風邪、冷え(冷えると鼻汁が出るタイプ)のいずれが関与していても使用できる。効果不十分な場合、寒がりには☆☆麻黄附子細辛湯(127)、暑がりには☆☆越婢加朮湯(28)や☆☆五虎湯(95)などを合わせる。鼻汁、咳などの風邪を繰り返す小児には普段から小青竜湯+五虎湯を服用させると有用である。いずれも麻黄の副作用に注意(表2)。
☆☆☆半夏厚朴湯(16):器質的異常がない呼吸困難には第一選択となる。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用があるが、うつ病を治すというよりも、喉〜胸部の閉塞症状を改善させることを得意とする。すなわち、喉のつまり感(咽喉頭異常感症含む)、息苦しい、胸がしめつけられる、深呼吸がしづらいなどの症状に大変有用である。問診上はうつが判断つかない場合でも効果を示す場合がある。効果不十分例には、柴胡剤(表1)を合わせる。柴胡剤としては、☆☆加味逍遥散(女性が多い)、☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯(男性が多い)、☆☆小柴胡湯(9)(抗炎症作用あり。半夏厚朴湯+小柴胡湯=☆☆柴朴湯(96)という合剤あり)などがある。 漢方解説:半夏厚朴湯には気鬱(表1)に対する順気作用と鎮咳去痰作用の大きく2つの働きがある。よって、喉のつまり感や湿性咳嗽に第一選択となる。例えば、「喉に痰がひっかかった感じがする」といった患者に対して、“気のせい”でも“喀痰”でも半夏厚朴湯1剤で対応できる。効果不十分例には☆☆麦門冬湯(29)で潤すとよい場合がある。
☆☆☆半夏厚朴湯(16):基本的には呼吸困難と同様の理由で、半夏厚朴湯が第一選択となる。
☆当帰湯(102):温める漢方薬であるため冷え症患者が対象となる。腹部膨満にも良い。
☆☆炙甘草湯(64):例えば期外収縮などの不整脈に伴い動悸症状を認めるが、標準的治療後でも症状や不整脈が残存している場合に第一選択となる。不整脈自体は変わらなくても、動悸症状が軽減することも少なくない。甘草が多いため副作用に注意。
☆☆加味逍遥散(24):女性で自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。
☆☆柴胡加竜骨牡蛎湯(12):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が強い人に使用する。黄芩の副作用に注意(表2)。
☆☆桂枝加竜骨牡蛎湯(26):自律神経異常が関与し、腹診にて腹壁の緊張が弱い人に使用する。神経過敏、恐怖感が強い、驚きやすいなどが特徴的。
漢方解説:効果不十分な場合は上記漢方薬を組み合わせるが、加味逍遥散と柴胡加竜骨牡蛎湯、柴胡加竜骨牡蛎湯と桂枝加竜骨牡蛎湯は類似方剤のため通常合わせない。
☆☆☆六君子湯(43):“舌のむくみ”(図1)がある場合に第一選択となる。“舌のむくみ”は舌が全体的に腫れぼったい感じ、歯型がつくなどで見極める。
漢方解説:六君子湯は“胃の水毒”をさばいて食欲不振を改善させる働きがある。“胃の水毒”の明確な病態は解明されていないが、胃と舌が繋がっていることから、“舌のむくみ”が“胃の水毒”を反映し、六君子湯の適応者の所見とされている。
☆☆☆茯苓飲(69):抑うつやストレスで食欲不振がある場合に第一選択となる。茯苓飲の適応者として、早期飽満感(食べるとすぐにお腹いっぱいになる)やゲップが特徴的。早期飽満感は胃の閉塞症状と言えるが、喉〜胸部の閉塞症状も合併しやすく、その場合は前述の半夏厚朴湯(16)を合わせるとより効果的。
漢方解説:茯苓飲と半夏厚朴湯の合剤である☆☆☆茯苓飲合半夏厚朴湯(116)もある。この方剤には六君子湯が含まれており幅広く使用できるため、個人的には頻用している。
☆☆人参湯(32):冷え症、胃腸の冷えがある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。
漢方解説:乾姜という生姜を蒸して乾燥させた生薬が含まれており、胃腸を温めて機能改善させる働きがある。
☆☆☆四逆散(35):柴胡剤(表1)の1つであり、過敏性腸症候群に代表されるような、ストレスや自律神経異常が関与している場合に第一選択となる。腹部膨満が強い場合は☆☆香蘇散(70)を合わせる。
☆☆☆大建中湯(100):“腸管の冷え”(表1)がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”は冷え症、冷たい飲食物で悪化する、腹巻きや入浴で温めると緩和する、自他覚的な腹部の冷感(お腹が冷える、冷たい)などで判断する。症状が残存する場合は桂枝加芍薬湯(60)を合わせる。
☆☆☆小建中湯(99):小児に第一選択となる。甘くて飲みやすい。速効性もあるため頓用使用も可。
☆☆桂枝加芍薬湯(60):上記以外の場合に使用する。
漢方解説:比較的年齢によって判別できる傾向がある。小学生までは小建中湯、中高生は四逆散、それ以降は四逆散か大建中湯、あるいはその混合タイプが多い。いずれも腸管蠕動運動の過緊張や痙攣を緩ませる働きがあるため、腹痛や腹部膨満に有用である。
☆☆☆大建中湯(100):“腸管の冷え”+腹痛・腹部膨満がある場合に第一選択となる。”腸管の冷え”については上記参照。
☆☆人参湯(32):“腸管の冷え”+上腹部症状(食欲不振など)がある場合に第一選択となる。甘草が多いため副作用に注意(表2)。
☆☆真武湯(30):“腸管の冷え”+上記以外の場合に第一選択となる。 漢方解説:“腸管の冷え”(表1)が関与した下痢(陰証の下痢)は意外と多く、実は慢性期だけでなく、急性腸炎(水様性・小腸性)や、急性腸炎が長引いた場合にも認めることが少なくない。いずれも上記の温熱剤が奏効しやすい。また、陰証の下痢は急性腸炎でも便臭が軽度なことが多い。
☆☆半夏瀉心湯(14):上腹部症状もカバーする。腹鳴(お腹ゴロゴロ)が典型的。黄芩の副作用に注意(表2)。
漢方解説:半夏瀉心湯には温める生薬と冷ます生薬(抗炎症作用)が含まれており、幅広く使用できる。
☆☆補中益気湯(41):胃弱、食欲不振、感染症後、食後の眠気などを参考に選択する。極端な寒がりには注意する。
☆☆十全大補湯(48):胃が丈夫、疲労感が強い、がん患者などを参考に選択する。極端な暑がりには注意する。
☆☆加味帰脾湯(137):うつが関与した、特に午前中に倦怠感が強い場合に選択する。不眠やイライラにも有用。
☆☆清暑益気湯(136):冷ます作用もあり、夏バテが関与した場合に選択する。
☆☆真武湯(30):全身の冷えが比較的強い場合に選択する。効果不十分な場合は☆☆人参湯(32)も合わせる。
☆☆黄耆建中湯(98):小児の倦怠感(疲れやすい)に第一選択となる。小建中湯(しょうけんちゅうとう)(99)でも代用可能。10歳代は☆☆補中益気湯(41)も有用。
漢方解説:倦怠感のほとんどは気虚(表1)が関与しているため、いずれも補気作用の生薬が含まれている。
☆☆五苓散(17):第一選択薬。女性の効果不十分例には☆☆当帰芍薬散(23)を合わせる。
☆防已黄耆湯(20):第二選択薬。五苓散と合わせてもよい。膝関節痛・水腫にも使用される。
漢方解説:浮腫は水毒症状であり、利水剤を使用する。用量に依存することが多いため、効果不十分例は組み合わせると良い。
☆☆☆芍薬甘草湯(68):速効性があること、甘草の量が多く偽アルドステロン症のリスクが高いことから、基本的には頓用使用。繰り返す場合は疎経活血湯を定期服用する。
☆☆☆疎経活血湯(53):繰り返すこむら返りに第一選択となる。時間依存、用量依存があるため、明け方のこむら返りには、「眠前2包」が最も効果的6)。難点はやや苦いこと。
☆☆☆当帰四逆加呉茱萸生姜湯(38):末梢循環障害が関与した冷えに第一選択となる。難点は苦い。効果不十分例には、高齢者は☆☆牛車腎気丸(107)、体全体の冷えもある人は☆☆真武湯(30)、体全体の冷えがない人は☆☆桂枝茯苓丸(25)を合わせる。
☆☆当帰芍薬散(23):当帰四逆加呉茱萸生姜湯が苦くて飲めない場合に選択する。効果不十分例への対応は上記と同様。
漢方解説:しもやけも末端冷え症も末梢循環障害(瘀血)が関与しているため、治療薬も駆瘀血剤が主体となる(表1)。
☆八味地黄丸(7):表1の「腎虚」にあるように、漢方では加齢現象に対する薬剤があり、その代表が八味地黄丸である。加齢に伴う諸症状(認知機能低下、白内障、腰痛、下肢のしびれ・冷え・浮腫、頻尿、フレイル)に用いるが、個人的には症状軽減効果よりも進行予防効果の方が大きいと感じる(加齢に伴う諸症状に困った患者に処方提案できる)。地黄の副作用に注意(表2)。
☆牛車腎気丸(107):構成生薬は八味地黄丸+2つの生薬(牛膝・車前子)であり、八味地黄丸よりも血流障害や浮腫を改善させる効果が増す。地黄の副作用に注意(表2)。
漢方薬は「味」「顆粒」「1日3回」「食前」などとハードルが高い。これを上回る利点がないと患者は服用しづらい。服薬方法のコツを3つ述べる。
「この漢方薬は胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので良いかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です。」
特に重要な副作用を挙げる(甘草以外は黄色に注意と覚える)。漢方薬を処方する時は、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的に下記の副作用をチェックする必要がある。
〈表2〉・甘草:偽アルドステロン症。特に甘草の量が多い場合や高齢女性でリスクが高い。高血圧、低カリウム血症、浮腫の全てが出現するわけではない。甘草を中止後も1,2ヶ月以上遷延する場合がある。
・黄芩(おうごん):肝障害、間質性肺炎。漢方薬による薬剤性肝障害の9割以上が黄芩である。
・地黄:胃もたれ
・麻黄:胃もたれ、動悸、尿閉、口渇など
最後に症例を示す。
症例38歳女性
現代医学では西洋医学が基本であり、漢方は「西洋医学では手の届きにくい症状や疾患に使用する」ことが多いのではないかと思います。「循環器における漢方診療」の特徴は、「親和性が低い」と「多剤」です。よって、循環器領域で漢方を活かすためには、「見極めが必要」「服用方法にコツが必要」という2つのポイントが重要になると考えています。
「西洋医学では治りにくい」症状や疾患のなかには、「漢方でも治りにくい」ものがあるため注意が必要です。大事なことは、「西洋医学では治りにくい」かつ「漢方で治りやすい」分野を見極め、漢方を活かすことです。
胸部症状を有する患者で致死的な疾患がない場合に、「命にかかわる異常はないので安心してください」という助言だけでなく、きちんと症状緩和を行うことも大切です。そのような場面において、心臓神経症に対する半夏厚朴湯は大変有用です。心臓神経症の治療薬にはベンゾジアゼピンなどもありますが、副作用を考慮すると漢方薬が第一選択となり得ます。半夏厚朴湯には軽い抗うつ作用がありますが、うつ病を改善するというよりは、「喉〜胸部の閉塞症状を取り除く」ことを得意としています。すなわち、喉のつまり(咽喉頭異常感症)、胸が締めつけられる、息苦しい、深呼吸がしづらいなどの症状に用いられます。半夏厚朴湯で効果が不十分な場合は、柴胡剤を合わせると効果が増強します。柴胡剤にはいくつかの種類がありますが、筆者は女性なら加味逍遥散、男性なら柴胡加竜骨牡蛎湯をよく使用します。
症例1:50歳代男性
主訴:胸部圧迫感
現病歴:3ヵ月前より仕事が忙しくなり、胸の圧迫感を自覚するようになった。主に仕事中に出現し、労作では悪化なし。ニトログリセリン舌下錠では改善なし。身体所見に異常なし。X線、心電図など諸検査に異常所見なし。
処方:半夏厚朴湯 7.5g/1日3回×食前(食後でも可)14日分
経過:
2週間後:胸部圧迫感は10分の3程度に改善した。症状がない日も多い。
4週間後:少し怪しい感じはあったが、ほとんど症状はない。
その後:仕事の負荷によっては軽度の胸部圧迫感を自覚するため、半夏厚朴湯 1回2.5g/1日2回で継続加療している。
起立性低血圧に対する漢方薬は、苓桂朮甘湯が第一選択となります。低血圧は変わらなくても自覚症状が改善することがあり、また、低血圧はなくても起立性のふらつき(いわゆる「立ちくらみ」)にも有効率は高いです。効果が不十分な例には補中益気湯や五苓散を合わせる場合もあります。
漢方薬で期外収縮などの不整脈自体を減らすこともありますが、不整脈は不変でも、動悸などの自覚症状を減らす場合も少なくありません1)。第一選択としては炙甘草湯がありますが、自律神経(とくに交感神経)が関与している場合や脈不整のない動悸の場合は、加味逍遥散(女性に多い)、柴胡加竜骨牡蛎湯(男性に多い)、桂枝加竜骨牡蛎湯(恐怖感が強い人に多い)なども鑑別に挙がり、単独あるいは併用で使用します
漢方薬と心不全に関してエビデンスレベルの高い報告はありませんが、一部の症例では効果を示す場合もあるようです。そのなかでも比較的多くの報告がある漢方薬は、木防已湯と五苓散です。
木防已湯には、血管平滑筋や血管内皮へ作用し、ラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや、心収縮力増大作用が示されており2,3)、低心機能で肺うっ血がある場合によいとされています。五苓散は水輸送チャネルであるアクアポリンを介した働きがあり、サードスペースに移行した水分貯留が多い場合によいとされています4)。
漢方薬は、心不全自体よりも心不全に伴う周辺症状に活かされやすいです。また、漢方医学的な概念である陰(冷え)・陽・気・血・水などの視点でみると、心不全患者には主に「水毒」と「冷え」という2つの病態がみられやすいです5)。
「水毒」とは、漢方用語で「体液の偏在した状態」を指します。溢水や脱水も含まれますが、心不全患者が水毒傾向となることは想像に難くないと思います。
「冷え」については、心不全患者は低灌流、循環障害、β遮断薬、加齢などで冷えていることが少なくありません。西洋薬には温める薬剤はありませんが、漢方薬には多く存在します。冷えで悪化した病態には、温める漢方薬(温熱薬)を用います。
これらを踏まえて、食欲不振、慢性下痢、めまいについて解説します。
図 舌のむくみ
むくみがある舌では、全体的に舌の腫れた感じがあり、歯型(矢印)がつく場合もある。
循環器疾患の患者は、すでに多くの薬剤を服用していることが多いです。そのため、さらに漢方薬を追加するにはいくつかのコツが必要となります。
漢方薬の多くは顆粒であり、独特の味があります。また西洋薬に比べて効かないといったイメージを持つ人もいますので、導入時には必ず漢方薬が飲めそうな人かどうかの判別が必要です。例えば「漢方薬は飲めますか?」「西洋薬と漢方薬はどちらがよいですか?」などの質問をしてみましょう。どちらでもよさそうな場合にはぜひ漢方薬を勧めてみてください。極端に否定的な人に無理強いは禁物です。このような場合は、苦痛症状に困って患者側から漢方薬を希望するまで待ちましょう
漢方薬は、通常「1日3回、食前または食間」に服用しますが、服薬アドヒアランスが低下する場合は、「1日2回」「食後」といった柔軟さも必要になります。飲まない薬は効きませんので、なるべく患者個人の特性に合わせて調節しましょう。
西洋薬に比べて漢方薬は、「飲まなくてもよい」「長く飲まないと効かない」といったイメージが多いなか、さらに上述のようなハードルがあります。患者は基本的に、それらを上回るメリットがないと服用を継続しません。そのためには、患者が困っている症状が改善する可能性について具体的に説明することが大事です。
下記は、普段筆者が説明しているものの一例です。参考にしてみてください。
「この漢方薬は、胃腸を温めて下痢を治すお薬です。○○さんのお腹は冷えている可能性があるので、よいかもしれません。2〜4週間で改善がない場合は中止しますので、しっかり飲んでみてください。服用のタイミングよりも、1日分(1日3包)を1日の中で飲みきることが大事です」
とくに注意すべき副作用は、甘草による偽アルドステロン症と黄芩による肝障害です。すべての漢方薬に甘草や黄芩が含まれているわけではありませんので、方剤ごとに構成生薬をみて、重点的にチェックする必要があります。
SUMMARY
漢方薬は、西洋薬以外で唯一の医療保険が使える薬剤になります。患者が困っている症状が西洋薬で治りにくい場合には、漢方薬という選択肢も考慮していただければと思います。
⼼不全に伴う症状の緩和に有⽤
私は⻄洋医学(主に循環器内科)と漢⽅医学を、ほぼ同じ期間、学んできました。そこで感じたことは、「どちらの医学も必要であり、お互いの利点を活かすことが患者の利益になる」です。例えば、冷え性、かぜ、胃腸疾患、⽉経関連疾患、気候の変化で悪化する頭痛、めまいなどは、漢⽅薬の使⽤頻度が多い分野と思います。⼀⽅で、循環器内科の分野においては、⻄洋薬が第⼀選択となることが多いですが、それでも取りきれない症状には漢⽅薬を使⽤します。
⼼不全の予後改善効果の⾯では確⽴したものがありませんが、“⼼不全に伴う症状の緩和”には幾つか漢⽅薬も有⽤と思われます。標準的治療を⾏っているにもかかわらず、患者が困っている場合にはぜひ漢⽅薬を検討してみてください。新たな治療選択肢があることは患者だけでなく医療者にとっても救いになりますし、効果を認めた際には共に喜ぶことができます。
今回は総論を中⼼に記述させていただき、⼼不全患者に伴う代表的な苦痛症状1)2)への具体的な漢⽅処⽅に関しては、ポイントを絞って、3症候について提⽰いたします。難しい漢⽅理論などにつきましては、他書を参考にしていただきたいと思います。
漢⽅には陰(冷え)・陽・気・⾎・⽔といったように漢⽅独⾃の視点(病態把握)があります。⼼不全患者にはどの病態も絡んでいることがありますが、その中でも特徴は“⽔毒”と“冷え”と思います。そして、病態とは異なりますが、⼼不全と漢⽅で密接な関係にあるのが“多剤”です。
⽔毒とは“体液の偏在”を表します。溢⽔や脱⽔、またはそれらが混在する場合も含まれます。例えば、急性腸炎(下痢と⾎管内脱⽔)、低アルブミン⾎症を伴う浮腫、⼆⽇酔いなどが典型的です(⼆⽇酔いは脳浮腫による頭痛や嘔気、むくみなどがある⼀⽅で、⾎管内は脱⽔で⼝渇がある状態)。
また、⽔毒の治療薬を利⽔薬といいます。利⽔薬には体液の偏在を是正し正常に戻そうとする働きがあります。フロセミドほど利尿効果が強くありませんが、⼤量に服⽤しても脱⽔になることはなく、電解質にも影響しない便利な薬です3)4)。利⽔薬の代表である五苓散(ごれいさん)には⽔輸送チャネルであるアクアポリン(AQP)を介する働きがある5)といわれており、様々な⽔毒症状に使⽤します。
〈⽔毒症状〉
浮腫 胸⽔ 腹⽔ めまい(内リンパ⽔腫) 曇天などの低気圧時に悪化する諸症状(頭痛、倦怠感、関節痛など) ⽔様性下痢 ⽔様性⿐汁 脳浮腫 ⼆⽇酔いなど
→利⽔薬(例︓五苓散)の適応
特に経過の⻑い⼼不全患者は低灌流、循環不全、β遮断薬、加齢などの影響で体が冷えやすい傾向にあります。⼼不全患者が慢性的に困っている症状には冷えが要因となっていることも多く、温める漢⽅薬(温熱薬)で奏効することも少なくありません。例えば、⼼不全患者の⾷欲不振、慢性下痢、倦怠感など、温熱薬の適応は多いようです。
〈冷えが関与する症状〉
冷え性の⼈が有する諸症状 ⾝体の冷感 気温の低下(季節や冷房)・冷たい飲⾷物の摂取などで冷えると悪化するまたは⾐類や⼊浴などで温めると改善する症状(腹痛、下痢、頭痛、しびれ、関節痛)
→温熱薬(例︓真武湯[しんぶとう]や⼈参湯[にんじんとう])の適応
利⽔薬や温熱薬は⻄洋薬に同様のものがないことから、貴重な薬剤と思われます。
多剤を服⽤している⼼不全患者の場合、漢⽅薬を断念する例は多く、継続していただくためにちょっとした⼯夫が必要になります。漢⽅薬は味や形状が飲みづらいなどの難点もあるため、それを上回るだけの利点がないと患者も受け⼊れられませ3)4)5)ん。よって、「どのような薬なのか、効果が得られる可能性があるのか」についてしっかりと説明する必要があります。また、場合によっては「⾷前でなく⾷後の服⽤」「⽩湯に溶かして(または溶かさずに)他の錠剤と⼀緒に服⽤してもよい」などの柔軟さも必要になります。
説明の例︓この漢⽅薬はお腹を温めて下痢を改善させる漢⽅薬で、冷え性の⽅の下痢に良いといわれておりますが試してみますか︖2週間しっかり服⽤していただいても効果がない場合には中⽌します。通常は⾷前で処⽅しますが、⾷後で他のお薬と⼀緒に服⽤しても構いません。飲み⽅は、お湯で溶かしても、そのままでも飲みやすい⽅法で構いません。
では、次に⼼不全と代表的な付随症状に対する漢⽅治療について少し解説します。なお、以下の漢⽅薬は組み合わせて使⽤することも可能です。
以下の3剤とも、胃腸を温める漢⽅薬(温熱薬)。腸管が冷えているタイプの慢性下痢に使⽤する。冷えの下痢には“冷たい飲⾷物で悪化する”“便臭が軽度“などの傾向がある。
最後に症例を提⽰します。
症例︓70歳代後半の男性
慢性⼼不全の急性増悪、虚⾎性⼼筋症、慢性腎臓病にて⼊院となった。標準的な治療で軽快し、退院後は外来でフォローすることに。⼼不全のコントロールは良好だったが、1カ⽉前から、徐々に⽔様性下痢を頻回(1⽇5〜6回以上)に認めた。整腸剤やロペラミドなどの⽌瀉薬は効果なく、感染や薬剤の関与も考えにくい状況だった。糖尿病性腎症により Cr 1.8mg/dL(eGFR 29.2mL/min/1.73m)で、⾼度の左室収縮能低下(EF20%)もあり、体液バランスの調節が難く、⻑期にわたる下痢は避けたい状況にあった。⾃然軽快の兆候はなく、漢⽅薬の処⽅を検討した。
細⾝で顔⾊は⻘⽩く、⾷欲不振や倦怠感を認め、冷え性であった。また、冷たい飲⾷物で下痢が悪化するため控えているとのこと。
⼈参湯エキス1回1包を1⽇3回を処⽅
経過︓2週間後、「1カ⽉続いていた下痢が⼈参湯を飲み始めて数⽇後には⽌まり、⾷欲も出て、元気になった」と⾔われ、表情も明るくなっていた。家族も「以前はきついとしか⾔わなかったのが、ゴルフに⾏きたいと⾔うようになった」と喜んでいた。その後も経過良好であった。
Q1︓効果判定はいつ⾏いますか︖
A1︓基本的には2週間〜1カ⽉が多いです。1カ⽉間、しっかり服⽤していただいて全く効果が⾒られない場合には効果なしと判断しますが、「少し良いかも」といった程度でも変化があった場合には継続します。
Q2︓副作⽤について教えてください。
A2︓⽐較的頻度の⾼い副作⽤としては、⽢草による偽性アルドステロン症や⻩芩による肝障害などがあります。⽢草や⻩芩は全ての漢⽅薬に含まれるわけではありませんので、⽅剤ごとに構成⽣薬を調べてから、重点的に副作⽤チェックを⾏う必要があります。
Q3︓どのようにして冷えの有無を判断するのですか︖
A3︓「冷え性ですか︖」「冷えると悪化する、温めると改善する症状はありますか︖」。この2つの質問でいずれかを認めれば“冷えあり”で良いかと思います。他には「冷房が苦⼿」「熱い⾵呂で⻑湯できる」「温かい飲⾷物を好む」なども参考になります。
循環器(動悸、浮腫)
キーワード:動悸、浮腫、自律神経、利尿、利水
動悸に対する漢方治療は、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、西洋薬の適応外、副作用などを考慮して選択される。漢方薬は不整脈や基礎疾患の有無に関わらず使用できること、不眠、不安、イライラなどその他の自律神経症状も改善する可能性があること、ベンゾジアゼピンなどよりは有害事象が少ないことなどが利点だと思われる。動悸の背景にはさまざまな病態が含まれていることも多い。そのため、漢方治療によって動悸だけでなく心身共に治していくことが最終的には動悸の改善にも繋がりやすい。漢方薬と西洋薬との併用は可能であり、お互いの長所を活かすことが大事である。
a)解説
加味逍遥散は柴胡、山梔子、薄荷、牡丹皮、当帰、芍薬、朮、茯苓、生姜、甘草の10種類の生薬で構成されている。柴胡、薄荷、山梔子には自律神経安定作用、精神安定作用、牡丹皮、山梔子には鎮静作用やのぼせを抑える作用、当帰、牡丹皮には女性ホルモンを調節する作用がある。全体としては緊張(交感神経)を緩める方向性の薬剤であり、漢方のマイナートランキライザー1)とも称される。
加味逍遥散の特徴は自律神経と女性ホルモンを調節する働きであるため、女性の動悸には第一選択となる。また同様の理由で、月経周期に関連する動悸、更年期障害に伴う動悸などにも適合しやすい。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。
b)エビデンス
山崎の臨床研究では、76歳女性の動悸、のぼせに対して加味逍遥散を使用した結果、いずれも改善した症例を報告している2)。
c)症例提示
35歳女性。主訴:動悸、月経前の頭痛、不眠。3、4ヶ月前より動悸(脈拍80〜90回/分の不整なし)を自覚するようになり、最近は毎日認める。仕事のストレスは増えている。不眠もあり、寝つき悪く、中途覚醒1回、熟睡感がない。月経前に頭痛も認める。イライラしやすい。
処方:加味逍遥散1回1包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は4-5/10へ減った。よく眠れるようになった。イライラもあまりない。」
28日後:「動悸はほとんどない。月経前の頭痛もあまりなかった。」
a)解説
柴胡加竜骨牡蛎湯は柴胡、黄芩、半夏、桂皮、茯苓、竜骨、牡蛎、人参、生姜、大棗の10種類の漢方薬で構成されている。柴胡、黄芩、半夏、茯苓、竜骨、牡蛎には自律神経安定作用、精神安定作用がある。その中でも特に竜骨、牡蛎は動悸を抑える作用がある。典型的には“冷え性でない”“体格中等度以上”に適するため、男性の動悸には第一選択となりやすい。一方で、“冷え性”や“虚弱者”の場合には桂枝加竜骨牡蛎湯(No.26)や柴胡桂枝乾姜湯(No.11)を選択する。自律神経調節作用や精神安定作用があるため、動悸だけでなく不眠、抑うつ、不安、イライラ、めまいなどの自律神経症状、精神症状にも良い可能性がある。
b)エビデンス
柴胡加竜骨牡蛎湯には交感神経緊張の抑制作用3)、アドレナリン作動性神経系の代謝抑制作用4)などが示されている。
c)症例提示
53歳男性。主訴:動悸、不眠。5ヶ月前より動悸(不整あり)を自覚するようになった。この3日間は特に症状が強いため来院された。夜間、動悸で目が覚めて眠れないとのこと。心電図では3段脈を認めた。
処方:柴胡加竜骨牡蛎湯1回1包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は3/10へ減った。よく眠れるようになった。」
28日後:「動悸はほとんどない。調子良い。」
a)解説
炙甘草湯は炙甘草、地黄、麦門冬、桂皮、麻子仁、阿膠、人参、生姜、大棗の9種類の生薬で構成されている。地黄、麦門冬、麻子仁、阿膠、人参には「血」や「水」を補う作用(血液や栄養分を補う、水分で潤す)があり、甘草、人参には「気」を補う作用(元気をつける)がある。また、「桂皮+甘草」の組み合わせには動悸を抑える作用がある。動悸の原因として、「気・血・水」の不足(心身ともに疲れたイメージ)の関与があると考えられており、これらを補う炙甘草湯が使用される。炙甘草湯は上記の漢方薬と異なり、自律神経が関与しない動悸にも使用できる。動悸に幅広く対応するため、とりあえず処方するには炙甘草湯がよい。
b)エビデンス
難治性不整脈5)やバセドウ病の動悸6)に対して炙甘草湯が有効であった症例報告がある。
c)症例提示
68歳男性。主訴:動悸。数週間前から動悸(脈拍140〜150回/分の不整あり)を自覚するようになった。特に数日前より悪化しており、1回30分程度持続する。ホルター心電図では心房頻拍、心室性期外収縮を認めた。元々の心拍数が60台であるため、ビソプロロール0.625mgから開始したが、1ヶ月後に動悸は増悪していた。
処方:炙甘草湯1回1包 1日3回 毎食間 14日分
14日後:「動悸は1-2/10へ減った。1回の動悸も10分ぐらいで治まる」
28日後:「動悸は少しあるが、あまり気にならない程度になった」
・上記漢方薬とよく併用するのが半夏厚朴湯(No.16)である。半夏厚朴湯には抗うつ作用、抗不安作用があるが、特に喉〜胸部の閉塞症状(喉のつまり、胸痛等)や不安感などを目標に使用することが多い。動悸に対しても、特に上記の加味逍遥散や柴胡加竜骨牡蛎湯のような自律神経調節作用の漢方薬と併用することが多い。
・突然に発症する動悸(発作性上室性頻拍、発作性心房細動など)やパニック発作などには苓桂甘棗湯(苓桂朮甘湯(39)+甘麦大棗湯(72)で代用)を用いる。
浮腫に対する漢方治療についても、基本的に標準的治療で症状が取り切れない場合、利尿剤の適応外(若い女性の浮腫)、副作用(利尿剤による腎機能や電解質の悪化)などを考慮して選択される。基本的には基礎疾患の有無を問わないことが多いが、基礎疾患がある方が有効率は低い。浮腫に対する漢方薬は、利水作用(水分代謝調節作用)を有する利水剤(水分代謝調節薬)を使用し、浮腫の部位、冷えの有無、年齢などを参考にして選択する。
例えば、利水剤の代表である五苓散(17)はアクアポリン(AQP)という水輸送チャネルを介して働くことがわかっている7)。また、五苓散(おそらくその他の利水剤も)は浮腫状態では利尿作用、脱水では抗利尿作用として働くことが示されており8)、水分バランス(分布の不均衡)を丁度よい状態に調節してくれる薬剤となる。すなわち、利水剤は利尿剤よりも効果は劣るが、多く服用しても基本的に脱水にはならず、腎機能も悪化させない。また、ナトリウムやカリウムなどの電解質に与える影響もほとんどない9)。
a)解説
五苓散は沢瀉、朮、茯苓、猪苓、桂皮の5種類の生薬で構成されている。そのうち4つが利水作用の生薬であり、利水剤の代表といえる。五苓散はどのタイプの浮腫にも使用できるが、特に脳浮腫に対して効果を示しやすい。それは実臨床でも実感するが、五苓散が作用しやすいAQP4が比較的脳に多く分布していることからも説明できる10)。脳神経外科の分野でも五苓散は頻用されているが11)、特に低気圧時の頭痛、二日酔いの頭痛(微小な脳浮腫が関与するといわれている)などに有効性が高いと感じる。
五苓散は全年齢層に使用できるが、特に小児との親和性が高く、小児の浮腫には五苓散が第一選択となる。
b)エビデンス
心不全に対する五苓散の有効性を示した報告もある12)13)。
c)症例提示
91歳女性。主訴:両下腿浮腫、顔面浮腫。ADL半介助にて施設入所中。食事は摂取できている。2型糖尿病、慢性腎臓病(Cr 1.7, eGFR 22)、著明な両下腿浮腫、顔面浮腫を認めており、歩行困難な状態であった。アゾセミド30mgを追加したところ、体重1kg減少したが、下腿浮腫は著変なく、腎機能の悪化を認めた。牛車腎気丸5g/日を追加したが効果不十分であった。
処方:五苓散1回1包 1日2回 毎食間 14日分
14日後:「浮腫は1/3程度減り、体重も2kg減った」
28日後:「浮腫は1/2程度残存しているが、だいぶ楽になった」
a)解説
牛車腎気丸は、山茱萸、山薬、沢瀉、茯苓、牡丹皮、桂皮、附子、牛膝、車前子の10種類の生薬で構成されている。牛車腎気丸には沢瀉、茯苓などによる利水作用以外にも、滋養強壮作用、温熱作用、末梢循環改善作用などがある。牛車腎気丸に類似する漢方薬に八味地黄丸(No.7)があるが、牛車腎気丸=八味地黄丸+牛膝、車前子であり、八味地黄丸より下腿浮腫に効果を示しやすい。また、下腿浮腫だけでなく、加齢に伴う諸症状(認知機能低下、腰痛、下肢しびれ、下肢の冷え、サルコペニアなど)にも適応があり、高齢者向けの漢方薬である。よって、牛車腎気丸は高齢者の下腿浮腫に第一選択となる。また、基本的に体を温める漢方薬のため、冷え性に適合しやすい。
b)エビデンス
リンパ浮腫患者に対するランダム化比較試験14)。圧迫療法に加え牛車腎気丸エキス製剤を1ヶ月投与群(40名)、もしくは非投与群(40名)で比較した結果、上肢リンパ浮腫、下肢リンパ浮腫ともに牛車腎気丸は非投与群と比較して浮腫を有意に減少させた。
c)症例提示
87歳女性。主訴:下腿浮腫、下肢しびれ。ADL自立で外来通院中。慢性心不全(EF63%)、慢性腎臓病(Cr1.1mg/dl)、著明な下腿浮腫があり歩行しづらい状態。利尿剤を増量すると腎機能が悪化する。脊柱菅狭窄症で下肢しびれも認める。足が冷えやすい。
処方:牛車腎気丸1回1包 1日2回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減り、体重も2.2kg減った」
28日後:「浮腫はだいぶ良い。体重もさらに1kg減った。足のしびれは変わらない」
a)解説
当帰芍薬散は当帰、芍薬、川芎、朮、茯苓、沢瀉の6つの生薬で構成されている。茯苓、朮、沢瀉の利水作用、当帰、川芎の末梢循環改善作用、女性ホルモンを調節する作用、当帰、芍薬の温熱作用がある。すなわち、当帰芍薬散は(特に若年〜中年で冷え性の)女性の浮腫に第一選択となる。その中でも月経周期に伴う浮腫(月経前の浮腫)などに対応しやすい。
b)エビデンス
妊娠中の浮腫に当帰芍薬散が有効であった症例報告もある15)。
c)症例提示
24歳女性。主訴:下腿浮腫、曇天時の頭痛。以前から仕事後に下腿浮腫や下肢のだるさを認めていたが、最近は翌朝にも浮腫が残存している。月経前には全体的にむくみやすくなる。曇天時の頭痛、月経痛を認める。手足が冷えやすい。
処方:当帰芍薬散1回1包 1日3回 毎食後 14日分
14日後:「浮腫は減っている。曇天時の頭痛もなかった」
28日後:「浮腫の調子はだいぶ良い。月経痛もあまりなかった」
・上下肢など体表面の浮腫に対応する漢方薬にも鑑別がある(上記の漢方薬も使用する)。蜂窩織炎など炎症性浮腫の場合、抗炎症作用も有する越婢加朮湯(No.28)を使用する。炎症が乏しい場合、上肢には桂枝加朮附湯(No.18)、葛根加朮附湯(三和SG-141)、下肢には牛車腎気丸(No.107)、防已黄耆湯(No.20)などを使用する。
・心不全には木防已湯(No.36)を使用することもある。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており16)17)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが下腿浮腫は少ない場合に使用することが多い。心不全で下腿浮腫がある場合には上記の五苓散や牛車腎気丸を使用することが多い。
・利水薬を併用することで効果が高まる可能性があるため、1剤で効果不十分な場合には2剤を併用する。
文献
茯苓4g、芍薬3g、朮3g、生姜1.5g、附子0.5g
コタロー・三和・JPSは附子1g、茯苓5g
コタローは生姜0.8g JPS・三和は生姜1g
ツムラ・JPSは蒼朮 コタロー・三和は白朮
真武湯のエビデンスは検索した限りでは見当たらないため、症例報告を提示する。
「真武湯が後期高齢者の心不全に有効であった2症例」1)
後期高齢者の心不全2症例に真武湯を投与した。
症例1:84歳男性。重症大動脈狭窄症を有する心不全で、入退院を繰り返していた。入院中に真武湯を追加してから胸水減少、心胸郭比の改善を認めた。
症例2:84歳男性。心不全と誤嚥性肺炎で入院。真武湯を追加してから、尿量増加し、肺うっ血と心胸郭比の改善を認めた。
真武湯は茯苓、芍薬、朮、生姜、附子で構成され、主に「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」「補気作用(元気をつける)」を有する漢方薬である。よって、「冷え」「水分代謝・分布異常(水毒)」「気虚(気の不足)」といった病態に適応する。
よって、真武湯が適応とする症候はめまい、倦怠感、下痢、冷え、浮腫、心不全などがある。
1. めまい
例えば、メニエル病の原因が内リンパ水腫といわれているように、めまいと「水分代謝・分布異常(水毒)」が関係することが多く、水分代謝調節作用を有する真武湯は鑑別処方の一つである。その中でも真武湯が得意としているめまいは、浮動性めまい(フワフワする)と動揺性めまい(クラっとする)である。
昭和の漢方医である藤平健が「真武湯の7徴候」2)を提示しており、その中には「歩いていてクラっとする」「雲の上を歩いているみたいで、なんとなく足元が心もとない、あるいは地にしっかり足がついていないような感じ(フワフワ)する」といった浮動性・動揺性めまいについて記載されており、それ以外にも、「真っすぐ歩いているつもりなのに横にそれそうになる」「眼前のものがサーッと横に走るように感じるめまい感がある」なども記載されている。
急性期の回転性めまいよりも、亜急性期以降のめまい感といったタイプで、安静時ではなく労作時に出現しやすい傾向がある。対象者は冷え症の高齢者に比較的多くみられる。急性期の回転性めまいや、頭位性めまい(頭の向きで悪化するタイプで良性発作性頭位めまい症なども含む)、起立性めまい(立ちくらみも含む)には苓桂朮甘湯を優先して使用される。
2. 倦怠感
真武湯には「温熱作用(温める)」「補気作用(元気をつける)」があるため、適応となる倦怠感は「体の冷えが強く、横になりたいほどのきつさがある」が典型的である。
真武湯で効果不十分な場合には人参湯を併用すると効果が高まる。冷えが強くない倦怠感には補中益気湯や十全大補湯、抑うつを伴う倦怠感には加味帰脾湯なども使用される。
3. 下痢
真武湯には「温熱作用(温める)」「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、適応となる下痢は「冷えを伴う水様性下痢」である。「冷えを伴う下痢」とは、発熱や炎症がなく、体が冷える、冷たい飲食物で下痢が悪化する、便臭が軽度などを意味する。下痢は水様性で腹痛を伴わないことが多い。
「冷えを伴う下痢」において、腹痛を伴う場合は大建中湯、食欲不振を伴う場合は人参湯、軽度の炎症を伴う場合は半夏瀉心湯なども使用される。
4. 冷え
真武湯には「温熱作用(温める)」があるため、基本的に暑がりでなく冷え症に適合しやすい。冷え症の中でも、末梢循環障害を示唆するような手足末端のみの冷えよりも、体全体の冷え(厚着を好む、冷房が苦手、長風呂できる)が典型的である。
前者の末端冷え症には末梢循環改善作用のある当帰四逆加呉茱萸生姜湯や当帰芍薬散が使用される。真武湯と併用する場合も多い。
5. 浮腫
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、浮腫にも適応がある。水分代謝調節作用を有する漢方薬(利水薬)には基本的に「ちょうどよい状態にしてくれる」作用がある。例えば、利水薬の代表である五苓散の研究では「浮腫状態には利尿作用、脱水状態には抗利尿作用」をもたらすことも報告されている3)。また、西洋薬の利尿薬にみられるような電解質異常もきたしにくい4)。真武湯の抗浮腫作用は軽度で、典型的には冷え症の浮腫に使用される。
抗浮腫作用を強めるため、他剤と併用することもある。抗浮腫作用の比較的強い五苓散、高齢者の下腿浮腫に頻用される牛車腎気丸、女性の浮腫に頻用される当帰芍薬散などがある。
6. 心不全
真武湯には「水分代謝調節作用(水分バランスを調節)」があるため、心不全にも適応がある1)。また、心不全患者は低灌流、β遮断薬、加齢などの影響で冷え症が多く、「温熱作用」を有する真武湯の対象となりやすい。漢方薬の利水薬は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく、体内の水分バランスを調節する働きである。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりももっと落ち着いた代償期、心不全のステージ分類では「ステージC(末期を含むステージDではない)」などに使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけと思われる。
心不全に用いるその他の漢方薬としては、五苓散や木防已湯などがある。五苓散は抗浮腫作用に比較的優れているため、third spaceなどの体液貯留の調節に用いることが多い。木防已湯にはラットの大動脈・肺動脈において弛緩あるいは収縮と調節的に働くことや心収縮力増大作用が示されており5)6)、典型的には低心機能で肺うっ血があるが浮腫は少ない場合に使用することが多い。
附子が含まれているため附子中毒に注意が必要だが、極端に暑がりな人に投与しなければリスクは少ないと思われる。附子中毒の症状は、口唇(口の周囲)や舌のしびれ、動悸、嘔気、ほてりなどがあるが、これらが服用直後ではなく、服用30分~2時間後あたりに発症することが特徴である。もし附子中毒を発症しても数時間後には代謝され落ちつく。不整脈などがでている場合や症状が強い場合は点滴や心電図モニターも必要になる。
72歳女性。1年前からめまいを自覚。めまいは主に歩いているときにフワフワする。時々、クラっとすることもある。頻度は週2~3回程度。頭部MRIなどの検査では異常なく、脳外科で加療したが改善なし。手足を触ると冷たく、夏でも厚着をするほどの冷え症とのこと。BP124/65mmHg, HR 65, SpO2 98%。
処方:真武湯1回1包 1日3回 毎食後 14日分
2週間後:「この2週間にめまいは1度だけでした。」
4週間後:「めまいはなく、調子良いです。」
文献
1)山本昇伯,他:日東医誌, 68(2):117-122, 2017
2)藤平健:漢方腹診講座, 緑書房, 187-191, 1993
3)田代眞一:漢方薬はなぜ効くか-現代薬理学からの解明-. Prog Med, 14(6):1774-1791, 1994
4)原中瑠璃子,他:利尿剤の作用機序(五苓散,猪苓湯,柴苓湯)第1報:成長,水分代謝,利尿効果,腎機能に及ぼす影響について. Proc. Symp. WAKAN-YAKU, 14:105-110, 1981
5)Nishida S, et al: Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM, 4(3):335-41, 2007
6)広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. 和漢医薬学会誌, 2(3):688-89, 1985
心不全患者において、予後改善効果のある薬剤が大切なことは言うまでもないが、全身状態やQOLを改善する薬剤も大事である。また、漢方は心不全自体の治療よりも心不全患者のQOLを改善する役割を得意としている。例えば、“食欲不振が改善し栄養状態も回復する”“便秘が改善し(いきむことも減り)心負荷も軽減する”“ふらつきや倦怠感が改善しリハビリテーションもできるようになる”などで、QOLの改善だけでなく、間接的に予後の改善にも関わる可能性がある。
また、漢方薬にはさまざまな副作用があるが、特に心不全患者では甘草による偽アルドステロン症(低カリウム血症、血圧上昇、浮腫)に注意が必要である。両者には密接な関係性があり、“ループ利尿薬が低カリウム血症を助長しやすい”“血圧上昇は心不全の悪化要因となる”“偽アルドステロン症による浮腫が心不全増悪と紛らわしい”などがある。
今回、心不全患者のQOL改善に役立つ漢方について述べる。
~心不全治療における漢方薬の位置づけ~
漢方薬の利水薬(水分代謝調節薬)は西洋薬の利尿薬と異なり、強制利尿ではなく体内の水分バランスを調節する(水を引き込むよりも正常でない場所に行かないようにする)働きがある。よって、うっ血や息切れを伴う急性非代償性心不全よりも比較的落ち着いた代償期に使用して、利尿薬の働きを補助する、third spaceの体液貯留をなるべく減らすような位置づけだと思われる。
漢方薬には西洋薬と異なる特性がある。利点としてはこれまで記載したような西洋薬にはない、あるいは西洋薬を上回る効果を持つ側面があること、また、患者の治療選択肢が増えることなどがある。難点としては“飲みづらさ”であろう。漢方薬は西洋薬よりも健康食品に近い存在であり、好みや服薬意識(低い)などが大きく関与する。どんなに良い漢方薬でも飲まない薬は効かないため、患者に合わせて漢方薬のハードルを下げる工夫が必要である。これは漢方薬を適切に選択することと同等に重要だと思われる。
文献
1) Takeda, H, et al:Rikkunshito, an herbal medicine, suppresses cisplatin-induced anorexia in rats via 5-HT2 receptor antagonism. Gastroenterology, 134:2004-2013, 2008.
2) Arai M, et al:Rikkunshito improves the symptoms in patients with functional dyspepsia, accompanied by an increase in the level of plasma ghrelin. Hepatogastoenterology, 59:62-66, 2012.
3) Tominaga K, et al:A randomized, placebo-controlled, double-blind clinical trial of Rikkunshito for patients with non-erosive reflux disease refractory to proton-pump inhibitor:the G-PRIDE study. J Gastroenterol, 49:1392-1405, 2014.
4) 土倉潤一郎,他:再発性こむら返りに疎経活血湯を使用した33例の検討. 日東医誌, 68(1):40-46, 2017.
5) Nishida S, et al:Vascular phamacology of Mokuboito (Mu-Fang-Yi-tang) and its constituents on the smooth muscle and the endothelium in rat aorta. eCAM 4:335-41, 2007.
6) 広瀬智道,他:木防已湯,炙甘草湯,当帰湯の心臓に及ぼす作用について. Pharma Medica, 新春増刊号:193-200, 1986.
7) 稲木一元,他:臨床医のための漢方Q&A, 中外医学社, 202-203, 2014.